あらすじ
「わたしたちの過去も現在も未来も写しとられている。恐るべき傑作だ」(解説より) 翻訳家 鴻巣友季子
「最初のひとりがいなくなったのはお祭りの四日後、七月最初の木曜日のことだった」――
ここは〈始まりの町〉。物語の語り手は四人――初等科に通う十三歳のトゥーレ、なまけ者のマリ、鳥打ち帽の葉巻屋、窟の魔術師。彼らが知る、彼らだけの真実を繋ぎ合わせたとき、消えた人間のゆくえと町が隠し持つ秘密が明らかになる。人のなし得る奇跡とはなにか――。
社会派エンターテインメントで最注目の作家が描く、現代の黙示録!
高知市の「TSUTAYA中万々店」書店員、山中由貴さんが、お客様に「どうしても読んで欲しい」1冊に授与する賞、第4回山中賞受賞作。
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トゥーレがずっとヤヤトゥーレで、アフリカの話か? 全然違った、社会風刺強めのダーク・ファンタジー。ある町に蔓延る感情を、被差別者(羽虫たち)がそれぞれの立場から情緒たっぷりに描く。失われた記憶を追い求めた者、変革を試みて死んだ者、使命のために出て行く者がおり、最後には町全体が崩壊に至る。語り口は皆生き生きとしているのに、ぽつぽつと灯る希望の光が容赦なく消え失せていく展開は絶望そのもの。狂人と見做された女はひっそりと息絶え、母は自分の死と引き換えに息子の尊厳を守り、全てを見てきた魔術師は死者と会話する。戦争や人の悪意で多くの移民が死に、生き残った者がその業を背負う、そんな構図が常にある。
トゥーレはヤヤ・トゥーレではなかった。
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面白く、悲しい話でした。最初は??って内容だったけど、読み進めていくと紐解かれていった。ファンタジーな世界の話だけではなくて、現実世界をぎゅっと濃縮したそんな物語だと思う。
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どこかの街の物語、でもどこにでも起こってきたし、今も起こっているとても哀しい美しい物語でした。
最後の部分で、「人がより良い世界を願い、それを実現しようとする時、そこには長く困難な歳月が横たわっている。(中略)細い水の流れが集まって小川となり、それが河となり、やがて力強い大河となってついには海に至るように、それが実現する時には かつて奇跡として願われたものは、あたかも自然とそうなるべくして成就されたかのように見える。」
いまこうして暮らせているのは、百年以上前の人たちにとっては奇跡なんだろう。
当たり前に思って感謝も忘れてる私たちをみたら、彼らはなんと思うだろう。
でもきっと、アレンカやマリやコンテッサみたいに、思いっきり楽しく生きて!
って見守ってくれている気がします。
あらゆることに感謝を忘れずにいたいと思いました。
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太田さんの他作品を知っていると、この小説はおや?いつもと様子が違うな?と思ってしまうのだけれど、これは架空のヨーロッパを舞台に現在過去未来この世の中にあった/あるだろう歴史の出来事を描いているな、とわかってくる。同じ町に住む4人の人物の視点で語られていくけれど、話が進むにつれてこの町と人と世界のありようがだんだんリアルに浮き上がってくる感じがすごかった。
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「これは過去でも未来でもない、今だ。
目の前にあるのにあなたが見ようとしない現実だ。」
設定はファンタジーだけれど、「ファンタジー小説」でもなく「幻想文学」でもなく、現代をあてこすった、まさに「風刺文学」で、読んでいてひたすらに切実で、耳の痛い、寒々と恐ろしい内容だった。太田愛が小説を通じて投げかけてくるのは常に、「考えることを放棄してはいけない」ということ。
「戦争は結果にしか過ぎない。夥しい死は無数の人々の選択の結果、あるいは選択を放棄した結果、または、選択と思わずに同調した結果なのだ。」
