カツセマサヒコのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ちゃちゃっとライトに読める本と思っていたので、読後の刺さり方についてはそんなに期待していなかったのだが(ド失礼)、読んでみると思ったより深く、面白かった。SNSやハッシュタグにまつわる4つの短編が収録されているのだが、どの話にとってもSNSは良い意味で脇役、あくまでモチーフでしかなくて、主体はきちんと主人公に据えられているのが良かった。カツセマサヒコさんは相変わらず「理屈じゃないけどそういう気持ちになること確かにあるよね」という心情を見つけて、見つめて、言語化するのがめちゃくちゃ上手い。木爾チレンさんについてはこれを読んで初めて知った作家さんだったのだが、エモくて素敵な話を書くなあと思った。フィクション性がありつつ、それでいてどこかリアルなエモさの塩梅が素敵だった!思いがけずな良本で、感謝。
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Posted by ブクログ
先が気になって一気読みした!物事の大きさに反比例して、人々の動きは静かで、でも静かなる力がこもるお話だった。淡々とという意味ではなく、静かに自省をさせられている感じ、というか。だんだん上手くなっている気がするな、カツセさん。今まで読んだ中で1番好きだった。最初からは予想がつかない展開だったが、タイトルにつながる部分は多くあって、とても洗練されたお話だった。
p.82 でも、得意先もいて、会話の流れもあったし、こっちもさらっと受け流せたからそんなに不快でもないというか」
「あ、長谷川さん」
入谷さんが挙手するように軽く右手を持ち上げて、声を少し、尖らせた。
「傷ついた事実は、嘘にしなくていいですよ。この場ではもう、傷自体を隠したり、軽傷に見せかけたり、しないでいいです」
ピシャリ、という言葉が似合った。急に研ぎ澄まされた鋭い声が、部屋の中で緊張感を持って回遊した。
「無理に笑顔を作る必要もないし、自分の発言が相手の機嫌を損ねてしまうかもとか、考えないでください。私たちは、長谷川さんが一番大事です。会社として何ができるか、最大限の支援ができるように、まずは気持ちをそばに置きたい。だから自分の悲しみや傷は大したことないものなんだとか、絶対に思わないでください」お願いします、と入谷さんが軽く頭を下げた。
僕も、同じように頭を下げるしかなかった。テーブルを間近に見ながら、自分はハラスメント被害の相談に対する覚悟なんて全然できていなかったことを、思い知らされていた。
長谷川さんはしばらく考え込んだような顔をして、それからゆっくりと俯いた。ポケットティッシュを取り出すと、静かに鼻をかんで、すみません、と小さく笑った。
長谷川さんは、別に大丈夫なんかじゃなかった。
p.90 ないです」と強く答えた。それでも、長谷川さんの顔にかかった影は溶けない。
「わかんないです。わかんないですけど、私がこの告発をしたことで、私がただ弱いだけだったと、周りからそう言われることが、今はもう、怖いんですね」また涙が落ちて、そこで入谷さんが、何かに気付いたように背すじを伸ばした。
「じゃあ、やめましょ!」
今日一番、大きい声に思えた。驚いて横を見ると、例の黄色のピアスが小刻みに揺れている。
「長谷川さんが後ろめたくなることは、一切やらないでよしですよ!第三者になんて絶対に関与させないです。それに、さっき言ったじゃないですか。今日この場は、自分なんかって思わないでいてください。耐える必要もないものを耐えてきたのは、環境のせいであって、つまり、土方さんを野放しにしてたことや、これまでの状況を放っておいた私たちのせいであって、絶対に長谷川さんのせいじゃないです。長谷川さんは、少しも悪くない。悪くないですから」
誰かを勇気づける、でも、同情しているようには見せない、背中を押すための笑顔と言葉。
入谷さんの言動一つひとつが、僕には到底できそうもないものばかりで、そのことが憎さを覚えるほど歯痒い。入谷さんがいなかったら、今日の僕に、一体何ができただろう。
長谷川さんは少しだけ笑いながら頷いて、何度かそうした後、やがて顔を伏せるように、下を向いた。ありがとうございます。と言ったのだろう。その言葉は、もう僕にはうまく聞き取れなかった。
p.131 ていた?
