森鴎外のレビュー一覧
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ヰタ・セクスアリス=Vita Sexualis。ラテン語で「性欲的生活」の意味。
大学の哲学講師・金井が自己の半生を振り返って書く、「性欲」に関する記述に特化した回顧録という体裁をとっている。大筋では鷗外の体験に基づき、事実と虚構が混淆となって描かれた作品である。
あえて一言で言えば“童貞日記”。が、金井の手にかかれば、童貞にありがちな、妄想に耽る悶々とした日々……というのはどこ吹く風である。金井(=鷗外)は、ただ淡々と、自らの性欲的生活を客観的かつ科学的に記述していくのみである。そこにこの小説特有の諧謔があって笑える。当時の書生の習俗も垣間見られて興味深い。
鷗外の精神構造が金井の -
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ネタバレ国語の授業で舞姫を初めて読んだときには、豊太郎は何てひどい男なのだろうくらいにしか思いませんでした。
それから数年経って読みかえしてみたら、豊太郎の苦悩や弱さが他人事とは思えなくて、はたしてどれだけの人が彼を責められるだろうかと考えてしまいました。
120年以上前のベルリンが舞台の小説ですが、彼の「エリスとの愛」と「栄達を求める心」との間の葛藤は、現代にも通じる部分が多くあると思います。
うたかたの記・文づかひ・ふた夜といった他の収録作品も、舞姫同様に浪漫味あふれる素敵な作品です。文体のせいで敷居が高く感じるかもしれませんが、ぜひ手にとって読んでみてください。 -
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明治の文豪の小説を読むことは伝統の価値観と新たな価値観(当時は西洋文化)の狭間の中での葛藤や考察や思想に接すること。
それは現在社会、特に3.11以降、現代人も同じ立場に置かれていると思う。
武士の美学を学ぶのならば「堺事件」、「阿部一族」が必読。
明らかに乃木希典の自害に影響を受けた作品で、日本人のアイデンティティでもあった「死」の意味を提起している。
上述の新旧価値観のぶつかりから、鴎外が求めたものは日本の歴史であり、歴史小説であった。これを現代人も学ばざるを得ない。
一番、心に残った小説は「かのように」。
日本人とは、合理的に説明できるものではなく、文化、歴史に根着く「かのように」を -
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ネタバレ『高瀬舟』を読みたくて買ったが、他の短編も面白かった。
特に、『妄想』が良かった。
「自分が何かを成さないといけない気がするが、それが何かは分からない」というモヤモヤを「或物」と表現していた。
「或物」は、多くの人が特に思春期に通過する感覚ではないかと思う。
少なくとも私はあった。そして今もある。
ただ、ネガティブな印象ではない。
「自分が何者かであって、世の中に何かを残していきたい」という気持ちは大切なものだ。
私はその気持ちをもとに、新事業を提案し、日々あくせくしている。
森鷗外はこの本の短編を通して、「足るを知るという言葉があるが、そんな風に満足なんてできないだろ?人の欲は際限無く、 -
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風俗・人間心理・倫理観をテーマにした短編小説群。簡潔な文体ながらも、明治〜大正の人々の生き方や価値観がとても深く描かれている。
この一冊を読むだけで、あらゆる小説形式に対応できる森鴎外のすごさが堪能できる。気取ったように外国語を多用するのは御愛嬌。
切腹を命じられた父親をこどもたちが助ける「最後の一句」、父の仇を討つために日本全国を駆け回る「護持院原の敵討」など、歴史小説がとても面白かった。
それでもやはり、表題作の2つがぶっちぎりでよかった。
「山椒大夫」は、人買いに攫われて家族がバラバラになる様子を描くことで、弱者への慈悲や家族愛を謳いあげる。
「高瀬舟」は、弟を殺した人物の感情吐露か