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水の都ヴェネチアで不思議な双子の老姉妹に出会ったことに始まる、夫婦の奇妙な体験「いま見てはいけない」、突然亡くなった父の死の謎を解くために父の旧友を訪ねた娘が知った真相「ボーダーライン」、急病に倒れた牧師のかわりにエルサレムへの二十四時間ツアーの引率役を務めることになった聖職者に、次々と降りかかる災難「十字架の道」など、サスペンスあり、日常を歪める不条理あり、意外な結末あり、人間の心理に深く切り込んだ洞察あり、天性の物語の作り手、デュ・モーリアの才能を遺憾なく発揮した作品5編を収める、粒選りの短編集。【収録作】「いま見てはいけない」「真夜中になる前に」「ボーダーライン」「十字架の道」「第六の力」/解説=山崎まどか
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Posted by ブクログ
1966年、1970年、1971年に出版された原著からセレクトして訳出されたデュ・モーリアの短編集。
やはりこの作者の文体は濃く、なかなか巧みに書かれており、それを辿ってゆく読書体験は一種の「充足」である。このような「充足」を感じさせる文章といえば、久生十蘭を思い出す。それは単純なパロールの流れというよりも、よく寝られたコンポジションだ。
そんな完成度の高いデュ・モーリア文学だが、本書のうち、巻頭の「いま見てはいけない」はオチが弱くて、そこに至るまでは秀逸なだけに惜しいような作品だった。
最後の「第六の力」はSF小説。こんなものも書いたのかと驚いた。1編のSF短編として、ちゃんと水準に達していると思う。
Posted by ブクログ
これを読みながらずっと「レベッカ」を思い出していた。「昨夜、わたしはまたマンダレイに行った夢を見た」という冒頭の一文から、ミステリアスで繊細な物語は始まっていた。ここに収められた短篇にも、「レベッカ」と同様の叙情が漂っている。そのストーリーテリングを堪能できる一冊。
「レベッカ」では、謎めいた物語に引き込まれるのと同じくらい、舞台となるマンダレイという土地や、そこに建つ邸宅などに魅せられたように思う。奥深く、底の知れない気配が立ちこめていた。本書でも、「真夜中になる前に」のクレタ島や、「十字架の道」のエルサレムなど、その土地こそが主役なのではないかとまで思わせる舞台が、それぞれ異なる魅力を持って描かれている。
中でも圧巻なのは表題作のベネチアだ。ひたひたと水に洗われる古い街が目の前に立ち現れてくる。映画になっているらしいが、まことにさもありなん。場面場面が目に浮かぶような気がする。不安で不穏な空気がこれ以上美しく似合う街もないだろう。
ゆったり贅沢な読書を楽しんだが、一つだけ、最後の一篇「第六の力」にはやや違和感があった。他の五篇とは趣が違っていて、これはない方が全体としてまとまりがあったのではないかなあ。
Posted by ブクログ
・ダフネ・デュ・モーリア「いま見てはいけない デュ・モーリア傑作集」(創元推理文庫)は表題作を含めて全5作、約420頁の短篇集である。最近の文庫は活字が大きいといつても、単純平均で80頁ある。長めの短篇といふところであらう。いかにもデュ・モーリアといふ感じの作品が収められてゐる。やはりおもしろい。
・巻頭の表題作「いま見てはいけない」は「赤い影」として映画化されてゐる作品である。未視感といふのであらうか。いや、起きるべき未来が見えてしまつた、あるいはまだ起きてゐない出来事を見てしまつたことから起きる悲劇である。ヴェネチアに滞在中のジョンとローラの夫婦にイギリス人老姉妹が関はつて事件が起きる。構成も起承転結がきつちりできてをり、老姉妹と知り合つてからの2人の心理の推移がよく分かる。これはジョンが老姉妹を嫌ひ、ロー ラは引かれるといふだけのことなのだが、個人的には、ジョンが老姉妹を嫌ふ様子がたぶんに教科書的といふか、紋切り型といふか、それにもかかはらずおもしろい。さう、ジョンがいかにもそれらしく老姉妹を嫌ふがゆゑに、ここに事件の起きる気配を漂はせて読む者を引きつける。しかも、まだ起きてゐない3人を見 てしまつて以後のジョンの行動もまた、所謂スリルとサスペンスに満ちてゐてなかなかおもしろい。要するに、これがデュ・モーリアなのである。映画化された だけのことはある。次の「真夜中になる前に」も似た感じの作品である。主人公の教師がクレタ島での休暇中に体験したスリルとサスペンス(といふほどのもではないか)である。起承転結もはつきりしてをり、3人の登場人物の描写もまた分かり易い。絵を描くのに最適なバンガローではあつても、それが最も外れに位置してゐたために起きる、これもまた悲劇であらう。不躾な米国人夫妻と知り合つて別れるまでの主人公の心理がおもしろい。先のと同様に、追ひつめられてい く、あるいは考へすぎていくのは、ある意味、紋切り型ではあつても、それがやはりこの作品にふさはしい。これらとはいささか異なるのが「ボーダーライン」である。父が死んだことにより、かつての父の親友を訪ねることにしたといふ物語である。父と友との別れの原因を突きとめるためにアイルランドまで行つて主 人公が知つたのは……最後にどんでん返しがあると言つては言ひすぎか。主人公は相手をだましたつもりでゐたのに、実はだまされてゐたといふことである。これも構成的によくできてゐる。初めのうちは何だこれはと思つてゐるのだが、そのうちに引き込まれていく。ところが、最後の「第六の力」はさうはいかない。 SF仕立てであるらしいが、あまり良い出来とは思へない。少なくとも私はかういふのは好きではない。アイデアを消化できずに終はつたのであらうか、内容的に中途半端であつて、とてもSFとは思へない。更に言へば、ここには先の作品のやうな雰囲気がない。「十字架の道」もおもしろくない。これも「第六の力」 同様である。物語は現代のエルサレム巡礼といふところであらう。その人々の行動が描かれる。従つて、一つのきつちりとしたストーリーはない。個々のエピ ソードの積み重ねである。ゲッセマネを求めての散策等での登場人物の描き分けはなされてゐても、そのエピソード自体が私にはおもしろくない。どの登場人物 も不平不満を述べるばかりである。そもそもこれがおもしろくないうへに、その行動も、そこから生じる出来事もおもしろくない。これでは物語がおもしろくならうはずがない。そんなわけでこの作品集、私には前3編と後2編が対照的に思はれて、巧拙、良し悪しとに二分されたのであつた。
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