岩井圭也のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ボクシングが持つ圧倒的な臨場感と、手に汗握る熱量がそのまま本の中から伝わってくるような傑作だった。ボクシング観戦が好きな自分にとっても、リング上の緊迫感や駆け引きの描写はリアルそのもので、終始引き込まれた。
物語の芯にあるのは、コミュ症気味で生きづらさを抱えていた主人公の成長譚だ。言葉でうまく自分を表現できない彼が、リングという四角いジャングルの中に自分の「確かな居場所」を見つけ、ひたすら愚直に突き進んでいく。その姿を見て、単なる身体能力だけでなく、一つのことを泥臭くやり続けられること自体が、何よりも尊い「才能」なのだと強く実感させられた。
言葉を超えて、拳と拳のぶつかり合いを通じて相手と深く「対話」していく楽しさや歓び。不器用な人間たちが放つ、静かだが熱い情熱に魂が揺さぶられる一冊。 -
Posted by ブクログ
ボクシングは全く興味がなく、知識ゼロにも関わらず、元プロボクサーの知人が二人いる。
一人は王者のベルトを持ち、一人は早々に引退して専門職として働いている。
彼らとボクシングの話をしたことはあまりない。
けれども、ボクシングから離れた二人はとても活き活きとしているし、誰よりも他者への気遣いのできる人達だ。そして、暴力をとても嫌う。
ボクシングをはじめとした格闘技をする人達は、どんな思いで挑んでいるのか、長年疑問だった。
単に殴り合いが好きで、血氣溢れるのかと思いきや、私の知り合いの元ボクサー達はとてもそんな様子でなかったから…
本書を読んで、当たり前ではあるけれどボクサー達が様々な思いで挑んでいることを知った。
言葉が話せなくても、対戦することで相手と対話するという発想は驚きだったし、常に全力で試合に望む姿は誰にでもできることではないと思う。
様々な事情を抱えながら、自分自身と闘い続ける彼らだから、ほんとうの強さを手にすることができたのだろう。
プロボクサーであり、生命をかけて闘う彼等が手にする収入があまりにも少ないことも驚きだった…
ランカーであっても副業をしないと生活できないなんて、プロと言えるのだろうか。
お金のためでない何かのために、身を削る努力しているプロボクサー達。
その何かを大切にできる強くて優しい人だけが、プロとして活躍できるのだろうな…
-
Posted by ブクログ
岩井圭也さん、本当に幅広い。
そしていずれの話もその世界に引き込まれ、
没入したまま、あっという間に読み終えてしまいます。
今回は美大が舞台。
(美大の最難関、上野の森の向こうにある東京藝大と思われる。
新倉と待ち合わせしてルシアンをのんだ古民家の喫茶店はカヤバ珈琲です、きっと!)
