山本博文のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
「切腹」という、もはや日本人にさえも徐々に理解が困難になりつつある自死法について、事例を挙げながら、その歴史的、文化的な側面を分析している新書。
私のこれまでの理解は、武士が己にかけられた恥辱、疑念などの汚名を濯ぐために誠(腹のなか)を示すというものでした。
本書では、それだけに止まらない多くの事例が紹介されており、よく考えてみると確かにそう単純なものではないと思い直しました。
例えば、戦国時代には、負け戦において家臣らの助命のために武将が自ら切腹をとるケースが見られるが、江戸時代になると、ささいな失敗の責で末端武士が切腹を命じられて主君が守られるというケースが増えてきます。
上役は絶対であり、下役はひたすら忠節を尽くすという封建制のネガな部分が出ています。
ブラック企業において現場責任者が切られて管理責任者が逃げ延びるような構図を想像してしまい、現代社会に通ずるところもあると感じました。
総じて、命よりも名を惜しむという武家社会独特の死生観がベースになっているのは間違いなさそうですが、現代ではそのような頑なで潔い心持ちの日本人は極々少数であり、反対に思慮浅薄で軽はずみな思想と捉えられる気がします。 -
Posted by ブクログ
週刊誌連載なのでコラム的、そして連載を1回しか読まないことも想定されており、各章で内容がまとまっていてとても読みやすい。取り上げているのは鬼平や田沼意次、松平定信の居た時代の江戸の武家たちの昇進競争について。ネタ元は松平定信が集めさせた「よしの冊子」が主。
「鬼平」長谷川平蔵のことはテレビ時代劇「鬼平犯科帳」をやっていたことぐらいしか知らず、池波正太郎原作も未読。しかしテレビの刷り込みとは恐ろしいもので、水戸黄門、銭形平次、暴れん坊将軍などのように「良い人」と思い込んでいた。確かにやり手だし江戸の町衆からは慕われていたのだけど、やり方はどうかと思われるところも多い。というか著者の視点がわりと厳しい。
今年2025年のNHK大河ドラマ「べらぼう」にて鬼平が初回から出ているのだが、テレビ時代劇での印象と全く異なる変なヤツなので、実際の鬼平がどうなのかと思いこの本を読んだ。鬼平に関しては冷静(というか冷ややか)に見ることができた。ただし20年以上前の本だからか、田沼意次や賄賂政治に関してはかなり厳しい。というか同時代に生きてたら、昇進ごとにカネを包まなきゃイカン時代は(経済的に好況を生んだのだろうが)やはりアカンと感じた。
書誌情報:週刊現代連載後に講談社現代新書「鬼平と出世 旗本たちの昇進競争」として2002年5月刊行、角川ソフィア文庫としてはタイトルとサブタイトルが入れ替えられ「シリーズ江戸学」の一冊として2007年5月刊行。 -
Posted by ブクログ
春に一気に咲き誇り、潔く散りゆく桜を見るたびに、読み返したくなるのではないかと思います。
本書を手に取ったきっかけは、本村凌二さんの『教養としての「世界史」の読み方』の中にあった「古代地中海世界に一〇〇〇以上あった都市国家の中で、なぜローマだけが大帝国になり得たのか。十九世紀後半、欧米列強が植民地化を進めるアジアで、なぜ日本だけが植民地支配を免れ独立を保つことができたのか。」という問いです。その問いに対する一つの仮説として「ローマでは「父祖の遺風」、日本では「武士道」という、精神の柱とでも言うべきものがあったからではないか」と提示されており、興味を持って手に取りました。
また、新渡戸稲造が本書執筆のきっかけともなった「宗教教育なくどのように道徳を授けるのか?」という問いも、問われてみれば確かに自分たちのことでありながら不思議なことだと感じ、読んでみた次第です。
欧米人向けに書かれた書物だけあり、野蛮で危険だと捉えられていたサムライたちの精神性や、刀や切腹の扱い方などについて、ヨーロッパの哲人や詩人たちの言葉なども豊富に引用しながら相手に理解しやすい概念として説明されています。
それにより、日本人である私もまた、読んでいて海外の思想や文化と比較・相対化しながら日本文化を捉えることができました。
新渡戸稲造は、本書の中で武士道は当時流行ったベンサム・ミルよ功利主義や唯物主義を重んじるデモクラシーの中で消える運命にあると書いています。名誉や道徳よりも金銭的利害が重きが置かれ始め、その流れは確かに止まることなく現在に続いていますが、私は自分自身や身近な家族の中に、知らず知らずのうちに武士道精神のようなものが行動原理として残っているのを感じます。
また、「このまま欧米流のやり方に則り続けて良いのだろうか?」という違和感が、実際に政治や会社経営、仕事観や人間観・組織観においても噴出し始めていますし、特に経営において今一度日本的経営のあり方が見直され始めているのは、脈々と私たちの精神に息づく武士道と無関係ではないのでしょう。
改めて私たちは何を大切に残していきたいのか深く考えながら、目の前の当たり前を疑い、日々の営みを見直していきたくなる一冊です。