古内一絵のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
東京の中心地にある中堅eコマース会社を中心に繰り広げられる連作短編ヒューマンドラマ。各話で主人公が異なる、群像劇の体裁で描かれる。
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アラームの鋭い電子音で矢作桐人は目が覚めた。アラームをとめても頭はまだぼんやりしている。それでも自分が汗まみれであることに気がつき、桐人はシャワーを浴びようとふらふら立ち上がった。睡眠不足なのは明らかだ。
梅雨明けから連日の猛暑日と熱帯夜が続いている。熱中症予防のため、夜中もエアコンの使用が推奨されているが、桐人はどうしてもつけっぱなしにしておけない。
桐人が育った家は裕福でなかったことと、極度の倹約家だった父親の影響で、エアコンにかかる電気代が勿体なく思えてしまうからだ。
「どの道、たいして寝られないんだしな」
シャワーを浴びながら桐人は、半ば自棄のように独りごちた。
桐人はひどく寝つきが悪い。ベッドに入っても数時間は眠れず、寝られても1時間ごとに眼が覚めたりする。
学生時代から続く睡眠障害。その原因がどこにあるのかわからない。ありていに言えばストレスだろうが、ストレスのない人間なんてこの世にはいないだろう。
そんなことをとりとめもなく考えつつ身支度を調えた桐人は、いつものゼリー飲料を胃の中に流し込み、マスクをして部屋を出た。
虎ノ門ヒルズ駅まで1度の乗り継ぎを含み電車で約40分。そこに桐人が勤務する中堅電子商取引企業パラウェイはある。 ( 第1話「星空のキャッチボール」) ※全6話。
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「eコマース」とは「電子商取引」のことで、インターネット上で行われる物やサービスの取り引きのことです。
桐人が勤めるパラウェイは、電子商取引を前提にネット上で総合ショッピングモールを運営するeコマース企業です。
こういった先進的な業務形態の会社は、さぞ風通しがよくて個人の裁量も認められているのだろうと思ったのですが、どうも見当違いでした。
やはりつまらぬハラスメントやライバル潰しがあり、快適な職場とは言い難い。採用する側はもっと人間性を見ないと!と憤慨しながら読みました。
全6話中4つの話の主人公がこのパラウェイの社員です。この作品の秀逸なところは、その4人を異なるタイプで設定している点にあると思います。
具体的に言うと、第1話の桐人と最終話の神林璃子は ( 処理能力に違いはあるものの ) 不器用な若者で、こういう弱肉強食的な世界での居心地の悪さは想像に難くありません。
でも、第2話の米川恵理子や第5話の瀬名光彦は相手や物事に柔軟に対応する器用さを持つミドルエイジで、どこでもうまくやれそうな人間に見えます。なのに閉塞感に押し潰されそうになっているのです。
残りの2話の主人公は、恵理子の学生時代の友人2人が絡みます。
第3話は大森智子という友人で、その息子の圭太が主人公です。圭太は、ひどいイジメに遭い、不登校になりかかっています。
第4話は、チェーンカフェの店長をしている植田久乃という友人です。
母子家庭で育った久乃は長崎に母を残して東京の大学に進学。そのまま東京で就職しました。
40歳を過ぎても独身で故郷にも帰ってこない久乃に、母からはいい相手を見つけて結婚しろ、孫の顔を見せてくれと矢の催促。
けれど、久乃には誰にも言えない事情があったのです。
職場であれ学校であれ家庭であれ、屈託を抱えたまま過ごすのはつらい。日常を象徴する場所では、日常生活で生まれた屈託から逃れることができないからです。
「ハイダウェイ」とは「隠れ家」とか「身を潜めることができる場所」という意味だそうです。それは日常を離れられる、言わば非日常を感じる場所を意味します。
ハイダウェイこそが、ささくれだった心を癒やし、気持ちを切り替えることのできる場所なのです。
その場所さえ見つけられれば、たとえ屈託の原因がすぐに根本から解決しなくても、明日を生きようという気持ちになれるのだと思いました。 ( 6人の中では、高校生の圭太が手に入れたハイダウェイが、もっともはやく困りごとから圭太を救ってくれそうなのもよかった。)
主人公たちはそれぞれ異なるタイプだと先述しましたが、共通点もあります。
それは6人とも善良であるという点です。
そんな人たちの抱える困難がなかなか重くて、各話前半は読むのが正直しんどかったのですが、後半でホッとひと息つける展開が何か却ってクセになりそうな作品でした。 ( こんな感想は変かな )
心や健康に余裕のある時にお読みになるのがいいと思います。 -
Posted by ブクログ
「さよならの夜食カフェ」の前に
こちらを読むといいと聞いたので読んでみた
自分のことにしか興味がなかった龍一
しかし主将で幼なじみのタケルが
いなくなったことで退部者も相次ぎ
水泳部は廃部寸前。
残ったのは「プール好き」のアニオタ&
水中歩行要員のみ。
部の存続のため部員集めに奔走する龍一は
市民プールで水中を滑降するように
泳ぐ“人魚”を見つけた。
それは同じクラスの謎めいた美少女・雪村襟香だった。
この水泳部の顧問が出てくるんだけれど
柳田ぁぁ??
