宇佐見りんのレビュー一覧
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タイトルからもう少しエンタメよりの「推し活」をする主人公を思い浮かべていたけれど、私はこの話の主題は〈推し活〉そのものではなく、〈ADHD体質の人が現代をどう生きのびるか〉という問いだと思った。
人が当たり前にできることが自分にはできない。その事実に対する疎外感、絶望、諦念、怒り、焦燥。劣等感が積み重なると、聞き入れるべきことと身を守るために避難すべきことの取捨選択がどんどんできなくなる(p.90)。ループする自己嫌悪を一時的にでも麻痺させる・忘れるための手段が〈推し〉で、だから推しの炎上はあかりの生活、ひいては生存にダイレクトに関わってくる。しかし、〈推し〉というあくまで他人の存在を解釈し、 -
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「推しがほしい」と思い、少しいいなと思った俳優のインスタをフォローして出演作品をいくつか見ていった時期がある。結局1か月ほどで終了した。どうしても面白くない作品は最後まで見られず、ファンミーティングのチケット価格には思った以上の高さに、思わず笑ってしまった。俳優としては魅力的だと思った人のプライベートな投稿で心が次第に冷えていった。
そんな経験があるので、「推し」を心から推してる人たちに憧れはあるけれど、理解までは至らない。
ひとつのことに情熱を捧げられる力は、娘にもあったらればいいなと思う。一方で、この作品に描かれているのは「依存」とは違うのかと考えさせられた。推すことに理性を失っていく姿は -
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ずっとざわざわするような心持ちになる本だった。
このざわざわ感が主人公が推しを推していないと呑み込まれてしまうざわざわ感なのかと思った。
この本は単純に「推し」の話というより「発達障害的特性をもつ」主人公ゆえに、「推しを推すということそのものが」生きることを支えてくれる(自分の背骨になってくれる)話だと感じた。
以下は読み終えてから、ぱらぱら見返すことで生まれてきた感想。(ネタバレ含みます)
生まれたときから、もって生まれたその肉体と共に、恐らく発達障害としての生きづらさが「肉が重い」という表現で冒頭から表される。
以後、何度も「肉」、「肉体」という物質的な塊としての表現がされる -
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私は推しというものをほとんど経験してないし、課金をした経験もない。あかりちゃんように熱中した経験がない故、正直この価値観や世界観に驚愕した!
でもあかりちゃんみたいに、私も学生の頃から
他の人よりも常に劣ってる自覚を持ってて辛かったことを思い出した。
背骨となるものがないまま、のらりくらりと学生生活を送ってたけど、推しがいたら、背筋を伸ばして生きれてたのかなぁとも思った。
しっかし、そんな推しが突然引退とか、結婚とかそういうのって、とても耐えられんだろうな。
推し活をすすめてくる輩が世の中には多いけど、推しが全てになったら、ただただ苦しいだけじゃないか??私が推しの流儀を理解できていないか -
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時間も収入も全て捧げて推してしまいたい対象が自分にもいるため読んでて苦しかった。一度推しのために生きてしまうと私生活における善悪も分からなくなるし、それなのに推しに触れているときの自分だけはまっすぐ誠実でいたくなる。
生きずらさを抱えているかもしれないけれど、距離や立場の違いもちゃんと弁えた上で「推しの見ている世界を知りたい」という気持ちで推せているあかりのことがずっとまともに思える。見返りを求めた瞬間、推しは推しじゃなくなる。
他人依存の幸せは儚いから出来ることならやめた方がいいのに、やめられない。自分の背骨が他人の存在って冷静に考えたら恐ろしい。 -
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ネタバレ「推し」がいるという経験をした人には、いろいろ共感できるところも多いな、と思うけど、基本的には家族との関係、つまりは自分の土台が危うい若い女性のお話。
自分の感覚を文章化できるほどに頭がいいのに、他人を説得する能力が著しく低い。
年寄りである私たちからみると、最近の若い作家さんの作品の傾向はこんな感じが多いな、と思うのだが、私たちももしかしたら、かつてはこうだったのかもしれない。
でももっと鈍感で、だからこそ傷の治りも早かったようにも思う。
大人も今よりずっとずっと物分かりが悪かった。
若者を取り巻く環境、ありていに言えば、「時代」が変わったのだな、と思わせる一冊であった。 -
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出産入院中に読むか〜と購入。
スカート履くのが嫌で泣いてた自分が出産か〜、、、という気持ちにマッチするエッセイがいくつか。
自意識についてがテーマなので当然っちゃ当然なんだが、「こういう私、どう?」が何気ない振りして3日目の経血くらい滲んでる文章も結構あったなかで、(そのヤンキーという修飾語いるか?みたいな)藤原麻里奈、すごすぎる。
女を捨ててるのに"女なのに"のリングの中で評価されることに気持ちよさを感じる、ってところ、こんな素直に自分の欲求捉えられるのすごすぎる。(2回目)
自分も自分しか見ないような日記ですらすぐ滲ませちゃうので、ああいう文章を書けるようになりたい。 -
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ネタバレ面白かった…!
