務台夏子のレビュー一覧
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19世紀半ば、イギリスはコーンウォールの領地にある古い館で、両親を亡くした主人公フィリップ(わたし)は従兄アンブローズに育てられた。
教育を授けてくれ、領地の管理、小作人達の面倒をみながら暮らす領主の生活を身に付けていった。ゆくゆくは領主という肩書きと莫大な財産を受け継ぐ身の坊ちゃまとして。
ところが40代になった従兄アンブローズは転地療養のためイタリアに度々出かけるようになり、ある年、レイチェルという女性と結婚してしまい、急逝してしまった。
わたしは従兄アンブローズを父と思い兄と思い、愛し愛されて穏やかに暮らし誰にも邪魔されずにいたのだったから、彼の妻となったレイチェルに猛烈な恨みを抱く。
レイチェルがフィレンツェからコーンウォールの館に訪ねてきた。
田舎くさい一途な青年と、洗練された魅力的な女性。
従兄アンブローズの疑惑に満ちた手紙と、必然的にやってきた恋のせめぎあい。『わたしが恋した女性は従兄を殺したのか?』(帯)
もうひとつの「レベッカ」と帯にある。同じようにそくそくと迫ってくるようなミステリの醍醐味、やはり一気に読ませる。
「レベッカ」もそうなのだが、冒頭のうまさ。結末の以外さ。
『人生はあともどりできない。引き返すことは出来ない。やり直しはきかない。』余韻が残る。 -
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弁護士は辞めロースクールの教授をしているボーディ・サンデスに弁護の依頼が。旧知の弁護士ベン・プルイットが妻ジェネヴィエヴ殺害の嫌疑をかけられている。本人はシカゴにいてアリバイがあると主張するが、夜から朝までホテルにずっといたとは証明できない。しかし検察側も強引に起訴しようとする。被害者遺族は大金持ちで検事は次期判事になるための支援が欲しいのだ。また担当刑事マックスは妻を轢き逃げされ失意の日々。そこへ彼女を轢いた車の情報が入って来る・・息詰まる法廷戦術の行方は・・・
むむむ。これは面白かった。マックスの妻の件と本筋と繋がる様が素晴らしい。弁護士、刑事交互に事件を描写するのもいい。深夜に被告を目撃した隣人=鍵をどう処理するか、巧い。
※長いネタバレ
陪審は何と有罪判決を下す。その後プルイット宅から血まみれのシーツと使用済みのコンドームが見つかる。ジェネと関係があったかも知れない男ケイガンのDNAサンプルが欲しいが検察は令状を取らない。ケイガンを尾行し何とか鼻を噛んだティッシュを入手。再審理で、ケイガンを証人として出廷させると、被害者とのとの関係について黙秘権を行使したいと言う。検察はケイガンに免責特権を与えて証言させることは可能である。しかし、免責特権を与えるのを拒否すれば、検事自身が、プルイットではなくケイガンが殺した可能性を認めていることになる。もしプルイットが殺したと自信があれば、ケイガンの罪は偽証罪に過ぎないので、免責特権を与えるはずだ。選択を迫られた検事は免責特権を与えなかった。そして被害者遺族からプレッシャーを、与えられた検事は最終弁論の期日を伸ばそうとする。するとボーディはプルイットの一時釈放を求め、判事は認めた。これは無罪になった事を意味する。有罪だと思うなら判事が釈放するわけがない。
そして外を自由に歩くプルイットは隣人マリーナとキスしていた。実は妻を殺害していたのだ。目撃したと主張する隣人とは愛人関係にあり、赤い車とは彼女のもので、シカゴから彼を乗せてきた。最初彼を目撃したと証言して起訴させて、後に証言を覆して見なかったと言って一旦無罪になれば、一事不再審の法則に守られ二度と起訴されないのを狙ったのだ。その事がバレたのを知ったプルイットはボーディを殺そうとする。そこに駆けつけた刑事マックスは、妻殺害事件について、情報を持ってるとプルイットに言われる。しかしマックスはプルイットを射殺する。
プルイットの事務所の清算人になったボーディが見つけたファイルはレイ・クロールという名のもの。報告書には、マックスの死んだ妻ジェニファーの名前、轢いた車カローラ、そして電話の会話を録音したものが。そのファイルをマックスに渡して、小説は終わる。 -
