松浦寿輝のレビュー一覧

  • 香港陥落

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    本編のスピンオフの話しだと思いながら読んだけど、違うの??
    登場人物の輪郭が望洋としててそれがいい。
    しかもそれぞれのキャラ立ちがよくて、この人についてもっと知りたいのに、とウズウズする。(のでスピンオフかと思った。)

    夜の香港に旅した気分なれる。

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    2024年05月03日
  • 名誉と恍惚

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    「名誉と恍惚」(松浦寿輝)を読んだ。
上海の共同租界行政府である工部局の警察官芹沢の半世紀に及ぶ人生の軌跡と辿り着いた場所での充溢した魂の咆哮。
760頁の傑作長編。
これはまさにハードボイルドだわ。
    
『深い、強い、痛切な喪失感。取り返しのつかない何かを失い、その悲嘆を耐え、耐えることに疲労しきっている……。疲労の果てに悲嘆が徐々に諦念へと収まりかけ、しかしまだ収まりきれずにいる……。』(本文より)
上海の裏世界の支配者の第三夫人美雨(メイユ)を1ページにわたって描写するその文章に震える。
    
読んでいる間私はずっと、チャンドラーがこの世に生み出したフィリップ・マーロウという男のことを頭の隅で思っていた。(彼の物語とはなんの共通項も無いのだが)

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    2024年01月08日
  • 香港陥落

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    中国人、イギリス人、日本人の目線で書いた第二次大戦前後の小説だが、個人的には香港で生まれ育った香港人の視点も加えて欲しかった。まあ、小説だし、作者が日本人だから仕方ないとしても、香港の現状を考えると、香港人目線で、祖国とは何かというテーマがあれば、なお面白いと感じた。

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    2023年07月07日
  • 人外

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    カワウソのような人外が、人間以上に意識を持って終末の世界を横断して行く。

    何とも不思議で美しくて難しい本。
    小説というより、詩を読んでる感じだった。

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    2023年06月23日
  • 香港陥落

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    何度か旅行した香港を思い浮かべながら読み進めた。日中戦争時の香港、戦後の繁栄を始める香港、また、現在のイギリスから中国への返還後の香港、さらに返還5 25年を経て、中国共産党の圧倒的な強圧的な支配が進み、多くのイギリス人、中国人が脱出を図る香港、サイド、A、サイドBに続き、細動しー、サイドディーと物語は続くのだろう。香港を旅行する時、自分の人生の過去を振り返るのか、先の短い将来を見据えるのか、シェイクスピアの様々な物語の中で、私にとっても香港はいろいろな思いを感じさせるところだ。

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    2023年03月11日
  • 男性作家が選ぶ太宰治

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    中村文則さんのエッセイを最近読んだので、その繋がりで読みました。

    太宰治の人となりについてはほとんど何も知らないので、読む前の勝手なイメージでは「気難しく人嫌い」な人かと思っていましたが、作品を読むと「ユーモアの感覚もあって、実際に話せばあんがい話好きな人だったんじゃないか」という印象を受けました。

    個人的に良かったのは富嶽百景の一場面で、天下茶屋の2階に寄宿している主人公が店の人間とも親しくなってきた頃、店の若い女性店員が1人で客の相手をしている時に、わざわざ1階に降りて隅でお茶を飲みながら遠巻きに見守ってあげているところです。

    そんなにあからさまな優しさを出す感じの主人公じゃないんですが、さりげない描写の中に書き手の優しさが滲み出ているなぁ、と感じました。

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    2022年10月02日
  • 掌篇歳時記 秋冬

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    短編小説。
    中には情景がぼんやりしたまま終幕になったものもあるが、大半は程よく心地良い作品。
    日本には暦のほかにこんなにも豊かな四季の表現があると温かさも得た。

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    2020年02月09日
  • 掌篇歳時記 秋冬

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    12名の著名な作家の短編が72候の解説と一緒に読める、ある意味で贅沢な本だ.重松清の鷹乃学習(たかすなわちがくしゅうす)は父親としての最後の旅行で息子の翔太を見つめる親心がうまく描写されている.筒井康隆の蒙霧升降(ふかききりまとう)は戦後の風物詩を散りばめた彼独特の文章でしっかり意見を述べているのが良い.堀江敏幸の熊蟄穴(くまあなにこもる)は菱山の取材活動のなかで村の古老たちとの奇妙な会話が面白かった.

