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憧れだった東北南部の「陸奥のみち」、日本史に大きな役割を果たした、南九州の肥後と薩摩という、2県を合わせて命名した「肥薩のみち」。かつて日本版図の果てであった地域で生きた人々に思いを馳せる旅。
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Posted by ブクログ
「街道をゆく3 陸奥のみち・肥薩のみちほか」司馬遼太郎。初出は1972年。朝日文庫。 # こちらの年齢のこともあるでしょうが、小学生から舐めるように読んできた司馬遼太郎さんの中で、ずっと読んでこなかった「街道をゆく」。その魅力を発見したのが40代の読書最大の快楽と言ってもいいくらいですが、これ...続きを読むも面白かった。 1972年ですから、なんと50年前の日本国内の旅行記ですから、もはや描写自体が貴重な民俗学的資料と言えるほど。 # とは言ってもこのシリーズは旅行記というよりも、論考的エッセイです。実は「街道をゆく」をいちばん正統に?受け継いでいるのは「ブラタモリ」なんだろうなあと思いますがそれは閑話休題。 この本のいちばんは「陸奥のみち」。当方があまり東北地方と縁遠かったこともあり、全編を通す司馬さんの考察、「弥生時代からの日本全体の稲作至上主義が、地理的に気候的に東北の一部には不利だった。でもそのイズムの序列におかれてしまったので、いくつかの悲劇と現在(と言っても1972年)まで至る一種の後進性がある」という内容に恥ずかしながら目が鱗。もちろんそれが全てを説明できるものではないでしょうが。 青森、八戸、津軽、盛岡、といった地名が、初めて立体的に腑に落ちて迫ってくる感じで、非常にワクワクしました。 # ちょっと皮肉めいているのは、カップリングが「肥薩のみち」。これはつまり稲作至上主義でいうと、圧倒的な勝ち組なわけです。むしろここからそのイズムが北上していったと言っても過言ではない。そして強者だったが故のオリジナリティを日本史の中で保ってきた面白さ。
街道をゆくシリーズ、初めて国内のものを読んだ。なぜもっと早くに読んでいなかったのかと後悔。 世界史しか勉強しなかった身としては、初めて知ることがたくさんあった。 あと、日本が単一民族国家であるという神話は罪づくりだなあと思う。色々な人たちがつくりあげたこんなにも多様で豊かな文化を持っている島なの...続きを読むに。
この人の著作は、小説よりもこういう作品のほうこそ味があって面白い。 私にとっては紀行文にハマるようになったきっかけでもある。 本書は同シリーズ三作目。単体としても面白いのだけど、先に一巻・二巻を読んでおいた方がより楽しめるかとも思う。というのも、『街道をゆく』シリーズの原点は一番最初「湖西のみち」...続きを読むでの"日本人はどこから来たのだろう?"という問いにあるから。 「湖西のみち」や「韓のみち」で、現代日本人に繋がるひとつの流れである半島からの古代渡来人についての考察が様々に述べられていたのに対して、本書は明らかにそれらとは異質な民俗的要素を持っていた人々が居たと思われる、南九州や奥州についての考察の旅。 とくに、言語学的な観点から鹿児島弁の中に非日本語的な子音単独使用の要素を見出だしている「肥薩のみち」は興味深い。 また、南方の島々等で見られるいくつかの特徴的な風習が、大陸には存在せず、日本にはあるのだとか。 中央の大和人達とは別種のルーツを持っていたと推測される南方系の系譜を引く人々が、古代のどこかの時点で鹿児島に拠点を置き、次第に日本列島内に散らばっていったのだろうということが想像される。 鎌倉時代から明治西南戦争の時期まで一貫して、中央の人々の恐怖の対象であったという特異な島津武士団の形成も、そんな南方人的な要素が基礎になっていたのかもしれない。 700年の伝統を持つ鹿児島士族団の凄まじさを良くも悪くも象徴する西南戦争の田原坂戦を、地元のお年寄りの体験談も交えつつ想起する描写も面白い。 田原坂戦跡では弾丸と弾丸が空中で衝突したものが多数見つかるのだとか。局地戦としての密度の濃さを示す、世界的にも類を見ないその事実から、本書では読み手の想像を鹿児島士族の人間風景へと結びつけていく。 「肥薩のみち」で考察される南方系の人々も含めたいくつものルーツの人々が、血も風俗も言語も様々に混ざり合いながら、多少の地域性を備えつつ紆余曲折を経て出来上がったのが今の日本人なんだろうか。そんなことを思う。
