【感想・ネタバレ】スローターハウス5のレビュー

あらすじ

主人公ビリーが経験する、けいれん的時間旅行! ドレスデン一九四五年、トラルファマドール星動物園、ニューヨーク一九五五年、ニュー・シカゴ一九七六年……断片的人生を発作的に繰り返しつつ明らかにされる歴史のアイロニー。鬼才がSFの持つ特色をあますところなく使って、活写する不条理な世界の鳥瞰図!

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Posted by ブクログ

随分前になるけど、これ読んだあと、東欧あたりを旅したときに、ドレスデンを訪れた。とても美しい街だった。教会の戦争を伝える傷跡なども見学したなぁ。

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2025年04月20日

Posted by ブクログ

ごく稀に、ほんとうに元気…というよりも逆に追い込まれているのか、いまここに生きていることを実感するために、どう生きるか考えるために、生きること、死ぬことを描いた小説を、無性に読みたくなるときがある。(とても傲慢な感覚なので、言葉にするのがとても難しいです。ご不快に思われたら申し訳ありません。)

イトルと、そのタイトルの由縁、戦争、捕虜、ドレスデン大空襲、それを描いたSF小説。

あらすじを読んで、このテーマがどう絡み合うのかがずっと疑問だった。ずっと読んでみたかったけれど、読むとくらってしまう性分なので怖気付いて敬遠していた。でもふと、読みたくなって手に取った。

戦争がはじまったとき、あなたはまだ子供だった。戦争で犠牲になるのはいつも子供達。第1章でメアリの語る憤り、そして「ジェノヴァの善良な人びと、万歳!」
善良な人びと、万歳。愛すべき隣人たち。
すべてが失われた焼け跡で鳥がいう。
何度も何度も、この部分を読み返してしまった。

ドレスデンの大空襲は、ケストナーの戦争日記にてお母さんからの手紙で出てきたような気がする…

とにかく、ありのまま 自分の手で 試行錯誤しながら…悩み抜いて…でも時に軽やかに… そんなふうに書かれていて、読んでいてなんだか、ふわふわと気持ちが軽くなるシーンや、ビリーの感情に呼応して泣き出してしまうシーンや、なんとも滑稽ですこし笑ってしまうシーンや,切なくて寂しい、でも永遠なんだ、と安心するようなシーンが
痙攣的に訪れて。なんだかよくわからないんだけれど、とても、読めてよかった、と思えた。
"そういうものだ"と繰り返されることばは、
諦めのようでいて、不条理なようでいて。軽やかなようで、ずしんと重く響くような。
起きたことなんだ、そういうものなんだ、そこに、やるせなさを感じるということは そういうものだ、と理解しようとしているようで、ぜんぜん納得できていないように感じるのだ。
日々感じている不条理さ、不甲斐なさと、実際にそのことが自分の身の回りではじまった その時に自分はどう生きるのかどう振る舞えるのか、そういうことを日々考えている。そういうことを考えて気が滅入ったり、落ち込んだりする私に、ビリーが、ヴォネガットが、寄り添ってくれた。そう、そう思えた。

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2025年03月23日

Posted by ブクログ

ビリー・ピルグリムは検眼医
彼はけいれん的時間旅行者で、つぎの行先をみずからコントロールする力はない。したがって旅は必ずしも楽しいものではない。人生のどの場面をつぎに演じることになるかわからないので、いつも場おくれの状態におかれている、と彼はいう。

そんなビリーはトラルファマドール星人に拐われ、トラルファマドール星で動物園に入ることになる。

そして人生のなかばを過ぎるころ、トラルファマドール星人から助言を受けた。「幸福な瞬間だけに心を集中し、不幸な瞬間は無視するように、美しいものだけを見つめて過すように、永劫は決して過ぎ去りはしないのだから」と。

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2025年02月04日

Posted by ブクログ

決してわかりやすい物語ではないのだけど、まるで水を飲むようにスーッと入ってくる。そんな文章だった。
トラルファマドール星人の時間感覚を受け入れられる人はスーッと読めると思う。
その時間感覚ゆえの世界の捉え方、「そういうものだ」と全てを一時的なものとして受け流していく生き方は、地球人の感覚からすれば投げやりにも見える。
それでも、数えきれない不条理が、トラルファマドール星人のフィルター(ビリーは地球人だけど)を通して語られることで、一種の癒しを得た気がした。