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最初、現代日本が舞台じゃないのか…と敬遠していたが、読み始めると、さすが太田愛さんだ!ってなりました。オーディブルで先に『未明の砦』を聴いていて、それがちょっと合わなかったので、あまり社会派すぎるのも…と思っていたけど、多分『未明の砦』が合わなかったのは自分の問題に近すぎて、耳を塞ぎたい話題だったからかも知れない。民選が廃止されても、中央府に芸術や文化を統制されても声を上げなかった多くの人々と同じように。
他の方のレビューに「一冊かけて道徳の授業をされた気分」という言葉があったが、確かに説教じみているところはある。しかし過去も未来にも、現在にも通じる話であり、この作品が鳴らす警鐘に耳を傾けるべきであるとも感じた。テーマは『未明の砦』とほぼ同じであるのに、こちらでは素直に受け取れたのは、ファンタジーという体裁をとっているためだと思う。ディストピアが完成するまでの「始まりの町」の歩みを4人の語り手を通して丁寧に描いている。太田愛さんの描かれる人物はどの作品でも魅力的だが、本作でも遺憾無く発揮されている。ストーリーの関係上、嫌な奴が多い本作だが、語り手たちはとても誠実で不器用だ。そんな彼ら彼女らの人生の物語として読み進めるうちに、作者の主張も自然に受け入れることができた。
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巧みな状況設定のもと、一貫した理念のようなものが貫かれた素晴らしい作品だと思う。序盤は比較的静かに進行する物語も、中盤からレンジを広げジワジワとうねりを上げて迫る。架空の国、架空の町の出来事。だがそれは過去の、そしてすぐ先の日本の姿かも。差別が増幅し差別する側される側に二極化する社会。そして戦争へと向かい支配を強める国に対し、諦め抵抗もせず従順になる事の愚かさ、家族や仲間を失う事の哀しさ、戦争の愚かさを真っ直ぐ訴えかけるラストは見事と言うほかはない。こういう本を読む人々が増えれば、少しは社会も変わるかも。
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正直ファンタジーっぽいお話って苦手で、途中で無理かもと思ったけどこれはすごい!
生まれがこの土地でない者を羽虫と呼ぶ
そんな羽虫を母にもつ男の子
褐色の肌を持つマリ
人が吸って捨てた葉巻を集めてタバコを作り貧乏人に売る葉巻屋
街の人に詐欺師と思われている魔術師
この4人がそれぞれの目線で語ったとき、なぜか起こっていることが現代のリアルと共通する!
初めてファンタジーっぽいお話でのめり込むほどおもしろいと思えました!これは好き!
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著者の「犯罪者」からの3部作は、ミステリ系の極上のエンタメだったが、これは作風が違う。
異国情緒のある導入部で、ファンタジーなのか何か、最初の40ページほどは物語の全体像が見通せずとまどったが、一人の失踪発生後は物語に引き込まれた。
ミステリ好き、ファンタジー好きとか関係なく多くの人に読んでほしい。
登場人物一人ひとりの悲しみが伝わってきて、読んでいて切ない。でもそれだけの話ではない。読者に訴える言葉の力が強い。
読み終えても長く心に残る物語です。
Posted by ブクログ
社会派エンターテインメントの雄が贈る衝撃作
「わたしたちの過去も現在も未来も写しとられている。恐るべき傑作だ」(解説より) 翻訳家 鴻巣友季子
「最初のひとりがいなくなったのはお祭りの四日後、七月最初の木曜日のことだった」――
ここは〈始まりの町〉。物語の語り手は四人――初等科に通う十三歳のトゥーレ、なまけ者のマリ、鳥打ち帽の葉巻屋、窟の魔術師。彼らが知る、彼らだけの真実を繋ぎ合わせたとき、消えた人間のゆくえと町が隠し持つ秘密が明らかになる。人のなし得る奇跡とはなにか――。
社会派エンターテインメントで最注目の作家が描く、現代の黙示録!
