あらすじ
なぜモーツァルトは就活で苦しんだ? ベートーヴェンが「市民」をつくった? ワーグナー「勝利の方程式」とは?
19世紀に質量ともにピークに達したクラシック音楽は、大都市の市民階級という新しい消費者に向けられた最新の文化商品でもあった。誰が注文し、いかにして作られ、どのように演奏され、どこで消費されたか。クラシック音楽を知れば世界史がわかる! といっても過言ではない。最高の音楽とともに、歴史の流れを明快に解き明かす画期的音楽史。
【目次】
序章 クラシックを知れば世界史がわかる
第一章 グレゴリオ聖歌と「神の秩序」
第二章 宗教改革が音楽を変えた
第三章 大都市と巨匠たち
第四章 ベートーヴェンの時代
第五章 ロマン派と新時代の市民
第六章 “怪物”ワーグナーとナショナリズム
第七章 二十世紀音楽と壊れた世界
おわりに
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
ベートーヴェンの話だけでなく、それ以外の話も面白く興味深かった。たとえば、「ヴァイオリンは挟むし高い音が耳元で鳴るけれど、操作性優先のため仕方がないというのは西洋的な考え方だ」とか、宗教改革によって、歌詞は日常的に使うドイツ語、シンプルの単旋律のメロディのような新しい音楽が生まれたとか(ルターすごいな)、アマチュア合唱で演奏会に参加する形態はヘンデルのころからあった(その集大成が「第九」)とか、ワーグナーはベートーヴェンに足りないと感じた、総合芸術としてのオペラの道を突き進むことになったとか、マラ3はマーラー版『ツァラ』であるとか。
Posted by ブクログ
音楽はそもそも教会、王侯貴族、ブルジョア階級の権威を表す手段であったから、今日でもなんとなく権威があるように捉えられている。
古代以前の音楽は楽譜が残っていなため詳細不明。判明している起源は教皇が編纂したグレゴリオ聖歌であり、9世紀頃の成立。ネウマ譜に残されており今日の楽譜の起源。単旋律(モノフォニー)、声楽のみが特徴。
12世紀ルネサンス後複線律(ポリフォニー)が盛んとなる。伊のパレストリーナが代表格。科学発展による神の世界の秩序の複雑化が背景にある。宗教改革を機に教会権威は落ち、ポリフォニーから独唱の時代となる。
ルネサンスと宗教改革を経て音楽の主要舞台は教会から世俗へ移行。王族や富裕層がパトロンとなる。バッハはモノフォニー時代に逆行しポリフォニーに拘り厳格厳密な音楽を構築。当時は流行らなかった。
モーツァルトの頃には宮廷財力が低下。就職活動に苦労しフリーの音楽家として生計立てる。当時は軽薄とされ評価が高まるのは19世紀後半以後である。
ハイドンはハンガリー大貴族付の楽団長として活躍後、ロンドンでも活躍。交響曲の父とされる。その弟子ベートーベンは市民にわかりやすく覚えやすいメロディーを追求。成り上がりの小金持ちを退屈させないため。
ポストベートーベンのロマン派はシューマン、ショパン、シューベルトなど。ワーグナーは民族主義を追求。19世紀後半以降は資本主義の加速と機械化、グローバル化に伴う市民の不安感が作曲のテーマとなり、無調楽曲など作成される。
Posted by ブクログ
タイトルを見て面白そうだったので衝動買い。
でも、これは良かった。
読みやすい。
そして的を得た指摘。
およそ芸術と名の付くものに共通する点も多い事柄。
その作品は誰のために作られたのか。歴史の流れに於ける聴く側と作る側の関係の変遷を概観する事で新たな視点が加わった。