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2024年11月18日

Posted by ブクログ

ヴォネガットの半自伝的名作。
ありとあらゆる理不尽を「そういうものだ」と一言で言い表すセンスに脱帽。
戦争を肌で体験している人にしか描けない境地。

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2024年01月04日

ネタバレ 購入済み

過去と今

カート・ヴォネガットは自身が体験したドレスデン爆撃をもとに、この小説を執筆したらしい。
自身で体験されたことあって、表現は、生々しく、そして、ユーモアに書かれている。

ただし、物語として見ると、少し味気ないのかなと思う。
同じ作者の作品のタイタンの妖女の方が、ストーリーとしては好きだ。
場面がコロコロ変わるのだけど、そこまで印象が残るような、物事は起きないから、多分味気ないと感じたのだと思う。

トラルファマドール星人は4次元の目を持っていて、時間を自由に行き来することができるという。
だから彼らは宇宙の終わりも知ってるし始まりも知っているそう。
主人公も、作品中人生の時間の枠で、様々な瞬間を旅するのだけど、あれは思い起こしているのか、実際にその瞬間に行っているのか、わからなかったのだけどどっちなんだ?

トラルファマドール星人は宇宙の終わりを知っているけど、誰も止めるつもりはないらしい。
トラルファマドール星人はそれを受け入れているのか、だから主人公も旅するけど、結局同じ事をその時するのか、よくわからない。

もう一度読んでみると思う。
そうすると色々わからなかったこともわかるかも

最後に僕はこの文を見た時、少し感動した。
神よ、願わくば私に、変えることのできない物事を受け入れる落ち着きと、変えることのできる物事を変える勇気と、その違いを常に見分ける知恵とを授けたまえ。
変わるのは、想像以上に難しい。
多くの人の悩みだと思う。
だから皆、自分の生まれた時の才能や、自分の問題を人のせいにするのだと思う、
主人公のように僕達も変えられないことを受け入れて、変えることのできる事を今変えていくことが大事なんだなと読んでいて思った。
ありふれた哲学本に書いてありそうな、
内容の感想になったね。

#感動する

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2023年07月23日

Posted by ブクログ

人間の自由意志を否定したくなるほどの大量の死をもたらす戦争をトラルファマドール星人式の世界認識で追体験する。彼ら曰く全ては同時に存在しており、死は一時的なものなのである。

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2022年11月12日

Posted by ブクログ

ネタバレ

SFというより本気の戦争小説でした。
翻訳なので実際の文章はわからないけど、ただ少なくともこの文章は読みやすくて良かったです。さりげなく散りばめられた目を引く文章の数々。ヴォネガットの場合は、美しいとか迫力がある系よりも含蓄に富んだ文章で、言葉のゆるい空気以上に直接的に語りかけてくる。異星人、時間跳躍、第三者視点(人称)。体裁だけ見たら特殊でいざ思い起こすと複雑多岐に渡る内容なのに、それを簡潔に読ませようとする作者の力量が凄い。現実の物事を語る上で非現実の目が巧く作用しておりSFだから伝わるモノもあることを思い知らされた。加えて全体的にブラックユーモアのある文体が悲壮感を増します。

主人公のビリーは不条理作品に相応しいくらい流されやすい。その彼が後半で「私はドレスデンにいた」とはっきりと明確な意思を持って発言する場面は深く印象に残りました。あとこの少し前にエドガー・ダービーというハイスクール教師が自身の戦争観について語り『しかしいまダービーは、ひとりの人間であった』と第三者視点で評する部分、この小説の中でも強いくらい意思を感じさせた。飄々とした文体の中にあっても、作者が力強く訴えたいこと伝わりますね。あるいは全体として堅苦しくないからこそ際立って印象に残るのか。どこまでが計算ずくか計り知れない。
読んだ後、しばらくしてふと目を閉じて思い起こす、そんな味のある作品。

