逸木裕のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
本の雑誌3月号の新刊めったくたガイド(SF)を読み終えて、何の気なしに次頁をめくったら、推理小説のページに「音楽とは何か」を問う、逸木裕『四重奏』を推す!という見出しに釘付けとなった。いつきひろし?あの演歌の?ではない。「いつきゆう」とルビが振ってあった。そりゃそうだ、予備知識が無ければそう読むでしょう。約三段の解説を読み終えたら、この本を直ぐに手に入れたいという衝動にかられた。これは本当に推理小説なのか?内容が甘利にも次元の高い音楽の話をしている。今まで関わってきた私と音楽との関係を見直すきっかけになりそうなテーマに手が震えた。よほどクラッシック界の実情を御存じなのか?それとも緻密な取材に寄るものなのか?この逸木裕のバックグラウンドが判らないので、もうどうしてよいか判らない。書評だけでこれだけ興奮すると、本を読み終わったら気絶しているかもしれない。因みに『四重奏』とは弦楽四重奏ではなく、チェロ四重奏。
読む前に紙面を使い過ぎた。さて、感想だが、考えが纏まらない。いろいろなことをいろいろ考えさせられる内容だった。本作品の根幹を成すテーマは「音楽とは何か?」、「模倣」か「オリジナリティー」か?
まずは「模倣」から考えよう。実は模倣は非常に高度な技術を要する。上手い人、下手な人、音量の小さい人、汚い音を出す人、テンポが一定しない人等々、それらの人の多様な音を再現するには、自分の音と相手の音の差をなくすこと。お笑いものまねタレントが本人と全く同じ動き、全く同じ声を出し、体形・表情・衣装を限りなく同じにするには涙ぐましい努力が必要だ。しかも一人だけではない、100人以上のものまねができる人もいる。世の中には特徴を掴む能力に長けたがいる。鵜崎が求めるのはそれに近いレベルだ。私も学生時代から楽器を演奏しているが、まずは有名奏者のまねをする所から入る。ベルリンフィルの首席と同じ音が出せるよう何日も徹夜で技術を磨いた。頭の中で一流奏者の響きが常に流れていればゴールは近い。
そして、次の段階が「オリジナリティー」だ。実際は、本書で書かれているように「模倣」と「オリジナリティー」は対立するのもではない。「模倣」の次に「オリジナリティー」の追及が来るのだ。様々な演奏の模倣ができるようになると、模倣した複数の演奏から取捨選択、良いとこ取りをする欲が出てくる。どの演奏にこの演奏をこの程度加えると言った香水調合の様な検討を行い自分自身特有のスタイルを確立する。これがオリジナリティーの追求だ。
そして最終段階が「アンサンブル」だ。勿論一人ではアンサンブルは成り立たない。二人以上人が集まって演奏すれば、ここからアンサンブル力が必要となり、時間と人をかけてアンサンブル力を磨く必要が出てくる。鵜崎の四重奏団は模倣とアンサンブルに特化し、オリジナリティーは徹底的に排除するといった歪な合奏に位置づけられる。プロアマ問わずこの3つができていれば音楽を楽しむ権利を得られる訳だ。鵜崎、可哀そうな奴。
本筋とは離れるが、ブルックナーの交響曲第9番を指揮する巨匠神山多喜司は、明らかに朝比奈隆のパロディだ。この皮肉は良く分かる。鵜崎・坂下は巨匠の化けの皮を心の中で剝いだだけではなく、神山(朝比奈)の狂信者に対して冷たい戦闘行為を繰り広げているのだ。テンポが遅ければ遅い程良いのであれば、チェリビダッケの演奏を死ぬまで聴けばよい。
要は、この作品に出てくる中途半端な登場人物達には「模倣」、「オリジナリティー」、「アンサンブル力」の3つのうち、いずれかが欠けている。例え、3つ全部を手にしたとしても、その時に人生の破滅、音楽の破滅・熱的死が待ち受けているという皮肉。
もっと掘り下げて考えたいが、文字にするとマイナス思考に陥ってしまうので、この辺で終わりにしたい。本作品はジャンルが推理小説ということだが、最後のどんでん返しがショボすぎて盛り上がらないまま終わってしまった。中山七里レベルまでは求めないが、華麗なネタばらしを次回は期待したい。最後に私としては、本作品は音楽小説としては最高峰に位置づけている。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ23/12/23〜24/1/2
7月に『23春』、8月に『22秋』、10月に『22春』、今回12月に『23秋』。順番が入れ替わったりしたけど、やっと最新作に追いついた。『23春』だけ、あと4人分がまだ読めてないので、次はそれを。
今回の『23春』は、今まで読んだ3つと比べてとても読み応えがあり、楽しめた。
12/23〜12/27東川篤哉 ★★★
『どうして今夜の彼女は魅力的に映るんだろう』
『謎解きはディナーのあとで』以来。
おじさん作者らしいめんどくさい感じはあるものの、軽く読めて面白かった。トリックは想像通りだけど、まあ楽しく読めたのでよし。あるマイカの口調が楽しい。
