辻堂ゆめのレビュー一覧
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1964年と2020年。それぞれの時代で東京オリンピックを迎えようとしていた華やかさが時代の陽だとしたら、その陰で生きる人の生きづらさと、そこからの解放を描いたのがこの小説だと思います。
話は二つの時代を並行して描きます。2020年のパートは高校生の娘と認知症の母を持つサラリーマンの泰介が語り手となります。
この泰介がまあ、好きになれない(笑)。認知症の母親に対する態度も、お義母さんを介護している妻に対する態度も横暴だし、仕事も60手前にして慣れない部署に異動させられたのは同情するけど、そこでの勤務態度も褒められたものじゃない。
今時の困ったおじさん、そのものというか、こんな語り手で読み進められるのか、と序盤は思いました。
一方の過去パートは泰介の母・万津子視点で話が進みます。九州の大家族の家から集団就職で東京に出てきて、紡績工場で働いていた万津子。そんな彼女のもとに地元から条件のいいお見合いの話が舞い込み……
現代パートでは、認知症の母、ぎくしゃくした妻や娘との関係、上手くいかない仕事や職場といった、現代の生きづらさが、
そして過去パートでは、夫や家制度に縛られた特にこの時代の女性の生きづらさや苦難が焦点として当てられます。
万津子がつぶやいた「東洋の魔女」という言葉。そして、認知症を患いながらも決して息子に明かそうとしない過去。この謎が母と息子、それぞれの時代の生きづらさがほぐれていくとともに、明らかになっていきます。
現代パートの泰介の態度と、そして過去パートで万津子が夫や子育てに悩み、そして家族にすらも疎まれていく苦難が、なかなかしんどくて読み進めるペースが上がってこないところも多かったのですが、そこが鮮やかに転換していってからは、そこを耐えて読んだかいがあったな、と思いました。
泰介の態度や心理の意味も、後半の事実が明らかになってみると全然意味が違って見えてくるし、万津子パートの終盤で、子どもへの愛や希望を抱く描写も、キラキラと輝いているように思えてくる。
そして二つのパートが交差して迎えるエンディングも美しく、何より母の愛の大きさを強く感じました。 -
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小説自体が規範的な主張をすることはないのだが、(少なくとも私には)そのまま受け入れることが困難な台詞や考え方が登場している。例えば、男女の在り方や結婚観について、スポーツと部活動の存在意義について。小説内におけるこれらの記載と私が求める理想との差異が明らかになることで、小説が描いているであろう現実と私との距離が明らかになる。私はどうしてもこの差異を縮めるべきだと思ってしまうから、この小説が何か規範的な主張をしているのでないかと読んでしまう。しかし、筆者の真意は明らかでない。筆者はただ、淡々とある女性とその息子の成長過程を記述的に追っていく。特に、過去から現在の日本に温存されている女性蔑視を、肯定も否定もせずそのまま描いている。泰介の内語が放つジェンダーへの固定観念などに対し、万津子の故郷に抱いたものと同じ違和感を抱いた。読者それぞれがこの違和感を抱くことを、筆者は狙ってやっていると思われる。しかし、社会的な圧力を被ることで生じる女性の苦しみを改善すべきとは主張しない。あくまで記述にとどめている。
一方で、ADHDに関しては、薬物療法や認知社会行動療法などの「治療」によって、当事者が自ら苦しみの根源を断ち切ろうと行動する。また、そのような行動が可能となっている。日本における「女性」の苦しみは社会的構造に根本的な原因があるため、当事者が何とか乗り越えるという仕方でしか解消できないのだが、ADHDは「治療」によって解消が可能となることがあるのである。その対比が描かれているように思われた。だが筆者は、ADHDに関しても治療すべきとはしていない。あくまで脳の癖である。当事者が身を置く環境を変えれば当事者の苦しみは軽減するかもしれず、そのため、ADHDが絶対に治療すべき対象であるとか、当事者に治療を施さなければならないなどとは言わない。
「べき」は「できる」を含意するというが、万津子という女性のあり方を修正することは万津子にはできないため、「べき」を含んだ物語にはならない。さらに、ADHDは治療「できる」ものの、「べき」まで拡張される性質のあるものでもない。しかし、女性のあり方やいわゆる発達障害を抱えた人に対して、本来はどうあるべきだったのだろうかと思いを巡らせてしまうことはある。本来のあるべき姿、もしくは理想が実現するのはいつなのか、誰によってなのかは分からない。泰介は、少なからず理想に近づいたのかもしれない。しかし、万津子の人生は置き去りにされた。だから、未来に想いを馳せる、つまり萌子という女性を想ったのだろう。
ADHDの中年男性の内面がこの小説のようなものなのか気になった。
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ネタバレまあまあ面白い。表紙の絵が絶妙すぎて全てネタバレ。
序盤は主人公雅樹の行動が頭がおかしすぎてイライラする。理系の賢い人間が、双子の弟の存在に気付いたにも関わらず、奈美と遊んでいるなんてありえない。奈美や周りの人間に危害が及ぶことを考えて、一刻も早く警察に伝えるはず。不自然すぎるので、もう少し他のストーリー展開の仕方があったような気がする。
