森鴎外のレビュー一覧
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岩波文庫の表紙によれば「鴎外史伝ものの代表作」なのだそうだが、まず史伝とは何であるのかが今ひとつわからない。歴史小説というのとも少し違う、強いて言えば伝記であろうか。題名のとおり渋江抽斎が主人公というか中心人物であるが、その親族や師弟、交友関係のそのまた親族まで、まさに虱潰しと言うべき執念で記録してある。これを読んでWikipediaみたいだと思うのはマヌケな感想だろうか。
固有名詞の大群に飲み込まれそうになるのだが、じっと耐えながら読んでいると、まさに江戸から明治にかけての大変革期に生きた人々の有様を覗き込んでいる気持ちになくる。
ルネサンス人的ともいえる医者が儒者を兼ねるのが当たり前な -
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森鷗外の歴史小説三作品「興津弥五右衛門の遺書」、「阿部一族」、「佐橋甚五郎」が収録されています。
目的は「阿部一族」でしたが、この三作は鷗外の初期の歴史小説として代表的な作品で、三作まとめて単行本『意地』に収録されていたものとなります。
いわゆる「鷗外歴史もの」として書かれた三作であり、セットで語られることも多いため、鷗外を知るには丁度いい文庫だと思います。
・興津弥五右衛門の遺書 …
興津弥五右衛門という老人が細川三斎公の十三回忌にて、切腹をします。
その切腹は殉死であり、本作は殉死した興津弥五右衛門の遺書という体となっています。
文章は口語ではなく当時の文体で書かれているため、不慣れで -
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20年ぶりくらいに読んでみた。若かった当時よりは文語体への抵抗も少なくなり、味わって読めた。
それにしても、岩波版では「舞姫」はほんの28ページのみ。その凝縮された文量で、100年先まで名を轟かすことの凄まじさよなぁ…。すでにストーリーが分かっているとはいえ、ドイツの凍える冬の色彩が目に見えるかのよう。豊太郎が選んだ結論だけを見れば「酷い」で終わってしまうかも知れないが、明治の日本の世情や、現代とは全く違う立身出世にかける想いなどを踏まえて感情移入して読むと、エリスと豊太郎、それぞれの苦悩が胸に迫る。
舞姫以外の話も圧倒的な悲恋ストーリー。現代語訳でも何でもよいので、若い人には多感な時期の -
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無垢な坊ちゃんエリートが。
水商売の踊り子の少女と、ずぶずぶの関係になっちゃった。
堅気な出世街道に戻るには、今、このときに、すがりつく少女を、残酷に捨てるしかありません。
無い夢を追わせた。
希望を与えて奪った。
絶望の倍返し、に突き落とすことになります。
つまり、そういうお話です。
これがほぼほぼ実話だそうです。
うーん、スキャンダラス。
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「うたかたの記」
「ふた夜」
「舞姫」
「文づかい」
「普請中」
という5編が入っています。
表題作の「舞姫」を読んでみたかったので購入。
結果、「うたかたの記」「ふた夜」「文づかい」の3編は、正直、飛ばし読み。
3つとも、文筆家 -
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ネタバレ正直言って、私にはこの本は重すぎた。
字が小さいとはいえかなり薄いのに、久々に読み終えて頭が痛くなるほど考えた一冊になった。
あえて『阿部一族』だけについて書きたい。
細川忠利の死に伴い、十八人が殉死した。
彼らはすなわち、忠利公の了解あるいは暗黙の了解によって許しを得て、彼の死後自ら命を絶った者達である。許しを得ずに死ぬのは、犬死であり、武士が最も嫌うものに入る。
一方、阿部弥一右衛門通信は、忠利公からその許しを得ることができなかった。
よく仕えてくれているのだが、性が合わないというか、忠利公は彼の言うことはなんだか聞かない性質を持っていたためである。
世間は勝手なもので、弥一右衛門が死な -
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やっと読み終わった。長かった!!!
樋口一葉の『たけくらべ』
夏目漱石の『三四郎』
森鴎外の『青年』
たけくらべは、川上未映子氏の現代語訳版です。初めて読んだ気がします。
あまりにもおっさんが読むには時期を逸しているようで、あまりにも幼いころの話でありそういう感受性は失われていることを認識しました。
三四郎と青年は続けて読むと、非常によく似ており
その雰囲気や情緒が感じられ面白かったと思います。
本当に忘れていたのですが、『青年』は昔昔、大学の1年か
2年の時に読んだことがあることを思い出しました。
その時は、自分の年代とあっていたこともあって
とても感銘を受けたことを思い出しました。その時の -
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本棚で眠っていたので。
鴎外の初期の歴史小説三篇を収録。
「殉死」がある意味では当たり前だった頃の人物を取り上げ、殉死・一族滅亡を描く。描き方もとても淡白で逃げ場のない感じを常に与えてくれる。
恩からの殉死というものが建前としてあるが、なによりも殉死として彼らを掻き立てたものは、恩を受けといて殉死しないとは部下としての義に悖り、傍輩に顔向けできないという圧力を自ら作り上げてしまうことだ。
死ぬことは美しく、死ぬことであらゆことは清算できるということが強く信じられていて、本質を見ようとしない、宗教に近い何かであるように思われる。
死は救いでも終わりでもない。ただの言葉だ。腹を潔く切ろうがなんだろ -
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千年読書会・第2回の課題本でした。
森鴎外の自伝的な小説とも言われている一編となります。実際には、身近な友人と自身の経験をない交ぜにしたもののようで、「うたかたの記」「文づかひ」ともあわせて三部作的な位置付けとも言われてるのでしょうか。
相変わらずに美しく流れる文体も堪能しましたが、内容も当時の状況を敷衍しているかのようで何気に興味深く。“誰”に感情移入するかで、読み解き方は変わるのかなと感じました。
さて、主な登場人物はこちらの3人。
主人公:太田豊太郎
踊り子:エリス
友人:相沢謙吉
政府の公費でドイツに留学した秀才肌の主人公・太田豊太郎、彼が留学先で踊り子・エリ -
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豊太郎のだめっぷりが久しぶりに読みたくなったので、「舞姫」を高校の教科書ぶりに読んでみた。
エリートコースを歩む豊太郎が、法律から歴史や哲学に興味を移し、母親や上司の言いなりの受動的な人間から、自ら決断する能動的な人間になろうと藻掻く。
そして舞姫のエリスと出会い、貧しいながらも幸せに暮らし始める。
が、帰国してエリートに戻りたいと思う気持ちとエリスへの愛情との間で心揺らぐ。
結局は自ら決断できず、自分が倒れている間に友人がエリスに告げ口したことにより、"仕方なく"帰国せざるを得なかった、と自分が悪いわけではないようなところがあいかわらずダメ男だと思った。
けど