太田愛のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
老人は、渋谷のスクランブル交差点の真ん中で空をふり仰ぎ、蒼穹の1点を指差して絶命した。
その衝撃的な場面から始まる上巻は、それでもいつもの3人の快活な動きや会話で、クスッと笑えるような楽しさも含まれた。
けれど下巻で真相が明らかになるにつれ、それは読み進めるのも耐え難いほど、過酷な地獄があった。
戦争とは、お国の為と戦い抜いた尊い命を奪い、残された家族の命も奪い、そして奪わなければならない立場の人たちの心を奪った。
今まで生きた70年近くの人生を全て捨ててでも、立ち上がらなければならなかった老人たち。
その時代を真摯に生き抜いた人たちの壮絶な覚悟がそこにはあった。
凄すぎて心が震えた。人はなん -
Posted by ブクログ
ネタバレ面白いと評判の太田愛さんの作品。初めて手に取ったのだけど、とても面白かった。
とても分厚く、非正規や労組などといった内容で読めるか不安だったけれど、思っていた以上に読みやすかった。
いきなり警察に逮捕されそうになる矢上達。
何をした罪で?と思って読み進めると、まさかの共謀罪。
非正規で雇われ夢も希望もなく、日々生きるだけで精一杯の若者が周りの老人達から知識を与えてもらい現状に疑問を覚え、法律に則って労組を作って労働者の権利を行使しようとした事が逮捕に繋がるなんて!
どのキャラクターも魅力的で、一気に読んでしまった。
別の本も読んでみたいと思う。 -
Posted by ブクログ
トゥーレがずっとヤヤトゥーレで、アフリカの話か? 全然違った、社会風刺強めのダーク・ファンタジー。ある町に蔓延る感情を、被差別者(羽虫たち)がそれぞれの立場から情緒たっぷりに描く。失われた記憶を追い求めた者、変革を試みて死んだ者、使命のために出て行く者がおり、最後には町全体が崩壊に至る。語り口は皆生き生きとしているのに、ぽつぽつと灯る希望の光が容赦なく消え失せていく展開は絶望そのもの。狂人と見做された女はひっそりと息絶え、母は自分の死と引き換えに息子の尊厳を守り、全てを見てきた魔術師は死者と会話する。戦争や人の悪意で多くの移民が死に、生き残った者がその業を背負う、そんな構図が常にある。
トゥ -
Posted by ブクログ
太田愛さん。渋谷のスクランブル交差点で老人が白昼亡くなり、それがテレビ中継された。鑓水のもとにその老人が最後に指差したものは何かと
いう依頼が舞い込む。また相馬は失踪した公安刑事の捜査を任される。その刑事は最後に母親のいる施設に来ており、そこは渋谷で死亡した老人のいた施設だった。鑓水と相馬と修司は捜査を進める。
上下巻で長いが一気に読んでしまった。老人のエピソードから鑓水のエピソードまで描写されており、登場人物の背景がしっかりしているのでとても共感できる。言論統制を軸にエンタメ感を損なうことなく書いてありとても考えさせられる本でもあった。三部作と聞いているのでこれが最後なのか、まだまだ読みたい