「守くんはさ」
ずっと低くなっていた声のトーンを戻すように、翠さんはゆっくりと話し始めた。
「今も、世の中の流れそのものみたいに、ネットで仕入れた情報そのままみたいな言い方で、ペットショップは良くないとか、ハラスメントがどうとか、薄っぺらく主張してる気がして、たまにそういうの、すごく怖くなるよ。表層的なものだけ掬い取って、大切なことは何ひとつわからないまま、動いてる気がする」
翠さんの両手で握られた空き缶が、ゆっくりと回っている。僕は、時計回りに動くその空き缶しか、見ていたくなかった。
「そんな人が、ハラスメントの窓口になってるのも、どこまで被害者に寄り添えるんだろうって、やっぱり怖く感じるよ」
「うん」
「その証拠に、守くんの口から、その課長の話は出てきても、被害者の女性の話は全然聞かないもん」
「いや」
「いやじゃなくて、そうだよ。一番傷ついていて、一番ケアしなきゃいけない被害者のことを、きっとどこかで軽視してる。今、この瞬間も、その被害女性は、不安で仕方ないはずだよ。告発したことで、自分の未来がどうなるんだろうって、心底心配してるはずだよ。その気持ちに心から寄り添っていたなら、きっとこの場でも、その人の話は出てるはずだよ」目を閉じて、長谷川さんのことを考える。長谷川さんの心の傷は、土方課長の処分が決まったところで簡単に癒えるものじゃない。そんなことはわかっている。わかっているけれど、まずは、加害者を切り離さないと。
僕は僕で、正しい選択をしたはずで。
「人は変われるって私も付じたいけどさ。過去にあんなひどいことをした人が、まるで正義の象徴みたいな顔して人を裁くようなことをしてるの、私からしたら、やっぱりとんでもないって思っちゃうよ。だから、さっきの話もそうだね。その課長の言動よりも、私に向かって聖人君子みたいな顔している守くんの方が、私はよっぽど怖かった」
どうして。どうして「そんなつもりじゃない」と、面と向かって否定できないのだろう。翠さんの言っていることが、図星だから?翠さんの言うとおり、僕は上澄みだけを掬って、流行りの音楽でも聴くように、ハラスメントを語っているだけなのか?
「人ってそんな簡単に変われないし、変わったからといって、オセロみたいにこれまで黒かったものが白に裏返ることもないよ。だから、守くんが今、必死に変わろうと努力していることは伝わるけど」
もう、何も聞きたくない。何も考えずに、いたかった。
「それでも、昔から善人でした、みたいな顔だけはしないでよ。私や誰かを、傷つけてきた過去まで、消そうとしないでよ」
p.224 「たぶんだけどさ」
恥ずかしい。でも、頭の中の答えは、これだ、と光り続けている。
「恋が終わったら、その先は、愛が引き継ぐんじゃないかって思う」
熱を冷やすように風が吹いた。繋いだ手の隙間を抜けて、すぐに後方に流れていった。
「めっちゃくさいこと言ってるのはわかってるんだけど。でも、たとえばだよ」
翠さんは口を閉じたまま、ゆっくりと頷く。
「翠さんや僕が、もしも病気になって、大きな手術とかが必要になったとして。そのときに夫婦じゃなかったら、僕らはただの他人で、大事な決断は、両親とかがすることになる。あの両親がだよ?僕にとって、翠さんは一番大事な人のはずなのに、その人の一番大事なときにそばにいてあげられず、もしかすると、看取ることすらできないかもしれない。そんなの、絶対に嫌だなあって思って。これは、この感情は、恋とはまた別のものが引き継いでいる感じがするなってずっと思ってた。それで、きっと、夫婦になるのがいい。これからもそばにいるために、そうしたいって思ったんだよ」「・・・・・・それで、プロポーズしたの?」
「プロポーズしたとき、ここまできちんと考えられてたかはわかんない。でも、気持ちとしては、変わってない。だから、翠さんがまだ恋を望むなら、断るだろうなって思ったし、その先を望んでくれるなら、受けてくれると思った。そういう意味では、僕からしても、賭けではあったかも」
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Posted by ブクログ
この間、カツセマサヒコさんの「あのときマカロンさえ買わなければ」を読んで、小説も読んでみたくなり、海が好きだから、読むことにした。
よかった!7つの章で構成されていて、それぞれ違う主人公。少しずつ人につながりがあったりする。
みんな、海の近くに住んでる。それもいい。
海関連の名前を持っていたりするのもいい!
