小説に心を奪われた殺し屋の運命は… 生命力とパワーが溢れる犯罪小説 #だから殺し屋は小説を書けない
■あらすじ
かつて師匠である殺し屋・和尚に鍛えられ、主人公の雨乞は殺し屋として生きていた。ある仕事のきっかけで一冊の本と出会い、それ以降彼は小説を書くことに熱中していたのだ。ある日、和尚より新たな仕事の連絡がくる。ターゲットは島の駐在所にいる警官で、彼は殺しの仕事に向かうのだが…
■きっと読みたくなるレビュー
殺し屋をテーマにした犯罪小説、感銘を受けた小説に出会った彼のターニングポイントを描いた作品です。
岡崎隼人先生の久しぶりの新作、『少女は踊る暗い腹の中踊る』ではドギモを抜かされた記憶がありますね。今回も生命力とパワーがあふれる内容で、表現者としての魂を感じられました。前作は終始狂い続けた世界観が強みの小説でしたが、本作はエンタメ要素がパワーアップしてましてどなたでも読める作風。それでも先生のネジが一本外れてしまったような良さもしっかりあって、十二分に楽しませていただきました。
本作のイチ推しポイントは、殺し屋である主人公雨乞の変化でしょうね~ 序盤の描写はとてもじゃないが理解できない狂いっぷりですが、ある人との出会いによって少しずつずれ始める。一般人だと超アタリマエのことなんですが、これまで閉ざされた環境だった彼にとっては悟りの境地なんでしょう。
特に小説との接し方、物書きとしての心得なんかは、読んでいる読者ひとりひとりに投げかけられているような気がするし、ひいてはこの物語を書いている岡崎先生の想いでもあるんでしょうね。ついつい雨乞に感情移入してしまうんです。
後半から終盤にかけては、かなり無茶苦茶になってくるんですが、あまり難しく考えすぎずにパッションで読み切るのが吉です。ここがこの作品の良さなんですから。次々展開されるアクションや、関係性と心情変化の波を楽しみましょう。
特に人間の憎しみと愛情がぶつかり合うシーンは、まさに叫びですよ。ストレートかつ狂った表現は生きる気迫というのを感じましたね。生命って、みなぎる力なんだと感じさせられました。
■ぜっさん推しポイント
読書って楽しいですよね。私はミステリーが好きですが、一括りにミステリーといっても様々なジャンルがあるし、ひとつひとつ特徴や強みがあって、どれだけ読んでも別の面白さがあります。もちろん他のエンタメや純文も好きで、それぞれの魅力があって時間がホントに足らない。
でもたまには自分に合わないなー、好きじゃないなーという作品もあるんですが、それも含めて楽しめてるんですよね。何故ならそう感じることによって自分の心とも向き合えるし、他人の価値観を知ることもできるんです。
特に読書ではなくてもいいのですが、何かに正直に向き合える心と、極めたいと思う熱心さを持つということは、生きる上で大切なんじゃないかな。