逸木裕のレビュー一覧
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時折、感情が突き動かされる本がある。僕にとって、本書がそうだった。本や映画との出会いは、同じものと触れても、その時々の自分の環境だったり体調だったりタイミングによって受け止め方が変わってしまうものだと思うが、今日この本を読めたことはこの上ない幸運だった。特にこの内容に共鳴する何かが身の回りにあったわけでもないけれど、後悔や自己嫌悪や挫折や憧憬や希望が混ざり合うこの物語に、なぜかしらひどく惹き付けられた。
まったく素養のないクラシック音楽の世界が舞台にも関わらず、それがかえって新鮮だったのか、とても面白く読むことができた。自省的な主人公 坂下英紀が、翻弄されながらも神秘のベールの向こう側にある黛 -
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前作よりも間違いなくこのシリーズ、磨きがかかっている。
好みの問題と言われればそこまでなのだが、ビターな味わいといい、日常の謎の延長線にありそうな作風といい、ハードボイルド(それでいてステレオタイプになっていない)な描写といい、何もかもがぴったり揃うパズルのピースを揃えたかのようで最高なのだ。
短編集だが連作のような雰囲気があるし、何よりトリックと人がきっちり描けている。ミステリというと大掛かりなトリックだけが独り歩きしがちだが、本作は事件を起こす「ひと」にも焦点が当てられている。これはいい。最高などという言葉ではもったいないぐらいだ。 -
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ネタバレおすすめされていた本なので。良くあるミステリ小説の探偵ではなく、我々の日常により近い感覚の探偵もの。女子高生だった主人公は、友人からとある依頼をされて以来、その人が持つ人間性を覗き見るのが好きになってしまう。それはどんな結末をもたらしても変わることなく、彼女を魅了していく。それでもそこまで罪深い話はないので、何というか、ちょっとした悪い趣味を見つけてしまったときの感覚に似ている。薬物はちょっとどころじゃなくヤバいか。でも殺人も無いので、ミステリ初心者や、猟奇ものじゃないのを読みたい人にはぴったりかもしれない。ひとつの話もそこまで長くないし。私は大満足だった。
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森田みどりは、二児の母で複数の部下も持つ中堅の私立探偵。家族を大切にしつつも、出会った相手の素性を執拗に追い求めてしまう好奇心旺盛な性分が故に、深みにハマってしまうこともしばしば。彼女が巡り合った少年達の内側に迫る連作短編集。
「時の子」
時計師親子の物語。
私も腕時計をオーバーホールに出したことがある。安くはない金額だったが、精緻極まりない時計を扱う時計師の緻密な技能には払って然るべき費用だったかなと。本書も、時計さながらの緻密な伏線が紐解かれた後の意外性が冴え渡る。
「縞馬のコード」
“千里眼を持つ”という謎めいた少年に引っ張られてグイグイ読ませる。
みどりの心理描写(下記)に大共感。 -
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★5 人間の本性に魅了された私立探偵みどり、バランスの優れた高品質な連作短編 #五つの季節に探偵は
■きっと読みたくなるレビュー
すげー面白んだけど、いい連作短編集ですね。読み逃してたなぁ~、文庫で拝読します。
設定自体は女性の私立探偵ものなんですが、ひとつひとつの作品に気品があり、味がある。各編の素材もセンスが良いし、取材も徹底的。謎解きとしても伏線の効かされた真相に驚かされるし、変に捻り過ぎず、物語とのバランスもいい。
主人公みどりのキャラクター、人間の本性を見抜きたくなるという性格もいいんすよ。ミステリー読者であれば、誰もが思う現実的なあるあるだし、すごく身近に感じちゃう。彼女の成 -
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ミステリー(特に死が絡むもの)は暗くてえぐいものが好きなので、その点でいくと物足りなさはあった。でもそれを凌駕するほどの『解釈』に圧倒されてしまった。音楽とは何か、演奏家の演奏はなんなのか、聴く側は一体何を鑑賞しているのか、という問いかけがとても冷たくて、かつてクラシック音楽に携わっていた身からすると、当時自分の演奏にああでもないこうでもないと言ったり言われたりしていたことに果たしてなんの意味があったのだろうか、という気持ちにさせられた。
そしてこれは音楽に限った話ではないと思う。この世の全ての事象、表現する側とそれを受け取る側がいる限り付き纏う。私たちは世界の何を見ているのだろう。全くの私 -
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本の雑誌3月号の新刊めったくたガイド(SF)を読み終えて、何の気なしに次頁をめくったら、推理小説のページに「音楽とは何か」を問う、逸木裕『四重奏』を推す!という見出しに釘付けとなった。いつきひろし?あの演歌の?ではない。「いつきゆう」とルビが振ってあった。そりゃそうだ、予備知識が無ければそう読むでしょう。約三段の解説を読み終えたら、この本を直ぐに手に入れたいという衝動にかられた。これは本当に推理小説なのか?内容が甘利にも次元の高い音楽の話をしている。今まで関わってきた私と音楽との関係を見直すきっかけになりそうなテーマに手が震えた。よほどクラッシック界の実情を御存じなのか?それとも緻密な取材に寄
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ネタバレ23/12/23〜24/1/2
7月に『23春』、8月に『22秋』、10月に『22春』、今回12月に『23秋』。順番が入れ替わったりしたけど、やっと最新作に追いついた。『23春』だけ、あと4人分がまだ読めてないので、次はそれを。
今回の『23春』は、今まで読んだ3つと比べてとても読み応えがあり、楽しめた。
12/23〜12/27東川篤哉 ★★★
『どうして今夜の彼女は魅力的に映るんだろう』
『謎解きはディナーのあとで』以来。
おじさん作者らしいめんどくさい感じはあるものの、軽く読めて面白かった。トリックは想像通りだけど、まあ楽しく読めたのでよし。あるマイカの口調が楽しい。
12/27逸木裕