面白かった。様々な現代の問題が組み込まれた寓話的な作品。架空の街を舞台にしてあるものの、現代に似通う思想や構造である点が良かった。
民主主義から衆愚政治になり、全体主義的な思想が蔓延るようになるのが、今の日本のようで、この作品の終わり方に通じるものがあるのでは、と思いゾッとした。しかるべき時に声を上げないと、この世界の人たちのように自ら人権といったものを放棄し、ディストピアに陥っていますのであろう。
また、羽虫と言われるような差別人種や伯爵といった上級階級の人がいることも今に似通っていて恐ろしかった。
Posted by ブクログ
ファンタジーというか、中世ヨーロッパの世界観なのに、中身が分かってくると、まるで現代社会、日本への警告メッセージ。
選挙に参加して、しっかり考える必要性を教えてくれます。
太田さんの作品で、そうがい、って読めるようになりました。
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久々の太田先生。
「犯罪者」シリーズが面白かったので、こちらも読んでみました。
作風がガラッと変わり、読み始めファンタジーのような感じだったので、ちょっと戸惑いました。
4章で出来上がっているのですが、1章ごと、語り手がかわっていき、謎が解けていく。
先が気になってしまって、ファンタジーなのも気になくなりました(ファンタジーが嫌いなわけではありませんが)
人が生きていくのは幸せだけではなく、辛いこと悲しいことも当然あって、その中で誰と出会い、過ごしていくのか…改めて考えさせられました。
Posted by ブクログ
まるで寓話のような雰囲気の中、とても難しく、美しい世界に浸ることができました。
その教訓も峻厳なもので、人間がいかに易々と流されてしまうものか、集団がいかに残虐になりうるかを説いているような気がします。また、それに抗おうとする知性がどんな目に遭うのかも。
最後に超越した視座から俯瞰してくれるのが唯一の救い。
改めて作者は、なぜこの作品を世に出したのか、巻末に解説もついていますが自分なりに調べてみて、みなさんの感想も読みながらもっと納得したいなと思います。
──人の手でなしうる奇跡は、破壊だけだ。
見事なまでに痛烈な描写です。
そういえば『ザリガニの泣く頃に』にも空気が似てるなー。似てないかな。
Posted by ブクログ
どこかの国のファンタジーの様なお話しですが、いえいえ、正に近い将来日本はこうなるというお話し。
選挙なんて行っても何も変わらない。政治家がちゃんとやってくれるだろうし、自分達には関係ない。なんていう大人が読んでも理解出来ないでしょうが、そんな事をしていると自分の子どもや孫が戦争する事になるのです。そして、気付いたら日本が無くなっている。だから選挙に行きましょう。そういうお話しです。
太田愛さんといえば、社会派!だけど、こちらはファンタジーっぽくなっていて、いつもと雰囲気が違うので、好き嫌いが分かれるかもしれないと思いました。
Posted by ブクログ
身分差別される移民の子が登場し、ダークなメルヘンという感じで読み始めたけど、実は今のまま目の前のことだけを見て生きていたら、こんなダークな未来がやってくるって寓話のよう。「法律や制度、教育の変更なんて自分には関係ない。偉い人達が上手くやってくれる」って思ってたらいつかそれらに縛られて、自分も大切な人も守られなくなる。今、正にそんな未来に向かっている。読み応えずっしり。
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羽虫(移民)達がしいたげられる架空の街でおこったことを、4人の目線で語る。
『レーエンデ物語』の一章かと思うようなお話。
太田愛さんの鑓水シリーズとはガラリと違うものの、
現状を楽な方へ選択していくとこうなっていくのだ、という『天上の葦』でのテーマを彷彿とさせた。
最後は涙が出そうだった。
Posted by ブクログ
太田愛さんの他作品と作風こそ違えど社会への警鐘という根本は一緒だと感じました
舞台は始まりの町、1人の流れ者が町から姿を消すことから物語は始まる
なぜいなくなったのか、消えなければいけない理由があったのか
「この町は根が傷んでいるんだ、もうずっと以前から。深い所から腐っているのに、みんな気づかないふりをしてそれを認めようとしない。」
Posted by ブクログ
有り得ないほどに有り得るかのような物語
悲しすぎて読むに耐えられない場面もあったが
それも含めてこの世のどこかで起こりうる現実
寓話的で引き込まれるストーリー展開は秀逸で
読み手の視点で考えさせる手法がすごい
Posted by ブクログ
テレビドラマの脚本を手がけ、「犯罪者」シリーズのノンストップエンターテイメントで唸らせてくれた太田愛さんによる、これまでの作品とは大きく変わった寓話小説。
ただし、そこはさすがにこの作者。寓話の根底には、現代社会が抱える課題が描かれています。
