あらすじ
主人公ビリーが経験する、けいれん的時間旅行! ドレスデン一九四五年、トラルファマドール星動物園、ニューヨーク一九五五年、ニュー・シカゴ一九七六年……断片的人生を発作的に繰り返しつつ明らかにされる歴史のアイロニー。鬼才がSFの持つ特色をあますところなく使って、活写する不条理な世界の鳥瞰図!
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
『スローターハウス・ファイブ』、または『子供十字軍』として知られる本作は、村上春樹が多大な影響を受けたことで知られるカート・ヴォネガット・ジュニアの代表作だということで手に取った。
はじめは「スローターハウス」を文字どおり「虐殺の館」と解釈し、大衆性の強いSFホラーを想像していだが、実際には、タイムトラベル等のSF的装置を用いて、諧謔的に、しかし現実的に、戦争における人の死という主題を鮮明に浮かび上がらせていく作品だった。
主人公ビリー・ピルグリムは時系列に反して時空間を生き来するため、場面ごとの関連性は薄いように感じられるが、その脈絡の無さが、本作の主題を考えるうえでの中立的な視点を与えてくれているのだと感じた。
その点で本作は、「多くの人が犠牲になるから戦争はいけない」といった分かりやすい理屈に収斂する反戦作品とは異なり、本質に立ち戻って戦争の実態について深く考えさせられた。
トラルファマドール星人の視点では、戦争は不可避なものであり、りんごが木から落ちるように、当然起こりうる現象として受け入れられている。人の自由意志に希望を見出し、それに抗おうとする試みは放棄されているようにも思える。これが著者自身の立場なのか、それとも反語なのかは、最後まで見極めきれなかった。
絶対的な悪人が存在しないはずの世界で、なお悪が実行されてしまう世界。著者本人が戦場で感じたリアルを描きたかったのだと思う。
最優先で解決すべき問題であるはずなのに、これほどまでに答えが見えない。ビリー・ピルグリムのように泣きたくなる。間違っていると分かる程度には賢くなったが、それを正すための賢さまでは与えられなかった。そんな哀れな人間を、さらに憐れんだ。
過去と今
カート・ヴォネガットは自身が体験したドレスデン爆撃をもとに、この小説を執筆したらしい。
自身で体験されたことあって、表現は、生々しく、そして、ユーモアに書かれている。
ただし、物語として見ると、少し味気ないのかなと思う。
同じ作者の作品のタイタンの妖女の方が、ストーリーとしては好きだ。
場面がコロコロ変わるのだけど、そこまで印象が残るような、物事は起きないから、多分味気ないと感じたのだと思う。
トラルファマドール星人は4次元の目を持っていて、時間を自由に行き来することができるという。
だから彼らは宇宙の終わりも知ってるし始まりも知っているそう。
主人公も、作品中人生の時間の枠で、様々な瞬間を旅するのだけど、あれは思い起こしているのか、実際にその瞬間に行っているのか、わからなかったのだけどどっちなんだ?
トラルファマドール星人は宇宙の終わりを知っているけど、誰も止めるつもりはないらしい。
トラルファマドール星人はそれを受け入れているのか、だから主人公も旅するけど、結局同じ事をその時するのか、よくわからない。
もう一度読んでみると思う。
そうすると色々わからなかったこともわかるかも
最後に僕はこの文を見た時、少し感動した。
神よ、願わくば私に、変えることのできない物事を受け入れる落ち着きと、変えることのできる物事を変える勇気と、その違いを常に見分ける知恵とを授けたまえ。
変わるのは、想像以上に難しい。
多くの人の悩みだと思う。
だから皆、自分の生まれた時の才能や、自分の問題を人のせいにするのだと思う、
主人公のように僕達も変えられないことを受け入れて、変えることのできる事を今変えていくことが大事なんだなと読んでいて思った。
ありふれた哲学本に書いてありそうな、
内容の感想になったね。
Posted by ブクログ
SFというより本気の戦争小説でした。
翻訳なので実際の文章はわからないけど、ただ少なくともこの文章は読みやすくて良かったです。さりげなく散りばめられた目を引く文章の数々。ヴォネガットの場合は、美しいとか迫力がある系よりも含蓄に富んだ文章で、言葉のゆるい空気以上に直接的に語りかけてくる。異星人、時間跳躍、第三者視点(人称)。体裁だけ見たら特殊でいざ思い起こすと複雑多岐に渡る内容なのに、それを簡潔に読ませようとする作者の力量が凄い。現実の物事を語る上で非現実の目が巧く作用しておりSFだから伝わるモノもあることを思い知らされた。加えて全体的にブラックユーモアのある文体が悲壮感を増します。
主人公のビリーは不条理作品に相応しいくらい流されやすい。その彼が後半で「私はドレスデンにいた」とはっきりと明確な意思を持って発言する場面は深く印象に残りました。あとこの少し前にエドガー・ダービーというハイスクール教師が自身の戦争観について語り『しかしいまダービーは、ひとりの人間であった』と第三者視点で評する部分、この小説の中でも強いくらい意思を感じさせた。飄々とした文体の中にあっても、作者が力強く訴えたいこと伝わりますね。あるいは全体として堅苦しくないからこそ際立って印象に残るのか。どこまでが計算ずくか計り知れない。
読んだ後、しばらくしてふと目を閉じて思い起こす、そんな味のある作品。
Posted by ブクログ
なかなか興味深い小説だった。
時間旅行は本当に忙しそうで、読んでいるこちらも場面が次々変わるので目まぐるしさはあったが、それがまた不思議な体験で面白かった。
戦争の描写などもリアルでよく、独特のテンポが作品のコミカルさを失わずに読者を楽しませ、そこに作者が体感したであろう光景が落とし込まれているため、感情が揺れ動き飽きる事がなかった。
宇宙人に囚われるシーンもSFの王道で面白く、その他のシーンもとても良かった。ふとした時に読むのがおすすめです。
Posted by ブクログ
カート・ヴォネガッド・ジュニア、
そして訳者の伊藤典夫さん。
どちらのファンになったのかわからないが、とにかく読みやすい!
そして訳し方が好き。
扉の紹介からまずやられた。
著者が自分のこの本について紹介をする部分があるのだが、
“この本は物語形式を模して綴られた小説である。”の後に“ピース。”とある。
現在ご存命で81歳になられる伊藤さんの訳し方がとにかく読みやすくすいすい入ってくる。
Posted by ブクログ
名作と言われる『タイタンの妖女』がさっぱり面白いと思えなくて、疎外感を味わっていたものだ。そこでもっと評価の高いものを読んで、それでダメなら本格的に合わないのだろうと随分前に買ったのをようやく読んだ。SF的な要素はあんまりおもしろいとは思えなかったのだけど、ドレスデン爆撃の現場で地獄を見た人がその様子を描写するためには、こねくり回して形にするしかなかったことがうかがえる。諦観や虚無感が満ち満ちている。相当なPTSDがあるのではないだろうか。こちらとしては平々凡々とした人生を送っており、圧倒的な現実に立ち会ったことなどない。
人が死ぬたびに「そういうものだ」と差し込まれ、村上春樹の「やれやれ」みたいな感じがするが、シビアさは大違い。本人が死ぬ思いをしたり、数多くの死体を見てきた人の言葉は違う。
そんな地獄を体験した人が描いたものとして『タイタンの妖女』を読んだらきっと違う味わいがあることだろう。そのうち読み返したい。