片山杜秀のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
本編約345ページのうち、260ページほどが伊福部音楽の原点となる北海道時代の話。
いろいろと靄がかかってうっすらとしか理解していなかった部分が、この本を読むことでとてもクリアになり、伊福部昭の音楽の成り立ちに対する理解が、より深まりました。
二中時代に手元にあったバイオリン
北海道の都市部には珍しくなかった白系ロシア人の飲食店
豆景気で沸く音更で聴いた日本各地の民謡
近所の人が趣味で弾く楽器が漏れ聞こえてくる昔の札幌山鼻の住宅事情
片山杜秀氏の伊福部愛も溢れていますが、客観的に色々書かれているので、大変貴重な一冊であると思います。
北海道には、伊福部昭さんゆかりの場所も各地にあるので、 -
Posted by ブクログ
「しかし、私は伊福部研究者でもなければ伊福部批評家でもなく、とどのつまりは単なる伊福部信者なのである。」(86頁)
愛ある伊福部狂信者の片山杜秀氏が、図々しくも伊福部私邸に入り浸って交わした問答を中心にものした、余りに貴重な資料本になっている。もちろん片山杜秀氏の解説的な部分もふんだんに盛り込まれている。
片山杜秀氏が伝記を書くつもりで膨大な会話メモを残してあって、そこからテーマごとにまとめていったのだろう。あとがきにもあるとおり、伊福部さんが吐いた毒の部分は書き切れていなさそうなので、関係者がいなくなるまで、もう少し時間の経過が必要なんでしょう。
読んでて楽しかった。 -
Posted by ブクログ
凄い本ですね、ゴジラ映画のあの音楽、ドシラ、ドシラにハマった、著者、片山杜秀(自称、幼少の頃からの伊福部教信者)による伊福部物語。著者によれば、若き日に、伊福部のお耳係だった折、伊福部の自宅(尾山台)で直接伺った様々な物語を織り込んでの一冊とか。数年前に読んだ、立花隆の武満徹の評伝を思い出しつつ、興味深く、読み進めております。それにしても、戦前という時代に、北方の大地で、アイヌ、白系ロシアの方々の音楽に触れつつ独学で音楽を学び(北大オーケストラのコンマスだったとか)、交響曲を書いて海外に送り一席を得るとは、なんとも凄い方であります。その北の巨人の人生の片鱗がうかがえる良い本であります、著者の熱
-
Posted by ブクログ
ネタバレ面白かった!!!きちんと音楽史として眺めることで、自分の中にある諸々の言語化を突き付けられ、そうですよね、ハイ…となっていました笑
序章 バッハ以前の一千年はどこに行ったのか
ポスト・ヒューマン時代には…
(片山)そうなると、ベートーヴェン的な音楽は「虚偽」に聴こえてくると思うんです。だって、かつては≪第九≫一曲に「世界」のすべてが入っていて、それを聴いたり演奏したりすればユートピアに至るーというつもりで聴いてこそだった。…しかし幻滅する。ベートーヴェンを聴くこと自体が、バカバカしくなってくる…。(p.36)
(岡田)環境音楽ーたとえば、ひたすらサラサラと流れるせせらぎの音を聴いても、それで -
Posted by ブクログ
音楽から政治思想まで守備範囲の広い片山杜秀氏が「あの」週刊新潮に「夏裘冬扇」というコラムに書き続けたものをまとめた新書です。
氏の音楽評論はあちこちで見かけておりましたが、本業の政治思想で「未完のファシズム」を拝読し、プロの学者の凄みを感じさせてもらいました。ビジネスの世界で生業を立ててきましたが、本当にわかっている人は、どんな難しいことでも優しく説明できるという特徴があります。この本は、その見本のようなもので、よくよく読めば背後に膨大な知識量があるのに、実に平易に説明されています。さらに読者層に合わせて脇道の話題も取り込んで、過去の歴史を軽妙な文体で書かれているので、歴史認識の薄い若者たちに -
-
Posted by ブクログ
ゾクゾクするような論理展開。持たざる国である日本を軸に第二次世界大戦に突入し、玉砕覚悟の総力戦に至る思想に迫る。
「明るくなったろう」お札を燃やして灯りを点す。有名な教科書の挿絵、第一次世界大戦の特需に沸いた成金が出発点だ。日露戦争による巨大な外国債務により日本経済は青息吐息。企業の倒産が相次いでいたところに、第一次世界大戦が長期化した事で、ヨーロッパ諸国日本から軍需品を輸入し始めた。戦争特需に加え、ヨーロッパからの輸入品が来なくなり輸入に頼っていた物資が不足。鉄、硫酸、アンモニア、化学染料、薬品、ガラスなどなど。これらが派手に値上がりしていく中、国産にすることで儲けようと言う投資が活発化。 -
Posted by ブクログ