身体について言語化することは難しいと思いながら、言語化欲求もあって、そこをストレートに表現してくれている言葉は、ポジティブなのかネガティブなのかは分からないが震動を伝えてくるようで、ちびちび読み進めました。
わかる、わかるよ…となるところもあれば、こんな身体感覚を持つ人もいるんだ〜と知るところもあって、何かしらそれが身体にフィードバックされて、終始不思議。
島本理生「Better late than never」
…直後よりも、むしろ二、三日目から、不安定さを伴った執着心はピークを迎えて、その最中には激しい恋をしているようにも感じていたが、その後、十日間かけて緩やかに下降した -
Posted by ブクログ
女性の書き手が綴る、「身体」についてのエッセイたち。
私がこれまでの人生誰にも言わずに、日記にすら書かずに閉じ込めてきた経験や思想や感情に近しいことが書かれていたりして、私だけじゃなかったのか……!という発見がいくつもあった。
私みたいに、自分の中に閉じ込めている人も沢山いるであろう内容をこうして書いてくださったことに感謝したい。
生理や身体の変化のこと、妊娠のこと、性自認のこと、性欲や自慰について、ルッキズム、性癖、尊厳などなど……
女性の体と30年付き合ってきたからこそ、どれも興味深い内容だった。
金原ひとみさんの「パリの砂漠〜(略)」を読んだ時にも思ったのだけど、
金原さんの文章だ -
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「推し、燃ゆ」で、芥川賞を受賞した作者の文芸賞&三島賞のW受賞した、
デビュー作。
19歳の浪人生うさぎ、通称うーちゃんは、大好きな母親=かか が、
父親=とと の浮気により、精神を病み、酒を飲んで暴れたり、自傷行為を
数量になる。かかを救いたい一心で、熊野へと旅立つ。
かかの辛さが、うーちゃんも伝染する描写が、リアルに表現され、
読む人に衝撃を与えてくる。
作品通して、方言および、登場する母親の独特なかか弁ということで、
どう読んでいけばよいか、
そのまま読んでいくと、個人的に頭の中で音読しがちなため、
読みにくく、出来るだけ標準語か自分の普段の言葉に置き換えて読むことで、
スムーズに読め -
Posted by ブクログ
最初の50ぺージくらいは「“推し”の話がずっと続くの?」って感じだったのですが、腐っても芥川賞、このまま終わるはずがありません。面白かったです。
本作が発表されたのが2020年9月、コロナが猛威を振るっていた時期ですね。
”推し”への依存がリアルでした。家族や恋人に価値判断等を依存してしまう話は昔からよくあったと思うのですが、人間関係が希薄な現代においては、”推し”依存は恋愛依存よりも現実味がありました。
注目すべきは、”推し”に依存して、自分を見失っているように見えながら、実際に”推し”の態度や行動を細部まで観察し解釈しているのはあかり自身であるということ。直接触れ合える恋人とは異なり隔た