宇佐美まことのレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
祖父が、祖母の寿命を少しでも伸ばしてあげたいという思いから作ってもらった、13月のカレンダー。それを見つけた孫の侑平は、長年不義理をしていた祖父母の過去を知ろうとします。事情を抱えた彼が、祖父母への思いと過去の自分に突き動かされて、行動します。
病床の祖母が会えて嬉しかったという二人の人物も体験した、8月6日。広島の原爆の瞬間とその後の有り様が詳しく書かれていました。その惨状は想像を絶するものでした。7歳と14歳の子どもが経験したことだと思うと、いたたまれませんでした。そして、ちょっとしたことが生死をわけたことに、怖さを感じました。
「ヒバクシャ」と言われ偏見を受けることに、隠れるのではな -
Posted by ブクログ
侑平は、研究者として尊敬する教授の下で働いていたが、研究データを捏造するという不正のために辞して違う会社に勤めていた。
だが人との交わりを避けているうちに誰ひとりとして親しくする者もなく、毎日鬱々とした生活に嫌気がさしてその仕事も辞めていた。
ある日、両親の離婚以来、疎遠だった父から父方の亡き祖父母の空き家相続を持ちかけられ、子ども時代の夏休みに遊び行っていたことを思い出し、15年ぶりに四国・松山に向かった。
そこで祖父の書斎にあった書類の中から13月まであるカレンダーと脳腫瘍を患った祖母の病状を記したノートを見つける。
侑平は、祖母が広島出身だったことやその兄が原爆で亡くなっていたこと -
Posted by ブクログ
怪しげなタイトルだが、宇佐美さんにしては珍しくほぼ直球勝負の小説だった。
訳あって大学院を辞め、その後勤務した企業も辞めた侑平は、松山にある今は亡き祖父母の家を訪れる。きっかけは、離婚後疎遠となっていた父からの電話だった。
書斎に残されていた祖父のノートには祖母の病状が記されており、2008年のカレンダーにはあるはずのない「13月」が印刷されていた。
要約してしまえば、ここから侑平が祖母の過去を調べるだけの話なのだが、その内容が衝撃的過ぎて言葉が出ない。過去を知った侑平が生き直そうと決意する姿も好印象だった。
戦後80年となる今年、この本に出会えたことに感謝したい。 -
Posted by ブクログ
本当に出会えてよかった小説でした。
内容が濃くて、読みごたえがありました。
認知症の妻(益恵)が住んだ土地を巡ってほしいと頼まれた、益恵の親友のアイと富士子。三人は滋賀県大津市、愛媛県松山市、長崎県國先島を訪れます。益恵が11歳の時、満州から引き揚げるときの出来事と交互に語られていました。
満州から引き揚げるまでのことは、本当にこんなことが起きていたのかというくらいのひどさでした。戦争が終わった後に、こんなにも過酷で残酷なことがあったことを、そしてそれを乗り越えて日本に戻ってきた11歳の女の子のことを読んで、簡単に言葉にすることはできないなと思いました。
読めば読むほど引き込まれました。 -
Posted by ブクログ
読書備忘録935号。
★★★★★。
なるほど。
タイトルの暗喩はラストで着地するんだ。
アイと富士子が羊飼いという訳ね。
そして、カヨちゃんと益恵が羊か・・・。
サスペンスであり、見方を変えればホラーです。
読後ずいぶん経ってしまったので忘却の上での備忘録となってしまった。( ノД`)シクシク…
後期高齢者の仲良し3人娘、持田アイちゃん、須田富士子ちゃん、都築益恵ちゃん。
益恵ちゃんが認知症に。
益恵の夫、三千男は自分の状態も考え、益恵を施設に預ける決意をする。
ただ、益恵が心に旧満州引き上げからの「つかえ」を抱えていると。認知症が進むと共につかえの断片が言葉の断片に表れるようになってき -
Posted by ブクログ
児童向けホラーアンソロジー。しかし執筆陣を見てわかるように、子供向けだと侮れはしません。
一番怖かったのは澤村伊智「靴と自転車」。ちょっと心温まる系……かと思いきや、とんでもなかったです。それでも起こってしまう悲劇は予想されたものの、まさかこんな結末だとは。
表題作の斜線堂有紀「部分地獄」、これは子供の頃だったら一番読みたくなかった作品です。たぶん一番怖く感じたかもしれないし。ある意味「部分」の方が凄惨かも。
井上雅彦「きれいずかん」、芦沢央「ログインボーナス」、宮部みゆき「よあるきのうた」もお気に入りです。怖さもあるけれど、そればっかりではない。どれも素敵です。 -
Posted by ブクログ
面白かった。
帯に"花屋さん"、"花が埋もれた真実や死の真相を教えてくれる"、というようなワードが書かれてたので、殺人事件は絡むけど優しくて明るい感じなのかな?と思い読み始めたけど、違った。
短編集で各話の事件の背景が結構重たくて、暗い気持ちになってしまった。どの話もやるせないんだよな…。もちろん悪人が逮捕される話は、被害者の無念が晴れてスッキリする。後味は少し悪いけど。
加害者にならざるえなかった話は、なんとも悲しい。そういう感じで全体的に暗い気持ちになるのだけど、最後は不思議と前向きになれる。これから良いことが起きるような感じで。なぜだろう?と考えてみた。なんとなくだけど、何 -
Posted by ブクログ
ネタバレ描写がとてもリアルで、戦争を体験していなくとも過酷な様子が伝わってきてとにかく苦しかった。
でも読まなくてはならないという気になる。
この本は読み出したら途中で投げ出してはいけないという気になる。
生半可な気持ちで読む物ではない。
いつもは移動時間や隙間時間に本を読むが、この本だけはそれを許されないというか、そんな気持ちで読んではならないと思わされる本だった。
子を持つ親として、子を攫われたり、殺されたり、集団自決したりといった描写は本当に辛いものだった。
子供をぶら下げて刺すなんていう極悪非道でしかない行為が行われていた時代の事を考えると、今の自分はなんて幸せなのだろうと。
終盤の展開に賛 -
Posted by ブクログ
こんなにボリュームたっぷりな小説は久しぶり。
まさに読み応えのある一冊だった。
どこでつながるんかなぁ、あ、やっと同じ線上に…と気づいてからは、先が気になって気になって。
込み入った部分がさっと説明に終わった感じは残念だったけれど、そこまで詳しく書いたら上下巻になりそう。それだけ複数テーマがあり、でもたくさん人間が出てるんだから、それだけの背景はあるよな、一人一人の人生の物語の絡み合いが、人間関係ってものだしな。
たぶん一人一人を大事に描いてくれている、思いを込めているんだろうな。
最後は切なかったけれど、こんな終わりの作風もありかな。