大森望のレビュー一覧
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オックスフォード大学史学部シリーズの長編第2作。まるでシェイクスピア悲劇のようだった前作からうって変わって、今度はヴィクトリア朝を舞台としたてんやわんやのラブコメディが描かれている。
「彼と彼女がくっつかないと未来が大変なことに!」という某名作映画を彷彿とさせるストーリーはもちろん、主人公とヒロインの距離加減もまた読んでいて楽しい。ウィムジー卿に憧れる女の子なんて素敵。
そしてある意味主役の犬と猫! たかがペットと侮るなかれ、驚くほどキャラが立っている彼(&彼女)は始終物語を引っ掻き回すがどうにも憎めない。人間だけじゃなく動物も魅力的な本作は、一見の価値ありです。 -
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タイムトラベルによって実地的な歴史研究が行われるようになった近未来が舞台の、“オックスフォード大学史学部シリーズ”最初の長編。本作では、中世イングランドに降下した史学部生キヴリンを軸に、迫りくるペストと21世紀のオックスフォードで発生した原因不明のパンデミックとの闘いを描く。
紛れもない長編で専門用語も多く、翻訳SFに慣れない人は二の足を踏みそうな作品だが、それでも読む者をグイグイ惹きつけるこの作者はさすがとしか言いようがない。登場人物は皆活き活きとしており、本当にその時代に生きていたかのよう。主人公の成長物語としても歴史小説としても一級品なので、興味がある人は是非読んでみてほしい。
また、読後は短編である『空襲警報』を手に取ることをおすすめする。書かれた時期は短編のほうが先だが、脇役として登場するキヴリンにぐっと来ること請け合いである。 -
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2054年のオックスフォード大学では、開発されたタイムトラベル技術を歴史研究に利用している。女子学生キヴリンは現地調査のため、飢餓と疾病が蔓延する14世紀にタイムトラベルするが、キヴリンを現地に送り届けた技術者が未知の病に倒れ、キヴリンが無事現地に到着したか確認できなくなってしまう。キヴリンの非公式指導教授のダンワージーは、彼女の安否を確認すべく奮闘するが、未知の病が次第にオックスフォードを覆ってしまい… 一方、キヴリンは14世紀に到着するも原因不明の病に倒れてしまう。現地人の看護により一命を取り留めた彼女は、もとの時代に戻るために出現地点を目指すが…
全2巻。終盤までは、物語は遅々として進みません。張り巡らされた問題は何一つ解決しないまま、ただいたずらに時が過ぎるばかりで、とにかくもどかしい気持ちでいっぱいになります。とはいえ、退屈というわけではありません。なんといっても「ひとの話をきかない登場人物」の多いこと多いこと。読中、何度も殴ってやりたい衝動にかられるぐらいで、こういった憤りやキヴリンと現地人の交流を微笑ましく思いつつ、読み楽しんでいきました。
終盤以降は、これまでの鬱屈を爆発させるかのような怒涛の展開をみせ、一気にクライマックスまで突き進みます。ただ、この怒涛の展開は決して気分が晴れ晴れするものではないのです。ダンワージー側は悲惨さの割りにお気楽な展開でしたが(メアリが可哀相だ)、キヴリン側は違います。14世紀を襲った黒死病を目の当たりにし、現地人を助けるべくあがき苦しむも訪れるのは歴史の惨劇のみ。読んでいるこちらが悪寒を感じる展開で、彼女がのこした記録(ドゥームズデイ・ブック)の淡々とした描写が悲惨さを助長させました。歴史は変えられないというのが、この世界の鉄則であるだけに、「みんなとっくに死んでるんだ。そう考えても、とても信じられなかった」「どうかロズムンドを死なせないでください。どうかアグネスを感染させないでください」といったキヴリンの言葉が胸を刺します。
先日読んだ著者の短編集がコミカルな内容だっただけに、落差が激しかった… 過去も未来もパンデミックが発生しており、時代の危険度合いは普遍的であるのかもしれませんが、それでもキヴリン側の描かれ方が悲惨かつ迫真であっただけに、歴史の冷酷さを感じる物語でした。 -
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『犬は勘定にいれません〜』以来のコニーウィリス作品。2作目。
『犬は〜』のような登場人物が冗談を交えながらのんびりと話が進んでいくSFコメディを想像して読み始めたが、今作ではギャグの面白さもますます磨きがかかっており非常に読みやすかった。