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状況設定が凄い。前作『償いの雪が降る』では、若き大学生ジョー・タルバートの眼を通して、ヴェトナム戦争を引きずる余命幾ばくもない三十年前の殺人事件の容疑者の真実を探るという作業のさなか、ジョー自身やそのガールフレンドであるライラ・ナッシュを襲うハードな運命と歴史の闇が彼らに試練と経験を与えることになった。
前作でも登場の刑事マックス・ルパートと弁護士ボーディ・サンデンは、彼らがダブル主人公として実に印象深い活躍をする本作に限らず、その後のアレン・エスケンス作品にはおなじみのメンバーともどもそれぞれレギュラーやセミレギュラーとなって登場するらしい。本書では姿を見せない前作の主人公ジョーも、今後の作品で変身を遂げてきっと登場することだろう。作者は、決して決まったキャラクターによるシリーズ小説ではなく、どれも独立作品だと語っているらしいが、読者の楽しみとしては、活き活きとした魅力的なキャラクターが何人もいるこれらの物語、やはり彼らの人間としての変化や個性は忘れずに、そこをも楽しんでゆきたいと思う。
さて最初に戻る。状況設定が凄いのだ。本作では刑事マックスと未解決事件となってしまった妻ジェニの交通事故死が一つのストーリー。一方でマックスの差し出した容疑者を弁護する側に回るボーディとその助手ライラの物語がマックスと対峙し、双方がやがては法廷で激突するという構図を描く。どちらも愛すべき主人公なのに、どちらかが勝ち、どちらかが敗れる? この設定がともかく凄いのだ。作者はどのような結末を我々に提示するのだろう? その疑問に終始付き纏われつつ、複雑な想いで、二人の男たちの正義や強さや弱さにまでも情を移してゆく、という、実に複雑な心的作業を読書中ずっと強いられるのだ。
無論、最後にはこれらの大いなる疑問に答える真実が待っているはず。
前作のレビューで、こういう一段をぼくは書いている。
『全体はミステリ色でありながら、ほとんど冒険小説と言っていい。男の矜持。気位。そして人生の傷の深さと、再生へ向かう意志と友情。そうした人間的な深き業と逞しさとを含め、時にダイナミックに、時に静謐に描かれた、相当に奥行の感じられる物語である。最近、冒険小説の復権を思わせるこの手の小説が増えてきた。シンプルに喜ばしいことだ、とぼくは思う』
本書でもこのことは言えると思う。『ザ・プロフェッサー』『黒と白のはざま』のロバート・ベイリーについてもぼくは思うのだが、人間の気位を描いた魅力的な主人公を描く小説は、ミステリーというよりも、ヒギンズやマクリーンの系譜を継ぐ冒険小説のような作家ではなかろうか。もしくはジャンルはどうであれ、<生き様>に拘る主人公たちの胸の熱くなる物語を描く作家は、現代には極めて稀なように思うので、ぼくはこのような本に単純に燃えるのだ。
さて本書は冒険小説どころか法廷小説でもある。真実を追い求めつつ、法廷で既に進められた審議をどのように決着し、検察側、弁護側がどのようにこの出口のなさそうな迷路を小気味よく脱出してくれるのか、という一事にしか作品の終わりはないような気がする。だからこそこの作品の持つアクロバティックな終盤が魅力だ。
今年の『このミス』が10月頭の投票だったため、ぼくは10月に読んだこの作品を入れていない。でも従来通りこれが11月締め切りの投票であれば、ぼくは年間傑作6選の上位にこの作品を押し込んだことだろう。順位はともかく、安全牌の作家がまた一人、ここに登場。アレン・エスケンスの名は、人間の正義と情熱を優先する上質な書き手として是非記憶にとどめて頂きたく思う。そして本書は翻訳二作目の傑作である、と。 -
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マロリーのシリーズ、10作目。
ヒロインの過去に関わるため重要な「ルート66」に続く作品。
原作でもこの間は4年、間が空いています。
キャシー・マロリーはニューヨークの刑事。
完璧な美貌だが、特異な育ちのために普通の感情をほとんど理解しない変わり者で、天才ハッカーでもあります。
前作で幼い頃の謎が思いがけない展開を見せ、今後にどう影響するのか?と思われましたが。
前作を読んでいなくとも、差支えはありません。
ほとんど出てこないので…
届けも出さずに勝手に休暇を取った後に、何事もなかったように復帰しているという。
ペナルティとして雑務を押し付けられているが、淡々とこなしている。怒りも見せない様子にやや不自然さを感じるライカーら同僚たちではありましたが。
いやそれは前作の出会いの後、しばらく心通わせながら共に過ごして、気持ちが落ち着いたから戻ったのでしょう?