多くの場合、今までは作品をそのまま1つの存在として観たり聴いたりしていて、その背後にある事柄・歴史をほとんど意識して来なかった。
耳を凝らして聴いても聴こえて来ないもの、幾らじっくり観ても見えてこないものには無頓着だつた。
他の本を読んでそういうことの重要さは理解していたつもりだったが実践を伴っていなかった。
この本を読んで背後に、ある何かを考える際の指針を得た気がする。
今後は面倒でも作品の背景も調べて観たり聴いたりする様に心掛けたい。
Posted by ブクログ
至高の芸術のシンボルと考えられるクラシック音楽も実は世間の荒波にもまれてできあがったものであることをこの本は分かりやすく示してくれた。結果としてクラシック音楽に親しみを持てるようになったのがこの本を読んだ収穫といえる。
またこれはヨーロッパの中世から近代に至る思想史や思潮と言ったものを概観するのにもよい。話しかけるようなやさしい文体だが、多くの示唆を伴う。
現代の音楽もまた後世の人々から世相と関連づけて語られることになるのだろうか。そんなことを考えさせられた。
Posted by ブクログ
音楽は一人では演奏できないから、極めて社会的営み。だから当時の社会がわかる。と非常に納得感のある講義でした。聞き手、楽器製作の技術、お金の出どころなどなどの条件で音楽性自体も変わってくるのだな。
Posted by ブクログ
クラシック音楽は他の芸術とは違い、作り手よりも受容先の状況が重要となる演奏する人と聴衆がいなければ成り立たないので、死後評価される画家、文学者のような人はほとんどおらず、異端の音楽家というのもクラシックの世界ではほぼいない。
元々教会音楽から始まった受容は王侯貴族、大都市のブルジョアと受け継がれる。グレゴリオ聖歌は、もっとも神の作り出したものに近い人間のみで奏でる音楽であるが、それに宗教改革を経て、ラテン語から現地の言葉、歌いやすいメロディといった世俗的な要素が加わっていき、王侯貴族のオペラや室内楽になっていった。バッハは教会に所属して音楽を作っていったが、どちらかというと後世に評価された作曲家である。モーツアルトの頃には王侯貴族から市民への富の移転が進み、需要家としてのシフトもおこる。ヘンデルはロンドンに行って成功したが、モーツアルトは失意のうちになくなる。ベートーヴェンは、市民階級に受け入れられるようなシンプルなメロディーの繰り返しを用いて、わかりやすく、うるさく、新しい音楽を作っていった。市民階級の成熟とともに、精緻化が進み、クラシック音楽の中での差異化がすすみ教養としても分化が進む。
Posted by ブクログ
社会史の観点で音楽史をざっくり語ったもの。重厚な読書ができた気はしないが、1日で読み終わる平易さがお手軽で、教養に富んだ筆者の語り口も面白かった。
Posted by ブクログ
タイトルをそのまま鵜呑みにすると、本書の全体を勘違いする。ベートーヴェンは、クラシック音楽の聴き手に、一般市民が参加できる素地を作った意味で、エポックと言えるが、ベートーヴェン以前、以後を通して、クラシック音楽を方向付けしてきた音楽史が語られている。誰が支えてきたか聴き手の変遷から、その時代の社会環境から、音楽家の狙いがわかりやすく解説されている。著名な音楽家の人となりや、作品を通して、クラシック音楽の世界を再構築できる。
Posted by ブクログ
教会音楽?クラシック音楽?バッハ?ベートーヴェン?ワーグナー?なにが違うの???
