これは、平氏ゆかりの者が語る、平氏側から見た歴史の真実。
『平家物語』に託された、勝者が語る歴史ではない、敗者の生きた歴史。
圧倒的な知見を持ち、情勢を判断し、人を従え、一族のみならずこの国の民の幸いのためにたった一人ですべてを背負って政を行う平清盛。
しかし、一族は決して一枚岩ではなく、台頭してくる反平氏の筆頭である源氏と平氏の間で暗躍する後白河法皇。
清盛亡き後、歴史は大きく動く。
清盛のあとを継いで平氏の棟梁となったのは三男の宗盛だが、事実上の棟梁として戦を組み立てたのは、「相国最愛の息子」と言われた、四男の知盛。
この作品は、知盛視点で語られる平氏の滅亡の話だ。
各章の頭に『平家物語』の作者が琵琶法師にそれを口伝えで伝授するシーンがある。
誰にも語ることができなかったはずの知盛の思いを物語に込めたのは誰か。
考えられるのは、知盛が死んでいなかった場合。
または幼いころから知盛を慕っていた、平教経(たいらののりつね)か?
しかし、彼のイメージとは大きく違う。
知盛の子ども…はまだ幼くて、父の心の奥底までを知り得るのは難しかろう。
奇をてらうのなら、妻の希子だ。
当時の夫婦のありようからしたら、尋常ではないくらいよく語り、わかり合えている夫婦なので。
歴史上の事実は買えていない。
どんなに奇想天外な戦であろうと、それらは事実として歴史書に残っている。
その中で、どれだけ知盛は平氏の劣勢を立て直そうとし、世の平穏を作り出そうとしたのか。
彼の、そして清盛の狙いは、平氏、木曽義仲、奥州藤原氏が三つ巴となって膠着状態を作ることによる平和。
今村翔吾は、歴史上凡庸と言われたり悪党と言われた人に、違うスポットライトを当てるのが好きなのだろう。
読みやすい文章、意表を突いた人物像、丁寧な歴史分析。
それはとても面白いのだけれど、私が読んだ限りでは毎回このパターン。
エンタメ系歴史小説の第一人者であることは認めたうえで、もっと重厚な作品も読んでみたいと思うのは、わがまますぎるだろうか。