ピエール・ルメートルのレビュー一覧
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「天国でまた会おう」三部作の第二部「炎の色」は、復讐劇の王道を行く痛快な物語。
始まってしばらく、上巻はとにかくひどい奴ばかりで、腹が立って読めなくなるほど。
主役のマドレーヌも、いまいちはっきりしないキャラで感情移入できないし……。
ところが、後半に復讐劇が始まると、がぜん面白くなって、まんまと楽しんでしまった。
前作「天国で…」はミステリーではなく文学作品?とされており、戦争で負って変わってしまった帰還兵の体と心の闇を、「顔のけが」「仮面」など暗示的でもあり、エドゥアールの最後も何かしらのメッセージが託されているような気にさせるものであった。
本作の「炎の色」では、一部の登場人物が引き継がれているものの、大筋は「復讐劇」であり、しかも、ラブロマンスありサスペンスありでエンターテインメントに富んだ物語として、一気に楽しんだ。
どうやらこのシリーズは「前半の我慢」が「後半の快楽」につながると信じて読むことが、求められているかも……。
本作も前作同様、エピローグにて登場人物のその後が記されて、いったん物語自体は終わりとされている。
では第三部「われらが痛みの鏡」は?
じゃあ読もう。 -
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戦後、称えられる戦没者、生きて行かねばならない帰還兵。
いつの戦争でも、勝者も敗者も、苦しみしか残らない。
上巻の前半は第一次大戦時の独仏前線での戦いが兵士目線で描かれていて、映画「プライベートライアン」のノルマンディ上陸場面のような迫力迫る描写で圧倒される。
特に主人公の一人アルベールが生き埋めとなるシーン、それに続くエドゥアールの負傷と脱出の様子は、息つく暇もないほどの迫力がある。
悪役ブラデルの戦後の描写でややスローダウンしたが、下巻、エドゥアールの仮面作りと大掛かりな詐欺計画が進み始めると、ブラデルの描写も結末へ期待をこめて大いに盛り上がっていく。
「絶望からくる狂気に翻弄されるエドゥアール」「弱虫でもその場しのぎに孤軍奮闘するアルベール」「絶対的な自信も次第に追い詰められるブラデル」。
『その女アレックス』などミステリーで有名な作者ではあるが、謎の解明がなくても魅力的な登場人物を次々と繰り出すことで、読者を飽きさせない。
第一次大戦での兵士の様子を描いた作品ではレマルク「西部戦線異状なし」が有名で、映画化もされているが、この物語もまた映画化された。
エンディングの後、エピローグで登場人物のその後が簡単に描かれていて、とても続編があるとは思えなかったのに『炎の色』『われらが痛みの鏡』へと続く。 -
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「ピエール・ルメートル」の長篇ミステリ作品『死のドレスを花婿に(原題:Robe de marie)』を読みました。
「P・J・ランベール」の『カタコンベの復讐者』に続き、フランスのミステリ作品… 「ピエール・ルメートル」の作品は、2月に読んだ『その女アレックス』以来ですね。
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『その女アレックス』の原点となる恐怖のイヤミス
その〈偽装〉が「ソフィー」の運命を変える。
フランス産、恐怖の婚活サスペンス。
悪夢に苦しめられるのが怖いから、眠らない。
何でも忘れてしまうから、行動を逐一メモにとる。
それでも眠ってしまうと、死者たちが訪れる。
「ソフィー」の人生は、死と血、涙ばかりだ。
でも、ほんの一年前まで、彼女は有能なキャリアウーマンだった。
破滅への道は、ちょっとしたことから始った。
そしていつしか、「ソフィー」のまわりに死体が転がりはじめたのだった。
でも彼女には、天性の知能と強い生命力が備わっていたのだ。
自ら仕掛けた偽装結婚によって、新たな道を切り開いていくや、ついには、自分を取り巻く恐るべき真実に突き当たっていくのであった……。
歪んだ行為への、正しい対応が生むカタルシス、「ヒッチコック」も驚くであろう斬新な四部構成で読む、脅威のサイコサスペンス。
2009年度フランス国鉄ミステリ文学賞惜しくも次点。
「信田さよ子さん」(『母が重くてたまらない』著者・臨床心理士)推薦!
完全に人を所有するための計画は果たして成功するのか?
