岩井圭也のレビュー一覧
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第13回うつのみや大賞
死の覚悟をもって南洋諸島で戦時下を生きた人達が描かれる。
今ならわかることだけど、その覚悟は自死として発揮されるべきではない。
どうして捕虜になって生きながらえることが悪徳なのか。
命さえあれば未来がつながるし、どんな形でも愛する人には生きていて欲しいのが人として当たり前だと思う。
当たり前の感覚が通じない時代に、軍人ではなくスパイとして人の死を見てきた麻田が辿り着く「死は死でしかない」という悲痛な叫びが胸を抉る。
途中、麻田がスパイとして事件を解決する短編集のようで短調に思えたけど、後半はスピード感がありローザや堂本少佐の意思に迫り、麻田の行く末に手に汗を握る展開。
スパイという危うい立場や日本統治下のサイパンの様子を知れたのもおもしろかった。 -
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三人の女性達の雪山登山
一人は、新鋭の女性登山家として、活動していたリタ 彼女は地球温暖化により故郷の島が海に沈む事に心痛めていた
故郷の惨状を世界に知らしめるためデナリ単独登頂に挑んだ
しかし「完全なる白銀」を見たという言葉を最後に消息を断つ
一人は、プロカメラマンとなった日本人女性
リタとは旧知の仲
一人は、リタの幼馴染で登山家のシーラ
リタの登頂を証明すべく、残された二人は冬山に挑んでいく
山岳小説であり友情の物語であり
そして、地球温暖化、人種性別の差別問題にも抵抗して社会派の面も読ませてくれる
それにしても岩井さんは、短期間に幅広いテーマに挑んでいますね
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南方熊楠は粘菌の研究家と思っていたが、それどころではなく、菌類や植物、およそ自然の中に生存するものすべてにはつながりがあり、そのすべてを知り尽くしたいと望む人であった。
脳に持病があり、(死後の脳から海馬に萎縮が見られたことがわかった。原因の一つかもしれない)てんかん発作や癇癪を起こしたり、暴力を振るったりするので、寄行も絶えなかった。
評伝のようでもあるが、小説として色々なファクターを含んだ描きかたがしてある。宗教的な問いかけがあったり、男色を匂わせる要素も取り入れ、(実際は不明だが、研究していたことがある)熊楠の頭の中の表現は独特だった。それは熊楠の情熱であり、自分のidentityを問うものでもあった。頭の中に響く声から逃れるため勉強に集中したというのも、本人がそう言っているらしい。奇人、天狗、自由人と言われた彼の描きかたとして面白いと思った。
妻の松枝の描きかたもとてもいいけど、どうしてこんな奇人と結婚する決心をしたのか、その動機は作中でも不明。
牧野富太郎は熊楠より5歳年上で、共にアカデミーに属すことなく、独自に研究するもの同士だった。2人は手紙を交わし、標本を送り合ったりしたのに、会うことはなかったようだ。
没年は南方熊楠が1941年(74歳)牧野富太郎は1957年(94歳) -
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──私はもう、遠野茉莉子という役から降りた。
私は今、誰でもない、ただの〈私〉だ。──
語り手は幽霊の茉莉子。
ずっと自分自身を演じて生きてきた。
演じる事でしか生きられない人生とは…
最初から最後まで不穏な空気を纏ったまま、物語は進行していく。
しかし重苦しくは感じず、すいすいと頁を捲ってしまうのは、私が岩井さんの文章を好きだから?
人間は誰でも、様々な顔を持っていると思う。
職場での自分、実家での自分、友人の前での自分、家族との自分…
と、それぞれ違うはずだ。
では一人でいる時こそ、本当の自分なのか?
それもよく分からない。
だって、どれも自分だから。
しかし茉莉子はこういう「様々な顔」の事を言っているのではないらしい。
それじゃ「私を演じる」って何だろう?
