篠田節子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
篠田節子さんは初読みの作家さん
男性心理をメインに描いた作品で大人のディープな世界観だった。
『冬の光』
東日本大震災のボランティア後に、四国遍路を終えた帰路フェリーから冬の海に忽然と消えた父
高度成長期の真っ只中で企業戦士として働き、専業主婦の妻に家庭を任せ順風満帆だったはずの父
何故、父は帰らぬ人となったのか・・・
物語は、四十年にも及ぶ父とその愛人との繋がりと、長年裏切られた憎しみと恨みを抱えた母、
その影響を受けた姉妹の関係性が軸になっている。
父の死がどこか釈然としない次女の碧は、数日間の休暇を使って父の最期の旅路に出掛ける。そこに過去の父の経験が重なる形で物語は進行する。
感想
これは人生も程なく折り返し地点を過て、ゴールを自然と意識し始めた年齢層の方がより入り込み易い作品だと思った。
父と愛人との繋がりは、肉体的なもの以上に精神的な部分が相当に強かったのだろう。義父が言うように素人女はダメだが、学生時代から惹かれる部分をそのまま強固に磨き上げて来た女性はそう容易く代わりがきく存在でも無かったんだろう。
妻の怒りもご尤もだが、その役割はきっと家庭を完璧に守ってくれた良妻賢母の妻では難しかったのかもしれない。
でもなぁ愛人との付き合い、四十年は長過ぎる。
自立した大人同士の繋がりは希少だし、ましてや男女の仲であれば、長くなる程、形を変えて意味を持つのかもしれない。若い頃と違い一定の距離感は保ちつつも、心の奥底に根付いている関係。日常的に意識しなくとも特別なのだろう。
描いていた企業戦士の目標に辿り着けなかった父は何を胸に秘めて、何を感じていたのか・・・
旅路の終わりに次女の碧が、父の心情に少し寄り添えたのが救いだった。
本作は、家族や会社といった社会との関わりにおける「孤」の存在の意味を問われていると感じた。
四国遍路では地位も名誉も肩書きも関係ない。
退職した父の大企業を名乗る名刺も必要ない。
そこにあるのは圧倒的な弧の存在だろう。定年退職を控えた世代には特に響く内容だと思う。
読み進める内に、結局のところ父は妻にも愛人にも心の内を曝け出せていなかったことが、切なくて虚しく感じた。
これは男の美学なのかプライドなのか、それとも世間体なのか、はたまた世代の問題なのか?
そんな父が震災での生死に直面し、生涯独身となった愛人の死に様を胸に秘めた追悼旅の道すがら、不貞行為に及んでしまったのは、男のさがというよりも短期間で凡ゆる局面を目の当たりにした人間の、種の本能のように思えた。善悪はさておき、それによって補えた部分が確かにあったのだろうと思う。
二十代の頃に本作を読んでいたら、碧と同じく、父という存在に生々しい性的な要素がみえて拒否反応を起こしたかもしれない。もうすっかりそのお年頃は越えたんだなぁと自覚させられる大人向けの作品だった。
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Posted by ブクログ
ダイビングのために訪れたインドネシアにある小島で、海中に聳え立つ仏塔を発見する。
これは遺跡なのか?
加茂川一正は、大手ゼネコン会社を早期退職し、非常勤講師となった今、一回り若い静岡海洋大学の准教授・藤井とリベラルアーツ系海洋学群海洋文明研究科特任教授・人見淳子と共に本格的な調査に向かう。
宗教と信仰の制限の多いなか、すんなりと調査は進まない。
次々と障壁が立ち塞がるなか、果たしてその仏塔の真偽は⁇
部族同士の諍いや何かにつけて祟られるという不穏な空気や閉塞感に読み進めるのも少々疲れる。
冒険譚といえるのかもしれないが、3人の逞しさには脱帽した。
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Posted by ブクログ
きっと幻想的な伝奇小説なのだろうと思って読み始めたけれど、いつまでたってもそういう展開にはならず、あれ?あれ?と思いながらとうとう最後まで行ってしまった、という印象。終わってみればインドネシアを舞台にしたリアルで文化論的な冒険フィクションであり、それぞれの場所で日々を生きる庶民達への人生賛歌でもある力作ではあったのだけれど、エンタメ的に面白いかと問われると、決して面白くはなかった。勝手に「インドクリスタル」を思い描いていたこっちが悪いのだ。けれど、かの地の生活様式だったり文化的な風習だったりをここまで尊重して描ける篠田さんはやはりすごいのです。
主人公の性格が下世話すぎるのが玉に瑕だったな。 -
Posted by ブクログ
ネタバレほんとに著者女の人?っていうくらい男の視点が細かく書かれ、語り口も硬質。事実を並べればしょうもない男なんだけど、本人の語りで読むと、そんなこともあるか…と思わせてしまう描写力。一人の人間の中に存在する多面性、弱さ、人間くささがよく描かれている。
でも莉緒との関係は余計だ。気持ち悪い。
ところどころ光った表現がある。
「動物は着替えたりしない、という前衛アーティストの言葉そのままに、昔とまったく変わらぬ身なりで」
「人生の終焉の迎え方としてはね、今の日本がおかしいんですよ。リーダーシップを譲るべき時に次世代に譲らず、それどころか介護という形で何十年も負担をかけて、未来を紡ぐ芽をつぶしていく。そうやって生物的限界を超えて長生きしているのは、我々だけですよ」 -
Posted by ブクログ
1999(平成11)年に単行本化。
初めて読む作家。裏表紙に「ホラー短篇集」とあったので買ってみて、また気晴らしのつもりで読み始めたのだが、これは「ホラー短篇集」とは言えない。巻頭の「幻の穀物危機」と「家鳴り」あたりはややホラーっぽいと言えなくもないが、ほかのはちょっと「世にも奇妙な物語」のようなテイストではあっても、ホラーのカテゴリにはまるものではなかった。「恐怖」が主眼ではないからだ。
が、どうもこれらの作品は後味が悪いようで、どこか「イヤな気持ち」にさせられた。イヤミスなる言葉は最近あるようだが、ミステリではないから該当しない。イヤ小説集であることは確かだ。
こうした後味の悪さ、胸に何かが残るようなキレの悪さは、ホラー映画ではよくあるテイストなので、その点に限ればホラーっぽいとも言えるかもしれない。
何だか妙な味の短編を書く作家ではある。あまり良い気持ちのする読書ではなかったが、なんとなく気になるようでもあるので、また違う小説を読んでみたいと思う。