才能ひしめく中で、そこでまた優劣がつく。
真の天才の前で、自己を保つことはなんて難しいんでしょう。
それが愛してる人ならなお辛い。
小滝とひなたの決断はとても現実的で
あれぽっちの言葉だけで通じ合って
読んでるこっちの心はカラカラに乾燥してしまいそうだよと思ったら
思わぬファンタジー要素でなんだか少し潤いました。
亡くなった学生樺沢穂香の肖像画依頼の話はミステリー風。最後死の謎が解けて、
穂香の作品への想いがわかり、ホッとしました。
失踪したひなたの話、肖像画依頼の話が
絶妙に絡み合い、小滝を苦しめ、成長させます。
モヤモヤとした期間が長くて読んでいて途中とても苦しかったけど、読後感は良かったです。 -
Posted by ブクログ
数学のことは何にもわからない。けど最後の聡美にわたしたちの感覚が投影されていたんだろう。
暸司の故郷の森が、数の世界と自然界と人間とを繋ぐとても分かりやすい比喩になっていて、本当に美しかった。
才能に恵まれていてだからこそ孤独な暸司と、努力をコツコツ積み上げていくタイプの極めて人間らしい熊沢。両者があまりに対照的で、そして、熊沢の嫉妬心など人間らしい醜い感情が理解できるから読者はより一層このストーリーにのめり込むんだろうな。アルコールに溺れる暸司のストーリーが辛くて辛くてそのぶん本当に熊沢が憎かった。暸司が重力のない星空の世界で、熊沢の発表の場を眺められていたらいいな。
見捨てたどころか自分が手を下したようなものだ、と捉える熊沢の感覚がわかる。苦しいけど美しく周囲にも認めてもらえるような「再会」の場所に辿り着けた熊沢がうらやましいなあ。 -
Posted by ブクログ
数学の天才の話は他にもいくつか読んだことがあるが、彼らには世界がどんな風に見えているのかいつも想像がつかない。IQに差があると会話にならないという話は聞くが、本作で表現される数覚もまた同じなのだろうなと思う。おまけに瞭司はラマヌジャンを想起させる感覚派だ。以前、ビジュアルシンカーという概念を聞いた。物事について考えたり理解するのに言語より視覚やイメージに頼る人達がいるという。これは別に0か1という話では無いのだが、中には極端な人もいるのだとか。瞭司にもそうした側面がありそうだ。自分の場合はビジュアルも使うが言語の比重が高いように思う。それでも時折結論だけがイメージとして降って湧いてくることがある。仕事で要件は決まっているのに実現方法に行き詰っている時、お風呂なんかで不意に閃くのだ。そういう時には自分の中では道理は曖昧でも揺るぎない確固たる結論が見えているのに、人に説明する為にはどうしても道理を整理して言語化する必要があり、とにかくそれがもどかしい。だが頑張って言語化して同僚の納得を得た時には喜びを覚える。故に瞭司の気持ちも分かるが平賀の言う事が間違っていないのもよく分かる。確かに平賀の登場が瞭司の運命を左右するひとつのターニングポイントになったことには違いない。更に彼の支えとなっていた友人達が段々離れてしまったのもそれぞれの人生、進路があることを思えば自然なことだ。外的要因がどれもこれも仕方のないことだったのなら、では瞭司がもっとタフネスだったなら悲劇を避けられたのだろうか。だが自分の感覚を理解してもらえない孤独や世界の真理を解き明かせそうな閃きを共有出来ない寂しさを思うと責めることはとても出来ない。自分のような小さなプロジェクトの閃きでさえ神が降りてきたような気がするのに、世界を震撼させるような瞭司の発見は比ではないだろう。この興奮や喜びを共有出来ない現実は本当に寂しかっただろうなと思う。誰かに託せれば良いという本人の信条が繋がったことが唯一の救いだと思えた。
また文中に出て来る森林や星空の描写もどこか清々しくて数学の美しさに紐づいている気がした。 -
Posted by ブクログ
科学鑑定のスペシャリスト・土門誠が関わる、4編からなる連作短編集。それぞれ独立した事件を扱いながら、鑑定を通じて“事実”に迫っていく。
「遺された痕」
2種類のDNA鑑定が、同じ事件で正反対の結果を示す。科学が示す食い違いから、土門誠が真相へ迫る。
「愚者の炎」
技能実習生たちが暮らす家で火災が発生。通報した犯人が黙秘を続ける中、鑑定が動機の奥へ踏み込んでいく。