題名の「トッド」とは、フランスのエマニュエル・トッドのことである。独自な研究で世界を語るという感のエマニュエル・トッドである。近年『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』という人類の歴史を鳥瞰しながら、幾分掘り下げて行くという、長きに亘る研究の集大成的な本を上梓している。日本語版も登場して然程の時日が経っていない。この本の内容を念頭に、片山杜秀、佐藤優の両氏が「トッドの論点」で最近の話題等も掘り下げて論じるという感の一冊である。
本書は、トッド自身のインタビュー、トッド、片山杜秀、佐藤優の3氏による鼎談、片山杜秀、佐藤優の両氏による対談というような体裁の各部、5つの纏まりから成っている。各々 -
Posted by ブクログ
才気煥発だけど、「俺は他人とは違う」ところを見せたがる目立ちたがり屋の片山杜秀少年の音楽遍歴をベースに15人の音楽家について好き放題に、極めて主観的に喋りまくるというスタイルでまとめた、たいへんに面白く楽しめる本です。
自分の本なら付箋を貼って起きそうなところは
わたしが未だに馴染めないモーツァルトを「刹那の芸術」とといい、ベートーヴェンの受容は戦後大衆教養主義の産物であったとするあたりは、納得感が溢れます。
マーラーは、それなりの再生装置で大音量で聞かないと真価を理解できないというのには、膝を打って納得です。個人的な体験でも、15インチの大スピーカーで広めの社宅で朗々と流していたときにはや -
Posted by ブクログ
玉砕する軍隊こそが、「持たざる国」の必勝兵器だったのです。
世界大戦時の歴史に無知すぎるので勉強。
第二次世界大戦の日本といえば、物資がない国なのに、長期戦争する、過剰な精神論、命と補給の軽視、アジアを広範囲に侵略、戦争のゴール設定がない、ファシズムといいつつ誰が束ねていたのかよく分からない…と、あとから見ると全く理論的に見えないのだが、この本によると、意外と当時の軍人は他国の戦争を視察したり、物資がないから物資「持てる」国との戦争は無理だね…等、その時その時で現実的な考察をしていたことに驚いた。そしてあまりにも「持たざる国」である点を見つめた結果、もう精神論しかないから玉砕で勝利するしかな -
Posted by ブクログ
音楽はそもそも教会、王侯貴族、ブルジョア階級の権威を表す手段であったから、今日でもなんとなく権威があるように捉えられている。
古代以前の音楽は楽譜が残っていなため詳細不明。判明している起源は教皇が編纂したグレゴリオ聖歌であり、9世紀頃の成立。ネウマ譜に残されており今日の楽譜の起源。単旋律(モノフォニー)、声楽のみが特徴。
12世紀ルネサンス後複線律(ポリフォニー)が盛んとなる。伊のパレストリーナが代表格。科学発展による神の世界の秩序の複雑化が背景にある。宗教改革を機に教会権威は落ち、ポリフォニーから独唱の時代となる。
ルネサンスと宗教改革を経て音楽の主要舞台は教会から世俗へ移行。王族や富裕層が -
Posted by ブクログ
昭和が終わり平成が始まる1989年を象徴する音楽として取り上げられたのが、
カルロス・クライバー:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団:ニューイヤー・コンサート。
このCDは発売されてすぐに買いました。
このあとカラヤン(1989.7)とバーンスタイン(1990.10)が相次いで亡くなっています。
天安門事件が6月、ベルリンの壁崩壊が11月、
ビロード革命でチェコが民主化され、1990年「プラハの春」音楽祭でクーベリックが凱旋帰国しスメタナの《わが祖国》を力強く演奏します。
平成の始めは、クラシック界も世界情勢も変化し始めた時代だったのですね。
クーベリック、ショルティ、クライバー、アバド、 -
Posted by ブクログ
タイトルを見て面白そうだったので衝動買い。
でも、これは良かった。
読みやすい。
そして的を得た指摘。
およそ芸術と名の付くものに共通する点も多い事柄。
その作品は誰のために作られたのか。歴史の流れに於ける聴く側と作る側の関係の変遷を概観する事で新たな視点が加わった。
多くの場合、今までは作品をそのまま1つの存在として観たり聴いたりしていて、その背後にある事柄・歴史をほとんど意識して来なかった。
耳を凝らして聴いても聴こえて来ないもの、幾らじっくり観ても見えてこないものには無頓着だつた。
他の本を読んでそういうことの重要さは理解していたつもりだったが実践を伴っていなかった。
この本を読