横山秀夫のレビュー一覧
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冒頭から、「15年前の女教師の自殺事案につき他殺の疑い濃厚と有力情報あり
至急、帰署されたし。」と署長に連絡があり察官が動いた。
あれは殺しだと署に情報が入ったのだ。
教え子の男子生徒三人が犯人だと…
「殺しだったとしても、明日いっぱいで時効が完成するそうです」
―時効まで二十四時間ってわけか―
時効を取り扱った著書は、何冊か読んだ記憶がありますが、特に本書は読み進めるうちに熱が入っていき、現場の臨場感と緊迫感がダイナミックに表現され読者を飽きさせない。横山秀夫さんの本を、数多く読んでいませんが、傑作でした。そして、戦後最大の強奪事件に紐つけるなんて…。
被疑者逮捕だけでは事件は終結しない時間との戦い!終盤までの息詰まる攻防が圧巻で、読者も焦燥してきます。
◆終盤まで一抹の疑問が残っていました。
15年も前の事件です。いったい誰が何のために有力情報をタレコミしたのか?
どんでん返しの巧妙さと、トリックの面白さや、締めのエピソードも素晴らしい作品でした。
読書は楽しい -
Posted by ブクログ
ネタバレ上巻からの緊迫感はそのままに、広報室のメンバーや記者との関係性も深堀され、わだかまりが解消されるシーンには目頭が熱くなりました。三上広報官、松岡捜査一課長 参事官の関係性がとにかく良いのよ。「この人の下で働きたい」。そんな上司に出会いたいし、一生に一度は言われてみたい言葉でもありますよね。
刑事部、警務部、本庁、記者、遺族とそれぞれの思惑がひしめき、誰がどの情報を知ってるのかを考えだすとわけがわからなくなってきますが、それが綺麗に収束するのがとても爽快でした。序盤色々あった問題は結局のところ何一つ解決していないのにこの爽快感は何だろう。三上が積み重ねていった「自分の立場で何が正しいのか」を追求する姿勢。仲間を大事にする姿勢。これが響いたからかもしれません。誤解や対立があった人同士が、少しだけ理解し合う瞬間に強く心が動かされたのも無関係ではなさそうです。
物語の最後では秘密を多く抱える者が生き残る、漏らせば足元をすくわれる的なことが書かれていました。隠蔽を肯定するわけではないが、秘密を明かすことの美徳、明かさないことの美徳の両面を見た気がしました。学校教育を振り返ってみても、児童書を読んでも、秘密を秘密のままにすることの美徳など目にした記憶はありません。悪いことをしたら罰せられる。勧善懲悪のみが美とされている。ただこの三上さんらは保身の為に秘密を守っているのではなく大切な人を守るために秘密を守っている。しかも自分の落ち度ではないのにもし破られれば自分が矢面に立つ覚悟ものぞかせている。あゆみのことだってそう。あゆみのことを第一に考えているから、むやみに真実を追ったり、誰かを問い詰めたりしない。どんな理不尽に追い込まれようとも社会人としての矜持、人間としての矜持を忘れず職務を全うする。生き方の手本となる作品でした。 -
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ベテラン刑事三上が広報官という立場になり、記者と刑事と上司と部下、さらに家族や過去の事件の遺族に板挟みにされる物語。
身近な職業ではないけれど人間の普遍的な悩みだから身につまされる。自分に置き換えると本当に胃がキリキリするような、大変な仕事です。しかもここに出てくるビジネスパートナーは一癖も二癖もある連中で、性善説なんて存在しない弱肉強食の世界。家庭を持ってなければこんな仕事即効辞めてるに違いない。
一文一文が短く、終始緊張感のある文章でページ内の文字量も多いので結構体力を必要とします。最初は登場人物が多くまた爽快な話ではないので、三上の一人称視点の単純な構成でなければ読みづらかったかもしれない。
でも後半からは事件を追う構図でミステリ色が強くなり面白くなってきました。特に64事件の自宅班柿沼を落とすシーンは圧巻です。刑事としての本懐と家族を守る気持ちの葛藤が見ていたたまれなくなりました。警察の話等全く縁がないと思っていたけど、その隠蔽の一部始終は大なり小なり誰しもが一度は直面しそうな問題で、どうするのが最善なのか、とても考えさせられるところです。正義と人間の弱さがせめぎあい、そこに翻弄される人たちに自分を重ねる。上巻だけでも心に衝撃を与える作品でした。 -