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2021年10月02日

Posted by ブクログ

『タイタンの妖女』に引き続き、ヴォネガット二作目。こちらも私にたいへん刺さる作品で、これは作家読みするやつだな...という気持ち。笑い(というか朗らかさともいうべきか)もありながら、戦争をこう切り取るのかと、面白かった。実際に体験した人の感覚としてこういうのもあるのだろうというのが、しっとり伝わってきた。人生は不条理であることを、柔らかく受け止めるというか。そういうものなんだろうなあと、ひしひし。広島の記述には、む、と思ったけど、そこは訳者あとがきでケアされているので最後まで読んで落ち着いたし、やはり反射的にむと思う自分がいるんだなと認知したのもなかなかの体験だった。
そして私は最後の一文を、最後に読むのが大好きなのですが(私の中で特に刺さっているラスト・ワンセンテンスは『天人五衰』だったりする)、もはや作者により第1章でネタバレされるのに笑うし、自分で最後読んだ時にそれでもグッときた、ヴォネガット好きだなあ。あえてこう表現するというのが大変上手い作家だ..

全然知らなかった/覚えていなかったのだが、村上春樹やテッド・チャンの作品でも言及があるそうで..たしかに村上春樹も同じく、同じキャラがクロスオーバーするものね、と、ラムファードさんやトラルファマドール星で思った。母なる夜の主人公やら、ローズウォーターなど、他作品キャラクターもいたそうで、ますます読んでみたいのだ。そしてこの本は原書でも読みたいなと強く思いました。

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2021年09月04日

Posted by ブクログ

久しぶりの再読。
カート・ヴォネガット・ジュニアの世界観が好き。淡白な語り口に、大きな出来事にさえ感情的になることがない。その平坦さと、その時々の状況の悲惨さとの対照的な文体が、その物語から浮かぶ情景をより強く刻んでくる気がする。

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2020年11月27日

Posted by ブクログ

私にとって、文学的美しい作品を読みたいなら、
カートヴォネガットになることを確信させた作品になったと思う。

もちろん、ヴォネガットの作品は読んだ後に、自身に何が残ったのかを答えることは難しいが、作品を通して非日常的のようで日常の中にある世界を読者に見させてくれていると思う。

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2025年10月22日

Posted by ブクログ

人生すべての出来事がパッケージされ、並列で同時に存在するとしたら、そこに何か意味を見いだせるのか。意味を見いだすことに意味があるのか。残るのは圧倒的な諦観、あるいは禅でいう「空」。ユーモアだとすれば苦みしかないブラックユーモア。

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2025年08月23日

Posted by ブクログ

著者自身が戦時中に体験した「ドレスデン無差別爆撃」を基に書かれた、半自伝的長編小説。
SF小説であるが、昨今の小説でよくある近未来的な機械や怪獣が出てくるわけではなく、主人公の設定にSF要素が盛り込まれている。

作中に引用されている「ニーバーの祈り」からこの小説を知った。
久しぶりに読み返したくなり、再読。

異星人に誘拐されてから、主人公のビリーは自分の意思とは無関係に時間を行き来する「けいれん的時間旅行者」となった。
これによって、ビリーは地球人には考えつかない、いくつかの学びを得る。
例えば、
・今死んでいる者は過去の瞬間では生きており、その瞬間は常に存在し続ける
・未来の瞬間も過去と同様に存在し続けるため、彼には未来を変えることができない
などである。

ビリーはまるで記憶がフラッシュバックするように、過去へ未来へとタイムトラベルを繰り返す。
そして、その間に起こる出来事が、ただ事実を並べるように淡々と書き連ねられていく。
その間に多くの人が死んでいくが、ビリーはただ「そういうものだ」とつぶやくだけである。

一種の諦めに満ちた視点から綴られる物語。
これが、この著者独特の戦争の描き方なのだと感じた。

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2025年07月24日

Posted by ブクログ

ネタバレ

カート・ヴォネガッド・ジュニア、
そして訳者の伊藤典夫さん。
どちらのファンになったのかわからないが、とにかく読みやすい!
そして訳し方が好き。
扉の紹介からまずやられた。
著者が自分のこの本について紹介をする部分があるのだが、
“この本は物語形式を模して綴られた小説である。”の後に“ピース。”とある。
現在ご存命で81歳になられる伊藤さんの訳し方がとにかく読みやすくすいすい入ってくる。

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2024年12月07日

Posted by ブクログ

作者が戦時中に体験した事実に基づいた半自伝的SF小説。戦争をはじめとする、作者が直面した目を覆いたくなるほど辛い体験の数々。そこから目を逸らすのではなく、「そういうものだ」と受け止め、それでも楽しかった瞬間を思い出して(あるいは、その瞬間を訪れて)前を向いて歩んでいきたい。そんなメッセージを感じる、とても素晴らしい作品だと感じました。