広大なセントラルパ―クにある森で、高い木に吊り下げた袋が三つ発見される。中には遺体が…
奇怪な事件の目撃者は幼い少女だけ。ウィリアムズ症候群の少女から証言を引き出そうとする冷徹なマロリーに、心優しいチャールズはあわてる。
だが少女の方はマロリーにすぐ懐く。切ないほどに…
被害者に共通点はなく、捜査は難航する。
どう転ぶかわからない、思わぬ背後関係と、いたましい過去と現在の交錯。
相変わらずスタイリッシュな文体、いつにもましてダイナミックな構成、パワフルなマロリー。
十分に常人離れはしていて、周りが怖れたり心配したりするのも無理からぬマロリーですが、マロリーなりの感情もあり善悪の基準もある。
それを感じ取るのも一瞬なのですが、ほろりとさせられます。
前作での発見で別人のようになったりはしないけれど、やはり微妙に心の奥で変わったところもあるのでは、と。
シリーズ中でも傑作と思います☆
[追記:
マロリーがどういう人物か?興味を持たれた方は、「天使の帰郷」を読まれるのがいいと思います。
「ルート66」はその後におススメ。] -
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550頁。いつもなら二日ほどあれば読めるペースなのだが、6日かかった。これがキャロル・オコンネルに取り組むときのきっとぼくの平均的ペースである。スピーディに読み進めない。きっと作者もスピーディには書いていない。すごく丹念に凝りに凝ったレトリックを駆使して、本シリーズのヒロイン、キャシー・マロリーを描こうとする。木彫りに入れられる丹念な彫刻刀のような筆致で、肌理細かく。
それほどこだわりぬいた作風。この作家の個性。マロリーのさらにスーパーな個性。拾い親である亡き刑事ルイ・マーコヴィッツに育てられた孤独な孤児。天性のハッカーで、目的のために手段を択ばない冷徹さと頑強さ。
彼女と鉄壁の三連馬車を構成するのは、キャシーの親代わりみたいな中年ベテラン刑事ライカ―。高IQでコミカルな風貌の愛すべき巨漢心理学者チャールズ・バトラー。
挑む相手は複雑でグロテスクでしかも劇場型とも言える多重殺人事件。取り巻くマスコミ。怪しい市長と、怪しい投資家グループ。依頼主ゲイルと殺し屋イギー。巻き込まれた若き修道女=元売春婦=元孤児のアンジー。死の直前に、彼女が買う二輪の薔薇。殺し屋に拉致されたアンジーの盲目の甥っ子ジョーナ。市長と被害者を仲介する怪しげな男たち。
ともかく目が回るほど複雑な事件であり、そこに投げ出される残酷な死体や、混迷する捜査陣、群がる報道陣や流れるTVニュースが、事件のスケールを物語る。
主人公であるマロリーを出し抜くくらいに盲目の少年と彼を拉致する冷血な殺し屋の関係が小説では強いアクセントで物語られる。死んだはずのアンジーのつけていた鈴の音が聞こえる館と、庭には薔薇。大道具、小道具も見事にセッティングされた環境下、ニューヨーク市警ソーホー署管轄区を襲う悲喜劇を創り出し、圧倒的なストーリーテリングで描き切る筆腕こそがキャロル・オコンネル。そう言うしかあるまい。
なお本作以降作者は筆を止めているらしい。現存する最後のマロリーシリーズ。だからこそ惜しむ気持ちが本書の読書ペースにブレーキをかけたのかもしれない。1994年から四半世紀を越えて読んできた本書である。ラストのマロリーの選択にも、氷のハートの深部にこもる何ものかを感じざるを得ない。深い物語である。
修道女アンジーとマロリーの辿った少女時代は、極めて酷似するものだったはずなのだから。 -
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マロリーシリーズ。
上演中の芝居の脚本家が、上演中に殺される。その芝居は、ゴーストライターなる人物に勝手に脚本が書き換えられているといういわくつきのものだった。
役者は変人が多い。
が、それらを凌駕するマロリーなのである。
とはいえ、ちょっとまっとうに感じるのは、周りが変人ばかりなのか、それとも前作で自らのルーツがわかったからか、と、なんだか感慨深いのである。
氷の女王みたいな彼女だけど、誰もが心の奥底に小さな子供がいて、それは良心という形で表出するなんていう性善説を信じたくなったりするのである。
つか、養父養母に大事に育てられたということは、本当に大きなことなのだ。