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F県警の捜査一課の朽木は苛立っていた。15年前に旦那が刺殺された殺人事件で、逃げ続けている出入りの電気屋から全く接触がなく、時効が迫っている。部下は残された被害者の妻と娘に近づきすぎている。ただ、その構図になにか違和感を感じているのだった。
F県の刑事課のとても我の強い一、二、三課それぞれが立ち向かう殺人事件捜査に対する6作の短編アンソロジー。
6作ともほぼ最後まで真犯人はわからないという展開や、一方でそれをぶちこわすように刑事たちに嫌悪感を感じさせるような言動や取り調べの様子など、読み始めはどちらに重心を置いて読めばいいのだろうかとふわふわとした不安感を感じる。
2作ほど読むとそうではないことに気がつくのだが。
どの作も短くとも重厚で、裏があって厚みがあるため、短編1本ずつ読んでも満足感の高い作品が集められている。なかなかここまでの話を集めたものもないだろう。
警察の捜査という枠組みの中で、トリックというメソッドがあり、人間関係という骨組みがあり、そこをどうやって組立てていくかというものであるということがわかればこういう話になるんだなというのはわかるが、それにしてもどれもよく出来ている。
難をいうと、同じ登場人物を出し続けてしまったため、時間軸がわからなくなったり、いくらなんでも殺人事件が起こり過ぎだろうというところか。 -
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1985年8月12日に起きた日本航空123便墜落事故の場所が、群馬県であったことから地元の新聞社に巻き起こった登場人物の葛藤や、組織内の軋轢、人間模様を、元新聞記者の作者だからこそ描ける非常に現実感のある話しは、傑作が保証されていたように思う。
40年以上前であるから、この生々しい組織内の派閥や上下関係が成り立っているのか、この時代も新聞社の中ではこと本のようなことが毎日行われているのか分かりかねるが、新聞社の毎日の戦いが理解できて興味深く読み進められました。
一方で、世界一遭難死亡事故が多い谷川岳一ノ倉沢の衝立岩を絡めた人間模様を、時間軸を変化させて、人の想いの振り返りを上手く使っている。
また、登山者が体験するクライマーズ・ハイを主人公が、墜落事故の記事に拘るあまりのクライマーズ・ハイ状態になったのだと腑に落ちる内容になってる。
素晴らしい本でした。大満足です。 -
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最初から最後までずっと面白かった。
序盤で登場人物が次々と出てきて、ごっちゃにならないようメモしたけど、メモしたら整理できて、見返すことはなかった。
取り調べの心理戦の描写が緊迫感あって良かった。
受ける側は、相手はどこまで知っているのか、自分は何を話せばいいのか、極度のストレス状態。
警察側は、優勢ではあるけど自白に頼る部分が大きく、また時効のリミットを悟られたら一気に劣勢になる危うい状態。
こういう微妙な心の揺れって心理としては複雑なのに、スッと文章が入ってきてイメージできちゃうから不思議。
回想と現在を行き来する構成で、15年の移り変わりの表現もすごく好き。
ストーリーと直接関係ないけど、係長のヒゲの小ネタとか、人や組織を描写するのがやはりすごく上手いなと思う。
電話帳で個人宅の住所まで調べられてしまう時代は怖すぎるけど、それはそれで素人の捜査が面白い。 -
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1985年に起きた御巣鷹山の日航ジャンボ機事故を扱っているだけに、当時の昭和の空気感が色濃く描写されていて、今では眉を顰める行動や言動が時代を感じさせた。
リ○イン片手に24時間戦えますか?の絶頂期だと思うけど、あの頃は良くも悪くも日本人はみんな元気があったように思う。
