村山由佳のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ染織家・飛鳥とカメラマン一馬はベルリンの壁崩壊の前夜に出会い、お互いがお互いの存在を忘れられないまま、二人はアフリカで再会、激しい恋に落ちる。
ところが、飛鳥の同級生であり、感情的にも微妙な関係にある編集者の祥子と藤代の関係が明らかになり、さらに藤代の「子孫を残したい、飛鳥に自分の子供を産んで欲しい」という願望と飛鳥がそれに答えられないことにより、この恋は終幕へと近づいていく・・・という話。
恋愛に関してのストーリーは失礼だがまぁ、ありがちな話。出会った瞬間に「これは運命なんだ、運命の出会いなんだ」と思う恋愛はどこか嘘っぽいと思ってしまったりするので、そのあたりに関しては心ときめかせて読むほどではなく・・・。年と環境のせいかしら^^;
(大体、運命の恋って、出会って、育んで、自分も相手も得るものがあって、成長して初めてそう思えるもんじゃないのか?と思うのだが)
それでもなぜかつい、引き込まれて読んでしまうのですが・・・。
小説の魅力はストーリーもだけど、感情描写、風景描写などがどれだけ魅力があるかが問われるものだとあらためて思います。
というわけで、この小説の読みどころは、恋愛の行方よりも色彩感覚豊かな文章にあると思います。飛鳥がつくり出す織物と織物を作るために染めあげる糸による色彩のハーモニーが特に美しい。文章を読みすすめると、色がまぶたの裏に浮かんできます。
色にはいろんな美しい名前がついています。
自然の樹木や果実からとった名前もあれば、聞いただけでは何色かわからんような名前もありますけど(笑)
「色の名前」とか「色の手帖」を片手に読んでみると、視覚的にも楽しめる作品になるのでは。
また、サバンナの風景も、この作品のタイトル通り「野生の風」を感じさせる描写です。それらを堪能するのもこの作品の楽しみ方かもしれません。 -
Posted by ブクログ
病院の待合室で読んでいて、涙がブワッと出てきたので、あわてて読むのを止めた本。
読む場所を選ばないとね・・・。
音響技師の青年、高瀬が主人公。
遠距離恋愛で、とっても大切なピナコがいるのに、女優にも惹かれていく。
でも、大切の度合いが違うんだよね。
メールを送り間違えてしまうところで、ベタなんだけど、ピナコに感情移入し、また高瀬に感情移入し、涙が出てきた。
電話で言葉を伝えるよりもメールの方がいいと思っていた高瀬が、職場の「おとな」達にも背中を押され、30秒抱きしめるために行動するところでは、主人公の変化がなんだか嬉しかった。
最後はハッピーエンドを予測させるさわやかな読後感。
この小説はパソコン通信の設定だが、携帯メールが当たり前の現在なら、どんな展開だったろう?!とかいろいろ考えてしまった。
私は、電話と手紙世代なので特に、今、恋愛世代だったら、きっと、全然違う人生を歩んでいたかも?!
で、どちらかというと、女優に年齢が近いので、そちらにも共感する所があるのですが、「旅人の木」の様に癒しを与えてくれる高瀬は、心のよりどころとして、必要だったんだろうな。
そこを浮気とか言われてしまうとつらいかも・・・。 -
Posted by ブクログ
ベストセラーを連発し、読者からの絶大な支持がありながら、直木賞が欲しくてたまらないとは、著者の想いなのだろうか。
それは、仕事の実績について周囲から評価されるだけでなく、組織からも評価され、昇進という形を求める気持ちに近いと感じ、評価を求める気持ちには大いに共感した。
ただ、受賞できなかった際の周囲への接し方は直情過ぎではと恐ろしかったが。
編集者の役割もよくわかった。表現を変える、補足する、省くといったアドバイスをするなら、著者との相性は重要だ。
たった一行、自分が削ることにした文を編集者が残していたら自分の作品ではない、と言うほどに全身全霊をかけて文章を書くというのは業が深い。 -
Posted by ブクログ
ネタバレカインのパワハラ気質が嫌だったが、夫の対応に腹が立って悲しくなった。夫がそんなだから彼女は外では虚勢を張り賞を渇望するのか。親もだが。その辺りからちょっとカインを応援したくなってきた。千紘の急接近にも、お互い幸せな信頼関係ながら危うさが加速した。ミザリーみたいな極端な展開にはならないものの、脅迫メールと例の一行だけで十分に震えるような狂気だ。あれだけ欲してたのに最後に取ったのはPRIZE よりPRIDE 。予想外の結末といえる。程よい距離でちゃんと見ててくれたのは三成と坂木だけ。こんだけ世話になりながらサカキの漢字くらい覚えててくれ、カインwそういうとこだぞ。
-
Posted by ブクログ
とても面白い作品でした。具体的に「直木賞を取りたい!」と切望する小説なんて目にしたことがなかったので、まずテーマに驚きました。
主人公の天羽カインは人気ベストセラー作家。
直木賞の候補にはなるけど、なかなか賞をとれない。直木賞を目指して天羽カインと、担当編集者・緒沢千紘の全身全霊をこめた執念と気迫に引き込まれます。
候補作選考から受賞までの出版業界や選考委員の裏事情、書店でのサイン会の成否、新人作家の取り扱いなどなど、業界の内部事情に作家目線で切り込んでいきます。
そして作者の“立て板に水”のような速度感のある筆致が実に気持ちいいです。
読み進めていくうちに真のテーマは “ 作家と編集者の関係性 ” であることに気付きます。そこにミステリアスな要素も加わり面白さが増していきます。本好きさんにお勧めの一冊です。
余談ですが‥‥
作者の村山由佳さんはすでに 直木賞をはじめ沢山の賞を取っています。でも「本屋大賞」だけまだです。そのせいか「本屋大賞」や書店員さんに敬意を払っているくだりが度々出てくるので、もしやこの小説は「本屋大賞」狙い?などと憶測しました(笑)
❁……………………………………………………❁
2026年 本屋大賞3位
-
Posted by ブクログ
ネタバレ話の着地点が登場人物諸共どん底へなるかどうなるかと思っていたら、良い方向へ天羽カインの転換となるような繋げ方で良かったなあという感想。
終わりよければすべてよし。では無いけれど、作家人生がこれからも続いていくことを思わせる明るい終わり方が好きでいいなと思いました。
作家の目線と、2人の編集者の目線から物語がクルクルと語られ交わっていく中で、「小説」ができ上がるまでの流れ、「直木賞」について、出版社のビジネス的観点について、今まで知らなかった本にまつわるアレコレをこんなく事細かく知識を得られて良いんでしょうか…!?
これから私もそんな偉そうな目線で本を読むわけじゃあないけれど、今後の直木賞や芥川賞の講評も読んでいきたいし、世に生まれてくる小説の作家の意図やそこに我々に委ねてもらえる解釈の文章と膨らみを更にイメージさせられるような気になります。
作中の「テセウスは歌う」と、天羽カイン、緒沢千紘をリンクさせた作中のテーマ「テセウスの船」が対比や絡み合っているものだから二度美味しいと思っちゃったな。
カインがインタビューを答える中で作中で伝えたいとしていた「あなたを許したわけじゃない」という文言が含むニュアンスの意味が、千紘が受け取ったメッセージカードの内容と対比があったけれど、千紘自身は一筋の光として捉えてもいいんじゃないかなとも少し都合の良い解釈を持っていました。
カインが最後に職場の人付き合いであったり自分自身の環境の整理をして、共に闘う者はいるけどひとりで道を切り開いていく強さはカッコイイ。