篠田節子のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
加茂川一正は、長年ゼネコンに勤め、インドネシアで現場の折衝にあたってきた。ある種、楽天的で行き当たりばったり、しかし、その性格は意外に「現場」には向いていた。ただ、インドネシア駐在後は本社には戻れず、出世の目がないことはわかりきっていた。彼はえいやっと早期退職して私立大の非常勤講師に転身した。結婚して間もない若い妻には一言の相談もしなかった。三度目の妻である彼女が黙って出て行ったのは無理のないところだろうが、彼にはまったくわけがわからなかった。
退社前、休暇として訪れたインドネシアの小さな島で、彼は「大発見」をしていた。
ボロブドゥールにも似た古代遺跡。しかもそれが海中にある。
この地域にこんな遺跡があるとは。歴史上の大発見ではないのか。
興奮した彼だが、現地住民もインドネシア政府当局も研究者も彼の「発見」には冷たかった。
曰く、そんなに古いものであるはずがない。曰く、観光客を目当てにした捏造建造物である。曰く、以前やってきて同じものを「発見」した研究者たちも誰一人真面目に追求しなかった。
しかし、加茂川は素人ながら自分が見つけたのは価値あるものだと信じていた。
この歴史遺産の発見者として歴史に名を刻みたい。
会社を早期退職したのも、この夢を追うためでもあった。
持ち前の調子のよさから研究者グループの調査の一員に加わり、島への再訪は叶うが、事態は遅々として進まない。
島の人々は町のものからは首狩り族として蔑まれている。島民らはヒンドゥー教を信じ、海のある場所にいたずらに近づくと女神(ドゥルガー)の怒りを買うと信じている。村の女たちは呪術めいた儀式も執り行い、どうやら彼女たちの使う酒や薬には怪しい成分が混じっているようだ。
一方でインドネシアはイスラム大国である。イスラム教徒の中には先祖がアラビアから来たと信じているものもいる。そうした人々が土着宗教に向ける目は冷たい。
金のために開発を進めようとする金持ちのスルタンの思惑もある。
近年ではイスラム過激派の暗躍もあるようだ。
そんな中、島は火山の噴火に見舞われる。加茂川の「夢」の行方は。
出版社による作品紹介ページの「圧巻の」「エンタテインメント!」は若干ミスリードで、これは一般的に「手に汗握る冒険小説」の部類に入る作品ではないだろう。
とにもかくにも、話はなかなか進まない。
さまざまな勢力のさまざまな思惑が絡み合い、一筋縄ではいかない混沌が続く。
加茂川が主人公として魅力的な人物とは言いにくいのだが、しかし、彼のある種、空気が読めない鈍感さが、良くも悪くもこのプロジェクトの推進には必要だったということかもしれない。
先が読めないダラダラとした展開は、実際、インドネシアの複雑な社会状況を反映しているようでもあり、そういう意味では「現実的な」「冒険」小説とはいえるだろう。
物語の終盤には、ややスペクタクルなクライマックスがある。ここでカタルシスが得られるかどうかは読者によるだろうが、着地点としては悪くないのではないか。
登場人物の中では、個人的には、島民のエダがよかった。この逞しさ、この生命力。彼女はあるいは、母のマヒシャとともに、「ドゥルガー」の化身なのかもしれない。
バツ3の加茂川には、その後、どうもマドンナは現れないようなのだが、実はこれは結構幸せな人生なのではないだろうか。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ長い。
やっぱり篠田節子は私にはまだ早いのかな。
火事の遺体が別人だった、誰なのか。という謎を、施設の女性と記者の女性2人で解き明かしていくという筋立てなんだけれども、少しずつヒントを得て、仮説を立てていく流れで、どこまでが確定なのか分かりにくくて(2人ともオカルトに流される似たようなキャラだし)、最後にひっくり返されるのか?と疑いが拭えないまま(結局どんでん返しは別にない)読んでて終わってしまったので、最初から、ミステリーではなく人間ドラマ(半田明美物語)の頭で読めばもっと面白いのではないかと思う。
