「天皇陛下万歳!」が明治や大正以上に昭和で叫ばれなくてはいけなくなったのは一体なぜなのか?
時代が下がれば下がるほど、近代化が進展すればするほど、神がかってしまうとは、いったいどういう理屈に基づくのか・・・
重要なキッカケになったのは101年前に勃発した第一次世界大戦だったと、著者は言う・・・
去
...続きを読む年は勃発100年だったので、いろいろ書物が出てたけども、日本史の勉強ではあまり重要視されない第一次大戦・・・
欧州が戦場であり、日本は大戦景気に沸き、経済が絶好調で、参戦国とはいえ、青島でドイツ軍と戦ったぐらいで、実質は遠くから見守る観客であった・・・
国民の多くは大戦景気に踊るだけで、第一次世界大戦が列強各国に与えた衝撃をスルーしてしまった・・・
第一次世界大戦こそ、戦争の規模や質が圧倒的に変わった戦争だったのに・・・
以後の戦争は自由主義だろうが軍国主義だろうが国家主義だろうが共産主義だろうが国家総動員体制同士の戦いであり、圧倒的な物量や経済規模が勝敗を決めるものとなる・・・
物量戦で、科学戦で、消耗戦で、補給戦であり・・・
どんな勇猛果敢な兵隊も大砲の巨弾の下に跡形もなく吹き飛んでしまう・・・
国家の生産力こそが即ち軍隊の戦闘力・・・
これを学習せずにスルーしてしまった・・・
日本軍は日露戦争後、一気に神がかった精神主義の軍隊になっていたのか?
著者によると、そうでもなかったらしい・・・
それこそ第一次大戦の青島戦役では神尾光臣という将軍(中将)が・・・
日露戦争時の砲兵が支援しつつ、勇猛果敢な歩兵が突撃していくという前時代的なやり方ではなく・・・
砲兵の火力でほぼカタをつけ、歩兵は後始末をつけにいくだけ、という欧州戦線に引けをとらない近代戦のお手本の戦いをしてみせた、と・・・
合理的な将軍の下、物量や規模で勝つ、という現代戦を実は日本軍(の一部だけど)もしていたんですね・・・
そして、さらに実は実は!陸軍には・・・
肉弾の時代はもう終わった・・・
日本陸軍の攻撃精神も過去の遺物になった・・・
科学力と生産力の追求あるのみ、という第一次大戦の総括が存在していた!
そ、れ、な、の、に!
神がかった精神主義が日本軍の主潮になってしまったのか???
それは・・・
上記のように合理的に考えれば考えるほど・・・
「持たざる国」である日本が、今後の大戦争で「持てる国」の列強諸国に勝ち目はないという結論しか導き出せない・・・
一気に持てる国になるなんて無理だし・・・
フツーに考えれば、どう考えても勝てない・・・
でも、軍人としては、無理です、勝てませんでは自分たちの存在意義がなくなってしまう・・・
列強と開戦しても大丈夫ですという計画を立てておかないといけない・・・
このギャップから生じる軋みこそが、第一次大戦後から日本陸軍を悩まし続け・・・
現実主義から精神主義へと反転させる契機になっていった、と・・・
こここそ著者の主張・・・
無理なもんは無理、として違う道を探って欲しかったけど・・・
当時の軍人たちは、合理的に考え抜いた結果、現実主義を捨て、精神主義に答えを求めていった・・・
結果を知っている身からすると、なんだかなぁ、としか言えない・・・
で、その日本軍を主導していった・・・
いや、正確に言うと主導しようとして、失敗していった軍人たちの思想を辿っていく・・・
まず、皇道派で作戦の鬼と呼ばれた小畑敏四郎・・・
後の補給なき戦闘やバンザイ突撃、玉砕の遠因である「統帥網要」と「戦闘網要」の改定を荒木貞夫や鈴木率道らと共に主導した人物・・・
並外れた精神力、戦意をもって速戦即決で奇手奇策を用いれば物量で勝る敵でも包囲殲滅できる!
そうすれば勝てるのだから、そしてもし万が一、速戦即決できなければ打つ手なしになるのだから、長期戦に備えるような兵站はいらない!