最近「歌われなかった海賊へ」を読んだばかりだったこともあり、精神的にキツいところもあったのですが、別の視点から戦争を知ることができたことは、貴重な読書体験がでした。

SF作品として見ると、小松左京「果しなき流れの果に」や、今敏の映画「千年女優」に近いかもしれません。異なる時代を旅しながら人生を見つめ直す面白さは独特の味があり、タイムトラベルものとして非常に優れた作品だと思います。

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2023年12月30日

Posted by ブクログ

SFであると同時に戦争小説。死の場面に必ず出てくる「そんなものだ」のフレーズ。達観したというより死に鈍感になってしまう怖さ。主人公が戦前、戦中、戦後と絶えず時間を行き来することで戦争の愚かさが強調されたような気がする。

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2023年11月18日

Posted by ブクログ

ネタバレ

 名作と言われる『タイタンの妖女』がさっぱり面白いと思えなくて、疎外感を味わっていたものだ。そこでもっと評価の高いものを読んで、それでダメなら本格的に合わないのだろうと随分前に買ったのをようやく読んだ。SF的な要素はあんまりおもしろいとは思えなかったのだけど、ドレスデン爆撃の現場で地獄を見た人がその様子を描写するためには、こねくり回して形にするしかなかったことがうかがえる。諦観や虚無感が満ち満ちている。相当なPTSDがあるのではないだろうか。こちらとしては平々凡々とした人生を送っており、圧倒的な現実に立ち会ったことなどない。

 人が死ぬたびに「そういうものだ」と差し込まれ、村上春樹の「やれやれ」みたいな感じがするが、シビアさは大違い。本人が死ぬ思いをしたり、数多くの死体を見てきた人の言葉は違う。

 そんな地獄を体験した人が描いたものとして『タイタンの妖女』を読んだらきっと違う味わいがあることだろう。そのうち読み返したい。

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2023年10月04日

Posted by ブクログ

SFをはじめて読んだ。めまぐるしく場面がかわるのに読みやすく、おもしろかった。生きるとか死ぬとかいうことをよく考えるので興味深かった。徹底的な「SO it goes.」にじわじわと打ちのめされる。本から離れ現実世界に戻ると不思議な余韻がつづく。こんな体験ははじめてです。

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2023年07月08日

Posted by ブクログ

ドレスデン無差別爆撃の話。


ビリーが第二次大戦における米軍爆撃機隊の活躍する深夜映画を逆向きに観て、負傷者と死者を乗せた穴だらけの爆撃機が逆向きに飛び立ってゆき、爆弾や銃弾を吸い込み、新品に戻り、軍需工場で解体され、鉱物になり、それをだれにも見つからない地中深く埋める、という一連の映画逆再生のシーンが切ない。




p. 33大量殺戮を語る理性的な言葉など何ひとつないからなのだ。


p. 44死んだものは、この特定の瞬間には好ましからぬ状態にあるが、ほかの多くの瞬間には、良好な状態にあるのだ。いまでは、私自身、誰かが死んだと言う話を聞くと、ただ肩をすくめ、トラルファマドール星人が死人についていう言葉をつぶやくだけである。彼らはこういう、
"そういうものだ。(So it goes. )"


p. 237 「まるで月の表面みたいだったよ」と、ビリー・ピルグリムはいった。
(略)
ひとつだけ明らかなことがあった。この市にいた人間は何者であろうと、すべて死を受容すべきだったのであり、いまそこに動くものは本来の計画の小さな手抜かりでしかないということだ。月に月人は存在してはならないのである。

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2022年03月12日

Posted by ブクログ

ネタバレ

栞を使わずに7日間かけて読んだ。栞を使わないので次にすでに読み終わった場所を読んでいることもあった。題名がピチカートファイブみたいでいいですよね。かっこいい。今思いついたけどプレオー∞の夜明けとも似てる気がする。あれも戦争の話だ。
戦争の話なんだよな。小説の存在するひとつの意味として後世に伝えるっていうのがあるとおもっている。僕がこれを読んで、ドレスデン爆撃について知ることができた。それはほんとうに大事なことだった気がする。