男女二人の目を通した見事な構成が残酷で美しい結末を生む。
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『その女アレックス』と同様にテンポ良く愉しめる作品でしたね… 面白かったです、、、
結果的には『その女ソフィー』的な作品でした… 第一部は「ソフィー」の視点、第二部は「フランツ」の視点、そして、第三部と第四部は二人の視点が切り替わりながら、主導権が「フランツ」から「ソフィー」に移っていく様が愉しめました。
「ピエール・ルメートル」って、巧いなぁ… と思いますね。
■ソフィー
■フランツ
■フランツとソフィー
■ソフィーとフランツ
■訳者あとがき 吉田恒雄
■解説 千街晶之
第一部は「ソフィー・デュゲ」という女性の行動を追いながら進行… 順風満帆の人生を送っていた筈の彼女は、いつしか記憶障害に悩まされるようになり、日常の細々とした記憶が失われることが度重なり、苦しみに満ちた日々を送っていた彼女が、ようやくありついたのはベビーシッターの仕事、、、
6歳の「レオ」の面倒を見ていたが、ある日、疲れ果てて眠りに落ちた彼女が目を覚ますと、そこには「レオ」の他殺死体があった… 誰もアパートに出入りした形跡がなく、犯人は「ソフィー」しかあり得ない。
しかも凶器は彼女自身のスニーカーの靴紐… 無意識のうちに、自分は人を殺してしまったのだろうか、、、
窮地に陥った「ソフィー」の逃亡生活がその日から始まる… 夫と母は既に死んでおり、唯一の肉親の父にもそう簡単に連絡を取るわけにもいかない。
「ソフィー」は身元を偽りながら警察から逃げ続けるが… 彼女の行く先々に、次々と無残な死体が転がるのだった、、、
彼女の曖昧な記憶には、「ハンドルに覆いかぶさった血まみれの夫の身体」、「階段の踊り場から義母の背中を押し飛ばした」等々、不穏な過去の断片的イメージが付きまとう… 「ソフィー」は無意識のうちに凶行を重ねる殺人鬼で、自分が殺人を犯したことすら、そう都合良く忘れてしまうものだろうか。
読む側は、彼女の精神が狂気と正気のどちらに傾いているのか判断がつなかい状態で物語は第二部へ… 第二部では「フランツ・ベルグ」という男性の行動が判明することにより、「ソフィー」の行動は「フランツ」により巧みに仕組まれた謀略だったことが徐々に判明、、、
そして、第三部では「フランツ」が主導権を握っているものの、「ソフィー」が次第に真実に気付き、第四部では立場が逆転、、、
天国から地獄へ、地獄から天国へと互いの境遇が乱高下する展開が愉しめましたね… ホントに悪を描くのが巧い!『その女アレックス』の「アレックス」と同様に、本作では「ソフィー」の生き方、そして、その描き方が抜群に巧いですよねぇ。
眼には眼を、歯には歯を… やられたら、やり返す的な展開は、道徳的には受け入れられないと思いつつ、物語だと割り切ってしまえば面白いんだよなぁ、、、
『その女アレックス』との共通点もありつつ、本作の方が、過激な残虐な描写が抑えられているので、読みやすかったですね。
意外な展開と、倫理観を破壊されてしまいそうな行動… これが魅力ですね。
以下、主な登場人物です。
「ソフィー・デュゲ」
ベビーシッター。別名マリアンヌ・ルブラン
「ヴァンサン・デュゲ」
ソフィーの夫。研究者
「パトリック・オーヴェルネ」
ソフィーの父。建築家
「ヴァレリー・ジュルダン」
ソフィーの親友。リヨン在住
「レオ」
ソフィーが世話する男児
「クリスチーヌ・ジェルヴェ」
レオの母
「ヴェロニック・ファーブル」
翻訳家
「アンドレー」
オークション会社社員
「フランツ・ベルグ」
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ネタバレ(上巻より)
とはいえ、騙されて財産を失い、
息子を傷つけられ車椅子生活になってしまったことを恨み、
復讐をすることを決意するマドレーヌ。
元夫の部下を金で雇うだけでなく、
マドレーヌ自身も危ない橋を渡り、
三人の男たちと一人の女性に
(前作と違って)見事に復讐が果せて良かった。
ナチスドイツに飛行機の情報を売ったと見せかけて、
