あらすじ
劇場の最前列に座っていた男は、暗闇のなかで喉を掻き切られて死んでいた。泥酔状態だったらしいその男は上演中の舞台「真鍮のベッド」の脚本家だった。駆けつけたニューヨーク市警ソーホー署の刑事マロリーとライカーは捜査を開始する。だが劇場の関係者は、俳優から劇場の“使い走り”に至るまで全員が、一筋縄ではいかない変人ぞろい。おまけに、ゴーストライターなる謎の人物が、日々勝手に脚本を書き換えているという。ゴーストライターの目的は? 殺人事件との関わりは? 氷の天使マロリーが、舞台の深い闇に切り込む。好評シリーズ。
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Posted by ブクログ
マロリーシリーズ。
上演中の芝居の脚本家が、上演中に殺される。その芝居は、ゴーストライターなる人物に勝手に脚本が書き換えられているといういわくつきのものだった。
役者は変人が多い。
が、それらを凌駕するマロリーなのである。
とはいえ、ちょっとまっとうに感じるのは、周りが変人ばかりなのか、それとも前作で自らのルーツがわかったからか、と、なんだか感慨深いのである。
氷の女王みたいな彼女だけど、誰もが心の奥底に小さな子供がいて、それは良心という形で表出するなんていう性善説を信じたくなったりするのである。
つか、養父養母に大事に育てられたということは、本当に大きなことなのだ。
物語は、過去に起こった一家惨殺事件と重なっていき…。
場面が文字通り目まぐるしく変わっていき、面白かったのだけど、最後の最後にやられました。
つか、読み終わったら、もう最後のところしかないよww
うん。
なんというか、バッハのフーガの終わりを聞いている、聞いていた、そんな感じ。
Posted by ブクログ
タイトルに惹かれて購入。
シリーズ初読なうえに登場人物が多く、何度も前に戻りつつ名前を確認しながら読んだ。
作中劇や事件の異常さに面喰らう場面も度々あったが、劇場の舞台裏の様子も細かく描かれており興味深かった。
独特な筆致で、マロリーをはじめ取り巻く人々の個性が際立っており、面白い作品。
訳者あとがきにある既刊も読んでみよう。
長編ばかりなので、覚悟して臨みたい。
Posted by ブクログ
「キャシー・マロリー」シリーズ。
ゴーストライター、文字通りに幽霊のように姿をみせない脚本家がいる劇場で、
次々と人が死ぬ。
どうも昔の大量殺人が関係しているらしい。
その事件を扱った保安官とマロリーが電話を切りあったり、
保安官がニューヨークに来ようとして飛行機が飛ばないとか、
事件の核心を隠していてライカ―が元奥さんに連絡するとか、
鑑識と刑事とか、警察内部の主導権争いとかが面白かった。
マロリーがほんの少し周りの刑事たちとうまくやろうとしていてのが印象的。
Posted by ブクログ
ザ翻訳文学。私にはかなり読みづらかったです。前回読んだ作品が大変読みやすい文体だったため、余計にこたえました。もう一度読み返した方がいいかも、と思いつつページを戻す気にはなれず。残虐シーン満載で好みのジャンルなのに、魅力を十分味わえなかったと思います。ぶつ切りでしか読めないので登場人物名がすぐにわからなくなり、何度も確認せざるを得ず、それも停滞の原因かと。やっと読めた、という感じです。
Posted by ブクログ
氷の天使キャシー・マロリーのシリーズ最新作。実は、前々作『ルート66』感動の最終章を境に、確実に我らが美しきソシオパス刑事マロリーは、変化を遂げたように思う。
機械の如く無感情に見える彼女の中で何かが少しだけ変わった。ほんの片鱗に過ぎないかもしれないが、ある種の愛情に近いもの、優しさ、女性らしさのようなものが加わってきたように、ぼくには思えてならない。
そんなものはおくびにも出さないという不愛想さは、無論かつてのままである。どう見ても、常時、鋼鉄の鎧で武装しているように見える。ホルスターに吊るした銃を意図的に覗かせる。超高級ブランドしか身に着けない。皮肉と攻撃性に満ちた会話と、人を寄せつけない無表情が彼女のスタイルである。それでも、瞬間が描かれるのだ。血の通わない人形のようなヒロインに、一瞬だけ流れる人間らしさ、という貴重極まりない一瞬が。
前作では、ウィリアム症候群の少女ココとの相互の愛情がとても印象深かったし、本書でも、心に傷を負った人々、愛情に恵まれぬ育ち方を余儀なくされた者たちとの交情のシーンなど、マロリーの、ここのところの魂の安定ぶりを感じさせ、エキセントリックな主人公から親近感の持てる素敵なヒロインへと、わずかながら境界を超えてきたような安心感を読者に与えてくれる。冷徹なヒロインだからこそ、その瞬間が心に響いてくる。
さて、劇場型殺人事件というと、怪人二十面相のような派手な悪役を想起するのだが、最近ではネットライブを利用したような公開処刑のようなドラマ・映画が増えているように思える。本書は、その手の劇場型ミステリというより、むしろ劇場で三夜連続して起こった、人の死の謎を捜査するという警察小説である。つまり劇場型ミステリではなく、劇場を舞台にしたミステリなのである。
上演される舞台劇の脚本が、謎のゴーストライターによって書き換えられ、上演一幕後の暗転のときに毎夜、殺人が起こる。それだけを聴くと、どこか古臭そうなネタに思えるが、実際は、スピード感と展開力のあるストーリーテリングによって、ぐいぐい読める、さほどおどろおどろしくもない、時にはユーモアすら感じさせるエンターテインメント小説である。
舞台監督、舞台演出家、役者たち、脚本家、衣装係、舞台係、照明係、劇評家といった人物たちが登場するのだが、それぞれのキャラクターたちの癖の強さに圧倒され、眩暈がしそうになる。かつてネブラスカ州で起こった一家惨殺事件との繋がりも見えてくる。惨劇から生き残った二人の子供たちの話も絡んで来るなど、現在の事件の謎は、さらに奥行きを増し、それぞれの人物の思惑も錯綜してくるのだが、マロリー、ライカー、チャールズのレギュラー・トライアングルを軸にした捜査網は、複雑に入り組んだ人間関係を解明してゆくことで、それぞれの真実に迫ってゆく。
捻じれて縺れ合った幾本もの縄を丹念に解きほぐしてゆくような快感を、悲しみには復讐という快感を、ラストで必ず補償してくれるシリーズの王道は、本作でもいささかも崩れない。前作同様、このシリーズ、波に乗っているな、との感を強くした一冊であった。