辻堂ゆめのレビュー一覧
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とても良かった。ミステリというよりも、この社会にある重いテーマにきちんと向き合っている物語だった。
女性刑事というと、若い熱意だけがある新人のようなイメージだったけれど、この森垣という主人公は育休明けの落ち着いた感じの人物で好感が持てた。彼女が少し無戸籍者たちに肩入れしがちな分、本庁の羽山という刑事がバシバシと捜査を進めていて、いいバランスだった。
この羽山は終盤になるまでずっといけ好かない感じだったのに、真相が見えてきたある瞬間、めちゃめちゃカッコ良くなったところがあって唸らされた。これはずるい。
そして、その羽山に押されることなくきちんと主役を張っていた森垣は、女性刑事として男性作家が描 -
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ネタバレ読み始めから泰介が酷い発言ばかりするので嫌な気持ちで読み進めた。東洋の魔女の時代、ADHDという言葉も認知もされていない中、田舎で親族からも見放されどんなに大変なことだっただろう。読者でこちらからみていても泰介にイライラ、とてもじゃないけど育てる自信がない。
子ども2人を連れ上京し育てる事で故郷にいるよりはいい人生を歩めたのだろう。
万津子が泰介にバレーボールを教えたのは選手にしたいためではなく落ち着かせるためだった。母親の深い愛情を感じる。そして泰介の妻の由佳子、こちらも愛情あふれる人で、素敵すぎる。泰介はふたりの愛情に支えられてきたのだ。もちろん本人にしかない魅力もあるだろう。
万津子と本 -
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ネタバレ思ってもみない方向で感動させられた。
子供の頃から癇癪もちで社会人になってからも周囲の人とうまくやっていけない泰介。
あぁ、これは発達障害だな、昔は誰にも理解されないから大変な苦労だったろうな、、、。
と思って読んでいたら、その発達障害もこの小説のテーマの一つだった。
てっきり認知症の母の秘め事と、萌子のバレーボールの話だと思っていたので、泰介自身が発達障害と向き合っていく流れになったのには驚いた。
しかもそれを萌子が父親を傷つけないように、悩み抜いた末に、何度も頭の中でリハーサルした言葉を伝える場面はもう号泣だった。
当たり前がうまくできずに苦しんでいる人にとっても励まされる、刺さる内容だっ -
Posted by ブクログ
読者の思い込みをうまく利用した、小さな驚きがちりばめられた、やさしい物語。
小学校の先生を中心に、交換日記を通じて紡がれる7つの連作短編集。
入院患者と見舞客、教師と児童、姉と妹、母と息子、加害者と被害者、上司と部下、夫と妻——。
それぞれが思い思いに綴る心のキャッチボールには、喜怒哀楽のさまざまな感情が込められていて、それだけでも十分に読み応えがある。
けれど、一話ごとに物語が積み重なるたび、やがてすべてが一つの大きな物語へとつながっていく緻密な構成に気づき、ラストには深い感動が待っていた。
誰かにそっと勧めたくなる、素晴らしい一冊。