丸山正樹のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
外国人技能修習生の妊娠、非正規滞在外国人の仮放免、コロナ禍下での女性の失業と貧困。罪を犯さざるを得なかった女性たちの社会的背景を、彼女らを追う何森刑事が浮き彫りにしてゆく。
スポットを当てられた女性たちの問題は、どれも既視感のあるものばかり。その時々には、憤りを感じているものの、日々右から左に流れてゆく新しいニュースに埋没していた。外国人技能修習生の問題についてもそうであるが、「社会全体として難民問題に関心を寄せる人が少ない」との言には、ただただ耳が痛い。せめて、関わることのある留学生や外国人研究員には、寄り添える人間でありたいと気持ちを新たにする。
ぶっきらぼうな物言いは相変わらずなものの、回を追うごとに何森の弱者に向ける目が優しいものになってゆくのが嬉しい。デフ・ヴォイスシリーズ一作目での聾者への軽率な行動を思えば、荒井の影響を強く受けているのは明白で、人は虚心を心がければいくつになっても成長できるのだな、とわが身を顧みる。
「法律も決まりも、人がつくったものだ。先に法律や決まりがあったわけじゃない。まず人がいるんだ。だから、決めるのも人だ。つまり、お前だ。これからどうすればいいか決めるのは、お前自身なんだ。」
法律・制度の限界への憤りと職務のはざまでジレンマに苦しむも、最後に何森がとった行動は、かつて非行を繰り返していた少年時代に、少年係の刑事から受けた言葉に背中を押されてのものだった。相棒のみゆきに「全身刑事」とまで評された何森が定年直前に至って、刑事としてではなく、人間としての判断に従ったことは、定年後の何森の生き方を示唆するものであるに違いない。次作が待ち遠しい。 -
Posted by ブクログ
デフ・ヴォイスシリーズ第三段。
『慟哭は聞こえない』
聾者にとっての緊急通報の問題。作中では、サービスの欠如で通報が遅れ、痛ましい結果となったが、現在は、事前登録することでメールやチャットでの通報対応、GPSでの位置検知対応などができる緊急通報サービスが整備されているよう。文字の入力が難しくても状況を動画や画像撮影して送ることもできるし結構便利かもしれない。緊急時、家に一人でいる際など、いつでも口が利ける状態とは限らないし、自分でも登録しておきたいぐらい。
ストーリーの展開上仕方がないとはいえ、聾の若い夫婦があまりにも受け身というか危機管理がなってない気がした。妊娠に気づき、産婦人科を受診という段に、市の手話サービスに不信感があるなら、ネットで少し調べれば手話や筆談対応の産婦人科などすぐに出てくる。何があるかわからない妊娠後期、出かける時は、大きく「救急車を呼んでください」などと書いた紙を持ち歩いていてもよかったのではないか。聾者に対する理解と社会整備はもちろん急務だけれど、受け手の積極的な情報収集と不完全な部分を補う自助努力も必要。片方からだけの歩み寄りには時間がかかってしまうのだから。
『クール・サイレント』
『星の金貨』『愛していると言ってくれ』『オレンジデイズ』『silent』…、聾者の登場するドラマは案外多い。唯一観ていた『オレンジデイズ』、もう20年前のドラマにもかかわらず、最後の最後に勇気を出して妻夫木の背中に向けて声をあげた柴咲コウのシーンは今でも鮮明に思い出せるほど感動したことを覚えているけれど、あれは聴者目線の感動でしかなかったのか…と愕然。作中では、聾者を演じる聾のモデル・HALが、聴者の相手役からの手話を用いた愛の告白に、手話ではなく口話で答えるという台本に異議を唱える。大切な言葉であるからこそ、”自分の言葉”で伝えるのが当然ではないか、と。聴者たちからの”聾者のイメージ”の押し付けに対する精神の摩耗と、自分は聾者を代表して聴者と互角に渡り合うのだ、という気負いからくるプレッシャーで意固地になっているのか、と解釈してみたりするが、実際、聾者の方全般にとってもそうなのか。
『静かな男』
行旅死亡人である男の身元を探る中で、テレビに映るその男が「水久保手話」を操っていたことから瀬戸内海に浮かぶ島の集落・水久保出身者であることがわかる。集落では聴者・聾者の別なく誰もが普通に手話を使い会話する。そんな、社会が目指すべき理想郷で生まれ育ち、よくしゃべった男が、都会の暮らしの中で徐々に”静かな男”へと変貌し、最後は孤独な死を迎えざるを得なかった男。島を出る必要が本当にあったのか、もっと早く踏ん切りをつけて帰郷することができなかったのか。やりきれなさに涙が出た。
『法廷のさざめき』
障害者雇用枠で雇用された女性が会社や同僚たちの対応に不満を持ち、民事裁判を起こす。実際、助成金目当てに雇用し、適切な環境を整えない企業はたくさん存在するのだろうな。聾者一人を雇うために、通訳を雇うことをナンセンスと考えることは、例えば、生理休暇や産休を与えてまで女性を雇用する事はナンセンス、と考えること変わらないことを思えば、その思想の危うさに実感が伴う。 -
Posted by ブクログ
ネタバレオーディブルにて。
やはり障害者とその周りの環境について興味があるからか面白く読めた。
聾者として生まれた瞳美が手話を覚えた2歳になるまでが飛んだけど、文字の概念も分からぬうちにどうやって教えたのか気になる。
3作目なので新井とその家族の成長も一緒に追えて面白い。
「一人でも障害児を減らせるように」との言葉にみゆきは 障害児は減らさなきゃいけないものなのか、この子は変わらなきゃいけないものなのか と思ってたけども、障害児に関わる者としては 人工内耳のようにその子自身が大きく変わらなくても道具や環境を変えることで生きづらさがなくなればいい という思いなのかな〜とも思いつつ。
