酒寄進一のレビュー一覧
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コルドンのベルリン三部作の第二作目。
前作は1919年、第一次大戦末期のドイツ革命が起き、帝政が崩壊し、共産主義による貧困からの脱出を夢見るベルリンの人々の姿を10代の少年ヘレの目線で描いた。
第二作は一作目でまだ赤子だったヘレの弟、ハンスが主人公。
世界恐慌と、ベルサイユ条約の賠償金によって貧困に喘ぐドイツ。ドイツ共産党とドイツ社会民主党は反目し合い、ヒトラー率いるナチスの台頭を許しつつあり、町にはナチスに入党し突撃隊の隊員となって、職場の仲間に対して脅迫行為に及ぶ者たちが増えていく。
そして、予想を裏切ってヒトラーがヒンデンブルク大統領によって首相の座につき、独裁政権への着実な一歩を踏み出す、、、
前作から引き続き登場する人物が成長し、それぞれの道を歩み出している。そこには必ずしも昔のような平和な関係だけではなく、ナチスの存在によって肉親の間にさえ、超えられない溝ができ始めていく。
読んでいて辛い展開だった。 -
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女性弁護士ラヘルは知り合いとは言え仲が良いとは言えない映画プロデューサーのユーディットから弁護を依頼される。恋人を爆弾で殺したという容疑。状況証拠は沢山ある。調べてみると、誰か別人が殺したと思えなくもないが、ユーディットも怪しい。彼女が5年前に参考人となった殺人事件も交互に描かれると・・・
面白いと言えば面白いし、事件がちっちゃいと言えばちっちゃい。
動機や方法などかなり読ませる。ただ背後に巨悪が潜んでいる感じがしながら読んでいたのでその辺は肩すかし。しかし、悪いわけじゃない。そんな期待をしていた方が悪い。巨悪じゃなく個人的な話だということを前提に読めば、相当面白いミステリーだった。
「論理的根拠はあるの?」
「ないさ。宗教の問題だからね。宗教は、おまえがなにをしてよくて、なにをしてはいけないか規定しているだけだ。カトリックは離婚を禁じ、ユダヤ人はエビが食べられない。そこに意味があるかどうかなんて関係ない。そもそも意味がないから宗教なのさ。意味のあることに宗教は必要ない。わかっていることじゃないか」
宗教に意味がない。確かに。昨今言われるマインドフルネスに近い、瞑想を提唱する仏教には意味があるので、宗教ではない、って言えるのだろうか。 -
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「ベルリンは晴れているか」の作者深緑野分さん推薦の クラウス・コルドン 「ベルリン1919 赤い水平」は、第一次大戦で敗色濃厚となったドイツ帝国の1918年11月から19年のベルリンを舞台にした小説。
戦争に疲弊した状況を打破しようと水兵が蜂起し、ドイツ革命が起きる。しかし帝国の転覆と同時に主導権争いが起き、当初は優勢と思われていたドイツ共産党の前身スパルタクス団は劣勢に。そして帝政時に権力を握っていた政治家たちが力を取り戻し、ベルリンは激しあり市街戦へと突入していく。これは今から見ると敗戦国ドイツが混迷の中でナチスの台頭を許す、その一瞬前、それとは別の道を歩めたかもしれないベルリンの混沌を貧しい労働者の家庭に生まれたヘレ(ヘルムート・ゲープハルト)という少年の目線から描き出している。
岩波少年文庫で、「中学生以上」となっているが、いや、中学生がこれ読んでも理解はしきれないだろうと思う。でも、読み切ることができれば強い印象も持つだろう。そして、もっと後に読み返した時に印象を新たにするだろう、そんな作品。 -
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白雪姫と呼ばれた少女たちを殺した罪に問われたトビアスは、無実を訴えた。けれども有罪となり、罪を償い、生まれた小さな村に戻った。
両親は殺人者の親として嫌がらせを受け、大切にしていたレストランも閉店していた。
出所した元少年の身の回りに不穏な嫌がらせが起こる。母も何者かに襲われ意識不明の重体になる。
トビアスは過去の事件において無罪であろうことは読者にはすぐにわかる。
では誰が殺したのか?
