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Posted by ブクログ
渋い。
渋すぎます。
表紙の装丁が素敵な角川文庫版。(手ぬぐい屋「かまわぬ」とのコラボシリーズは、大好きです)
この1冊、面白かった。
レベル高い。さすが、森鴎外さん。有名なだけのことは、アルんですねえ。
「山椒大夫」
「じいさんばあさん」
「最後の一句」
「高瀬舟」
「魚玄機」
「寒山拾得」
「興津弥五右エ門の遺書」
「阿部一族」
「佐橋甚五郎」
というのが収録作品。
好みで言うと、「魚玄機」「興津弥五右エ門の遺書」あたりはそんなにでもなかったです。
「高瀬舟」も、安楽死の問題など有名ですが、改めて再読してみて、他ほど小説としての衝撃はなかったような。
●「山椒大夫」
安寿と厨子王、という別称?で知られる物語。平安時代かくらい。
簡単に言うと、中級貴族の子女が人買いに拉致監禁されて、長男だけが脱走して救われ出世する、というお話。
コレ、森鴎外さん、すごい。
日本語使いとして、わざとこの短編は平易で判りやすい文章。誰でも判ります。児童文学のような語り口。
それでいて、センチメンタルにならずに、悲劇をあおらずに、過酷な物語をザックザクと大根を切ってごろんごろん投げ出すように語ります。
それがまあ、なんともどっきり、なんともズキッと読み手の心を抉る効果になっています。
全体の、ややもするとおとぎ話になるところが、そのキワドイ語り口で、すごく味わいのレベルが高い読み物になっています。
※ちなみに、戦国時代や江戸時代まで、僕らの日本という国では平気で人身売買、拉致労働が行われていたんですね。
その辺りは全く学校の授業で教えませんが、とっても大切なことだと思います。善だ悪だという次元とはまた別に、「数百年まえまで、それが普通に行われていた」という認識。
※で、なんでこの話の題名が「山椒大夫」であるのか?それだけが不思議。「安寿と厨子王」でええやんか...。
「スター・ウォーズ」のタイトルが「ジャバザハット」だったと考えると、不可思議な思いを共感していただけるか...。
●「じいさんばあさん」
これ、渋すぎます。年老いても仲が良いじいさんばあさんの過ごした過酷な歳月、という話なんですけど。
とにかく、語り口が確信犯的に淡い。渋い。
「えっ」っていう呆気なさの向こうに、じわじわと味わい。
なんていうか…「大自然の素晴らしさ」というタイトルの絵画を見に行ったら、墨で淡く一本の曲線が書いてあって、それが山の稜線なのだった。そんな感じ。
すごい。
こういう地平線を見せられると、現代の挑戦的なブンガクなぞ、泣いて吹っ飛んでしまうような気がします。
●「寒山拾得」
これは更にその俳画的、水墨画的世界を推し進めたもの。ほとんど実験小説と言っても過言ではないというか。
禅問答が小説になったような...。
まあでも、謎なんて無いと言えば、無い。
中国を舞台に、俗物の高級官僚が、高名な禅僧の寒山と拾得を訪問したら...というだけのオハナシ。
これはほんとに、口あんぐりな終わり方(笑)。
●「最後の一句」は、さほどでもない罪で死罪になりそうな男がいて、その娘が「身代わりになりますから父を許して」と奉行所に行く話。
●「阿部一族」は、なんだかちょっとした不幸と偶然が重なって、一族で反逆者となってしまい、死を前提に戦って、やっぱり死んじゃった阿部一族。と、その周辺の武士たち。
乱暴に言うとどっちも、江戸時代の武家社会が官僚化していく中の悲劇をえぐっています。
そしてどちらも、大真面目に悲劇をえがきながら、奥の奥で喜劇だったりします。
官僚化して、実際的ではなくなった人間の組織の馬鹿馬鹿しさ。でもそれが実際に個人を支配していく怖さ。
そんなことでいうと、これは実はものすごく奥が深い。
きっと森鴎外さんも、言うに言えない明治大正の世の中の世知辛さ、あほらしさを反映させていると思います。
●「佐橋甚五郎」
徳川家康がまだ生きている、江戸時代初期。
朝鮮から外交使節が来た。家康が会った。その施設の中に、「かつて徳川家に仕えてた佐橋甚五郎がいた」と、家康。
佐橋甚五郎の履歴。
どうやら、つまり、現代風に言えば。
会社組織、好き嫌い、評価、人事、付き合い、不条理、理不尽、宮使え。
そんなことに嫌気が差して、徳川家を出奔。
国という枠組みまで超えて、自分なりの安息を掴みました。よかったね、という話が、これまた、渋く語られて。
ところがこれはこれで、微かな文のゆらぎの中に、後味としては、
「日本と言うナショナリズムまで含めた、こうあるべきだ、という国家や上層部が押し付ける人生モデルなんて、くそくらえ」
みたいなロック魂が香り立つんですよね。
うーん。ただそれがあまりにも渋く渋く包まれている。その微かさが、もう、快感。
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森鴎外さんは、明治の軍人官僚エリートの家に生まれたんですね。
(生まれたときは江戸時代でしたけど)
スーパーエリートでドイツに留学、そこでは、まあ今風に言えばストリッパーの少女とずぶずぶの恋愛になって、故国とエリートコースと血縁家族を捨てる寸前まで行った。
でもそこから挫折して戻ってきた。
それから、諦めたように黙々と、軍医として陸軍の官僚組織を生きて、見合い結婚して一家の家長として全うしました。
ただ、ずーっと兼業で小説家をやっていたんですね。
ドイツ語に堪能で、最先端のヨーロッパの文学を理解して。その上で様々な小説を書いた。
その語り口は、この本に納められているような、戦略的に素朴だったり、戦略的に江戸時代のような文語体だったり。
そして、表層から割れて微かに光芒がこぼれるようにほの見える、世間、俗、官僚、「お上」、「政府」、「国家」、へのロックな反骨精神。
この人は、この人なりに奥が深い。
また別の森鴎外さんを読むのが愉しみです。
まあただ...渋すぎますよ...鴎外さん...ほんと...。なんていうか...口当たりは悪いし、味は苦みとえぐみ。着色料も調味料もゼロ。味が薄い…。
お酒でもファッションでも音楽でも、仕事上の技術でも...ここまで渋いとねえ...判りにくいというか、ほとんど魅力が分かんないだろうなあ...というくらいに渋い...。
根っこかじってるような、なんじゃこりゃ的な味が、どこかで ふわあぁっ! とほのかに深い味わいが広がるような...
これも、40過ぎて再読して良かったなあ、という。
多分、いくつかの短編は昔も読んだんだと思うんですが、記憶がほぼ消失していましたね。多分、当時の自分は、サッパリ面白くなかったんでしょう(笑)
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