海が出てくる本好きになること多い。
「岬と珊瑚礁」って章が一番好きだった
特にこの部分
『大丈夫、だと思う。なぎとくんの昔一番好きだった色が水色で、今日のTシャツの色も、それだし。』
こういう感じの好き
あと、ここも苦しいくらい感情が分かった
『高校時代、部活の後輩と同じ電車に乗ることになって、話すこともないから黙っていたら、「俺、ここでおりるんで」と、後輩が言った。センパイぶったわけではないが、「またな」と俺は告げて、なんとなく、そいつの背中を目で追った。すると後輩は、ドアを出てから猛スピードで走っていき、同じ電車の、ふたつ先の車両にまた乗り込んだ。
そのときの、居心地の悪さ。それに近い何かを、ふと、感じていた。』
表現も好きだった。好きなとこ抜粋
『またみんなが憶測を紙ヒコーキのようにら飛ばし始めた。』
紙飛行機じゃなくて、ヒコーキってしているところが、鋭い感じしていいなと思った。
『あらゆる変化を拒み続けて天然記念物みたくなっていた父さん』
出てくる描写や想いがいいなと思えた。
家族関係の話も多く出てくる。「海のはじまり」思い出した。舞台海だし。
他のカツセマサヒコさんの本も読んでみようと思った。
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Posted by ブクログ
たまたま読んだマンガの推薦文をこの本の作者が書いてたから読んでみた。映画を先に観てたのでネタバレは分かっていながら読んだ。なんとも青臭い恋だし、ガキが何も考えずに会社に入って退屈とか言ってるのも、大企業辞めて小さい会社行くのは危ないのでは?とかいうクソ偏見も、見ててなんだこりゃって思いながら読んでた。ただ、感情を交わす瞬間の描写には光る点がある。時代を移す小道具たちも少し年上の俺には小賢しく映るけど、まあそれは俺が老害に近づいてるってことなんだろうな。
彼女と連絡が取れなくなってからの主人公の描写には身悶えするほど全部に共感できる。全ての女々しい男たち、って名前にした方がいいなと思いながら、それは俺だ、俺たちだと思った。全ての叶わなかった恋に通じるものがこの作品にはある。別れた後の描写こそが真骨頂だと思う。映画よりも恋が終わった後の描写が多い。
まあしかし、この彼女は院卒の時点で結婚していて、その夫と離れて3年主人公と過ごしたわけだ。それまで何年夫と過ごしていたのか知らないけど、少しも揺らがないのは残酷すぎる。そこは突っ込んでおきたい。それと、構成は破綻するかもしれないけど、彼女側の心情の描写も少し欲しかった。
それにしても、いい大学を出て大企業に入ったやつらが仕事に不満を感じ、辞めて転職しても後悔して、バカばっかかこいつらと別の社会人である読者に思わせてくれるのが、隠れたいい点なのかもね。
小賢しい小僧どもの話なんだけど、そう吐き捨てられない何かがあった。彼らの中にいつかの俺がいたのかもしれない。このガキどもがたった数年前のことを思い出して人生のマジックアワーだなんて言ってるのがバカバカしい。俺のマジックアワーはいつだって今だよ。 -
Posted by ブクログ
2026 1冊目!
エッセイ集
40個のストーリーあるけど、どれも楽しく読めた!
#5の肉食獣のアパレル店員ってページで、ユニクロの店員さんのことを、『そのそっけなさが心地よい。愛の対義語は無関心だとか言うけれど、人は愛のある無関心を欲することもある。』ってとこが印象に残った。どのお店のことも否定することなく、日々過ごしててなんとなく思ったことのあることをうまく引き出して文章にしていてすごいなと思った。
ここで引用するのか!と引用力と発想力におどろいた。
著者は、意外と若い人だった。
#38のジブリみたいな老人も表現がおもしろかった。雨の日のバス停で、傘を持ってるカツセマサヒコさんと、傘を持ってないおじいさん(傘に無言で入ってくる)の描写。『少し列が進むたび、まるで結婚式の新婦と父親のように足並みを揃えて、トトロと前に進んだ。』ってとこが好きになった。
またカツセマサヒコさんの本も読んでみようと思う。