逸木裕のレビュー一覧
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ネタバレ久々の逸木裕「森田みどり」シリーズ。過去のレビューを調べたら、「星空の16進数」も「5つの季節に探偵は」も2023年に読んでいるので3年ぶり。
みどりさんは本作では結婚して2児の母をしつつ、今もお父さんの探偵事務所で女性探偵として現役で働いている。前作では育児休暇中の彼女を描いた1作もあったが、本作では上の子はもう6歳になっていたり。
そんな彼女の活躍を描いた5編。どれも捨て作なしの読み応え、ミステリーとしても人間ドラマとしても質が高いねんなぁ。
理知的で美しい1話、デジタル社会への啓もうな2話、ドンデン返し連発の3話、クルド移民差別問題を扱う4話、そして短いながらもみどりの一家を丁寧に描いた5話。
読み終わるのがもったいなく、余韻もとても心地よかった1冊だった。 -
Posted by ブクログ
謎を解くたびに、わたしは誰かに迷惑をかける。隠されているものを暴きたいーわたしの<熱中>は、多くの人を幸せにする音楽などとは違い、常に誰かを傷つける危険性を孕んでいる。
(p.225)
探偵の父をもつ高校2年生の榊原みどりは、あるとき同級生から、生徒に人気の男性教師の秘密を探るよう依頼される。教師を独自に尾行するうち、真相に気付いたみどりは自身の探偵としての才能とある"性質"に気づかされる。
面白かった!
ミステリーではたいてい、"探偵"は謎を解いたことで周囲からヒーローのように扱われて称賛される。でも、"探偵"が辿り着いた真相は、登場人物のある一部にとっては知りたくなかった事実、隠れたままでいてほしかった事実かもしれない。
この小説は、そうした感謝されない探偵を描いた点でとても面白かった。 -
Posted by ブクログ
時折、感情が突き動かされる本がある。僕にとって、本書がそうだった。本や映画との出会いは、同じものと触れても、その時々の自分の環境だったり体調だったりタイミングによって受け止め方が変わってしまうものだと思うが、今日この本を読めたことはこの上ない幸運だった。特にこの内容に共鳴する何かが身の回りにあったわけでもないけれど、後悔や自己嫌悪や挫折や憧憬や希望が混ざり合うこの物語に、なぜかしらひどく惹き付けられた。
まったく素養のないクラシック音楽の世界が舞台にも関わらず、それがかえって新鮮だったのか、とても面白く読むことができた。自省的な主人公 坂下英紀が、翻弄されながらも神秘のベールの向こう側にある黛由佳、鵜崎顕の物語に到達していく過程がとてもスリリングだった。芸術に限らず、人が見て感じているものは自分勝手な「情報」の「解釈」でしかないのでは?それは「錯覚」ではないのか?そこに絶対的な「価値」や「真実」が存在するのか?この命題が僕の心にずっしりと刺さりました。
自分なりの解答に辿り着いた英紀がそこで見つけたものは、一見未来への希望のように見えるけれど、でも僕の「解釈」では、彼が到達したのは「自己満足の達成感」と「偶像化していた由佳への失恋」だったのではないか。
というのは穿ち過ぎでしょうか。 -
Posted by ブクログ
ネタバレおすすめされていた本なので。良くあるミステリ小説の探偵ではなく、我々の日常により近い感覚の探偵もの。女子高生だった主人公は、友人からとある依頼をされて以来、その人が持つ人間性を覗き見るのが好きになってしまう。それはどんな結末をもたらしても変わることなく、彼女を魅了していく。それでもそこまで罪深い話はないので、何というか、ちょっとした悪い趣味を見つけてしまったときの感覚に似ている。薬物はちょっとどころじゃなくヤバいか。でも殺人も無いので、ミステリ初心者や、猟奇ものじゃないのを読みたい人にはぴったりかもしれない。ひとつの話もそこまで長くないし。私は大満足だった。
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★5 人間の本性に魅了された私立探偵みどり、バランスの優れた高品質な連作短編 #五つの季節に探偵は
■きっと読みたくなるレビュー
すげー面白んだけど、いい連作短編集ですね。読み逃してたなぁ~、文庫で拝読します。
