岩井圭也のレビュー一覧
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ネタバレ岩井圭也の小説を初体験。なるほど評判のとおり読ませる小説を書く作家さんだというのが第一の感想。
体質的に水銀中毒にならない耐性をもつ「水のみ」という人々を主人公格においているので、もっと土着ファンタジーかと思ったが、意外にも公害問題と産業基盤の変遷に踊らされる鉱山労働者の労働問題に主眼を置いた大河小説だった。
プロレタリアート文学というのは、思想臭がまとわりつきやすく、主義主張に賛同するかどうかはともかくも、俺のように娯楽としての読書をしている立場には、どうも説教臭くてなじめないことが多い。この作品にも一部そういう風味があって多少辟易とした。
そういう意味では、ファンタジー要素は臭みを和 -
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北海道の巨大な水銀鉱床。水銀に耐性をもつ「水のみ」と呼ばれる山中集落の人々。戦争、特需、水俣病、差別。昭和の動乱のなか、炭鉱の町で水銀と共に生きる人々の壮大な物語。
水のみ、というファンタジー要素がありながらも、史実になぞらえた設定とリアルな描写でのめり込まずにはいられなかった。アシヤが人として出来上がっていないところが逆に生々しさを与え、感情をむき出しにする人々の心の動乱もよく見てとれた。
簡単に死人が(殺人含め)出すぎな感じも否めないけれど、あるいはそういった時代だったのかもしれない。
水銀というものの色や質感や冷たさが挿絵のように作品を景色づけていた。
終わり方はは少し物足りない気もした -
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1996年の香港。
13歳から17歳まで香港で暮らしていた和志は、その時に知り合った彼女の死が忘れられず、大学での交換留学生として香港へ。
そこで、彼女の死の真相を調べる。
これは、政治が絡んだ事件だった。
すべて政治で決まる。
殺人事件をなかったことにするのも…。
とても複雑な流れではあったが、結末を知ると納得できる。
どの時代であっても、すべて政治で、ものごとは決まるというのも世の中の常なのかと思うとやりきれなさを感じた。
読みながら2003年1月に香港へ行ったことを思いだした。
香港のイメージといえば、狭い場所にやたらと高くて細長いビルが建ち並んでいる…窮屈で閉塞感を感じたように思 -
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めちゃくちゃ良い/ 97年の、まだアナログだった時代の猥雑な香港の感じとか学生たちの生活感とか、空気が懐かしくてのめり込んでしまう/ 少年時代の恋人の死の真相を探ろうという大学生の主人公が普通の子で良い/ スーパーマンじゃないし、頭が抜群に切れるわけでもない/ 作品内のあらゆる事象に丁寧な振りがあって好感が持てる/ 主人公の名前ひとつ取っても、しっかり意味が持たせてある/ 後半のタクシー運転手とのやりとりも、大きなオチのフリに使っているわけだ/ かなり計算して色々決めたんだろうと思う/ 細かいところを抜きにしても、同じ屋上に住んだ二人の少女の心中を慮ると本当に切なくて悲しい/ ただ、最後の〝救
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主人公は、タイトル通り刑務所のお医者さん。でも本人が希望した職場ではない。しかも、若い医師に対する患者の受刑者は見下してくる。助手の人もベテランで、新米の若い医師には立場が逆転したかの様に次々と経験値から言える指導をする。日々、薬を求めて受診に訪れる患者(受刑者)は詐病を訴えるのが多い中、本当の病気を疑う症状を見逃さない感性が真剣に病の症状に悩む犯罪者を救う結果になる。
主人公の母親は認知症を患い看病で生じるトラブルもある。そんな家庭環境を理解している彼女との恋愛では、級友の女友達とのいざこざもある。医療のメインストーリーの合間に描かれている私生活も苦楽が満載である。
冒頭の場面は、犯罪 -
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神経内科医としてのキャリアを目指していたのに経済的理由で奨学金免除の義務を果たすべく3年だけと刑務所の医師、矯正医官となった是永史郎。
刑務所であるから患者は犯罪を犯した海千山千の受刑者。医務の助手は准看護師の資格を持つベテラン刑務官。限られた医療体制に薬剤、検査方法。そんな環境下でも、主人公は研修医を終えて即、単独でしかも総合医的な診断をしなくてはならない。
帯には本格医療ミステリー的な扇情的なフレーズが書かれているが、受刑者の病状を明らかにする過程は、数年前にNHKでやってたドクターGのカンファレンスを彷彿させる。
またミステリーよりも矯正医官としての成長するヒューマンドラマと感じる。学生 -
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ネタバレ岩井さん、新境地、又増えましたね。
結論→、読み易く、面白い、期待裏切らぬ府k戦改宗と結末の着地
近未来ディストピアものです。
舞台は中国、党の思惑は一層に機微さを増している様子。
2029年ですからね・・私も、まだ生きている可能性強い・・。
そう思って読み進めると、結構にリアリティあり、荒唐無稽を感じさせない。
「未編集」という冠が付くモノが・・生命科学の分野で世界の頂点に立ちたい中国の姿勢は今でも強く感じさせますよね・・だから、寒気を覚えつつも、あながち凝らないよとは思えない。
しかし、事件の突端~有力者の息子の死、警察人として操作命令に従っていくアーロン、ひりつく命令、解明の時間。
タ -
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無差別殺人の容疑者を追う記者、安田。あんまりこのジャンルを読んでないんで取材の仕方とか新鮮に感じられる。今はもうSNSを駆使して情報を集めるんだ。一昔前はどうしてたんだろうと素朴に思う。
家族にも見放さられ、仕事にしか打ち込めない安田がどうしようもない人物に見えてくるが、有りがちなキャラにも思え中々共感は出来ない。
犯人の深瀬と同じく父親に憎悪を抱きながら生きてきたが故に心が近づいていくのはわからんでもないが、どうも物語に山が感じられず最後まで読み切ってしまった。
ただ、誰かと必ず繋がっている命綱がある限り、無敵の人にはなれない、と言う点はわかり、海斗にも伝えようとする最後の思いは良かった。