物語は地元紙の記者である悠木和雅が、事故の全権デスクとして極限の苦労と葛藤に晒される日々と、その17年後の衝立岩登攀の二つの軸で進行する。
本作は単なる報道の舞台裏の描写に留まらず、いろいろな要素が盛り込まれていた。仕事にかける情熱だったり、新聞社内の凄惨な派閥争い、家庭内の複雑な問題、親子の微妙な距離感、同僚の不審な行動、急峻な岩肌を攀じ登る息を呑むクライミングシーンなどなど。ややもすれば、どれも中途半端になってしまうところを、どれもうまい具合に収束させていく構成の妙が見事だった。
主人公・悠木の境遇や葛藤には、深く共感できる部分が多く、物語に引き込まれた。激動の取材と厳しい試練の末に悠木が辿り着く澄み渡った空気感が、心を浄化してくれるようで、どこか穏やかな救いが残る読後感だった。 -
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ネタバレ終戦記念日をきっかけに再読。
第二次世界大戦終盤、戦況が悪化するにつれて学生たちも徴兵される。
普通の一青年がある日突然軍隊へ。
そして、死という未来しかない特攻隊へ。
日本を、家族を、愛する人を守るためなら死ねる、死ぬぞ、という文字通り決死の覚悟と、だけど生きたい、死にたくない、という感情の狭間の描写が秀逸で、読んでいて苦しかった。
フィクションとはいえ、実際に回転に乗って亡くなった人たち一人一人に、想像を絶するほどの感情があったと思う。
特攻隊は誇らしい、名誉だ、という間違った洗脳。そして、そう思い込まないと、自身の感情のコントロールや、存在意義を見失ってしまう。
狂っていたと思う。愚かだったと思う。この時の日本は。
そして、いまを生きる私たちは、それを知るべきだし忘れてはいけない。
それを伝えるという意味でも、素晴らしい作品だと思う。 -
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ネタバレ上巻で幸田メモの真相に迫ってからの下巻。
長官視察の裏にある思惑。
広報室とマスコミの対立。
ストーリーが畳み掛けるように動き始め、繋がっていく展開で一気読み必至。
地方生え抜きの最高峰、刑事部長ポストを召し上げてキャリアが座る。
刑事部出身の三上にはその重大さが痛いほど理解できる一方で、警務部としての職責でその発表の地・長官視察を成功させなければならない。
「D県警をダラスにするのか、しないのか。」p132
この一言がなぜか強く印象に残った。
(余談:読んでいる時期がちょうど北中米W杯で、ダラスで試合があったからかも)
「上イコール組織です。組織の意思を無視した広報なんて広報と言えません」
「個人の集まりが組織だ。個人の意思が組織の意思になることがあったっていい」p149
実名発表を巡るマスコミとの対立のなかで、銘川老人の人生は記事にならず、ひっそりと閉じた。
その事実を三上率いる広報室とマスコミが共有し、和解する。
いち会社員としてもちろん組織人ではあるが、一方で個人であるという当たり前のことを改めて意識できる好きなシーン。
そしてクライマックス、ロクヨンが繰り返されたと思いきや、その指揮を取る車内はS64年に引き戻される。なかでも随所に張られていた電話の伏線回収は鳥肌もの。
全ての謎が解決されるわけではなくて、それもまた人生だなと思ったり。
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Posted by ブクログ
ネタバレ何度も読み返している一冊。久しぶりに読みたくなったので再読。
昭和最後の年に発生した誘拐事件、ロクヨンの長官視察に端を発する警察組織内の攻防。
記者クラブとの駆け引き。
失踪した娘、あゆみの行方。
自らを取り巻く様々な問題に翻弄されつつも、正面から向き合っていく三上の姿が印象的。
特に刑事部対警務部の警察内部の派閥争いの描写が細かく、引き込まれます。警察小説好きにはたまらん。
ストーリーは時に滞留しながら、でもそのもどかしさもまた三上の焦燥感を共にしているように感じられる。
上巻では、ロクヨンの鍵となる幸田メモに迫る。
隠されたその内容に三上がたどり着いたとき、そこにもあまりにたくさんの人生が絡んでいて思わず息をついてしまった。