「統帥網要」はこういうのが全面に出た精神主義的なものなんだけど、著者は現実的で、第一次大戦を観戦してきて実情を知る小畑には裏に別の思惑があったという・・・
それは、あくまで持たざる国である日本には長期持久の総力戦は無理であり、そしてその統帥網要の考えで行くには、結局のところ戦場も限定され、自分たちより劣悪で粗雑な軍隊相手でないと無理である・・・
具体的な想定では、極東のソ連軍で、満州の平原での戦闘に限る・・・
建前としては統帥網要を示しつつも、想定している条件以外では実際無理がある・・・
でも、陸軍を主導している自分たち皇道派がちゃんと相手を選び、条件に合致した形で戦争を行える、と小畑らは考えていた・・・
しかーし!小畑ら皇道派は2・26事件で統制派に追い落とされ失脚・・・
小畑らが改定した精神主義の統帥網要、戦闘網要だけはそのまま残り、後の玉砕などに繋がっていく・・・
次に、持たざる国を持てる国にしようとした満州事変の首謀者、石原莞爾・・・
日蓮主義の国柱会の創始者、田中智学に影響を受けた石原は、その宗教的、軍事的な観点からいずれ(40~50年後)、王道の国である日本と覇道の国であるアメリカが世界の行方を賭けた最終戦争を行うという独自の思想を持っていた・・・
その最終戦争に備えるために・・・
持たざる国の日本を持てる国にする・・・
そのために満州や華北の資源を日本が確保する・・・
その資源とソ連のような計画経済により成長し続け、経済規模でアメリカやソ連に並ぶ国となり、数十年後アメリカとの最終戦争に勝利するという途方もない構想で満州事変を起こし・・・
満州国を建国し・・・
皇道派の失脚後の陸軍を主導していった・・・
しかーし!盧溝橋事件を機に、部下であった武藤章らの反発に合い、陸軍中央を追われ、転出先の関東軍で東条英機と対立し、予備役編入・・・
陸軍を去る・・・
石原が残したものは、満州国と日本軍内の下克上の風潮だった・・・
そしてもう一人・・・
生きて虜囚の辱を受けず、で有名な「戦陣訓」の作者の一人とされ、東条英機のブレーンとも言われた中柴末純・・・
中柴は合理的とされる工兵出身で、軍内きっての第一次大戦の研究者であった・・・
そんな合理的なはずの中柴が持たざる国が持てる国と戦うための精神主義的な思想を用意した・・・
彼の戦争哲学では、皇国日本の行う戦争は、真善美の「まこと」の不断の実現のための行為であって、勝ち負けの予測を合理的に計算してやるかやらないかを決める、何らかの駆け引きに基づく戦争観とは無縁・・・
「まごころ」の戦争とは、やるとなったら絶対にやる、勝ち負けに関係なくやる、勝敗よりも「まこと」に殉じるか殉じないかという倫理的・精神的な側面だけが問題となる戦争なのだ、としている・・・
そして中柴はこう考えた・・・
持たざる国でも持てる国の相手を怖じけづかせられれば勝ち目も出てくる・・・
いくら物量では劣っていても、敵国の戦意を喪失させれば勝てないこともない・・・
そのために日本人がドンドン積極的に死んでみせれば良いのだ、と・・・
こういう中柴の思想が玉砕やバンザイ突撃への道を突き進ませて行くことになる・・・
マジ酷い・・・
真面目な軍人の苦衷の末のものとはいえ・・・
酷いという言葉では足りないくらい酷い・・・
ここまで来ると何なのそれ?と憤りを覚えてしまう・・・
敵国に日本人狂ってる、狂ってる日本と戦うのは犠牲を増やすだけでバカバカしいから早めに戦争を手打ちにしよう、と思わせるために兵士をドンドン死なせる、って・・・
狂気が振り切れちゃってますね・・・
最後に、未完のファシズムについて・・・
未完?日本って戦時中ファシズムだったでしょ?ともちろん思うわけですが・・・
ドイツやイタリアのように完全ではなかった・・・
東条英機の独裁だった、というのも少し違う・・・
元々、大日本帝国(明治)憲法の制度下では、誰も強力な権力を握れないような仕組みになっていて・・・
総理すら権限が弱く、閣僚の調整役以上の役割はなかなか果たせない制度であった・・・
行政府は内閣の他に枢密院があり・・・
立法府は貴族院と衆議院の二院制でどちらが上ということもなく、どちらかが否決すれば即廃案という・・・
議院内閣制じゃないから、政党が内閣を組織する決まりもないし・・・
軍も行政や立法や司法から独立した組織であり、内閣も議会も軍に命令できず、逆に軍も政治に介入するのも法的にはできない・・・
そして、誰かが強引に特定の理想を無理やり押し通そうとすると、皆で全力で排除する、という日本の伝統的な国民性・・・
元老がいた間はそれでも上手く機能していた明治憲法体制だけども、昭和に入ってすべての元老がいなくなったあとは・・・
誰も強力なリーダーシップを発揮することが出来ない状態になる・・・
東条も明治憲法を尊重して、国体を護持しつつ総力戦として、「大東亜戦争」を勝ち抜こうとし、苦渋の選択として首相、陸軍大臣、参謀総長などを兼務してやっていこうとした・・・
そしたら日本のヒトラーと周りから揶揄され、一人何役もやろうとするのは日本人としてあるまじきことだ、と戦況の悪化と共に東条つぶしが起こり、東条内閣が打倒される・・・
東条は何て言われて攻撃されたか・・・
なんと、ファッショ!
東条ファッショ政権打倒が合言葉になったそうな・・・
これらから日本のファシズムは未完のものであった、と著者はいう・・・
この視点はとても新鮮で面白かった・・・
ファシズムと思われている戦時中ですら、そして独裁者のイメージの東条英機ですら・・・
強引に押し通そうとするもの、強力なリーダーシップを取ろうとするものを排除する日本の組織文化に阻まれたというのは・・・
何とも・・・
日本から強力なリーダーが出にくいというのは・・・
根が深いですかな・・・
以上・・・
超長くなっちゃった・・・
第一次大戦の衝撃を受けて合理的に突き詰めて考えていった結果、精神主義にならざるを得なかった思想的軍人たち・・・
そんな彼らに掻き回されて破滅へと引き摺りこまれていった日本の悲劇・・・
一般的に言われていることとは違う視点で話が展開されていて面白く、とても参考になりました・・・、
これはオススメ・・・