岩井圭也のレビュー一覧
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がんの治療に役立つ「不老因子」を発見したという嘉山教授を題材にしたドキュメンタリーをを制作するため、撮影を始めた三田。しかしその途中で嘉山の研究不正疑惑を知る。母ががんに罹患したこともありがん研究の発展を願う三田は番組の制作に執念を燃やし、さらに調査を進めるのだが疑惑は増えるばかり。真実はどこにあるのか。
タイトルは「ドン・キホーテ」になぞらえたもの。信じることは真摯ともとれるし、愚かともとれます。たとえ真実と信じていたとしても、証拠がなければ事実にはならない。そんな中で嘉山の研究に疑いを持ちながら必死で撮影と取材を続ける三田の姿がとんでもなく危うく感じました。何事も知りたいという「しつこさ」を持つ彼女はこういう仕事に向いていそうなのだけれど、のめり込み方が本当に怖い……。
しかしこのラストは、彼女にしか選べない結末だったと思います。たしかに彼女には、この仕事以外ありえないのかもしれません。 -
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ネタバレ語学学校で学んだ時の知り合いに、このお話の舞台になった返還前の香港を案内してもらったことがあった。林立する高層ビル群の中を、カイタック空港に降り立ち、物理的な制約の中で、人間がやりたいことをなんでもやろうとするとこんな社会になるんだなあと圧倒された。
しかしただの観光客という立場で、日本好きな友人に案内されながら見た香港の街が、まったく表層的なものだったんだなあということを、本書を読んで感じさせられた。
反日的な感情や、その根っこにある日本がやってきたことについての無知だけでなく、この島に渡ってくる移民たちがどんな生活をしているかといったことも想像力に欠けていた。
作者がこの時期の香港をテーマにしたいと思ったのは、とても共感できたし、出てくる登場人物の一人一人が、それぞれの社会的な位置に応じて、いかにもという感じでつくられているのも、ドラマをとてもわかりやすくしてくれていた。それぞれの立場でそれぞれに動いているのに納得させられた。それらの人物をこのように配して、複雑なストーリーをまとめきった力に感服した。
ただの留学生にすぎない男の子が解決しようとする「個人的な問題」の背景に、こうした「香港返還問題」という大きな社会をいかにからませるかという部分はとても野心的な試みで、最後の落としどころもなかなか良かった。 -
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岩井圭也さん作品なので
手に取りました。
主人公は恐らく場面緘黙症で
声を出す能力はあるし
家庭では話せるのに
外では言葉が出てこない。
辛い子供時代を過ごし
ひっそりと影のように生きている青年、遼馬。
そんな遼馬がボクシングと出会う。
「話せなくてもボクシングは出来るから」
その言葉に支えられ
地道な努力を積み重ねて
遼馬の人生が徐々に徐々に変わっていく。
ボクシングの知識はあまりなくとも試合の臨場感がすごくて、手に汗握りながら一気読み。
ボクシングは拳による対話。
こう書くととてもスマートでかっこいいー感じだけど、
そこは血みどろで、倒されてもすぐ起き上がり、敗ける恐怖、死ぬかもしれない恐怖にもがき苦しみながら辿り着ける場所でした。
しかし拳による対話なら
サクチャイだけでなく
対戦相手の廣瀬や小磯の事も
もっと掘り下げて欲しかったかも。
愚直に努力する遼馬が報われるラストがなんとも爽やか。
勝ち敗けではない。
どう戦ったか。
全力を尽くせたか。
「ぼくはここにいる」と思えたか。
派手な大勝利などなくても
静かな感動がしばらく余韻を引く。
岩井圭也さん。やっぱり好きだなぁ。 -
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若手ディレクターの三田紗矢子は、「不老因子」の発見で脚光を浴びるがん研究者・嘉山宗弘教授を追うドキュメンタリー番組『十一時の肖像』の撮影を始める。
だが、嘉山教授の研究不正疑惑に辿り着き…。
捏造、疑惑、虚構のなかで、真実を見つけるのは至難の業であり、そのために何をしたのか…。
そして…。
母が乳がんだったせいか、三田の嘉山に対する思い入れは熱く企画が通ってからは、全力投球で撮影に挑む姿は凄さを感じるのだが、不正を知ると一転する態度や自分だけが正しいと思い込み、他の人を蔑むような性格に嫌悪を感じた。
最後は潔さを感じたが、それでも自分をこういう形で見せるという態度は、やはり好きになれないタイプだった。
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この本を読んで一番心に残った言葉は、「真理」でした。
読みながら何度も思い浮かんだのは、『鋼の錬金術師』に登場する「真理の扉」です。真理とは、ただ正しい答えではなく、人を飲み込んでしまう魔物のような存在なのではないか、と感じました。突き止めたいという強い思いは、人を前へ進ませる一方で、その人の人生そのものを変えてしまう危うさも持っています。
真理に取り憑かれてしまった人は、孤独になるのではないでしょうか。人間らしい生活や人とのつながりよりも、真理だけを求め続けることで、人間として生きることが難しくなってしまうのかもしれません。それでも真理があるからこそ、新しい発見が生まれ、人類は前へ進んでいく。その矛盾が、この物語には描かれていました。