大金を手に入れ、かつ銀行家を陥れた手口は面白かった。
息子の世話をする明るいポーランド女性や、
息子が傾倒するディーバと
印象的な女性たちも良かったので、
前作より楽しめたが、
実際の団体や事件が取り入れているらしく、
そこらへんがわかっているとさらに面白かったのかもしれない。 -
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ネタバレ「天国でまた会おう」の続篇。
前作で登場した、顔に穴の開いてしまった兵士の家族、
銀行家の父の葬式から話が始まる。
孫息子が三階の窓から落ち、
一命をとりとめたが、歩けなくなってしまう。
銀行家の唯一の相続人である母マドレーヌは、
息子を看護するが…。
前作で、容姿にひかれて結婚した夫を、
詐欺を行ったと知り見捨てたマドレーヌ。
今回もろくでもない男を息子の家庭教師として招き入れたり、
長年勤めていた銀行の上級管理職員を手ひどく振ったり、
しかもその男に資産のことを任せっぱなしにしたりと、
ある意味、自業自得で財産を失う。
(下巻へ続く) -
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ネタバレカミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズ、第四弾。
カミーユ警部はかなり酷い目に遭っている。
いや、遭い続けている。
母を亡くし、父を亡くし、
妻と子を連続殺人犯に殺され、
親友を病気で亡くし、
昔の部下から罠にはめられ、
愛する女性に裏切られた。
なので、このシリーズの最後に作品に、
救いを求めてしまうのを当然ではないか。
だが、その希望はかなわなかった。
一応、また女性とつきあってるようではあったが。
不発弾を利用した時限爆弾が爆発した後、
あと6つ仕掛けたと名乗り出た爆弾犯が、
殺人で服役中の母親を釈放するように要求する。
爆弾はどこに仕掛けられているのか、
爆弾犯の真の狙いは何なのか、
長年の部下ルイとともに捜査をするカミーユ。
ミステリーとしては面白かったが、
カミーユには幸せになってほしかった。 -
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原題 AU REVOIR LÀ-HAUT
そして、明日は存在しない
何らかの結末は必然的に訪れる
前者はエドゥアールの、後者はマルセルの、彼ら父子の邂逅そのものを端的に表してる気がします。
戦争が二人を分かたなくても既に交差する余地はなかっただろうし、それでも接点があるのであればああいう終わりしかなかったかな…と。
〝感謝〟は、誰にも渡さないで済んだ親のエゴ…?でしょうか。
さよなら、天国で
タイトルはMartyrs de Vingréの一人、Jean Blanchardが妻宛に最後に記した言葉より。
人の、底知れぬ悪意というものがどんなものか、
人の、逃れ得ぬ義務とはどんなに悲劇で喜劇か。
アンリとアルベールの対照的な結末が、せめてもの不文律かな… -
Posted by ブクログ
スピーディーで予測のつかない展開、綿密なストーリー、さすがルメートル!とても面白かった。
失業中のおじさんが社会復帰するために必死に努力するが、やること全てが裏目に出て思いもよらぬ事態に発展してしまう。
主人公が最初から最後まで一貫していたのは、家族のために働きたいという想いだったのに…
仕事を勝ち取るために嘘に嘘を重ね、その大切な家族を傷つけ自分自身も追い詰められていく。
この人いったいどこまで堕ちてしまうのかと、ずっと心配しながら読んでしまった笑
追い詰められていたとはいえ、割とすぐに人を殴ってしまうところだけは共感できなかったけど、失業というテーマは他人事ではない。
本当に、安心して誰もが働ける社会になってほしいと思った。 -
Posted by ブクログ
現代ミステリの最重要作家、2010年発表作。私の場合、購入した本はしばらく〝寝かせる〟のが常だが、ルメートルだけは早々に積ん読から外している。一旦、冒頭を読み始めたなら、最終頁に辿り着くまで片時も本から手を離せない。しかも、一度も期待を裏切られたことがない。本作もプロットの骨格自体に大胆且つ斬新な仕掛けを施しており、劇的変転の見事さに圧倒された。物理的/心理的トリックを偏重する旧態依然のミステリでは味わえない重量級の読み応え。先鋭的アグレッシヴさでは当代随一だろう。
