岩井圭也のレビュー一覧

  • 竜血の山

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    ネタバレ

    岩井圭也の小説を初体験。なるほど評判のとおり読ませる小説を書く作家さんだというのが第一の感想。

    体質的に水銀中毒にならない耐性をもつ「水のみ」という人々を主人公格においているので、もっと土着ファンタジーかと思ったが、意外にも公害問題と産業基盤の変遷に踊らされる鉱山労働者の労働問題に主眼を置いた大河小説だった。

    プロレタリアート文学というのは、思想臭がまとわりつきやすく、主義主張に賛同するかどうかはともかくも、俺のように娯楽としての読書をしている立場には、どうも説教臭くてなじめないことが多い。この作品にも一部そういう風味があって多少辟易とした。

    そういう意味では、ファンタジー要素は臭みを和

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    2022年05月05日
  • 夏の陰

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    3年前に刊行された単行本に加筆修正した文庫版。単行本は未読なので詳細は不明だ。
    殺人者の父親を持つ岳と、父親を殺された和馬。加害者の家族と被害者の家族という違いはあるが、2人には共通点があった。その象徴として剣道がある。
    本書は父親を失った家族の物語、少年の成長譚、贖罪の行方など様々な読み方ができるが、ぼくは本作を“ハードボイルド”と捉えた。ミステリーの1ジャンルではない。男の生き様の話だ。人はいかに生きるのかという話なのだ。

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    2022年04月26日
  • 竜血の山

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    ネタバレ

    アイデアだけで成り立つ小説かなという気はするが、何か西村健の炭鉱物のような荒々しさがある。
     それにしても、この作家さんの抽斗の独創的なところには感心する。

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    2022年03月27日
  • 竜血の山

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    北海道の巨大な水銀鉱床。水銀に耐性をもつ「水のみ」と呼ばれる山中集落の人々。戦争、特需、水俣病、差別。昭和の動乱のなか、炭鉱の町で水銀と共に生きる人々の壮大な物語。
    水のみ、というファンタジー要素がありながらも、史実になぞらえた設定とリアルな描写でのめり込まずにはいられなかった。アシヤが人として出来上がっていないところが逆に生々しさを与え、感情をむき出しにする人々の心の動乱もよく見てとれた。
    簡単に死人が(殺人含め)出すぎな感じも否めないけれど、あるいはそういった時代だったのかもしれない。
    水銀というものの色や質感や冷たさが挿絵のように作品を景色づけていた。
    終わり方はは少し物足りない気もした

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    2022年03月15日
  • 水よ踊れ

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    1996年の香港。
    13歳から17歳まで香港で暮らしていた和志は、その時に知り合った彼女の死が忘れられず、大学での交換留学生として香港へ。
    そこで、彼女の死の真相を調べる。

    これは、政治が絡んだ事件だった。
    すべて政治で決まる。
    殺人事件をなかったことにするのも…。

    とても複雑な流れではあったが、結末を知ると納得できる。
    どの時代であっても、すべて政治で、ものごとは決まるというのも世の中の常なのかと思うとやりきれなさを感じた。

    読みながら2003年1月に香港へ行ったことを思いだした。
    香港のイメージといえば、狭い場所にやたらと高くて細長いビルが建ち並んでいる…窮屈で閉塞感を感じたように思

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    2022年02月02日
  • 水よ踊れ

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    いつも個性的な設定で、悩める主人公を登場させる。
     返還前の香港で、過去を問い直す交換留学生(建築学)か。

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    2022年01月30日
  • 竜血の山

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    タイトルだけ見て、ついに岩井さんがファンタジーを書いたのかと狂喜したが、北海道に実在した水銀鉱山をモデルにした歴史大作だった。
    昭和13年、北海道東部の町・辺気沼近くの山麓で、辰砂(硫化水銀の塊)が発見される。派遣された調査班は、山中にひっそりと暮らす部族と出会う。彼らは先天的に水銀に対する耐性を持ち、やがて開かれた鉱山で働くことになる。その中の1人、アシヤを主人公として彼の数奇な人生を描く。
    軍事的に必要とされた水銀と、その毒性ゆえの採掘の難しさをうまく物語に取り入れている。予測不可能な展開に唸った。

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    2022年01月23日
  • 水よ踊れ

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    めちゃくちゃ良い/ 97年の、まだアナログだった時代の猥雑な香港の感じとか学生たちの生活感とか、空気が懐かしくてのめり込んでしまう/ 少年時代の恋人の死の真相を探ろうという大学生の主人公が普通の子で良い/ スーパーマンじゃないし、頭が抜群に切れるわけでもない/ 作品内のあらゆる事象に丁寧な振りがあって好感が持てる/ 主人公の名前ひとつ取っても、しっかり意味が持たせてある/ 後半のタクシー運転手とのやりとりも、大きなオチのフリに使っているわけだ/ かなり計算して色々決めたんだろうと思う/ 細かいところを抜きにしても、同じ屋上に住んだ二人の少女の心中を慮ると本当に切なくて悲しい/ ただ、最後の〝救

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    2022年01月12日
  • 水よ踊れ

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    1997年7月の中国返還を間近に控えた香港を訪れた1人の日本人留学生。彼は昔、香港に住んでいたことがあり、ある目的を持ってこの地を再訪したのだった。ミステリー仕立ての構成だが、犯人探しが目的の小説ではない。自由の象徴としての香港や、様々な事情で母国を去らねばならなかった人々の思いが交錯し、読む手が止まらない。最終章が理想論になってしまったのは惜しいが、読み応えのある力作だった。

