あらすじ
埼玉県警の何森稔(いずもりみのる)は、昔気質の一匹狼の刑事である。有能だが、組織に迎合しない態度を疎まれ、所轄署をたらいまわしにされていた。久喜署に所属していたある日、何森は殺人事件の捜査に加わる。車椅子の娘と暮らす母親が、二階の部屋で何者かに殺害された事件だ。階段を上がれない娘は大きな物音を聞いて怖くなり、ケースワーカーを呼んで通報してもらったのだという。県内で多発している窃盗事件との関連を疑う捜査本部の見立てに疑問を持った何森は、ひとり独自の捜査を始めていく――。〈デフ・ヴォイス〉シリーズ随一の人気キャラクター・何森刑事が活躍する連作ミステリ第1弾。/【目次】二階の死体/灰色でなく/ロスト/あとがき/解説=杉江松恋
...続きを読む感情タグBEST3
こっちがわから
デフ・ヴォイス」で馴染みのある何森刑事が主人公。シリーズのスピンオフ。荒井尚人視線から何森刑事視線になり、伏線回収もできる。何事にも視線を変えると言うことは大切だなと感じる。視線を変えると生きやすくなるのにと思う。
Posted by ブクログ
「デフ・ヴォイス」シリーズで、いつも憎まれ口をききながらも主人公の荒井尚人をフォローする埼玉県警の刑事・何森。
昔気質の刑事である彼を主人公に据えた短中編集。とても面白く読んだ。
短編2作。多発している窃盗事件と同一犯という本部の見立てに疑問を感じたり、被疑者の男の一貫性がない供述に違和感を覚えて、独自の捜査を始める何森。
それを通して、彼の刑事としての優秀さや、にもかかわらず昇進もせず所轄署をたらい回しにされる期し方や、刑事という仕事への執着が分かっていく。
さらには、捜査の線上に浮かぶ、頚髄損傷、共依存、供述弱者といった人々に対する温かい眼差しも感じさせ、「デフ・ヴォイス」シリーズで知っていた何森をより深く理解でき、その人物像に好感を持つ。
これら短編も良かったが、本の半分以上を占める中編がさらに読み応えあり。
かつて銀行強盗を働き逃走中に交通事故を起こして逮捕された男が仮釈放で出所することになり、「全生活史健忘」という記憶障害で氏名を特定できず留置番号から〈ロク〉と呼ばれるその男に共犯者が接触する可能性があるので、何森が監視することを命じられるところから始まるお話。
記録係という閑職に追いやれられながら再び刑事としての気力を湧きあがらせる何森と、〈ロク〉を受け入れた更生保護施設の施設長・加納桐子が、それぞれ異なる理由から〈ロク〉の過去を追う姿が描かれ、なかなかにサスペンスフル。
一つの謎が解けるとまた新たな謎が湧き出る展開と、登場人物の一人ひとりにそれぞれ重要な役割を持たせて進む構成は、長編に劣らぬ重厚さ。〈ロク〉の過去や記憶障害の秘密だけでなく、かつての事件の謎解きに、複数の兄妹の間の情念や何森自身が抱える過去の闇も絡ませた作りは、存分に楽しめる。
動物園での、〈ロク〉の笑顔を引き出した妹の言葉がとても印象深い。
二話目三話目では荒井の妻にして県警の刑事・荒井みゆきが捜査に関われない何森を助ける。
終章、荒井とその娘も登場し、瞳美が屈託なく育っていることが知れて微笑ましい。
Posted by ブクログ
『デフ・ヴォイス』シリーズのスピンオフ小説集で何森刑事を主人公とした短編2作と中編1作。推理小説なのでストーリーには触れないことにする。被害者も加害者も聾者ではないのでデフ・ヴォイスとの関連性は少ないが、精神や身体に障害を持つ人たちばかりなのでトーンが似ている。どの作品も障害について深く考えさせる内容になっている。最後には何森刑事の哀しい過去がわかって切ない。ラストシーンには荒井ファミリーも登場する。何森刑事シリーズは続編が出ているので続けて読みたいと思っている。
Posted by ブクログ
いやあ痺れる、とてもよい本でした。ただ殺したとか謎解きとか捕まったとかの完結してスッキリとはまるで別物、ラストの犯人の表情を知れば、あーどうして捕まえるのとか思わん。何森の使命感だけで、相当な優秀さ、せせこましい警察社会の不正が本当に腹が立つ。ロストの後半の桐子の回に何森の捜査に書き方が上手すぎる、どんどん引き込まれて友田の正体が知れば知るほど謎が深まり何森の4歳の妹と話を聞く荒井の登場と優しさと、あー奥さんも優秀で人間味ある人だったんだ。お墓参りで見せた4歳の娘がスクスク育ち安心だったってこと。あと多摩動物公園の友田の笑い顔が1番印象的だったってこと
Posted by ブクログ
丸山正樹『刑事何森 孤高の相貌』創元推理文庫。