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2021年09月29日

Posted by ブクログ

普通、物語のはじまりが思い出からだったり、思い出がはさまれたりすると情緒がただようのである。が、この小説は「けいれん的時間旅行者」という思い出の進行、なんとも読者は不思議な気持ちにさせられる。

主人公ビリー・ピルグリムは現在、過去、未来を行ったり来たりしている「けいれん的時間旅行者」。そうなったのは戦争に召集され、襲撃を受け敗退、逃げ出した森の中で死ぬ思いをした時。

そこから過去に行くのだが、その過去が現在や未来へ続き、また現在へ戻るという複雑な経過。夢かうつつかまぼろしかということになるのだが…。

過去現在未来は一瞬、一生は一瞬。つまり、中国のことわざ「一炊の夢」、だから一瞬一瞬を大切に生きよ、東洋の思想でもある。

「そういうものだ。」はこの物語に繰り返される言葉。印象的だ。

声高ではない「反戦小説」を読むつもりだったが、人生の過ごし方を教示された。不思議なストーリーだ。そこがカート・ヴォネガットのSFたる所以なのだろう。

自伝的である戦争体験(第二次世界大戦)をSFのストーリーに閉じ込めてある。また、これより以前に書かれた本ともつながりのあるストーリーなのだ。

なお、

神よ願わくばわたしに
変えることのできない物事を
受け入れる落ち着きと
変えることのできる物事を
変える勇気と
その違いを常に見分ける知恵とを
さずけたまえ

この言葉に再び出会って感動。

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2021年09月13日

Posted by ブクログ

著者が体験したドレスデン爆撃がテーマ。スローターハウスとは食肉処理場のことで、旧日本語版タイトルは『屠殺場5号』となっていた。ヴォネガットらしくユーモアは散りばめられているが、決して楽しく明るい物語ではない。戦争という殺戮について語るためにはこのような形にならざるを得なかったのだろう。1章はこの本を書いた舞台裏のような話になっており、全体を読み終えた後に読み返してみるとより一層胸に来るものがある。「大量殺戮を語る理性的な言葉など何ひとつないからなのだ。」

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2021年04月04日

Posted by ブクログ

1945年2月。捕虜としてドレスデンにいたカート・ヴォネガットは、連合国軍によるドレスデン爆撃を目の当たりにした。長年その体験を小説にしようと考えてきた彼は、ビリー・ピルグリムという男を創造する。ビリーは同じくドレスデン爆撃を生き残ったが、帰国後にトラルファマドール星人に捕まって以来〈けいれん的時間旅行者〉となって、過去・未来の区別なくランダムに時空を飛び回ることになった。PTSDに悩まされる帰還兵の心理をSFに落とし込んだ反戦小説。


あからさまに兵士のトラウマからくるフラッシュバックを題材にした作品なので、「SF…?」と疑問符を浮かべながら読んでしまったけど、本文中に「二人とも人生の意味を見失っており、その原因の一端はどちらも戦争にあった。(略) 二人は自身とその宇宙を再発明しようと努力しているのだった。それにはSFが大いに役に立った」というくだりを見つけ、悲惨な現実に対してなにかフィクションが効用をもつのではないかという祈りのような物語なのだと思った。
特に印象深いのは、トラルファマドール星人との初邂逅を前にベッドを抜け出すシーンと、爆撃後のドレスデンの街を月面にたとえたシーン。どちらもSF的な書き方によって「宇宙の再発明」を試みるビリーとヴォネガットの思いが感じられる。そうした静かな場面が活きるのは、戦場での、あるいは戦後のアメリカ社会やトラルファマドール星でのスラップスティックめいたマンガ的な日々の描写のためでもある。トラルファマドール星人とのやりとりはナンセンスなコントのよう。
ヴォネガットはビリーを英雄にしなかった。作中唯一の例外は、のちに戦犯となるキャンベルに勇気を持って反抗したエドガー・ダービーだが、彼はティーポットを盗んで射殺された。ヴォネガットが戦争体験を“タフな男たちの物語”にしなかった理由はプロローグに記されている。そもそもヴォネガットがタフな男の話を書くつもりだったかはわからないが、結果としてこの作品は戦争の虚しさと人間の悲しみがひたひたと肌に感じられる稀有な語り口になった。ジェノヴァの善良な人びと、万歳!