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    2021年10月31日
  • 水よ踊れ

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    返還前の香港、愛していた少女が目の前でスラムのビルから落ちて死んだ。犯人を目撃した和志は警察に告げた後家庭の事情で帰国する。3年後香港の大学に留学し、彼女の死の真相を調べる。この謎、事故死にされた理由が物語の本筋だが、本当の面白さは香港の人々の風景、空気、難民や本土からの違法入国など共産党支配の影に怯えつつ戦う人々にある。
    歴史物としても恋愛友情モノとしてももちろんミステリーとしても読める力作だ。

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    2021年09月28日
  • プリズン・ドクター

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    奨学金の返済を免除してもらうために仕方なく就いた矯正医官の史郎だが次第にその仕事にのめり込んでいきます。こういう成長物語、好きです。
    病だけでなく、その奥にある罪も治療する姿が良いね。是非とも続編を。

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    2020年08月06日
  • プリズン・ドクター

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     主人公は、タイトル通り刑務所のお医者さん。でも本人が希望した職場ではない。しかも、若い医師に対する患者の受刑者は見下してくる。助手の人もベテランで、新米の若い医師には立場が逆転したかの様に次々と経験値から言える指導をする。日々、薬を求めて受診に訪れる患者(受刑者)は詐病を訴えるのが多い中、本当の病気を疑う症状を見逃さない感性が真剣に病の症状に悩む犯罪者を救う結果になる。
     主人公の母親は認知症を患い看病で生じるトラブルもある。そんな家庭環境を理解している彼女との恋愛では、級友の女友達とのいざこざもある。医療のメインストーリーの合間に描かれている私生活も苦楽が満載である。
     冒頭の場面は、犯罪

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    2020年07月23日
  • プリズン・ドクター

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    神経内科医としてのキャリアを目指していたのに経済的理由で奨学金免除の義務を果たすべく3年だけと刑務所の医師、矯正医官となった是永史郎。
    刑務所であるから患者は犯罪を犯した海千山千の受刑者。医務の助手は准看護師の資格を持つベテラン刑務官。限られた医療体制に薬剤、検査方法。そんな環境下でも、主人公は研修医を終えて即、単独でしかも総合医的な診断をしなくてはならない。
    帯には本格医療ミステリー的な扇情的なフレーズが書かれているが、受刑者の病状を明らかにする過程は、数年前にNHKでやってたドクターGのカンファレンスを彷彿させる。
    またミステリーよりも矯正医官としての成長するヒューマンドラマと感じる。学生

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    2020年06月20日
  • 追憶の鑑定人

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    前作より土門さんに人間味を感じるところが沢山あった。猪狩さんのお陰だろうね。最後の『灰色の追憶』がよかった。

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    2025年12月15日
  • 真珠配列

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    ネタバレ

    岩井さん、新境地、又増えましたね。
    結論→、読み易く、面白い、期待裏切らぬ府k戦改宗と結末の着地

    近未来ディストピアものです。
    舞台は中国、党の思惑は一層に機微さを増している様子。
    2029年ですからね・・私も、まだ生きている可能性強い・・。
    そう思って読み進めると、結構にリアリティあり、荒唐無稽を感じさせない。
    「未編集」という冠が付くモノが・・生命科学の分野で世界の頂点に立ちたい中国の姿勢は今でも強く感じさせますよね・・だから、寒気を覚えつつも、あながち凝らないよとは思えない。
    しかし、事件の突端~有力者の息子の死、警察人として操作命令に従っていくアーロン、ひりつく命令、解明の時間。

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    2025年12月15日
  • 夜更けより静かな場所

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    同じ本を読んでも感じ方はそれぞれ
    それが、個性
    店主の口数は少ないが、穏やかさ、信念の強さ、優しさ、を感じる
    本を読むってやっぱりいいな。

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    2025年12月09日
  • われは熊楠

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    われは熊楠。南方熊楠という人物を彼の家族関係から描き出した小説。良きにつけ悪しきにつけエネルギーに溢れており、到底真似できないが故に楽しむことが出来た。

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    2025年12月07日
  • 追憶の鑑定人

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    無表情で無愛想、常にベージュの上下を着た
    『最後の鑑定人』と呼ばれる主人公の土門。

    鑑定が糸口になり事件の真相解明が進んで行く
    様子から、なぜ土門が最後の鑑定人と呼ばれる
    のか徐々に明らかになってくる。

    事件に友人が巻き込まれたことがきっかけで、
    土門の過去も明らかになる。

    感情が見えないかのような主人公、
    不器用すぎる生き方も魅力だと思えた。



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    2025年12月06日
  • 真珠配列

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    基本的には著者ファンなのですが、読後感悪いものもありその一つかな。
    「文身」とよく似た、人を破滅に追い込み、追い込まれという濃密な感じ。

    今作品はSFでもあり、近い将来あり得る近未来の怖いお話でもある。日本でなく、中国を舞台としたところも興味深い。

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    2025年12月01日
  • 汽水域

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    無差別殺人の容疑者を追う記者、安田。あんまりこのジャンルを読んでないんで取材の仕方とか新鮮に感じられる。今はもうSNSを駆使して情報を集めるんだ。一昔前はどうしてたんだろうと素朴に思う。
    家族にも見放さられ、仕事にしか打ち込めない安田がどうしようもない人物に見えてくるが、有りがちなキャラにも思え中々共感は出来ない。
    犯人の深瀬と同じく父親に憎悪を抱きながら生きてきたが故に心が近づいていくのはわからんでもないが、どうも物語に山が感じられず最後まで読み切ってしまった。
    ただ、誰かと必ず繋がっている命綱がある限り、無敵の人にはなれない、と言う点はわかり、海斗にも伝えようとする最後の思いは良かった。

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    2025年11月29日