谷崎由依のレビュー一覧
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19世紀アメリカ。現実にあった〈地下鉄道〉という黒人奴隷解放支援組織を実際の鉄道に置き換えてジョージアの奴隷少女コーラの逃亡劇を描いたフィクション。ファンタジーのような設定だがそんな甘い話ではない。逃げるコーラを追いかける奴隷狩人リッジウェイ。コーラと共に逃げる仲間は捕まり、彼女を助けた白人も殺され、コーラも捕まり、しかしまた地下鉄道に乗って逃げる。希望を感じさせるラストだが当時の黒人に真の希望はあったのか。どこまで行けば逃げ切れるのか?トンネルの中を逃げるように、漠然と北部に逃げるしかないのだ。しかしそれでも時代から逃げないと本当の安心はできないのだ。ユダヤ人にとってのホロコーストと同じでは
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Posted by ブクログ
ゴールのないマラソンの話。
19世紀のアメリカで黒人奴隷の亡命を手助けした組織『地下鉄道』が、組織名や逃亡路ではなく実際に"地下鉄道"だったら、という虚構を一つ入れるだけで広がる世界と現実感。
黒人奴隷を題材にしてるので当たり前に残酷な事が再三起こるけど、エンターテイメント性もありさらりとした文章で、翻訳本としての読みにくさも感じなかった。
「真実とは目抜き通りのショーウインドウのようなものだ。
目を逸した隙に並べ替えられ、うっとりと魅力的だが手は届かない。」
「自身を束縛する手足の鎖に不完全な部分を見つけ出すのだ。ひとつひとつを見ていけば鎖の各部はちいさなものだ。
でも周囲の -
Posted by ブクログ
大傑作。
南部奴隷を逃す組織を「地下鉄道」と呼んだそうだが、それが本当に地下を走る機関車だったら?というアイデアを挿入、あとはかなり史実に忠実に描かれた、少女の逃亡譚。
『風と共に去りぬ』が正当な注釈がつくまで配信停止となったとき、ファンの私は「いやー、オハラ農園に仕えたマミーをはじめとする人々のように、奴隷だって(比較的)幸せな人生もあったのでは?」とか思ったけど、奴隷制をまるで理解してなかった。奴隷が何かをわかってなかった。ひとが何もかも奪われて生きる地獄を。
それでもこうして、どんな残酷な罰が待とうと、自由と尊厳を求める勇気を大勢が奮い、死んでいったことを知ろうとしていなかった。
教えて -
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Posted by ブクログ
芥川賞や直木賞なんて世界の文学賞のうちに入るのだろうか?日本の作家が書いた日本語の小説しか対象になっていないのに。なんてことを思ったけれども、読んでみました。今年も話題になっているのは、もちろんノーベル文学賞。村上春樹さんがとるかどうか、メディアで騒がれました。この本を読むとわかるのですが、その根拠になっているのがカフカ賞。この賞をとった人が二人、ノーベル文学賞をダブル受賞しているんだそうで、まだ受賞してないのが村上春樹なんだそうです。カフカ賞はチェコ語の翻訳が一冊は出ていないと受賞できないそうで、村上春樹がとった2006年は『海辺のカフカ』が翻訳された年。タイトルがよかった?
そのノーベル -
Posted by ブクログ
多数の受賞が本作の評価を確固たるものとしている。それでも、黒人奴隷の歴史に馴染みのない日本人の私にとって、読書中の没入感は今ひとつだった。いや、ひょっとすると、その原因は題材ではなく、重要な登場人物の心の1人である奴隷狩人の心の機微に首を傾げながら読んだからかも知れない。制度の瑕疵と評する逃亡奴隷の娘に対し、自分の心情を吐露しながら長々と興味深く会話ができるのかどうか。報酬をふいにしても自分の手で殺したくなるのではないか。
主人公は逃亡中に地下鉄道の関係者に匿われる。「見えない鎖」に自由の意味を自問する場面がある。毎日、満員電車に揺られながら会社に通うサラリーマン諸氏にとって、格別新しい問い -
Posted by ブクログ
女性の人権がまだまだ確立しない
時代に生きた絵子を中心とした女性達の
時代に翻弄されながらも
迷い、悩み、自立して行こうとする
姿が時に痛ましく心が揺さぶられる。
若き絵子が目にしたえびす屋は、煌めきと
希望が詰まった宝箱であったのだろう。
そこに現れたた少女歌劇団のキヨ。
出会いはまた、絵子を夢の扉の先を
具現化し脚本を描くミューズになった。
また戦争が始まり絵子の青春も幻の様に
消えて行く。
何となくキヨ兄弟の出自や移民の話は
何故だか中途半端で、この物語には
不要な感じがした。
絵子の行動が全て中途半端で、最後も
夢か幻か?何とも言えないモヤつとした
最後だった。