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2020年09月13日

Posted by ブクログ

時間旅行できるってところが羨ましく思いました。この小説では「そういうものだ」「云々」がやたらと出てきますね。小説に出てくるトラルファマドール星人のクセなのかな。

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2025年11月28日

Posted by ブクログ

SF作品というのかなんと言うのか時空を飛んで時間旅行をするのですが、作者が実際に体験したドイツドレスデンでの爆撃による大殺略も描からています。と言っても、重く残虐に描かれているのではなく、他の部分と同じように淡々と感情も平坦に描かれています。全編そんな調子でいつの間にか最終ページの最後の文章に行きつきました。

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2025年08月13日

Posted by ブクログ

著者の戦争体験をベースに書かれた本書。

構成のアイディアが秀逸で、場面がコロコロ切り替わるため、戦争という重い緊張感に浸ることなく軽やかに内容を楽しめた。

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2025年02月07日

Posted by ブクログ

『So it goes.(そういうものだ)』の連発に嫌気が差した。せめて『Let it be.(あるがままに、そのままに)』にしてくれ!(笑)

爆撃自体による被害は広島・長崎の原爆や東京大空襲を上回ると言われるドレスデン爆撃を中心にした物語。事実をそのまま小説にしたのでは余りにも悲惨な話になってしまうので、今までの作者の作品群を絡めた、ちょっとコミカルなSF仕立ての物語になっている。ただ、どうなのか(!?) 舞台が目まぐるしく変わるので、自分には読み辛い小説だった。

巻末の解説にもあるが、放射能による後遺症は被爆者のみならず、その子孫にも及ぶ事もある。被害の大小を比べるものではないが「広島を上回る」は不適切な表現。1969年の作品で核兵器の恐ろしさを作者が知らない筈はない。

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2024年12月10日

Posted by ブクログ

四次元的に時間が入り乱れる奇妙な構成、淡白な登場人物、個人にはどうしようもない巨大過ぎる戦争。
無慈悲に襲いかかる死、希望、絶望、運命の全ては始めから決まっていたもの。So it goes. そういうものだ。
この強烈な皮肉は戦争の当事者しか描けないと思った。

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2024年05月23日

Posted by ブクログ

古典的なSFで、著者のヴォネガッドの実際の戦争体験が元になっているということだが、自分にその手の歴史的な知識がないため内容が良く理解できない。

ラスト近くの有名な一節だが、なぜ主人公がそう思うに至ったかが上手く飲み込めない。

自分にとっては読み進めるのが難しい難解な部類の本だった。映画化もされているということなので、映像で見れば多少はイメージが湧くか?

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2024年05月11日

Posted by ブクログ

SF小説と戦争ノンフィクション小説が融合したような作品。時間旅行と戦争実録が絡み合う。
ドレスデン爆撃については、全く知らなかったので、衝撃的だった。米兵の捕虜生活も壮絶で、作者の実体験を元に描かれたからこそ、具体的だ。
「そういうものだ」…多用されるこの言葉に諦めを感じさせる。
ビリーの虚無的な人生は戦争体験によるものなのか。
ヴォネガットがこの作品を描いてから何十年経つのだろう。いまだに戦争は無くならない。
愚かな行為を繰り返す地球人をトラルファマドール星人はどう見ているのだろうか。

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2023年12月23日

Posted by ブクログ

読書会課題本。奇想天外な展開と言えば、確かにそうだけれども、戦争によって多くのものを失う悲しみが、ひしひしと感ぜられる内容だった。時々挟まれるユーモアや繰り返される「そんなものだ」という台詞に、諦めのような感情が伝わってくる。戦争について色々と考えさせられた。

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2021年10月21日

Posted by 読むコレ

ドレスデン爆撃を経験した著者の半自伝的小説との事ですが、その意図に気付くまでは苦しめられました。
痙攣的時間旅行者なる男の物語で、過去未来を往来しつつ戦争捕虜や宇宙人の誘拐という体験を語るのですが、読み始めは混乱するばかり。
しかし次第に、辛い体験も「そういうものだ」と多くを語らない様子や、宇宙人視点より戦争を鳥瞰する様子から却って著者の受けた衝撃が伝わって来る様で、徐々に引き込まれる事に。
SF要素もありふれた戦争体験記で済まさぬという作者の執念を表現する要素という所か。
勿論初めて味わう読書経験。
世界は広い。

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2014年06月01日

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