あと、余談だけれど、筆者の年齢を考えれば若い女性よく書いてると思うけど、どことなく「年配の方が若い女性を理解して描いた」という感じがしていて、気になった真ん中世代です。
小説って、自分の等身大で書く一作が1番面白いのかもしれないね……。 -
Posted by ブクログ
ネタバレある人物として長年過ごしてきた人が実は違う人だったということが判明し、その足跡を辿り来し方を紐解いてゆく…という、類型の1つといっても差し支えないパターンを踏みながら、そこはさすがの筆力でぐいっと読者を引っ張っていく。
"女性"を描くという点においては人後に落ちぬ著者であるが、今作においてもそれが遺憾なく発揮されている。
そしてこれは、同性である女性にしか書けない小説であろうとも、同時に思う。
また、アジアの猥雑な街をリアルに描写する技術もまた、多数の作品で感じられる著者一流のものであり、ひりつくようなマニラの熱気がぶわっと襲い掛かってくるようだ。
骨子たるプロットについては、読み手の予測の範疇を大きく超えるものではなく、良心の呵責に苛まれて改心するのと自我が崩壊して取り込まれてしまうのとでは、どう違うのだろう…? とすんなり腑に落ちず、結末に至る過程から瞠目させられるほどのカタルシスを得られなかったのは、ひとえに私の読解力不足か? -
Posted by ブクログ
けっこう努力して辛抱して読破しました。が、あまり報われた気がしない。
題材的にも心惹かれるものがあったのですが、冗長?すぎて。
あぁ、こうやって闇に消えていく本物の遺跡もあれば、
地元住民のメシの種にするため、デッチ上げに近いような遺跡もある。
その遺跡の発掘、保護にそれぞれの思惑で関わる3人の日本人。
出自や歴史もろもろで対立する地元の住民たち。
それぞれ魅力的な設定だし、エピソードなんだけど、なんか散漫なかんじで。
やっぱ主人公のカモヤンに、いまひとつ魅力を覚えないからかな。
スペック高いんだけど、どこか傲慢なカン違い野郎。
もうちょっと魅力的な人物に仕立てても良かったんじゃ、と思います。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ失業者の正彦と矢口は金儲けのために教団「聖泉真法会」を立ち上げる。似非教祖側を描く小説はお初かも…面白いです。
ビジネスとして宗教をやる彼らの教団には悩める女性たちや生きづらい系の若者が集まってたけど、元役人の性なのか一歩引いてて教祖っぽい事を言いつつ内心ツッコんでる正彦とお人好しの矢口には「似非宗教」という自覚があるからか、「〇〇しないと地獄に堕ちる」等の脅しをしない。寧ろ信者がこの方向のこと言ってて、正彦と矢口は行政に繋いだりと冷静な対応しています。
そのうちに食品会社社長というビッグな信者が出来てトントン拍子か…と思ったら、宗教ビジネスにたかってくる面々できな臭くなってきてラスト遂に…!でした。
ハイエナな面々、正彦と矢口の詐欺師はまだ可愛いほうなのか?と錯覚してしまうくらいに悪いです。
下巻では正彦と矢口が振り回されてどんどん堕ちていくのだとしたらちょっと不憫。読みます。
「宗教」自体がモンスターみたいなものだとも思うけど、拠り所というよりもたれ掛かるつもりで多大な期待でやってきては失望して去っていく信者たちも随分と勝手だなと思いました。だからこそ宗教にはまれるのかもしれないけど。
冷静なままだと到底無理で、宗教世界にはまる形に自らを狂わせるのが信徒なのかも。洗脳はそうか。。。
お手軽に救われる、幸せになれるなんてそんな甘い話は無いです。お手軽に儲かる話も無い。気をつけましょう……あなたの心のスキマにドーン!!
約10年前に文庫化された作品で、宗教からお金が流れ込んでいる政党だと公明党と自民党の名前出すのか。流石です。