誰でも「自分をよく見せよう」と演じる部分は少なからずあると思うけど…
などと考えながらの読書時間は、かなり充実したものだった。
作中劇での茉莉子の演技を、この目で見たいと強く思う。
それほど印象的な人物だったのだろう。
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ネタバレ女優 遠野茉莉子がゲネプロの最中に奈落に落ちて亡くなった。公演は中止となり、劇場に関係者が集まる。それを袖からそっと見ている茉莉子。茉莉子が自分の過去を語っていく。
ちょっと思っていたのと違った。ミステリーだと思っていた。
茉莉子の死が事故なのか、自殺なのか、他殺なのか、それを問題にする話かと思っていたのだけれど、そうではなかった。なのに、読ませる読ませる。ハードカバーの分厚い本なのに、一気読みしてしまった。
単にあらすじだけ書いてしまえば、「面白くない話」と私は思ってしまっていただろう。しかし読んでいると目が離せず、次を読みたくなる。茉莉子の生き方は共感を得にくいし、そりゃ病むわ、と思わずにはいられない。けれど、部分部分で茉莉子の生活を見たくなる出歯亀みたいな自分が私の中にもいることは確かで。
普段は読まないジャンルだけに、凄い作家さんだと感じた。 -
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ゲネプロ中に奈落に落ちて死亡した女優、遠野茉莉子。彼女がなぜ死んだのか?彼女の生い立ち、遠野茉莉子がどういう人間だったのか?を幽霊となった遠野茉莉子が、自分自身を淡々と語っていく。
たぶん淡々と語る口調が、人の怖さを感じさせる効果があるんだろうな。なんか終始怖かった。
まず彼女の生い立ち。毒母のせいで感情が欠落してしまう。高校生の時、女優になろうと決めたきっかけがあるんだけど、そこが怖い。感情が欠落してるせいなんだと思うけど、とっさにあんな行動が出来るものなのか?
女優の遠野茉莉子も怖い。役作りのためにそこまでやるのか?そこまで追い込むものなのか?役者という職業をよく知っている訳ではないので何が正しいのかは分からない。でもやり過ぎなのでは?尊敬ではなく恐怖を感じる。
そんな感じで人が怖いのだけど、読んでて重たくて暗い気持ちにはそんなにならなかった。逆にサラッと最後まで読めた。読みやすくて面白かったんだと思う。死の真相が分かったときは、よかったねと言ってあげたかった。それと同時に悲しかった。
"演じている"と"擬態する"という言葉が印象に残りました。それは分かる気がします。日常で"演じている"と"擬態する"ことはあるなと思いました。 -
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舞台は太平洋戦争開戦前の1940年のサイパン。タイトルの「楽園の犬」の犬とはここではスパイのことを意味します。
スパイと聞くとドラマや映画ではなんとなくかっこいいいイメージもありますが、実際には孤独で常に危険と隣り合わせの命を賭けた任務のように思います。スパイであることにいいことは一つもないように思えてしまいますが、抜けたくても抜けられなくなってしまうのでしょうね。
日本ではスパイ活動を取り締まる法律がなく、世界からは「スパイ天国」と言われているようです。大丈夫なのかな?
第二次世界大戦のさなかに勃発した太平洋戦争では、アメリカには石油等の資源量、経済力や軍事力でも到底敵わないことをわかっていた学者や軍人も多数いたものの止めることはできず結局戦争に突き進んでいきました。
人間同士で殺し合う戦争を現代でも無くせないということは、人類はまだバカのまんまですね。戦争のない平和な世の中で穏やかに暮らしたいものです。 -
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ゲネプロの最中に不可解な死を遂げた女優・遠野茉莉子。
事故なのか、自殺なのか、『幽人』の関係者たちが彼女について語りだすのだが、ラストに幽霊になった彼女が語ったのは…。
母親の言いなりに生きて、自分の感情を露わにすることがなかった彼女が、高3の夏に母を事故で亡くしてから好きに生きようと東京へ出た。
自分以外の役柄を演じることができるなら別の誰かになれると役者の世界へ。
最初についた役の名前〈遠野茉莉子〉を芸名にし、影響を受けた劇作家・名倉敏史が信奉するメゾット演技を武器にして名だたる舞台女優となったのだが。
彼女にはしばしば母の幻影が取り憑いていたのも誰かを演じなければ自分というものが、何をどう求めて何を生きがいにすればわからなかったのでは…と思ってしまう。
怖いほどまでに演じることに執着していた彼女の実名が最後までわからなかった。
あなたは、最期まであなたが演じた役で死んだということか…。
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ネタバレ初めて文庫本を3時間強で読破しました。
一文一文が短く簡潔で読み易いため、工夫の凝らされた文章を楽しむというより、展開を楽しむ本という印象です。
映像化したら面白そう。
登場人物がみな魅力的でしたが、主人公と唯ちゃんだけがずっと気味が悪かったです。
その不気味さも、心の内が知りたくて早く読み進める促進剤となりました。
独白シーンで、主人公には共感できましたが、唯ちゃんは本当に気持ち悪いと思いました。
最後は皆でお金持ってバイト飛んだという解釈で合ってるのでしょうか。
本人たちが自分の過去をそれで清算できるなら、それでよいのでしょう。
雇用者が可哀想だな、と思いましたが。