また、真理に最初にたどり着こうとする人だけではなく、その後に受け継ぎ、理解し、証明してくれる二人目、三人目の存在がいてこそ、真理は完成していくのだとも感じました。
主人公・暸司は、ただ純粋に数学が好きな人でした。周囲から才能を認められ、「一番だ」と期待されながらも、「あと一歩、不完全だ」と告げられたことをきっかけに人生が大きく変わっていきます。数学だけを追い求め、お酒に溺れ、人とのつながりを失っていく姿は、とても切なく映りました。
それでも彼は、数学に人生を奪われた人というより、「数学に愛された人」だったのかもしれません。唯一心を通わせられた熊沢という存在がいたことだけが、彼を人間につなぎ止めていたようにも思えます。
真理を追い求めることは美しくもあり、同時にとても危うい。そのことを考えさせられる、読後もしばらく余韻の残る一冊でした。 -
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とっても興味深い一冊
物語としてはとっても面白かったし
起こった事件がどういう風にキャラクター達に関係していくかとか
考えながら読んでいくのも楽しかった
ただ医療に関しることだけはどんなタイプの小説を読んだとしても難しい…
このお話もしかり…
ただ扱っている題材が人の倫理に関することだったから
現実の中に落とし込んでしまうと
ただただ物語として楽しんでいることに複雑さを感じることも…
マリクとアーロンの関係が少しづつ変わっていく様子とか
事件に関わっていくごとに上からの圧力とか自分の力だけではどうしようもないこととか
感情移入して読むというよりは第三者的な目で読んだ
私にしては珍しいお話だかなと思う
アーロンの最後の選択は
人それぞれだから
良かったとも悪かったとも言えないけど
マリクはもちろん
アーロンにも幸せになってほしいと心から願う -
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「永遠についての証明」の岩井圭也さんの作品。
天才的な頭脳を持ちながら、「知識欲」と「世間」との間で苦悩する南方熊楠像を描きだす。
「永遠についての証明」の主人公も同じように特性を持ちながら、「世間」との戦いに負けてしまったが、この南方熊楠は周囲に支えられてなんとかギリギリもちこたえた。
それでも大事な集会に酔っ払って殴り込むとか「なんでそんなことするの!」と松枝婦人に代わって怒りたくなる。
とにかく南方熊楠の行動が奇々怪々すぎて、丁寧に書けば書くほど現実感がなくなってしまったのが残念。
こんな人におすすめ↓
☆博物学や民俗学に興味のある人
☆和歌山県に縁のある人
☆脳の特性がある方が自分や身内にいて、悩んでいる人 -
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犯罪を犯した少年たちが、家庭裁判所で審判を受ける際に、その権利を擁護、代弁する付添人。
付添人の朧太一は、少年少女に寄り添い生活や将来へのサポートをしていく。
子どもの犯罪は奥がとても深く複雑で、一筋縄ではいかないものが多い。家庭環境や学校、職場などの人間関係を表には見えない部分まで探り出していく姿は圧巻だった。
朧自身も過去に毒親の指示で少年院へ入っていた経験を持っていることが、付添人として子どもたちを救いたい気持ちに繋がっている。
そして、子どもたちを救いの手を差し伸べることで、過去の自分自身を救ってもいるのだろう。
子どもとはいえ、犯罪を犯した罪が許される訳ではないけど、成人してから大きな犯罪を犯さないように、人生を崩してしまわないように、付添人の存在はこれからの世の中の大きな支えになるだろう。
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『パパたちの肖像』は、父親を主人公にした短編集です。育児の喜びや苦労を描いた作品集ではありますが、読んでいて強く感じたのは、「家族の幸せの形は様々、一般論では語れない」ということでした。ノウハウでは語り尽くせない生々しさに心揺さぶられます。
特に印象に残ったのは「息子の進学」です。
父親は、豊かな暮らしや便利な都会での生活に価値を見出してきました。一方で息子は、収入や効率よりも、自分が本当にやりたい研究の道を選ぼうとします。どちらが正しいという話ではありません。むしろ、親子であっても見ている世界が違うこと、そして父親が息子の価値観を理解しようとする姿に心を動かされました。
「髪を結ぶ」も忘れられません。不器用な父親が子育てに悪戦苦闘し、自分は父親に向いていないのではないかと悩みます。しかし子どもは、完璧な父親ではなく、一生懸命向き合ってくれる父親をちゃんと見ている。長所だけでなく弱さも含めて受け入れていることに心打たれます。
そして「そういう家族がそこにある」。共働きから専業主婦という選択をした家族が描かれますが、本作が教えてくれるのは「一般論では人の幸せは測れない」ということです。外から見ればリスクに見える選択でも、その家族にはその家族なりの理由と幸せがあります。
読んでいて何度も感じたのは、家族であっても相手の気持ちは完全にはわからないということです。それでも理解しようとすることはできる。価値観の違いに戸惑いながらも、対話を重ねていく姿がとても温かく描かれています。
パパの育児小説の目線から、家族という小さな共同体の中で、人がどう成長し、どう相手を受け入れていくかを描いた物語集でした。
子育て中の人はもちろん、親との関係や夫婦関係について考えるすべての人におすすめしたい一冊です。