物語は、過去に起こった一家惨殺事件と重なっていき…。
場面が文字通り目まぐるしく変わっていき、面白かったのだけど、最後の最後にやられました。
つか、読み終わったら、もう最後のところしかないよww
うん。
なんというか、バッハのフーガの終わりを聞いている、聞いていた、そんな感じ。 -
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マロリーシリーズ。
前作で、がっつり職場放棄をやらかしたマロリーは署内で微妙な位置にいるのだけど、まぁ、そんな風に思っているのは周りだけで、本人はまったく気にしてないというか、いつも通りで毎度ながら強い。
唯一繊細なキャラ、チャールズは右往左往してるんだけどね。
それに対して、もう完全に開き直ったって感じなっているライカーがへんにいけてる。素敵オジサマになってるよww
森の中で袋に入れられて木につるされていた3人。
唯一の目撃者は、ウィリアムズ症候群の少女だった。
子供だろうが、まったく躊躇しないマロリーなので繊細なチャールズと対立するのだが、当の少女はマロリーにめっちゃ懐いてしまう。一番守ってくれる人をチョイスするのは、子供の生きるための本能なんでしょうかね。
被害者3人に共通点はなく、捜査は難航する。
話は、陰謀とか過去とか、どんどん拡大していくのだけど、最終的には子供のところに集結する。
大人は、子供がよりよく生きるために力を尽くす義務や責任がある。
それぞれ立場や価値観や方法が違っていてもだ。
それを間違ってしまった人と、揺るがない人の話だったように思う。 -
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マロリーのシリーズ、9作目、後半。
古い手紙をたどりながら、ルート66をフォルクスワーゲンで走るキャシー・マロリー。
じつは、亡き父親が若い頃に書いたという手紙だった‥
ルート66では連続殺人事件が起きている。
行方不明の子供を持つ親たちのキャラバンが移動している最中で、地元警察やFBIも捜査に入り、マロリーも介入せざるを得なくなる。
マロリーを心配して追うライカーらも、これに加わることに。
型破りなマロリーだけど、意外と親切?なところもあったり。
二重三重に絡み合う事件ですが、広い空間をどんどん動いていく展開だからか、もつれた糸が解けていく快感があり、読後感が良かったせいか、物語は重苦しすぎるほどには感じませんでした。
悲惨な子供時代を過ごしたマロリーに、思わぬ発見と希望が訪れます。
こちらも全然予期していなかった‥!
珍しいハッピーエンディングで、笑顔が輝くよう☆ -
Posted by ブクログ
マロリーが失踪して、彼女の部屋には女性の遺体があった。
相変わらずのクールビューティーっぷりで、周りをひっかきまわしまくってるマロリーですが、今回はちょっと違う。
なんか、ちょっと壊れてるというか、とりつかれている感じで、読んでるこっちがびびるよ。つか、他のキャラたちもビビってる感じがすごいあって、そのへんにものすごくシンクロしてしまう。
って、オコンネルはこの辺が上手いのかと、認識する。
主人公ではなく、いわばモブとして、物語と感情を同調させる術に長けているのだろう。
うん。過去作品を思い返すにそんな気がしてきた。
ともあれ他の追従を決して許さないマロリーは、暴走中で、ライカーとバトラーがそのしりぬぐいに奔走するよ。
って、前作でああだったバトラーなので、今回はしおしおです。しおしおバトラーをライカーがあおるというちょっと珍しいパターン。
つか、ライカーの揺るぎなさも実はこのシリーズの魅力であったと再発見。
ルート66で起こる連続殺人事件と、行方不明の子供を探す一団と、警察と、FBIと、物語は混乱を極める。
まぁ、いつでもそうなのだけど、一番醜悪なのは人間なのだ。
そして、<そんなことで>という理由で、簡単に転がり落ちて、それを誤魔化すためにさらに邪悪になる。
ルート66だけに、その転がりっぷりに眉間が寄ってしまったよ。
そしてマロリーは、自分のルーツを手にいれる。
も、決して変わることがないと思っていた彼女だけど、それでもじんわりとやんわりと変わっていくのだろうか。
…変わっていくことが、必ずしも幸せ、ってことじゃなさそうなところが、憂鬱。