設定自体は女性の私立探偵ものなんですが、ひとつひとつの作品に気品があり、味がある。各編の素材もセンスが良いし、取材も徹底的。謎解きとしても伏線の効かされた真相に驚かされるし、変に捻り過ぎず、物語とのバランスもいい。
主人公みどりのキャラクター、人間の本性を見抜きたくなるという性格もいいんすよ。ミステリー読者であれば、誰もが思う現実的なあるあるだし、すごく身近に感じちゃう。彼女の成長物語でもあるしさー。えー、マジ褒めるところしかないんだけど。
手軽に読める高品質な探偵小説、万人に推せますが、特にミステリー読み始めの方にオススメしたいすね。
●イミテーション・ガールズ 2002年 春
探偵の娘、高校生のみどりは、友人からいじめの相談を受ける。先生の調査をしてほしいというのだが…
はじめて探偵の真似事するときのみどりのドキドキ感、めっちゃ伝わってくる~ わかるわかる、きっとこんな感じだよ!一編目から鋭角な真相にビックリ、おもろい。
●龍の残り香 2007年 夏 【おすすめ】
大学に通うみどりは、お香に入れ込む友人から相談を受ける。貴重な龍涎香を先生に盗まれたらしく…
すげー取材力、お香の世界ってこんなにも深いんすね。シンプルに勉強になりました。ストーリーとしてもうねりがある良いミステリーなんですが、特にラストが情趣と虚無感があって好き。
●解錠の音が 2009年 秋
事務所に就職した新人探偵みどり、ストーカー調査の依頼をうけるのだが…
若さと無邪気が溢れまくりのみどりが眩しすぎする、先輩の奥野さんも頼りがいのあるキャラ。このバディに感情移入しちゃうよね。物語としてのまとまりもキレイな一編。
●スケーターズ・ワルツ 2012年 冬 【超おすすめ】
軽井沢に休暇にきていたみどり、レストランでピアノを演奏していた尚子との会話。
この作品もすごい取材力ですね、音楽や芸術に対する感性も高くないと書けないじゃないのコレ。読んでるとどんどん物語に入り込んじゃう。登場人物たちが目に浮かんでくるし、もはやオーケストラが奏でる音楽すら聴こえてきそう。短編なのにこれだけ躍動感をだせるもんなんでしょうか、すげぇ。
もちろんミステリーとしても面白いし、これだけでも読む価値がある。
●ゴーストの雫 2018年 春 【おすすめ】
新人探偵の須見とみどり、リベンジポルノを流布した人探しの依頼だったが…
本編は新人の須見目線で物語が進行、ちょっと新鮮。もはやベテラン探偵のみどり、10年も経つとこうなるよねってイメージどおり。作品内では描かれないんだけど、彼女の歴史が見えてくるんよ、あえて引き算なのが魅力なんですよね。
そして須見との掛け合いも探偵の深淵を覗かせてくれました。人間だれしも得意なこともあれば、苦手なこともある。いかに自分の強みを伸ばし、仲間を信頼するかってことなんすよね。チーム力って大事です。
■ぜっさん推しポイント
主人公みどりを含め、人間の描き具合が超推せる! くどく書いてないのに深みがあるんだよなぁ~
人間の良いところばかりじゃなくて、あくどい部分を嫌味ったらしく描くのも上手なんすよね。善悪を出すことによってバランスをしっかりとり、探偵ものの物語としてもちゃんと機能させている。
これまで逸木裕先生の作品は『四重奏』しか読めてませんでしたが、これからの作品も期待しちゃいます! -
Posted by ブクログ
ミステリー(特に死が絡むもの)は暗くてえぐいものが好きなので、その点でいくと物足りなさはあった。でもそれを凌駕するほどの『解釈』に圧倒されてしまった。音楽とは何か、演奏家の演奏はなんなのか、聴く側は一体何を鑑賞しているのか、という問いかけがとても冷たくて、かつてクラシック音楽に携わっていた身からすると、当時自分の演奏にああでもないこうでもないと言ったり言われたりしていたことに果たしてなんの意味があったのだろうか、という気持ちにさせられた。
そしてこれは音楽に限った話ではないと思う。この世の全ての事象、表現する側とそれを受け取る側がいる限り付き纏う。私たちは世界の何を見ているのだろう。全くの私情や先入観なしに世界を見ることはできないのではないだろうか。
読みながらそういったことを考えていると、小説ではなくもはやデカルトについての哲学書を読んでいるような感覚に陥った。
こんな風に重厚な読後感を残せるのは、楽器が他でもないチェロだったから、というのもあると思う。