『デフ・ヴォイス』シリーズのスピンオフ。『デフ・ヴォイス』にも登場した、昔気質で組織に迎合することなく、一途で正義の使徒のような刑事、何森稔を主人公にした中短編3編を収録。
硬直化した組織に於いては一途で実直であり過ぎると疎まれる傾向にある。適度が良いと言うことだが、その適度の加減が解らぬ男も居るのだ。それが何森稔という刑事だ。一途で実直であり過ぎるが故に幾ら実績を挙げようと所轄署をたらい回しにされ、昇進は見送られる。
3編共に読み応えがある本格的な警察小説に仕上がっている。事件の表面ばかりを見て、組織の面目を保つのに必死な所轄署の中で異彩を放ち、我が道を行く何森稔という刑事が何とも魅力的である。
『二階の死体』。所轄署をたらい回しにされ、久喜署に所属していた何森稔が殺人事件の捜査に加わる。下半身不随の障害を持つ娘と二人暮らしの母親が深夜に二階の部屋で何者かに殺害される。階段を上がれない娘は深夜の物音に怖くなり、ケースワーカーを呼び、二階を見てもらうと母親が殺害されていた。所轄の見立は県内で多発している窃盗事件と同一犯というものだったが、何森はその見立に疑問を感じ、独自に捜査を進める。
『灰色でなく』。一年前に強行犯係から盗犯係に配置換えされた何森稔。館内で起きた強盗事件で逮捕された男の証言に違和感を覚えた何森は組織を無視し、独自に男の無罪の証拠を探し始める。そんな何森に荒井尚人の妻で有能な警察官の荒井みゆきが協力する。
『ロスト』。本書の半分のページを費やした感動の中編。かつて銀行強盗を働き、逃走中に交通事故を起こし、全生活史健忘症と診断された氏名不詳の男が刑期を終えて出所する。飯能署刑事記録係の何森稔は男に共犯者が接触する可能性があるので監視することを命ぜられる。男は本当に記憶を失っているのか。強奪した1億円の行方は。再び何森に荒井みゆきが協力する。何森稔が抱える過去の闇が明らかになり、最終盤に救われる。
本体価格820円
★★★★★
Posted by ブクログ
デフ ヴォイス のスピンオフ。
刑事という仕事が大好きで、事件に真摯に向き合う何森。
3話収録されていて、3話ともミステリーとして面白く、特に3話目が本当に主人公が記憶喪失なのか、それとも詐病なのか?何森と一緒に翻弄させられました。
その他、みゆきの活躍が見られたり、可愛い瞳美や荒井まで出て来て、十分に楽しめました。
Posted by ブクログ
2024.11.21
著者の作品を読んで感じることは、福祉や医療などを通じて弱者に対する暖かい眼差しをもって文章を紡いでいるということ。
あと、これだけ嫌われ者でも生きていけるのだなと感じました。本当にそうかとは甚だ疑問ですが。警察はかなり息苦しそうな組織なので。
Posted by ブクログ
オーディブルにて。
デフ・ヴォイスシリーズのスピンオフ。
組織のはみ出し者でもある何森刑事を主人公とした連作短編集。
頚椎損傷の母親の殺人事件、供述弱者の事件、銀行強盗後の健忘症状の事件。
今回は聾者ではないものの、障害者に関する事件で興味深かった。
悲しい結末だとしても温かい気持ちになる。
Posted by ブクログ
二階の死体/灰色でなく/ロスト
二階で死んでいたのは母親、同居の娘は車椅子……
警察の聴取にきちんと答えられますか……
彼の記憶喪失は真か偽か……
Posted by ブクログ
デフ・ヴォイスシリーズも何森というキャラクターも気に入っている。このスピンオフは何森が主役で荒井夫婦との繋がりがあるから読めるけど、小説としては今一つ。
ブレない媚びないがゆえに組織不適合者となり冷遇されている刑事。旧態依然とした警察内部の体質などは設定が平凡。一作目は何森が優秀であることを示すため警察を無能にしすぎでは。痕跡も残ってないの?
三作目の「ロスト」は良かった。犯人の方法は間違っているけどね。桐子がいい役割を担ってる。何森とみゆきは真面目で面白味や意外性はないから、このバディだけで進めるとパッとしないのかも。面白味を描く作風ではないこともあるか。
何森やみゆきのキャラクターが掘り下げられるわけでもなく、特に魅力が増したようにも感じない。唯一、瞳美が可愛い。
それでも、相変わらず社会的弱者に向ける眼差しは優しい。真実を明らかにしようとする姿勢に刑事はこうあって欲しいなと思う。犯罪を許してはいけないけど、そのような方法でしか救われなかった人がいることを、障害や個人の特性を用いて描くのはこの作者ならでは。