小さな村の中のしがらみのある人間関係は陰鬱で、外から引っ越してきたメアリー(殺された白雪姫に似ている)が、風通しのいいキャラクターで魅力的だ。
過去を知らぬアメリーがトビアスに惹かれるのも当然だし、トビアスも彼女が居るから救われるところがあっただろう。
物語が進むにつれ、気が重くなるのだが……でも、やはりこの2人が主軸であってよかったなぁと思うエンディング。
この小さな村でこれからどういう物語が描かれるのか少し気になる。 -
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ドイツのホーフハイム刑事警察署オリヴァー主席警部とピア警部を始めとする群像小説。ずっと前に読んだ「深い疵」は元ナチスの老人殺害事件を扱った謎解き要素の強い小説で面白かったと記憶してる。WEB本の雑誌の連載で杉江松恋氏が「(最新作が面白いのだから)過去作に遡る必要なし」と力説していたので、「穢れた風」を読み始めたものの、オリヴァーがコージマと別れてたり、いろいろ気になるので遡って読むことに。
結果としては、しっかり楽しめた。登場人物多くて混乱するのは相変わらずだけどね。
次から次に怪しい人物(しかも名前が紛らわしい…)が登場し、最終的には村全体が犯人なのか、って怖くなる。
並行してオリヴァー、ピア、それぞれの私生活の迷走っぷりも楽しめる。
長い話になりそうだけど、読み続けたいな。
4.0 -
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翻訳第1作だが、オリヴァー&ピアシリーズとしては3作目。
前に読んだ「生者と死者に告ぐ」より前の話。であるがゆえに「あれこの人は昔こうだったのか」的な驚きがある。
謎の数字を記されて殺される老人の謎。捜査がままならない状況から進んでいくミステリ。なぜ老人が次々と殺されるのか。最初はまったく見えない点が線になると、恐ろしい理由が明らかになる。
そうして、その理由の裏側にある深い疵を負ったとある人物の行動が……もう本当に、それだけでこの物語成立してもいいかもって思える。
単純な謎解きではなく、人々の生きている証が見えるところがこのシリーズの面白さだと思う。 -
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ネタバレ光文社古典新訳文庫はガチで読みやすい。苦手だった海外古典文学がためらいなく手に取れるようになったのは、このシリーズのおかげである。古典を古典として読むのが億劫になってきたので、きっとこれからもお世話になると思う。
本書の訳者は酒寄進一氏。以前読んだシーラッハの『犯罪』もたしかこの方の訳書だった。翻訳にあたっての難所についてや、デーミアンのBL要素といった可能性などまで、訳者あとがきも非常におもしろく本書についての理解をより深めてくれる。
で、デーミアン。第一次世界大戦直後に発表されたドイツ文学である。
日本で有島武郎の『或る女』などが発表された1919年にヘルマン・ヘッセが匿名で発表した作品で、今年で発表からちょうど100年と聞き、せっかくなので読んでみようという気になった。作品の内容をひと言で表すとすれば、「既存の価値観と対峙する、若者の青春期」といったところだろうか。
主人公はエミール・シンクレアという青年で、彼の幼少期からの成長を追っていく構成となっている。彼は世界にはきれいな世界と汚れた世界があることに気付く。守られた清らかな世界で生きている人は汚れた世界を見ないふりをしているが、たしかに存在することを彼は知っている。ふたつの世界について知った彼が、どう生きていくのか…思春期の問い、と簡単に言うには重すぎる「世界」との対峙について、キリスト教の宗教観のなかでデーミアンという導き手の影響を受けながら答えを模索していく。