「死人に訊け」
海中から引き揚げられた車内で白骨遺体が見つかる。DNA鑑定を起点に、停滞していた捜査が動き出す。
「風化した夜」
亡くなった娘の遺品鑑定を依頼された土門が、過去と向き合う。鑑定人としての姿勢と、その内面に迫る。
派手な展開や感情の起伏で引っ張るタイプではなく、断片的な事実を一つずつ積み上げていくことで、静かに真実へ近づいていく構成が印象的だった。ピースの少ないパズルというより、あえて見えにくい断片を選び取りながら輪郭を浮かび上がらせていくような感覚で、読み進めるほどに全体像がじわりと繋がっていく。
この作品が面白いのは、“真相を暴く”こと自体よりも、「何をもって事実とするのか」という姿勢にあると感じた。人の証言や感情は揺らぐが、鑑定という行為はそこから距離を取り、あくまで客観的な結果だけを積み上げていく。その過程で、一般的に想像される物語としての納得感とは少し異なる、現実に近い不均質な真実が立ち上がってくる。
主人公の土門は感情を強く表に出さないため、序盤はどこか無機質にも見えるが、その分、わずかな言動の変化や沈黙に重みが宿る。あえて語らないことで浮かび上がる人物像であり、読者側に解釈を委ねる余白が意図的に残されている印象を受けた。
特に最終話では、それまで抑えられていた感情や過去との関わりが静かに滲み出し、土門という人物の輪郭が一段深く見えてくる。ここで初めて、それまでの無機質さが単なる性格ではなく、彼なりの距離の取り方であり、仕事との向き合い方だったことに気づかされる。
全体を通して派手さはないが、その分、読者に解釈を委ねる余白が大きい。読み終えた後にじわじわと残る感触があり、単なるミステリーとして消費するよりも、「事実と人の感情はどこで交わるのか」を考えさせられる一冊だった。 -
Posted by ブクログ
岩井圭也さん、7冊目。
作者さんとの相性があまり良くないことを自覚しつつも、なんとなく気になる本も多く、ボチボチとお付き合いしているところ。
今作は、自らの過去を踏まえて「付添人」の仕事に就いた弁護士・朧太一の物語。
付添人-家庭裁判所で審判を受ける少年の権利を擁護・代弁し、少年審判の手続きや処遇の決定が適正に行われるよう裁判所に協力する人。
少年犯罪において弁護人の役割を担う人ということだが、こういう仕事(制度)があることを初めて知った。
成人の刑事事件を思えば当たり前のように思えるものが、少年事件においては過去には必ずしも必要不可欠とされていなかったということに軽い驚き。
解説を読めば、現在は国選付添人弁護士制度まで出来たようだが、そこまでの道のりが全国の弁護士の方々の自腹で取り組まれてきたということにもまた驚く。
描かれるのは様々な少年事件。殺人容疑をかけられた少年とその友人、親に虐待され逃げ出してきた少女、補導を繰り返し虞犯少年(この言葉も初見)として家裁に送致されてきた少女、ネットで誹謗中傷を繰り返す引きこもりの少年、両親が横領で捕まり保護された少年、そこにそうした行先のない少年少女を個人的に匿っている女性・笹木や朧自身の出自や過去が絡まる。
家庭の事情、とりわけ親の身勝手、に追い込まれて起こる少年事件の実際と付添人の活動の実情がよく知れる。
ディスレクシアを認めた上で人生を歩んでいこうとする少年(と子どもの障害を正しく理解した母)の決意が描かれる第四話、両親の罪を受け止め乗り越えようとする少年の姿と朧・笹木の過去が重なった第五話が、とりわけ良かった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ自画像を描き続ける藝大の青年が学内の事故で亡くなった女性の肖像画を描くことを頼まれるが…
天才と呼ばれる者の苦悩
才能を見せつけられる者の苦悩
ちょっと胸が苦しくなります。
そんな芸術と事故の真相を探るというミステリー要素が唆る一冊♪
やっぱり岩井作品は面白い♡
自分の過去を考える読書だったわ〜
わたしも小さい頃から絵が上手いねって言われてた。なぜか見たままを描くことができた。裕福な子の24色絵の具が羨ましかった。でも絵の具を混ぜると何色でもできると知って楽しかった。絵を描く人になりたいと思った。中学生の時に隣の男子の風景画を見てショックを受けた。漠然と何かが足りない事がわかった。将来絵を描く人になりたいと思うことを諦めた…
