伊藤典夫のレビュー一覧
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消火、ではなく、昇火士。
あらゆる本を焼き尽くす公務員。人々が余計なこと、例えば生きる意味とか、政治とか、戦争とか。を、考えないように。
そんな未来の反知性主義の極みのディストピアで、「事実の意味」を「考える」ことを知ってしまう主人公、昇火士モンターグ。
空っぽのつるつるとした表面的な楽しさでは、満たされない部分がある。何も聞こえない、何も話さない、何も映し出されない夜の森の闇のなかでだけ、満たされていくものが確かにある。
「書物は命の顔の毛穴をさらけだす。」
物語の冒頭に登場してすぐに消えてしまう少女は言う。「まじめな話のときでも笑うし、返事は間をおかずに出てくるし、わたしがきいたこと -
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本作は、もともと映画として構想された物語の小説版ということもあり、映像的なスケールの大きさと思想的な深さが同居している作品だと感じました。中でも強く印象に残ったのは、やはり HAL9000 の存在です。
日本では AI に「人間を超えた万能の存在」というイメージが根強い一方で、海外では「高性能ではあるが融通の効かない機械」として描かれることも多いように思います。HAL9000 はその両者を象徴するような存在で、人間以上の知能を備えていながら、プログラムされた使命ゆえに暴走してしまう。その姿は、AI の可能性と限界の両方を静かに問いかけてきます。
壮大な宇宙の描写と、人類の進化をめぐる哲学的 -
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ネタバレ気密性が高くタンクが空で食料等物資を米国から英国に輸送していたタンカーがUボートの攻撃により海底に沈む。その中で生存乗組員は、し尿ー豆(二酸化炭素ー酸素)の生態系を作り出し、子供、孫を生み、文化・技術を口承により伝えていく。一方破滅に瀕し、宇宙に乗り出したイルカ型宇宙人は冷凍睡眠の不具合により世代型移民船にならざるを得なくなる。
お決まりの通り宇宙人は地球を目指していたことがわかり両種族は戦争となるが、世代を超えた両者が種族の橋渡しをする。
「宇宙の孤児」、「ホーンブロワー」、「レンズマン」が引かれ、孫子には登場人物から名前がとられる。 -
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1953に書かれたディストピア小説
本を焼く仕事のファイアマン
本を読むのは法律違反
物事がどう起こるかではなく、なぜ起こるかを知りたがっていた。
事実については話さない。事実の意味こそ話す。私はここに座っている。だから自分が生きているとわかるのだ。
必要なものは、ひとつめは情報の本質。そしてふたつめは余暇、考える時間。3つめは、最初の二つの相互作用から学んだことにもとづいて行動を起こすための正当な理由。
テレビは「現実」だ。即時性があり、広がりもある。こう考えろと指示してがなりたてる。あまりに早く結論に持ち込んでしまうので、反論する暇もない。
テレビは人を望み通りの形に育てあげて -
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著者自身が戦時中に体験した「ドレスデン無差別爆撃」を基に書かれた、半自伝的長編小説。
SF小説であるが、昨今の小説でよくある近未来的な機械や怪獣が出てくるわけではなく、主人公の設定にSF要素が盛り込まれている。
作中に引用されている「ニーバーの祈り」からこの小説を知った。
久しぶりに読み返したくなり、再読。
異星人に誘拐されてから、主人公のビリーは自分の意思とは無関係に時間を行き来する「けいれん的時間旅行者」となった。
これによって、ビリーは地球人には考えつかない、いくつかの学びを得る。
例えば、
・今死んでいる者は過去の瞬間では生きており、その瞬間は常に存在し続ける
・未来の瞬間も過去と -
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ネタバレアーサー・C・クラーク氏の『2001年宇宙の旅』は、1968年にスタンリー・キューブリック監督による映画とほぼ同時に世に出された、極めて特異な成り立ちをもつSF作品である。その背景には、冷戦下の宇宙開発競争があり、アポロ計画が頂点に向かって進んでいた当時の高揚と不安が色濃く反映されている。人類が月を目指し、地球の外に「次なるフロンティア」を求め始めていた時代に、この作品は誕生した。科学技術の進歩への期待と、その一方で人間の倫理や意識はそれに追いついているのかという懸念――その二重性が本作の根幹をなしているように思われる。
物語の出発点となるのは、太古の地球に現れた黒いモノリスである。これは -
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ネタバレ月の裏側で発見された四角い石板「モノリス」が発した信号をもとに土星の衛星を目指す人類と、地球外生命体の初接触を題材にしたお話。
名前だけ知っていたHAL9000がどういうものなのか知りたくて聴いたが、状況が段々悪化していく辺りは想像より怖くて良かった。
「デイジー・ベル」が歌われたのはこんなやべえシーンなのかよと思った。
超性能の人工知能なのに、嘘を付こうとすると処理落ちでもするのかレスが遅くなるのがかわいい。
後半へ近づくにつれて段々と概念的な内容が多くなっていったが、自分の認識を越える何かを見てしまった場合、こんな感じの感想になるんだろうかなどと思った。 -
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ネタバレ
●死圏
○あらすじ
成層圏の外側に霊界があって死者がたむろしているとしたら、の世界。
アメリカが核をソ連に命中させるため、命中したことを確認するために成層圏の外側にUFOを飛ばしたことで、その霊界は発見される。
○キャラは何を欲しているか。
UFOに載った人は、死んだ妻を欲している。打ち上げ計画の最高責任者は、核をソ連に打ち込むことを欲している。計画に参加した科学者は、計画に対して自分が完璧な技術力を発揮したという事実を欲していて(つまり計画の成功)、途中からは霊界の存在の解明を欲している。
○感想
霊界の存在をどうやって博士たちに信じさせるか、のところが面白かった。傍にいる死者が誰 -
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作者が戦時中に体験した事実に基づいた半自伝的SF小説。戦争をはじめとする、作者が直面した目を覆いたくなるほど辛い体験の数々。そこから目を逸らすのではなく、「そういうものだ」と受け止め、それでも楽しかった瞬間を思い出して(あるいは、その瞬間を訪れて)前を向いて歩んでいきたい。そんなメッセージを感じる、とても素晴らしい作品だと感じました。
最近「歌われなかった海賊へ」を読んだばかりだったこともあり、精神的にキツいところもあったのですが、別の視点から戦争を知ることができたことは、貴重な読書体験がでした。
SF作品として見ると、小松左京「果しなき流れの果に」や、今敏の映画「千年女優」に近いかもしれ