12/27逸木裕 ★★★★★
『スプリット』
初読み作家さん。
才能を美醜で見分けられるスカウトマンの主人公。研ぎ澄まされた感覚で、粘り強くスカウトする姿が面白く、また主人公の成長物語でもあり、読後感がよかった。
回想シーンの入り方がわかりづらいため、読んでいて混乱した。回想シーンの会話は〈〉表記だと気付いてからはだいぶわかりやすくなった。
12/28長岡弘樹★
『笑う君影草』
初読み作家さん。
スズラン毒なことは、すぐに気付いた。
いじめられっ子が犯人なことはまあいいとして、
①いじめの解決策
②それにより本当にいないものとして見えなくなる
の2点が強引だと感じた。
①については、先生の悪手だと思うし、最後またそれを伝授しているのがダメだと思う。適切な関わりをしてほしかった。
②については、“いない人“が本当に見えなくなるってどんなホラーだよ、という感じ。お見舞いのシーンとか。
え、ホラー作家なのかな。ミステリーじゃなくて、ホラーミステリーなの?それならアリなのかも。私にとっては苦手な作品だった。
12/28似鳥鶏 ★★★
『名探偵名前が適当』
まあまあ楽しめた。いつも個性的なキャラが出てくる作家さんというイメージ。
12/29太田愛 ★★★★
『夏を刈る』
『22秋』の『鯉』は苦手だったけど、こちらは似たような作品ながら楽しめた。ドロドロ部分が少なかったからかな。中編作品を読んだような満足感だった。婚約者も兄もクズだなぁ。
1/2宮内悠介★★★★★
『最後のひと仕事』
面白かった。
結局、天才ではなかったのかもしれないけど、サイコっぽいなぁ。怖い。 -
Posted by ブクログ
いやー、おもしろい。
尻上がりにおもしろかった。
序盤は知識不足から手が止まってしまうことも。
でも第一章の結末から第二章
ページを捲る手が止まらなかった。
音楽って素晴らしい!
自分に無いものを素直に心から尊敬して
手を取り合えることも素晴らしい!
パイプオルガンの音を聞く機会が、今までの私の人生の中にはなかったけれど
チャンスがあればぜひとも聞きたい。
コンサートに行きたくなったし
森の中も歩きたくなった。
海沿いの防風林の中を散歩するのが大好きな私。
風の音、波音、鳥の声、自分の足音。
いろんな音が混ざって、でも不快ではなくて。
寧ろすべてが溶け合って、心地よい癒される音なのだからだなと
この本を読んで再確認した。 -
Posted by ブクログ
ネタバレネグレクトされていた幼少時代に誘拐された経験のある17歳の少女、藍葉の元に、ある人から探偵と称する女性、みどりが100万円を携えやってくる。
藍葉とみどり、二人の主人公目線で物語は進む。100万円は誰が用意したものなのか?藍葉を誘拐したのは誰なのか?
ミステリーとして謎解き部分も十分だが、この小説の核心部は、藍葉がもともと持っていた色覚に対する才能がさらに鋭く開花成長していく様と、探偵みどりの破滅的ともいえる破天荒な行動っぷり。
それ以外の脇を固めるキャラクターもいい。解説で似鳥鶏が記しているように、逸木裕のキャラクター作り込みがしっかりしているからこそ、そこに寄って立つことで小説に熱が生まれている感じ。物語のテーマになっている色や芸術に関する描写も丁寧で良い。
テンポよく読める文章のリズムもいい。これは傑作 -
Posted by ブクログ
面白さはもちろんのこと、著者である逸木さんの、人工知能への視点、人間への視点に感銘を受けた一冊でもありました。人工知能が労働を奪う、とささやかれる現代だからこそ、よりこの作品の世界観や主人公の心情がリアルに、そして切迫感をもって伝わってきた気がします。そういう意味ではSF要素がありながらも、社会派的な作品なのかもしれない。
AIアプリが音楽を作曲する近未来を舞台に、元作曲家が自分の友人であった天才音楽家の自殺の謎を追うミステリー。
作品に登場する音楽家たちの心情がリアルで、切迫感を伴って伝わってくるのがとてもよかった。自分の創るものは人工知能でも作れる、なんなら人工知能の作る作品の方が優れているかもしれない。そんな中で音楽を創る意味があるのか。
命題として単純化するとそれに集約されると思うけれど、それを主人公の自殺した天才音楽家・元バンド仲間、ハンディギャップを抱えながら演奏を続ける女性、自動音楽アプリを製作したIT社長などなど様々な登場人物を絡ませ、多角的に命題を浮かび上がらせて、何度も主人公に問いかけてくる。
その主人公の葛藤に引っ張られていくうちに、物語がどんどん展開していく。ミステリ的な部分で話を引っ張るところもあるのだけど、それ以上に音楽と人をめぐるドラマの部分でも話を引っ張っていき、気づけば後半は夢中で読み進めていました。
そうやって主人公の葛藤を切迫感をもって目の当たりにしてきたからこそ、終盤の主人公の再生も作り物めいておらず、素直に受け取れる。そして登場人物たちの設定や配置、エピソードにも無駄がなく、見事な伏線回収が決まるのも本当に見事! と思うしかありません。