アラン・デランブル、57歳。大企業で管理職にまで昇り詰めたが、会社買収であっさり解雇される辛酸を嘗めた。失業して4年目、雑多なアルバイトを掛け持ちしていた男は、またとないチャンスを掴む。奇跡的に漕ぎ着けた一流企業の最終面接。役職は人事副部長でアランの経歴を生かせた。しかし、事前に告知された試験内容は前代未聞だった。同社の精鋭エリート数人が出席する重役会議で、誰が冷徹に〝近々断行する大量解雇の陣頭指揮を執れるか〟見極めろ。当然、彼らは己の危機管理能力が試されていることを知らない。
具体的なロール・プレイングは、さらに異常だった。会議の場を正体不明の武装グループが襲撃して監禁、一人一人を順に隔離し、企業の命運を左右する内部情報を漏らすように脅す。擬装した襲撃者への指示は、別室に居るアランら新規採用候補が行い、その的確さを競う。つまり、同時に二つの〝採用試験〟を実行する訳だ。甘い希望は脆くも崩れたものの、この仕事を手にするためには、どんな手段も厭わないと男は固く誓う。後日、安易な想像を遙かに超えた狂乱の場で、アランは〝主役〟を演じることとなる。
三部構成。ストーリーは激しく変調し、読み手を翻弄する。
「そのまえ」と題した第一部は、主人公アランの一人称語り。これまでの道のりを振り返りつつ、最後の賭けとなる最終面接までの日々を追う。この準備段階から既に尋常ではない。アランは、試験を少しでも有利に運ぶため、重役会議に出席するメンバーを推定し、素性や人格などの情報をあらかじめ入手しようと考えた。そのためには探偵を雇い、さらには監禁事件に詳しい警察関係者にアドバイスをもらう必要があった。問題は軍資金だった。男には愛する妻と娘二人がいた。長女の夫は消費者金融会社の支店長。アレンは娘婿に借金を申し込むがあえなく拒否された。切羽詰まった男は、娘夫婦の貯蓄を騙し取るように奪う。当然のこと無謀な行動によって、家族は崩壊寸前となった。信頼を取り戻すためには、何が何でもこの仕事を手に入れなければならない。試練はさらに続いた。
家族を裏切ってまで就職活動に執念を燃やすアランのエゴイズムは加速する。その姿は鬼気迫るというよりもシニカルな滑稽さが滲み、平凡な中年男が次第に狂気を帯びる過程を強烈に印象付ける。やがては理性を失い、抑えが効かなくなった果てに〝内なる暴力〟が姿を現すこととなる。
物語は重苦しい焦燥を抱えたまま、怒濤の第二部「そのとき」へと突入。語り手は、まやかしの武装集団を率いる元軍人へと代わり、第三者の冷徹な視点からアランの異様な言動を書き記す。最終面接当日の地獄絵図の如き顛末。この擬装襲撃でのテンションは凄まじく、読み手を一気に狂躁へと引き摺り込んでいく。この臨場感に溢れた極めてドラスティックなパートは本作最大の読みどころであり、ルメートルの超絶技巧が炸裂している。
第三部「そのあと」は、やや冗長で失速するとはいえ、綿密に練り上げられたストーリーの全体像とアランの〝真意〟が明らかとなる。退路を断ち、前進し続けた男の最終目標とは何だったのか。
主要な登場人物が物語の中で何度も相貌を変えていく構造は、後の「その女アレックス」などで更に磨きを掛けるルメートルの真骨頂だ。どこまでも動的に変幻する独自の世界で描く人間模様。主人公を取り巻く端役も手を抜くことなく個性豊か描き分けている。中でも主人公を影で支え続ける友人シャルルの造形が深く、クライマックスでは心震わすシーンを演じている。何かを得ようとすれば、必ずその代償として何かを失う。甘さと苦さの交差する結末には、人間の業がもたらす因果が刻印されているのだろう。
本作を単純に要約すれば、落ちぶれた男が再生への足掛かりとなる仕事を得るために孤軍奮闘する物語となる。だが、ここに仕上がった作品は、かつて誰も読んだことのない小説だ。ありふれた日常が、ネガの反転によって全く違う情景となって現れている。ユニークな着想を破綻無く構成する力。この作家は、やはりズバ抜けている。