思い返せば、僕は比較的丁寧な世界で育ててもらった。暴力や貧困の世界があることは知りながら、そこに足を踏み入れないでいいように守られて生きてきたと思う。ところが社会に出て、今はどちらかというと本書で言う「汚れた世界」に近づいてきている。低層というと好ましくない言い方かもしれない。うまく言えないが、直接税を納めていなさそうなわりに、間接税(主に酒税、タバコ税)を大量に支払っていそうな人たちとともに生きている。また、直接税をきちんと納めていながら、他人を不快にさせる言動を悪びれもせずに言い放つような人間も身近にたくさん見てきた。そして、僕にはカインの印なんてものはない。
汚れた世界にフタをして、きれいな世界で生きることもできるだろう。きれいな世界を離れて、汚れた世界に身を置くことも容易かもしれない。また、どちらも選ばない第三の道もまた考えられる。本書に出てくるアブラクサスという神は「神性と魔性を合わせ持つ」という象徴的な役割を担っている。
対立する二つの世界があるとして、どちらの世界でどう生きるのか。はたまた世界そのものを疑い、否定し、打ち破ることができるのか。この本は戦後の世界的なブームのほか、ベトナム戦争の後などにも迷える若者たちの間で度々手に取られてきたという。さらなるパラダイムシフトも簡単に起こりえる今現在、そしてこの先も、世界と対峙する上で多様な示唆を与えてくれる物語である。 -
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オリヴァー&ピアシリーズ第七作。
前作から二年ほど経っている設定で、ピアもその恋人クリストフも前作でのショックから立ち直り、いよいよ結婚へ踏み出していた。ホッとした。
しかし、長期休暇を取ってクリストフと旅行を楽しむ予定のピアに連続殺人事件が立ち塞がる。
ドイツなら休暇は休暇と割り切って旅に出るのかと思いきや、意外にも人手不足の職場事情を思いやって休暇を返上するワーカホリック振りを見せる。
そしてそんなピアを非難するどころか気遣うクリストフって、本当に良い人。
そしてオリヴァー。離婚後も元妻コージマと幼い娘に振り回されつつ、やはり仕事中心の日々を過ごしている。
ドイツでの銃犯罪は非常に少なく、作中の表現では14%だそうだ。またいわゆる通り魔事件も少なく、犯罪の70%は被害者と犯人に何らかの繋がりがあるらしい。何となく日本に似ている。
しかし今回の事件は銃犯罪。調べると、意外にも銃を持つ者(勿論許可証が必要)、銃を撃てる人間は多い。
被害者にはどんな繋がりがあるのか調べるうちに、思わぬ隠蔽事件が見えてくる。
最初は貫井徳郎さんの「乱反射」みたいな話なのかと思ったが、もっと深くもっとどす黒いものだった。
「ドイツは法治国家ではない」
という言葉にも納得。ドイツだけではない、日本も他の国にもそんな側面はあるだろう。
こんな大罪を犯しておいてお咎めなしの人間もいれば、罪とも言えないことで社会的に抹殺される人間もいる。
人々が日頃抱える不平等感や格差、そうしたモヤモヤを改めて突きつけられた。
人間は罪悪感や良心を長期間保ち続けることは出来ない。それは生物が生きていくための自己防衛機能なのだろう。
一方で理不尽に家族を奪われた者はどう悲しみや苦しみと折り合えば良いのか。
ピアも前作で危うく大切なパートナーやその家族を失うところだった。
このシリーズは他のレビュアーさんも書かれているが長い。
核心に入っていっても、最後の最後まで真相が分からない。そしてスッキリ解決、大団円とは行かない。
次々に起こる事件に追われて、落ち着いて考えればもっと良い捜査方法、良い視点を思いついていただろうにと後悔するような紆余曲折があったり、流行りの言葉で言えば『ワンチーム』で当たらなければならないのに自分勝手に暴走する者がいたり、捜査は遅々として進まない。二時間ドラマであっという間に解決するスーパー刑事軍団ではないのだ。
しかも犯人は常に警察の先を行っている。
今回は初めてピアの家族が登場した。妹が意外にも司法精神医という仕事をしていることも判明。なんと事件捜査に加入している。いくらその道のプロとは言え、家族を捜査に加えるなんて「名探偵コ○ン」か。
そしてオリヴァー。新しい彼女との関係はどうも上手く行っていないようだ。だが仕事の方は一時のポンコツから随分と回復。逆にポンコツプロファイラーがみんなの足を引っ張ってくれて怒鳴るシーンが多いのが気になるが、ピアとともに課を引っ張る頼れるリーダーだ。