ナガノも実は血が繋がっているような展開を予想したが、まったく無関係で残念。
ところどころに、もっとスピード上げてテンポよく進んで欲しいのに描写がまどろっこしいと感じた場面があった。
基樹が、本当は実はもっと非常に賢くて極悪人という展開も期待したが、ナガノと立場が逆転したとはいえ、意外と平和に終わってしまったので拍子抜け。第四章「真実」はエピローグにしてはまだまだページ数があったので、期待したが、一生懸命な説明を聞かされているように感じてしまい、入り込めなかった。
双子のDNAのことや、海外養子のことなど、とても面白いテーマだったが、現実味がなく、フワーっとして終わってしまった感じ。暴力的なところ、スピード感のあるところ、泣かせるところ、怒れるところなど、読者を引き込むような大袈裟な描き方がされても良いと思う。あっさりしすぎるので、激しく書いたほうが、リアリティーが出たような気がする。
最後はあまりにも平和すぎ。読んだことを忘れてしまうような薄い印象で終わってしまい、もったいない。 -
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女子高生探偵の日常の謎ですね。
「片思い探偵」の二作目です。
「片思い」と言っても、恋愛物語では無く。「推し」の熱烈な、異常な程の「推しごと」から、何故か事件に巻き込まれる、エンターテイメント・ユーモアミステリーですね。
前作同様に、次々と「推し」が変わる日菜子に、日菜子の行き過ぎた「推し」ぶりに危機感を抱く大学生の兄が織り成すドタバタミステリーです。
五話の短編連作です。
今回も、辻堂さんの筆は冴えまくり、スピード感あふれる、圧倒される情報収集力で、瞬く間に事件を解決に奔走する。
辻堂さんの取材力とキャラクターの絡みに、思わずうなってしまいますね。
物語作りの妙舞いに、感心しきり。本当に面白い作品を紡ぎ出す名手です。 -
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▶履く靴によって人格が切り替わる女子高生多重人格探偵が紛失した赤い靴探しを依頼される。シチュエーションがおもしろい。
▶高校文芸部で殺人事件。全員にアリバイがあるが・・・。キャラが強い。
▶校内合唱コンクールのための、クラス全員分の楽譜が黒く塗りつぶされていた。挙動不審な女子生徒が犯人か? ちゃんとしたミステリ。
▶《穏やかで飄々としている割に、残酷な性格をしている》高校美術部の先輩が大震災で行方不明になってから五年、祖父の最後の場所を探す人に同行すると・・・。ミステリではないように思えましたがかなしいミステリなのでした。
▶格技場裏に吸殻を捨てたのは誰だ? 風ヶ丘高校が舞台。ですが今回探偵は裏染天馬くんではありません。登場はしますが。 -
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ネタバレヒロインの夕夏が復職後、直近2年間の記憶を失っているために職場で味わう辛さが身につまされる。自分の頭では仕事を教わっている新人のつもりなのに、実際の職場ではすでに後輩の指導役というのはきついだろう。何より、おそらく必死で勉強して得た資格も、学んだ内容をすっかり忘れているのだから覚え直さなければならないわけで。2年分の経験がチャラというのはなかなか恐ろしいことだ。
そして2年間に得た人間関係もチャラ。その間に大切な人と出会っていたなら、相手の絶望感はどれほどだろう。それをふまえた本作はいろいろと考えさせてくれた。
記憶喪失ものは、ためにする感が強くて嫌いなのだが、これはこれ自体がテーマになっていて納得。
そもそもファンタジー設定だと思っていた導入部分だけを読んだときは、「悪魔との取引」について自分だったら、と考えたりもして。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ読後の気分が最悪です!最高!!
主人公・井瀬は電車の中で奇妙な夢を見る。駅のホームで何者かとのトラブルのあげく、自分が死ぬ瞬間の夢。同じ電車に乗り合わせていた女子高生・紗世が言うには、その夢はいずれ現実になるらしい。井瀬は果たして誰に殺されたのか……
というお話です。わりとギミックというか、こういうふうなんだろうなぁみたいなのは結構予想がつきやすい内容ですけど文章で引き込んでくれました。めちゃくちゃ読みやすい。
ただ、五味渕が予想以上にゴミでひっくり返っちゃった……親父さんの件はなんとなく予想つきましたけど詐欺が最悪すぎる。いや、学生時代は悪さしてて~みたいなのの時点でコイツ嫌いだわってなってましたけど。なんで人にひどいことした経験を、悔やむどころか昔はやんちゃしてての笑い話で終わらせようとするのか理解に苦しむたちなので……(その点で言えば正直井瀬のこともあんま好かんですけど、これは遠い部分ですが紗世ちゃんにも原因があるのでなんも言えないです……)
>「悪事を働く奴に手加減をする必要はない」
粕谷のこのセリフにしびれました。この人弁護士とか警察官とかになってくれないかな……正義を全うしようとする人間が好きです。正しいことが必ずしも正しいとは言えないのが世の常ですけど、それでもいい方向のものなのは間違いないので。
粕谷にすごく好感を持っているので粕谷が幸せになって欲しいな……無理だろうけども……。