逸木裕のレビュー一覧
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大手ビジネスホテルチェーン〈ラ・フォレ〉の創業者・森栄莞爾は、カリスマ経営者として多くの人に愛されていたが、精子提供で105人もの子供を作っていた。
彼が亡くなってからそのリストが出回り、12人のきょうだいたちが自助活動を目的に集まった。
そこで、莞爾を父と認める声明を出してほしいと言われ…。
12人各々の育った環境も違えば、考えることも違っているのは当たり前だが、共通しているのは父親が森栄莞爾だということ。
みんなは、父親として認めるのか…に始まったのだが、そう簡単に答えが出せる筈もなく、何回か会合で会うたびにその人となりがわかってくる。
血の繋がりよりも育てられた父のことを思うのか…苦悩していた三ツ橋健太の答えが、間違っているとは思えなく、どうしようもなく父だと思った理由に自らも恐れていたほどの過剰な家族愛を発見したからだということに言葉もなかった。
血の繋がりを重く受けとめるのは、男女で違うのだろうか…と考えてしまった。
きっと正解などなくて、その人だけが感じるものかもしれないが…。
ただ精子提供の意味を知ると、とても重くて深い問題だけに簡単に答えを出せるものでもないと感じた。
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Posted by ブクログ
高校時代、人の秘密を探る依頼をきっかけに“本性を暴く”ことへの衝動に目覚めた榊原みどり。やがて探偵となった彼女は、16年の歳月の中でさまざまな人間の秘密と向き合っていく連作短編集。
これは普通の探偵小説とは違い、事件の謎ではなく人間の心の謎を解き明かす物語だった。犯人は想像できても、なぜそこに至ったのか、その背景や真実が明らかになる過程が面白い。真実は必ずしも誰かを救うものではなく、暴かれることで新たな悲劇を生むこともある。その現実がリアルで、読後にほろ苦い余韻が残った。
主人公のみどりは中心人物でありながら前面に出過ぎず、調査対象となる人々の人生が強く印象に残る。真実を暴かずにいられない彼女の葛藤もまた人間らしく感じた。16年という時間の中での彼女の変化も含め、人間を描いた物語として深く心に残る一冊だった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ主人公の家庭とありさの家庭の結末が対照的だなと思った
ありさの母は自分の夫と娘の似てない部分を確認する度に血の繋がりがない事実を突きつけられて娘が異物のように感じてしまったのかもしれない
似てないという確認作業が血の繋がりがないからと結論付けられてマイナスな方に流れてしまう
でも血の繋がりがある母と娘でさえ感情的な母と理論的なありさは全然違うのにね……
主人公の決断は、育ての親は親ではないというものだったけれど
健太が健一朗を尊敬している感情の中に健一朗に育てられたから培った部分や似ている部分も確かにあるのだと思う
ただ、それ以上に健太の荒ぶるような家族愛の性質が莞爾にそっくりだったのだろう
私は親子って血の繋がりがあることだけではないと思う
実子だって普段から親の血を意識して生きている訳じゃない
似ている部分もあれば似ていないと思う部分だってたくさんあるし、一緒に暮らしたから育てられた環境から似てくるものだってたくさんある
ただ、血の繋がりがないと分かった時にふと沸き上がった「似ていない」が必要以上に重くのし掛かって親子という定義が不確かであやふやなものになって不安に押し流されてしまうのかもしれない -
Posted by ブクログ
ネタバレ登場人物たちの感情に沿った文章が読みやすくて面白かった〜!
健太の出した結論は読者にとって気持ちよく受け止められるものとは言えないけど、
自身の本質的な部分(家族/大切な人への強烈な愛情)に共通点を感じる森栄莞爾を父と認めたうえで"父と息子""血縁"を切り離して「健太という個人」の願いで「健一郎という個人」にこれからもずっとそばにいてほしいと願うラストがすごく美しいと思った。
父と子/親子だから一緒にいるんじゃなくて、今まで積み上げてきた信頼と愛情があるからこそ役割に囚われずにそれぞれの自発的な意思でこれからも支え合う選択をした、そういうことだよね。
ストーリーが進むにつれて子供たちそれぞれの交流に親密な雰囲気がちらちらと見えてきたのも良かったな〜
もっとキャラクターたちのことを知りたい、これからも交流し続けてほしいって思った。 -
Posted by ブクログ
みどりは父親が私立探偵をしている。
だからと言って自分にはそんなことできないと思っていた。
しかし、高校で友人から頼み込まれて探偵の真似事をすることになる。
その時に【人の本性を暴く】ということに快感を覚える。
5つの短編小説でそれは5つの季節というより、みどりの成長を描いている。最初は高校生、大学生とだんだん大人になり、最後は結婚までして子供もいる。
好きな話の一つが【龍の残り香】
この話は大学生の話でみどりの残酷さを描いて面白かった。人の本性を暴くために友達をなくす。切なかった。
そして【スケーターズワルツ】は賞をもらっているだけあり、複雑な話であったが面白かった。
みどりはちゃんと成長していて、この話の時はずっと呪いをかけていた彼女をちゃんと救っていてよかった。
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Posted by ブクログ
前作の感想で「探偵は職業ではない、生き方だ」を引用したが、やはり本作の主人公・森田みどりに最も相応しい言葉だと思えた。
たとえみどりが職業探偵になっていなかったとしても、真実を求めるその生き方は変えられないだろう。
彼女自身はそんな自身の在り方を“人を傷つけてしまう良くないもの”とやましさを感じているようだが、部下の要視点で語られるみどりは“簡単に答えを出す人にならない”、“確信ができてもさらにその先を考える”ことを芯に据えた人間であって、いたずらに他者の秘密を覗き暴くことを喜ぶ人間ではない。
確かに真実はときに人を傷つけてしまうこともあるが、真実に正面から向き合ってこそ初めて前を向いて歩き出すことができるのであり、その意味で彼女は他者が自分の人生を見つめ直し再出発するための手助けをしているのだと言えよう。
厳しくもあるが、それこそが正しく人生を歩むためのただひとつの道なのだろうと思う。
本作も全五話のうち三話が書き下ろしとなっている。
前作でも感じたことだが、香道や指揮、時計、クルド人問題、陶器などテーマに沿った取材を的確に行い物語に落とし込む技や人物描写の厚みには作者の力量が感じられる。
殺人等の派手な事件を取り扱うことなく重厚なミステリーを構築する手腕には、今後も期待したいと思う。