本国では九作まで刊行されているとのこと。続編も楽しみに待つ。 -
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ドイツ・ホーハイム警察署刑事、オリヴァー&ピアシリーズ第六作。
序盤は様々な視点で場面転換が続くため、一体どこを軸に進むのか分からない。
キャンピングカー生活をしているらしき男、テレビの人気女性キャスター、ピアの友人エマ、何か酷い目に遭っているらしき少女の回想、オリヴァー、そしてピア。
これだけでも六つもある。
しかし読み進めるに連れて、オリヴァーとピア以外の話が巧妙に繋がっていることが分かり、更にはピアの話も…。
タイトルの意味は想像通りだったが、予想以上におぞましかった。日本に限らず世界中にこういう話はある。
人間は無償の愛を捧げる一方で、こんな残忍な行為も出来てしまう。恐ろしい。
加害者というのは何も直接的に何かした者だけではない。見て見ぬ振りをした者、見たくなくて逃げた者も含まれるのではないか。
しかし闘いたくてもこんな酷い返り討ちをされたら躊躇する。
オリヴァーとピアは一体どう立ち向かい、勝てるのか。
軸が見えてくる中盤以降は最後の最後までハラハラする展開の連続だった。
今回の作品では、つくづく人は見かけによらないことを思い知らされた。
今までイメージ最低だったあの人にこんな事情があったとは。またその逆も。
なんだか大沢在昌さんの新宿鮫シリーズを彷彿とさせる。
もう一つ、訳者さんのあとがきにもあったが、今回は母親と娘の様々な形も描いてあって興味深く読んだ。反抗期でも思春期でも難しい年頃でも、何らかの形でコミュニケーションを取ろうとする努力は必要だなと改めて感じる。
シリーズとしては、このところ「らしくない」オリヴァーだったのが、プライベートの問題が一段落して「らしい」オリヴァーが戻ってきたのが嬉しかった。
またピアの方もプライベートは順調。クリストフ、どうかこのままピアを支えて欲しい。
同僚では堅物のクレーガー鑑識課課長の新しい一面や活躍を見られて面白かった。
本編とは離れるが、作中ハルク・ホーガンの名前が出てビックリ。ドイツでもプロレスって人気なのか。 -
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初ドイツミステリー。
冒頭とラストの50頁は一気に読める面白さ。ただし、全500頁強あるため、途中で読むのを止めてしまうとなかなか次に読むのをためらう類いの内容だった。(重い、暗い、捜査がなかなか進展しない)
そしてこのジャンルのお約束を知らないせいか、はたまた私がアガサ・クリスティーばかりを好んで読んできたからか、思ったほどの大どんでん返し、ではなかった。真犯人はわりとはじめから、あの人ではないかなとあたりがつけられる。
しかし誰も彼もが犯人に見える(読める)中盤から、終盤の一気に事件が転がって帰結する流れは是非とも一気に続けて読んで欲しい。これは秀作。
訳者あとがきにもあるように、本文で投げられた謎が全て解かれて終わり、ではなくいくつか疑問が残った終わりだったので、もう一度読み直して自分なりに考察する楽しみもある。さて、もう一回読み直そう。
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ネレ・ノイハウス『生者と死者に告ぐ』創元推理文庫。
オリヴァー&ピア・シリーズ第7弾。『仕置き人』を名乗る連続射殺犯にオリヴァーとピアが挑む。シリーズで最も凄惨な事件が描かれながら、相変わらず手薄な警察組織にやきもきしつつも無難な結末を迎える。
犬の散歩中に女性がライフルで頭部を撃たれ、射殺される。翌日、森の中の邸宅で女性が同じく頭部を撃たれて死亡する。数日後には若い男性が心臓を撃ち抜かれて死亡する。全く共通点の無い被害者に頭を抱えるオリヴァーだったが、犯人の『仕置き人』から警察署に死亡告知が届けられる。
本体価格1,500円
★★★★