あの柳田だよね、とニヤつきながら読みました
トランスジェンダーを大きなテーマと
しつつ、中学生たちの水泳部という
部活を通しての青春小説としても描かれていて
集まってきた部員たちがまた個性的なんですよ。
アフリカからの留学生の子が出てくるんだけど
もうね、覚えてます?
シドニーオリンピックだったかで
生まれてはじめて100メートルを
泳いだアフリカの選手がいたのを。
50メートルでターンしてからの先が長い
ダントツでビリ
でも会場中から応援する拍手が上がる
世界一有名な敗者って呼ばれてた気がする
あの選手を思い出すような活躍を
見せるわけです。
地区大会に向けての水泳部の奮闘や
新たな仲間たちの成長など多様な要素が
組み合わさっているのも魅力
でもやっぱりシャールさんが
登場したあたりからぐんと面白くなる
すごいな、なんだか急に勢いと
厚みが出てきたな。
ジェンダー問題だけじゃなく
貧困であるとか体型的なことだとか
誰でもそれぞれに抱えている問題があって
だれもが皆折り合いをつけながら生きている
自分だけじゃない
みんな必死で生きてるっていうね。
それにしても濃い。
なんて濃い中学校時代なんだ。
性自認についてはトイレ問題とか
スポーツの男女差の問題など
今も考えていかなければいけないことが
あるし、ちょっとそれはどうなの?
と思うことも多いんだけれど
想像力って大事だよなと感じている。
金八の頃から20年
それでもこの小説の中に出てくる個性的な
部員たちは男性でありたいと願う同級生を
あっさりと認めることができる
時代は流れているのかこの生徒たち
空気を読めない人たちだからなのか。
ありのままで生きられる世界は
優しさで作られるのか。
いつの時代も青春は眩しいものだわ。
そしてどこかほろ苦い。 -
Posted by ブクログ
夏になると戦時物が気になり手に取ってしまうのは日本人の本能なのか、子供の頃からの教育のせいなのかと考えてしまう。
戦中、戦後と翻弄される良彦達家族。しかし東北の田舎が舞台の為直接戦闘に巻き込まれる訳ではないので、そういった悲惨さは感じられない。が、やはり大局の流れに巻き込まれていく。
人の二面性が深く刺さる。本当に憎らしい鬼婆も、もう一つの顔は、プライド高き元姫であったり、その婆にいじめられる母もそんな婆を尊敬していたり。
鬱になってしまった父も自殺願望を持ちつつも、なんとか生き切ろうと足掻く姿。
時代が違っても生きる姿に背中を押された気持ちになった。
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Posted by ブクログ
私が一番嬉しかったお誕生日会っていつだっただろう?と考えながらの読書だった。
読み進めながら、そんなに仲良くはない近所の子のお誕生日会に呼ばれて、どうふるまえばよいのか迷った小学生の自分を思い出した。自分のこどものお誕生日会は、お友達を招待するのもされるのもとても気を遣ったことも思い出した。お誕生日会って、自分が大好きな人に祝ってもらえたら、それだけで満足できるのに、なかなかそうはいかなかったように思う。兄弟の誕生日が近いから、まとめて祝うとか、会社で仕方なく誕生日ケーキを食べるとか、あるあるなことの当事者の気持ちを考えたのは、この本を読んで初めてかもと思った。
『サプライズパーティー』の湊。無責任に大きなことをぶちあげて、その反応を見るのが好きだったことが、相手を喜ばすためではなく自分のためだったと気づいた。サプライズがただの不意打ちだったことに、自分がされてはじめて気づけたこと、謝れたことは、潔かった。「人は自分が受けたダメージには敏感な割に、誰かに与えたダメージには案外無頓着だったりする。」ことは、心にとめておきたいと思った。
『ビジネスライク』
自分の推しごとのために、お仕事をする人たちが羨ましく感じた。地味なおでんの缶詰めのおいしさに気づいたり、地味だけど確実に役に立つものがあることに気づいたりできるような人を目指したい。好きなものがあることは、生きていくのが楽しくなる秘訣だなとも思った。「地味な誠実さには、失ってからでないと気づけない」ことも、心しておきたい。
他にも母と娘の関係のアレコレには、共感できるところ、理解できるところがたくさんあった。読後、私は親に自分を見てもらえているという実感があったお誕生日会が、一番嬉しかったのかもしれないなと思った。
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Posted by ブクログ
英国で亡くなった大叔母から、古い屋敷「十六夜荘」を相続した雄哉。彼にとって、ほとんど会ったことがない大叔母が何故遺産を残したのかは謎でした。除け者にされていた大叔母の意図を解明すべく、雄哉は彼女の過去を探り始めます。
その過程で、十六夜荘への深い愛情と大叔母の生き様に触れることになります。物語は、雄哉が現代で生活する中で展開される現在と、大叔母が生きた戦前・中・後の時代とが交互に語られます。
特に、大叔母が経験した戦時中のエピソードは心を揺さぶります。過去と現代を比較し、「やりたいことに無制限にチャレンジできる現代」の価値を新たに認識させられる一冊でした。また、雄哉が十六夜荘との関わりの中で悟った「他人の評価は移り変わるもの」という言葉は、雄哉の仕事への姿勢にも影響を与えました。
この本を手に取ったきっかけは、本屋さんで見つけた「埋もれてしまうには惜しい本」というポップアップでした。その言葉に惹かれ、読んでみて本当に良かったと感じています。