今回は東北と九州と関西と。司馬さんの周りにいる方々は癖があり、ユーモアたっぷりに描かれている。全く適していない東北での稲作の広がりと、それによる東北への差別的意識は序盤ながらも印象深いエピソードの一つ。東北に住んだ身としてはこれは今にも繋がる話であり、その差については十分認識しており、なんだかいたた...続きを読むまれない気持ちになる。九州パートは言わずもがな、幕末の下りを描く司馬さんの熱量は素晴らしい。
本書の中では「肥薩のみち」と「河内みち」がよかった。単純に自分とあまり縁がない所なので面白く読めました。 米を通して日本のあり様を深く思索しているのだが、はるか古代から球磨川流域は水との戦いがあったことを知りちょっと驚いた。数年前の大水害は、現在でもなおその戦いが続いているのを物語っている。もしか...続きを読むしたら、もっと激しい戦いになっているかもしれない。 それにしても、西南の役を昨日のことの様に語る古老が50年前にはまだいたし、街中に鍛冶屋さんがあったんですね。これにも驚き。 「河内のみち」は司馬さんの地元らしく、筆致も何となく柔らかく、散歩感覚で楽しく読めました。
本書で紹介されている熊本、鹿児島の魅力と歴史は知らなかったものばかり。 少し前に3年ほど九州で過ごしたのに、全く行く機会がなかったことが悔やまれます。
以下抜粋~ ・(下北半島について) もしフィンランド人はハンガリー人がこの大地を最初に発見したとすれば、かれらはこの大空間に放牧することを考えて狂喜したであろう。 もしかれらが北欧の地に水稲を植えていれば、かれらはおそらく餓死し、こんにち国家をつくるだけの人口を残さなかったにちがいない。 ・要する...続きを読むに上代以来の弥生式水田農業を神であるとし、それを取り入れることが奈良朝時代にあっては「王化」であるとし、江戸期ではこの農業をもって厳然たる政治の基盤としたために南部もそれに従わざるを得なかったということの悲劇である。 ・もし南部氏が、「水田はほどほどにして牧畜を盛大にする。士民はその肉を食って生を養う」という一大政治決断をしたとしたがどうであろう。必ず失敗したにちがいない。牧畜によって牛肉で生を養うなどということは、幕藩体制の経済に対する問題にはとどまらず、大きく日本全体の文化意識そのものに対し、重大な挑戦行為になったにちがいない。 穀物を神と仰ぐという弥生式農民の信仰が神道の根幹をつくり、さらには上代依頼明治までの天皇の神聖とも重大な関係があった。 ・津軽家に領土を横領されたという歴史をもつ南部藩の場合、その環境を木柱や石柱というような簡便なもので済ませるというにはあまりにも思いが深刻だったにちがいない。 ・薩摩には敵に対する優しさの話が多い。 →島津氏が、朝鮮ノ役のときに、帰国後、高野山に敵見方ともにその無名戦士を平等に供養した。(例がない) →戊辰戦争のときも旧幕府方に対するあつかいは、「どちらが勝利者かわからない」といわれたほどに薩摩側は寛大で態度も鄭重だった。 ・敵に対して優しいクマソタケルのほうが、よか男としては上だという。いかにも薩摩の人間美学ならそうあるべきかと思える。 ・(浄土真宗等)諸勢力の拡大は、戦国における地方統一というあたらしいタテ社会の建設をめざしている諸国諸郷の大小の領主にとっては恐怖であった。かれら講の連中はヨコに結び合い、聖典と信仰を共有することによって一種、無階級の社会的気分をもつにいたっているだけでなく、主君というのは未来永劫の契りである阿弥陀如来で、現在いだいている主君というのは「じつは一世の契りにすぎない」とおもっていた。 「一向念仏はまかりならぬ」と島津氏が言い出したのは天文年間までさかのぼれるそうだが、この行政的禁忌に刑法的裏付けがきまって薩摩藩独特の戦慄的な「念仏禁止」が行われたのは、江戸初期、幕府の切支丹停止と併行した時期である。
壮大な歴史旅行記だと思うが、この作者のレベルだとちょっとした観光旅行に感じられてしまうところがすごい。途轍もない知識量をもっているからだろう。でも、物語の方がやっぱりワクワクする。
鹿児島・熊本旅行の事前準備としてこの本を読んだ。相変わらず観光ガイドに載っていない地名ばかりであった。地元の友人にお願いして島津氏の難攻不落といわれた竜ヶ城に連れて行ってもらった。案の定、「そげいな場所はどこにあるでごわすか?」(※標準語でした)。城跡に入る所に看板表示はなく彷徨い、不安になりながら...続きを読む細い一本道を山奥へと駆け上がって行った。着いた先は桜が満開で蒲生町が一望できる絶景ポイントだった。いまや地元住民にしか知らない穴場なのだろう。いい場所なのに古いものが忘れられていっているんだなとつくづく思った。
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