病院内で臨死体験について調べている主人公が神経学者のリチャードとともに疑似的に臨死体験を起こし科学的に解明しようとする一方で、「臨死体験は死者からのメッセージだ!」と言って譲らないトンデモノンフィクション作家との攻防(?)を中心に繰り広げられる物語は、総合病院の中という限られた舞台にも関わらず話のネタは尽きない。
あまり書いてしまうとネタバレになってしまうが下巻のある部分で衝撃的な展開を迎え、そこからラストまでは怒濤のクライマックスになる。
そこに込められた悲しくも素晴らしい作品のメッセージは、宗教や信心を超えた普遍的なものだ。 -
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「ブラックアウト」「オール・クリア1」「オール・クリア2」通しての感想。
厚い!紙で読んだのだが、1冊目を手にしたとき、あまりの厚さに読む前から心が折れそうに…。3冊で、400字換算3,500枚。当初もっと長かったものを、必死でこの長さに収めたらしい。どれだけ長いの、コニー・ウィリス。まさにこういった本こそ電子書籍向けではあるのだけれど、「新☆ハヤカワ・SF・シリーズ」の装丁も格調高く捨てがたい。
読み始めると、この分厚いページがみるみる減って楽しくなる。特に「ブラックアウト」終盤1/4はものすごい疾走感。物語に完全に入り込んでいるため、単語を見た瞬間に状況が理解できてしまう。プロットだけを考えるともっとコンパクトにできるはず、と冗長に感じるけれど、物語ピークでの加速感は、飽きるほどひたすら描き込まれた助走期間があればこそ。
舞台は、第二次世界大戦中のロンドン。タイムトラベルしてきた学生がトラブルに巻き込まれ…という物語。歴史や地理などの背景知識が全くなくても十二分に楽しめたが、知識があればもっと楽しめたのでは、と感じてしまったのは残念。
タイムトラベルSFでは「パラドックス」の処理が肝心。本書では、流行りの量子力学的に煙に巻くでもなく、「感覚的に理解できる」パラドックス解決法が提示されている。しかし登場人物はこの解決法に疑問を抱き、実は…。このテーマが、物語を構成する単なる「ギミック」にとどまらず、登場人物の心の動き、そこから紡ぎ出されるストーリーの根幹に影響を与えていく。この処理がお見事。
章構成も、短い章構成で時間・場所をシャッフルする中に、「叙述トリック」を紛れ込ませていく巧妙な構成。二転三転する登場人物の名前がトリックの要。一見誤植かと見逃しそうな中にヒントが埋め込まれており、本当は再読して解き明かしたいところ。ただこの長さでは…。
今だからこそ3冊連続して読むことができ、久々の濃い読書体験ができたのは幸せだった。 -
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久しぶりに海外SF作品を、、、、と手を出したのが運の尽き。
かなりの長編作品にぶち当たってしまいました。ただ、海外タイムスリップモノは、よだれが出る程好きなジャンルなので、全3部作の1作目は楽しんで読めました。
【内容】
2060年、オックスフォード大学の史学生三人は、第二次大戦下のイギリスでの現地調査に送りだされた。
メロピーは郊外の屋敷のメイドとして疎開児童を観察し、ポリーはデパートの売り子としてロンドン大空襲で灯火管制(ブラックアウト)のもとにある市民生活を体験し、
マイクルはアメリカ人記者としてダンケルク撤退における民間人の英雄を探そうとしていた。
ところが、現地に到着した三人はそれぞれ思いもよらぬ事態にまきこまれてしまう…
3人のお話が断片的に出てきて、その合間合間に、よくわからない謎の人物(彼らもタイムスリップしているっぽい)たちの動きもまみえる。
何よりも、第二次大戦中のロンドン描写が、すごく活きている。
痛々しい表現などはあまり無いのですが、主人公3人を取り巻く人たちの空襲被害などは主人公たちと一緒に、読んでいて胸が張り裂けられそうになります。
日本の戦時中と比べると、やっぱり先進的だなぁと感じさせられずにはいられない。
みんな地下鉄で移動してるし。
この作者、コニーウィリスは、初めて読みましたが、他の作品も手を出してみたい。
新☆ハヤカワ・SF・シリーズは、とにかく高い。1冊2000円くらいするので、SF素人には手が出しづらいのが傷。 -