社会派エンターテイメントへと流れていく過程で書かれた作品なのでしょう。
とっつきにくいけど、2回読むと、この小説のプロットが実に巧みであることに気付かされます。きっと。自分は一回しか読んでませんが(笑)
Posted by ブクログ
2024-01-05
こう来たか…ミステリかと読み始め、今とは異なる架空の街でのファンタジーかと思いきや、ガッツリイマココを寓意した風刺小説。
この小説が炭鉱のカナリアでは無いことを祈るばかりです。嫌だから祈っただけじゃダメなんだってば。
Posted by ブクログ
この小説の舞台となる国も時代も明らかではないが、その中央集権的な統治が進んでいくところは幾つかの実在の国を思い起こさせる。氏名や地名からは東欧のような感じも匂わせるが、いつの時代だかの日本のようなところもあるし、あるいはこれからの•••
太田愛の痛快エンタメ作品とは趣きの異なる寓話のようなファンタジックな小説だが、独裁、腐敗、謀略、癒着といった闇の世界が見せて夢か現実がわからないような恐ろしい社会を描いた社会派空想小説といったところ。すでに発刊から数年を経ているが、今だからこそのリアリティーもあってスリリングな展開にドキドキした。政治に無関心だと今にこうなるよ、という警鐘が聞こえてくる。
Posted by ブクログ
これまで読んだ著者の作品のイメージとは、全く異にする小説なので、戸惑いながら読むことになった。
序章から始まり、4章で構成され、トゥーリ、マリ、葉巻屋、魔術師と、それぞれ異なる語り手が話を始める。
彼らの名前からはどこの国とも想像が付かず、彼らの住む町も「始まりの町」と呼ばれ、SFか寓話か、なんとも捉えきれなディストピアの世界が広がる。
この世界では、中央府の印が入った推薦本一色となり、その他の本は認められず、地下出版した秘密の印刷所は警察に急襲され逮捕されるという。逮捕者は中央府の矯正施設に送られるなんて、まるで北朝鮮か中国を思い起こされるが、この日本でもいつかはあり得るか。
政党間の憲法改正で、緊急事態条項とかが論議されている。こういった法律の危険な側面は、松岡圭祐著『高校事変』で語られていた。
底流にあるのは、やはり著者らしい現代への警世であり、話が進むにつれ、著者の警句というか現代及び将来を見据えた言葉が綴られる。
「強大な力の独占は災い以外なにものも生まない。だが人間は富も力も分け合うことを嫌い、可能な限り仲間内で独占しようとする。なかでも最も恐ろしいのは、力を持った悪人ではなく、力を握った愚か者たちだ」
「他者の尊厳のために闘わないと言うことは、自分の尊厳をも手放していくことよ。個々の尊厳は貧しく痩せたものとなり、おのずと命の単価は安くなる。それがどんな事態を招くのか、この町はいつかきっと知ることになるわ」
著者がこれまでの書で危惧する事態が、現実となる日が来るのだろうか。
Posted by ブクログ
「羽虫」と称され差別される異国民の人々。語り手の少年の母は羽虫として差別を受けていた。ある日母親が失踪し、少年を置いて逃げてしまう。しかし真相はもっと残酷で惨たらしいものだった。
日本ももしかしてこうなるのかと考えてしまう。
Posted by ブクログ
面白かったけど、風刺的な要素が多分にあってちょっと幻夏や天上の葦とは違う感じな?と思った。
地の民、羽虫とが混合する土地、世界観で選挙、習慣、因習、人種、政治制度等挙げたり、考えたりしはじめたらキリがないくらい。
考えることが多かった。
Posted by ブクログ
世界観に没入しにくい感じがしましたが、中盤以降から少しずつ没入出来ました。
羽虫と呼ばれ理不尽な差別を受ける世界、差別問題的内容を訴える話は、著者の報道の自由といった題材イメージを受けた作品「天上の葦」に近い感じを受けました。
深いけど救いが欲しかった
さすが太田愛さんです。
しっかり読ませてくれますが、カタルシスもなくただただ悲しいお話でした。
日本のお隣の国(将軍様のいらっしゃるかの国)の中でも一際貧しく住む場所も与えられず何をされても文句を言えない人たちにスポットを当てた、そんなイメージのお話でした。
救い欲しかったな。
ところで、BookLive!がアップデートされましたが「続きから読む」と言うただの嫌がらせ機能はなくなってないんですね。
鬱陶しいことこの上なし!です。
本当に残念。
Posted by ブクログ
天井の葦、にもあった
大きなうねりになってしまったらもう手遅れ、(意訳)ってやつ
それをより生々しく描いたような小説だと感じた。
現実にいま、起きていること。
だからこその救いの無さが私には少ししんどかった。
ただ、それでも集中して読ませるのは、さすがだなとも思う。
Posted by ブクログ
これまでの作者作品とは一変する描きぶり。最後には世の中を咎める感じなのは変わらないが、だとしたら今までの様に舞台を現実に近いものにした方が読みやすいかも。
作者作品は全作背景が細かいため、ファンタジー風にすると外国人作品の様になってしまう気もした。