逸木さんのデビュー作『虹を待つ彼女』でもそうだったけど、本編が終わってエピローグになってから、もう一つ見せ場があるのも読者として嬉しく感じられる。映画でエンドロールが流れてから、アニメで12話終わってから、もう一話、その後の話が描かれるような、そんなサービス精神というか、見せ方をもう一つ工夫しているのも好ましいと思います。
ミステリとしても面白いし、人工知能と音楽をめぐる人間ドラマから浮かび上がる、著者の人間に対する視点の優しさや期待も本当に素晴らしい一冊でした。 -
Posted by ブクログ
多少強引で粗削りな部分も感じてしまうものの、それでもそれも含めてその強い想いに共感と感動を覚えた。冒頭に提示される魅力的な謎を追究、発展させていくストーリー展開はめちゃめちゃ上手だと思う。たちまちのうちに引き込まれ、続きが気になってしょうがなかった。人工知能という舞台設定も興味深かった。水科晴、雨、そして工藤。時に性的に、時に狂気的に、暴走の気配も見せる小説だけれども、いやまてよ、恋は盲目、常識的な見境がなくなってしまうのも確かに恋の一面だったはずだ。
打算的だったはずの男が落ちた狂おしいほどの初恋とその悲劇的な終焉。これは良し悪しを超えてその強い想いが伝わってくる新時代のラブストーリーの傑作だと思う。 -
Posted by ブクログ
この小説を読んだとき「ギアチェンジがスゴい」小説だと思いました。自分が強く感じたのは小説の半分ほどでまず一回、そして終盤にもう一回。ギアを変えたときの振動で、頭を車の天井にぶつけそうになりました(笑)
一人の人格を完璧に再現する人工知能を作ることになり、そのモデルケースで既に亡くなっている女性が選ばれるのですが、その人工知能を作ることになったプログラマーが主人公のミステリ。
この亡くなった女性が、かなり個性的というか、とにかく強烈。彼女の自殺方法、生前の生活の様子は、まさに天才や異才の雰囲気を感じさせます。
以前、北村薫さんは宮部みゆきさんの『火車』を恋愛小説としても読める、と評したそうです。行方不明になった顔も分からない女性に、徐々に囚われ感情移入していく主人公は、一種の恋愛状態であると。
当時は、分かったような分からない感じだったのですが、この小説を読みようやく北村さんの言わんとするところが分かってきました。すでに亡くなった女性の行動に興味や共感を抱き、徐々に自分の理想を投影し囚われ始める。そしてその執着や行動の意味に主人公が気づいたとき……、まずこれがギアチェンジの第一段階。
彼女を再現するため、徐々に活動を活発化していく主人公ですが、その調査をやめるよう謎の脅迫者が出てきます。そこから徐々に亡くなった女性を探っていくミステリから、脅迫者は誰か、その目的は、というミステリも展開されていきます。
そうしたメインストーリーも面白いのですが、サブストーリーが面白いのも、この小説の魅力だと思います。主人公は調査の傍ら、自身が開発した人工知能を使った恋愛アプリをめぐるゴタゴタや、人工知能と将棋棋士の対決、いわゆる「電王戦」をめぐるゴタゴタにも巻き込まれていきます。
ここで社会が抱く人工知能のイメージや、あるいは個人が抱く人工知能のイメージも描かれて、無意識的に物語のテーマについてより深く考えるようになるのです。日々発展していく人工知能に希望をみるか、恐怖をみるか、友人とみるか、敵とみるか。
電王戦の話は長編のサブストーリーにするにはもったいなく感じる読み応えを、個人的には感じました。普通に棋士サイドの話も読んでみたい。
そして脅迫者の行為もエスカレートしていき、一方で主人公の調査もエスカレートしていき……、この辺の書き方もすごいなあ。主人公の執着具合や狂気の描き方が本当に秀逸で、なんだかダークヒーローの活躍を読んでいるような感覚を覚えていきます。ぶっちゃけ脅迫者よりも主人公の方が、怖いかもしれない……
そして、脅迫者の正体も分かり、主人公も危機を逃れ、ようやく人工知能作りも佳境に(ここまでのエピソードが濃厚なので、ここに至って、「あ、そういえば人工知能を作る話だった」と思い出しました……)
もうエピローグ的な感じだろうな、と思いながら読んでいたのですが、ここでさらにギアが入ります。「主人公、そこまでやるの……」と唖然とし「こいつ本気だな」と改めて物語に対し向き合わされ、気合いを入れ直し最後まで読み進めることができました。
ラストシーンも味わい深い……。ここに至って主人公のキャラクターの特異さの意味も分かった気がします。序盤を読んだ段階では、頭の良さを鼻にかけ、人生をバカにしている「イヤなやつ」という印象が強かったのですが、読み進めるにつれ、徐々にその感情は薄れてきて、そしてラストに圧倒されました。
解説の恩田陸さんも書かれているのですが、これは一種の青春小説でもあったわけですね。思わずスタンディングオベーションを送りたくなるような、そんなラストシーンだった気がします。
第36回横溝正史ミステリ大賞