…と、音楽的素養のない私にはそう感じられるのだが、この本を読んで、世の中や教会の権威、音楽の受け取り手の世界史の中での変容に応じて(またはあらがう形で)、音楽が歴史を紡いできたことを知ることが出来た。当時の世の中の受け取り手に向けて、こういう意味合いで作られた音楽…という作品の背景を知り、敷居の高い音楽、全く分からない音の羅列を、理解するヒントが得られたような気がする。
ベートーヴェンの運命の、覚えやすい冒頭のメロディーは、なぜそうなっているのか、が分かる。
Posted by ブクログ
美術や文学と違い、受取手の存在が必要な音楽。それだからこそ音楽は時代・社会を反映するという観点から西洋音楽史を見ていく。
自分の音楽の追求と近代市民というニーズへの応えが一致したベートーヴェン。学校というシステムができることで難解で退屈であることが権威という商品価値を持つようになった。ドイツより先に理想のドイツをつくったワーグナー、日本の近代化もワーグナーモデルの影響下で進展した。
Posted by ブクログ
第3章までは、普通の音楽史に書かれている普通の進行だが、第4章の「ベートーベンの時代」から面白くなってくる。
市民の時代において、市民と向き合うことで生まれてきたのがベートーベンの音楽である。
キーワードは、①わかりやすい(簡易・単主題) ②うるさい(刺激・エネルギー・力) ③新しがる(資本主義・驚き)
ちょっと強引に作曲家と時代を関連付けすぎていると感じる部分もあるが、代表的作曲家が存在した時代背景についての認識を持っているのと、持たずにいるのでは、聴こえてくる音が全く違ってくるだろう。
ベートーベン以降はシェーンベルクに至る(ロマン派から近代)、社会と音楽の変遷が非常分かりやすくまとめられている。この様な説明を受けると、それぞれの作曲家が出てきたのは偶然ではなく必然だったのだと思わされる。
この本で直接的に書かれているわけでは無いが、ワーグナーとヒットラーが台頭してきた背景があまりにも似ているのにビックリ。
Posted by ブクログ
音楽の提供者ではなく、受け手の変遷を軸にして、音楽史を振り返る1冊。教会を中心とした宗教音楽から、王侯・貴族に向けた音楽へ、そして市民に向けた音楽へと、社会の変化を反映しつつ変容を遂げていく音楽。そのなかで、市民向けの音楽を創造したという意味で、ベートヴェンは比類なき業績を残した。
さらに面白かったのが、大国のグローバリゼーションに対抗し、民族を重視し、小国が存在感を増していく流れの中で、ワーグナーが台頭していったという流れ。
音楽というのは、あとから振り返っても、いろんな意味付けが可能ですが、こうして世界史と重ね合わせながら語られるのはとても新鮮でした。
Posted by ブクログ
近現代日本史を主戦場とする片山先生が書く西洋古典音楽史。
まぁ、伊福部だって北海道の原野からポッと生まれ出てきたわけでなく、現代音楽を理解しようと思ったら土台としての19世紀以前を「教養」として掘り下げるんでしょうが、そこは片山先生だけあって、掘り下げ方というか、掘り拡げ方が半端ではない、と。
吉松隆にも諸井誠にも書けないスーパー音楽史、その口調は「でございます」なのだけど、それで想起したのが、小沢昭一さんでございますな。
あしたの、ベートーヴェンのこころだぁ!
Posted by ブクログ
表題は引きつけるためのもので、内容は少し違う。
いわゆるクラシックの歴史を、世界の歴史の流れの中で説明しました、という本。
ベートーヴェン関連の部分は知っていたが、ワーグナー関連の部分は知らないこともあり、なるほどと思えた。
クラシックを聞く耳が変わる。
Posted by ブクログ
インタビューから文字起こししたという経緯の本らしく、随所に「え?そうなの?」というようなエピソード(特にシェーンベルク!)が散りばめられていて、なかなかに読ませる。ただし、題名の「世界史がわかる」はオーバーな題名。正確には、世界史の「一部がわかる」程度で、世界史というよりは音楽史の本である。
Posted by ブクログ
西洋音楽史がそれぞれの時代背景と共に俯瞰できる。興味深く読めたが、タイトルからして、ベートーヴェンについて深掘りした本だと期待していたのに、そうではなかったのが残念。最近、タイトルがキャッチーで内容を表していない本が多くて困る。
Posted by ブクログ
音楽の変遷が社会情勢に大きく影響していることがよくわかった。こんな社会だったからこんな曲が生まれたのだと知ればクラシック音楽がより奥深く楽しめる気がした。