でも少なからず(人工内耳ならば手術など本人自身の努力でなくても)本人が変わった部分もあるか、とも思いつつ。正解がないから難しい。
-
Posted by ブクログ
「居所不明児童」「棄児(きじ)」という言葉を初めて目にした。以前観た映画「万引き家族」(是枝裕和監督, 2018年)を思い出した。
親になることを逡巡する主人公の青年、
父親とともに失踪した少女、
身体を売って生計を立てる身寄りのない少女たち、
ニュースで報じられる白骨化した少女の遺体、
かつて被虐待児道であった大人たち、
血のつながりはなくとも深い愛情で結ばれた親子、
児童相談所の職員…
様々な登場人物が置かれている文脈の断片が重なり、物語がどんな結末に向かっていくのかを読者に想像させる。
それだけではない。これらの断片は、読者が現実世界で耳にする虐待やネグレクトのニュースとリンクして、この物語がフィクションでありながら、非現実ではないことを突き付けてくる。
「子どもを殺すのって、親を殺すのより罪が軽いん?」
丸山正樹さんの作品は、私たちが生きる社会の中に確かに存在する、けれどあまり意識されることのない人たちに光をあてるものが多い。それゆえに、読んでいる間は胸がギュッと締め付けられたり、自身の無知を責める気持ちになったりする。モヤモヤした余韻を残しつつ、読後感がどこか爽やかなのは見事だと思う。 -
Posted by ブクログ
オーディブルで聴きました。
1作目より2作目、2作目より3作目が好きです。
あらちゃんの経験する出来事の短編小説のような展開で読みやすく、全体が繋がっているからどの出来事も興味深いし、感動させられる。
やはり身近に障害者がいないとわからないことは多い。会社を訴えた話では、会社側の人間のようにならないよう気をつけようと思った。でも実際同じ立場になったら、どういうふうに、どこまで踏み込んで良いか悩むのだろう。とにかくこうなんじゃないかといった想像でなく、実際のコミュニケーションは必須なのでしょう。健常者、障害者かかわりなく。
ひとみちゃんがとてもかわいくてほっこりする。このまま幸せにすくすく育ってほしいと願う。 -
Posted by ブクログ
オーディブルで聴きました。
一冊目より面白かった。
龍はヒゲで聞けるから耳はない。落とした龍の耳はタツノオトシゴになった。。。とのこと。今年の年賀状に耳付きの龍を描いてしまったのを後悔。
どうやって学んでいるのだろうと思っていたが、聾学校では口の中を触ったり、触らせたり、ほっぺの震えを確認しながら、発声を学ぶということ。すごい。
そして、「やはり」だったが、警察の取り調べでも、聾者をぞんざいにあつかっているようで、警察にさらなる不信感を抱いた。小説の中の話だろうと言う人もいるかもとは思うけれど、この本に出てくる性格激悪の警官は普通に存在するに違いない。絶対。
音声言語にもネイティブスピーカーがいるように、手話にもいろんなレベルがあることを知りました。手話を学びたいとちょっと思った時期もあったけれど、下手だと手話のネイティブスピーカーから見下されそう…ってか、絶対されるでしょ。そこはマイナスイメージがついたかな。
いい話だった。聾者の世界を少し見学させていただきました。ありがとうございました。…という感想。
-
Posted by ブクログ
障害者の世界を知らない自分には知らない世界を見れる教材の様な本でした。もちろん面白さはラスト迄の展開とあっと驚く結末なのだろうけど、根底には奥さんの介護する現実と障害者の未来が我々には認識されずに重度の障害に負担する身内に出来ない時の思想が安楽死だけで。色んなことをひっくり返したい想いがこの作品に現れたのでは。しかし出だしの夫の創作がこの本だったとは、エンドロールでようやく繋がったが同一人物とは思わずいた。1日(1)×4とエンドロールで4日かかりましたが、思ったより捗らなかったかも。空想も含めて摂の人格があり過ぎて多過ぎて、整理出来ていないって事
-
Posted by ブクログ
シリーズ第3弾。すっかりこのシリーズの虜になってしまった。
コーダである主人公荒井がついに家族を持つ。荒井家の6年間と、手話通訳士の仕事を通してろう者の生きる世界、取り巻く環境、社会問題を浮き彫りに。
ろう者の緊急時通報が少し前までとても大変で、事前登録が必要だったとは驚き。現在はアプリがあるが、聴者のように容易ではない。緊急なのに…。
手話には2種類あるとシリーズ第1弾で学んだが、特定の地域の独自の手話が存在する(方言)。先天性難聴児への治療、人工内耳をする事への葛藤・メリット、デメリットなど。障害者雇用の難しさなど。
その立場にならないと知らない世界が沢山ある。第3章静かな男では泣いた。 -
Posted by ブクログ
いやあ痺れる、とてもよい本でした。ただ殺したとか謎解きとか捕まったとかの完結してスッキリとはまるで別物、ラストの犯人の表情を知れば、あーどうして捕まえるのとか思わん。何森の使命感だけで、相当な優秀さ、せせこましい警察社会の不正が本当に腹が立つ。ロストの後半の桐子の回に何森の捜査に書き方が上手すぎる、どんどん引き込まれて友田の正体が知れば知るほど謎が深まり何森の4歳の妹と話を聞く荒井の登場と優しさと、あー奥さんも優秀で人間味ある人だったんだ。お墓参りで見せた4歳の娘がスクスク育ち安心だったってこと。あと多摩動物公園の友田の笑い顔が1番印象的だったってこと