40代の時パート先のスーパーが某激安店と合併して激安ジャングルになった。
パン担当からPOPさんになった自分はある意味絵を描く仕事になった笑笑
ジャングルでの後半はまたいつかʅ(。◔︎‸◔︎。)ʃ
-
Posted by ブクログ
ネタバレ無差別殺人を追うフリーの記者のお話。
事件そのものより記者本人の仕事の苦しいや葛藤がたくさん書かれていて興味深かった。
お手紙は犯人のものだと思って読んでたので、主人公のものだと分かった時は驚いた。
悪く言われがちだけど、記者やマスコミ関係者は大変で重要な仕事をしている
SNSで騒いでいるだけの人たちよりずっと。
いろんなドラマや小説でSNSで叩かれて落ち込む描写あるけど、実際そんな気にする?と思うなど。
主人公が悩んで考えて犯人に伝えた結論は良かったな。
「殺意というものは、相手と真正面から決別する勇気がないことの表れなのではないでしょうか。
人を殺したいという衝動は、暴力的な手段によってしか相手との縁を断ち切れない、幼稚な感情なのだと今では思っています。」 -
Posted by ブクログ
数学を楽しいと思ったことがなかったので、理論とか証明とかさっぱりな部分はあったが、数学をキラキラとか、緻密な証明をしてるのに抽象的に表現してて、素敵な文だなと思いながら読んだ。
それだけが全てじゃないけど、仲間って言うのは本当に大事なんだなと思った。
三ツ矢はゼロを1にするのは簡単だけど、ゼロから1までの過程を表現するのは苦手で、それを色んな人に補って貰って1にするのにやりがいを感じたのに、あくまでアイディアと言いきられてしまったことに絶望したのかなと思う。
途中まで読んでても、冒頭から言われている、ここから三ツ矢が亡くなるというのが想像つかないと思っていたがまさかの死因だった。
変化は大事かもしれないが、ここまで変化してしまうのは誰も止めなかったのかと腹立たしかった。
最後のプレゼントはなんだかホッとした。
どんどん繋いで欲しいと三ツ矢のことも考えながら思った。 -
Posted by ブクログ
自画像をメインに描く美大三年生の小滝英哉は、教授からあるアルバイトを頼まれる。それは学内の事故で亡くなった彫刻家四年生・樺沢穂香の両親からの依頼で、亡くなった彼女の肖像画を描くというものだった。故人の穂香を知るため不可解な事故の原因を探ろうと小滝は関係者に話を聞く。そして、それ以前より、周囲から天才と呼ばれていた同級生で、小滝の恋人でもある宇野ひなたが行方不明になっていた。穂香は本当に事故死なのか、さらに、行方がわからないひなたには何があったのか…。
今回の岩井作品は、美大生の描く苦悩、事故死した美大生の死因、そして、恋人はなぜ行方を晦ましたのか?という、青春ミステリ的なもの。
絵の才能って、生まれ持ったものなのかなー、大変だよなーって感じで読んでいたら、ひなたの姿を消した理由がわかり、最後には穂香の死の真相とキーパーソンとなる謎の青年リュウについてわかってくる。
明るい雰囲気は一切なく、美大生英哉の苦悩ばかり。
ひなたと英哉の未来のためには、あれはアレでよかったのかもしれないけど、なかなか難しい選択だったな。そして、ほんのちょっとだけ、明るい未来があるような終わり方には救われた。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ言葉を用いて会話をすることが苦手な青年。
そんな彼が得た会話をする術はボクシング…?
と、読み始めて驚きました。
いじめられた過去を持つ青年。
よくある話で大人になっても変われない、もしくは復讐するでもない。
自分が会話できる方法を見つけて、自分のために生きる遼馬。試合として勝つ前から、すごく人間として勝っている人だと感じた。
自分が選んだ方法で、周りと会話をする。それだけではなく、会話を通して強くなっていく。踏み躙られた過去を、あっという間に追い抜かしていくように成長していく姿に胸が震えました。観たこともしたこともないけれど、このボクシング小説に夢中になりました。