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いつもの如く前半はドタバタが描かれる。キブリンを送り出した2054年のイギリスでは突然ウィルスが猛威を奮いネット技術者が人事不省に陥りキブリンが1320年に無事に着いたのか判らなくなる。過去に着いたキブリンは当然1320年に到着したと思いこみ、上手いこと領主館に転がり込み姉妹の面倒を見る羽目になる。ホドビン姉弟程ではないにしろロズムンド、アグネス姉妹も中々の曲者。中世の風景に驚きながら日々を過ごしていく。前半での読みどころは「キブリン到着のずれはどれくらいなのか?」「キブリンは自分の降下点を知る事が出来るのか?」の2点だけ。しかし!「オールクリア」を読んで学習済みの私には後半怒涛の展開が有るに違いないと思いながら読み進むと!遂にキブリンがヨーロッパ中にペストが蔓延した1348年にいる事が判明!ここからのスピード感が凄い、ダンワージーは直ちに救出の準備に取り掛かり、前半やんちゃな少年として描かれていたコリンは物凄い行動力を発揮、同じく前半単なる女たらしとして描かれていたウィリアムは病に倒れたダンワージーに関わる全ての部署の看護婦を掌握(籠絡?)、あっという間に病院を脱出、ネットの実行まで漕ぎつける。「オールクリア」でのコリンの成長を知っている私にとっても納得の大活躍!一方1348年は領主館の家族・召使が次々に病に侵されなんとロズムンド姉妹も倒れ家族は全滅、それどころか村全体が死に絶えてしまう。中世に降下した時に助けてくれた牧師までもが死んでしまうシーンは涙なくしては読めない、もう泣ける、泣ける、SFでこんなに泣けるなんて!
ラスト、ダンワージーとコリンが回収に現れるが、全ての死を見届けたキブリンは精神的に大きく成長を遂げ「大人」になって帰って来る。ヒロインの成長する様を描いた大河ドラマとも言えるし、タイムトラベルが授業の一環となっているオックスフォード大学が舞台の時間SFとも言える。ここから「ブラックアウト」「オールクリア」に繋がると思えば感慨もひとしおである。あぁ、素晴らしい物語を読んだ満足感でいっぱいです。(も一度ブラックアウト読まなきゃ!)
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人気作家コニー・ウィリスの2010年の新作。
続編「オールクリア」とともに、ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞を受賞した大作です。
未来(今回は2060年)のオックスフォード大学の史学部で、タイムトラベルが出来るようになっているという設定の長編としては、3作目。
1作目「ドゥームズデイ・ブック」ではペストが蔓延した中世へ、2作目「犬は勘定に入れません」では19世紀ヴィクトリア朝がさかのぼった先でした。
今回は、第二次大戦中に3人の学生が送り込まれます。
メロピーは疎開児童の状態を研究するために、田舎の領主館のメイド、アイリーンとして。
ポリーは、灯火管制(これがブラックアウト)が始まっているロンドンの生活を調べるために、デパートの店員に。
マイクルは、ダンケルク撤退を調査するために、アメリカ人の新聞記者マイクに扮します。
アイリーンは手に負えない姉弟をはじめ子供達に慕われて世話に大奮闘しますが、はしかが流行ってしまい、領主館から出られなくなります。
ポリーは防空壕で催し物を企画する意気盛んな町の人々と知り合い、老いてもハンサムな俳優と劇の読み合わせを楽しむひとときも。
マイクルは少しずれた地点に出てしまい、あれやこれやで勇敢だが少々いかれている老人の船で現場に到着。取材する側ではなく、はからずもダンケルクの英雄となってしまう。
歴史を改変することは出来ないという理論があるのだが、絶対とは言いきれず、マイクルが歴史を変えたのではと悩むことに。
それぞれ、時期も場所もずれているのですが、なかなか帰還することが出来ないためにお互いを探し、大空襲のさなか、やっと合流します。
別な時代に来た緊張を抱えつつ、細やかに描かれた情景の積み重なりから、またまた大変な危機に直面する彼ら。
戦時下の勇気ある人々との助け合いに、いきいきとした感情が伝わるのが、さすがコニー・ウィリス!
冒頭でダンワージー教授が非常に忙しそうにしていて、どたばた喜劇のような始まり。その理由は何だったのか?
オックスフォードで何か起こっているのか?
高校生のコリン少年(ポリーに恋している)は、どう絡んでくるか‥?
それらの答えがすべて続編待ちというのが~つ、つらい‥
「オールクリア」は警報解除という意味なので、すっきり解決するんでしょうね!!?
続編が出るまで我慢してから読んだから、まあもうすぐなんですけど(笑)