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    2019年12月08日
  • 掌篇歳時記 秋冬

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    物語ではなく、読書そのものと、日本の繊細な四季の移ろいを味わう一冊。初めて読む作家さんもいて楽しかった。

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    2019年12月05日
  • 人外

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    おもしろっ。
    カワウソみたいな猫みたいな人外が
    ディストピア的な世界を歩くキャッチーさと
    人外の意識「わたしたち」と過去と未来と偶然と必然をらせんに例えるよくわかんなさが程よいバランス。
    表紙もすてき。

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    2019年06月24日
  • 名誉と恍惚

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    ネタバレ

    松浦寿輝「名誉と恍惚」(新潮社)は、2016年、話題をさらった作品だが、読み終えて考え込んでしまった。小説を映画化する話はよくある。では、その逆は、映画のように小説を書くということに込められた意味は何だろう、というのがこの長い長い小説を読みながら浮かんできた問いだった。

    始まりは1937年、事変直後の上海共同租界。小雨の外白渡橋(ガーデン・ブリッジ)を紺色の背広を着た一人の男が渡っていく。彼がポケットから取り出した折り畳みナイフの刃がきらりと光る。検問所で誰何された男は「工部局警察部芹沢一郎であります。」と日本語で答える。

    男はビルの入り口で待っていた軍人に促され、「百老匯大廈(ブロードウェイ・マンション)」の19階まで昇降機で登る。そこで待っていたのは陸軍参謀本部謀略科嘉山少佐。

    「百老匯大廈(ブロードウェイ・マンション)」は三年前に竣工した、当時、東洋一の高層ビル。その最上階の高級レストラン。眼下には豪華絢爛な魔都上海の夜景、と思いきや。

    《ついひと月前までなら、この場所から眺める上海の夜景は壮麗のひとことだったに違いない。立ち並ぶ外灘(バンド)のビルには数多の窓が明るく輝き、南京路を中心とする繁華街のナイトクラブやキャバレーのネオンサインの煌めきが、さぞかし目に華やかに映じたことだろう。このレストランには多種多様な国籍の着飾った男女が集まってきて、その夜景を楽しみながら凝った料理に舌鼓を打っていたことだろう。今、芹沢が窓から見下ろす夜の上海の町は暗かった。― 略 ― ひと月前までの上海なら、こんな雨降りの夜でも街の照明が雲に照り映え、それが微光となって大気中に揺曳し、それが窓から射し入ってこのテーブル席をもっと明るく照らしてくれていたはずだ。》

    本来なら上海のきらびやかな夜景を一望するはずの、展望レストランには客らしい客もいない。戦争が始まっているのだ。上海を統治する国際組織工部局警察に所属する日本人警察官を待っていたのは、帝国陸軍参謀少佐。

    この日からの主人公芹沢一郎の二年間が小説のメインストーリーとして描かれている。700ページに渡る描写は、あたかもカメラを駆使して描く映像のような印象を読者に与えずにはいない。奇想天外な小道具、波乱万丈の筋運びに至っては映画そのものだ。何しろ、主人公に映画館の撮影技師という役回りまで演じさせるのだから、作家の映画に対する、ある種フェティッシュな感覚がこの小説にはあふれている。

    エピローグ、最終章で芹沢は、78歳という老齢の男として50年ぶりに外白渡橋(ガーデン・ブリッジ)の上に立つ。あのころ、いつもポケットに入っていた折り畳みナイフが何時失われたのか、記憶のかけらを探るように、いぶかしみながら佇んでいる。

    通りかかった、楽しげな旅行者である日本人女子学生に頼まれて、娘たちのスナップ写真を撮る。最新式の日本製のカメラを手にして、思わず口にした久しぶりの日本語を耳ざとく聞きつけられて、「なあーんだ日本の方なんですね。」と声をかけられた芹沢は、一転、険しい顔をして答える。

    「I am not Japanese.」

    あれから五十年、生きのびた彼がなぜ、ここで、こう答えるのか、小説を読んでいただくほかはないが、ここでもまた、エンドロールへ転換する直前の映画のように登場人物のその後、物語の結末が語られている。錯綜した出来事を経験し、こうした生きのびてきた主人公を支えていたのは、こういう内面だったのですよと映画監督が見せてくれる解説のような、最後の数ページがある。

    映画の結構に倣って小説全体のキーワードは、もちろん「名誉」と「恍惚」だったということが、わざわざ念押しされているようなエピローグを読み終えながら、映画的に書かれている方法に対して、そして、決して映像を見るようには読み進められない冗長さに対して、「ほんとうにそれが書きたかったことなのだろうか?」という訝しさが残ったのだが、それを差し引いても面白さは一級品だった。

    長いですが、いかがでしょうか?(S)

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    2019年01月29日
  • 名誉と恍惚

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    すごい熱量をページ数からも内容からも感じた。カッコいい。
    あぁ、そっちへ行ってはダメだよ、と思うけど行かずにはいられないのでしょうね。最後のビリヤードのシーン、震えたわ。

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    2018年11月14日
  • 名誉と恍惚

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    ネタバレ

    日中戦争時、上海で工部局に属する警官芹沢。陸軍参謀の嘉山に青幇の蕭と面会したいと頼まれるが、そこから芹沢の運命は動き出す…760ページの超大作。戦争について、人種について、軍について、テーマがいくつかある。日本人と朝鮮人の子供であることの芹沢の苦悩、日本に捨てられたことの苦悩、埠頭での恍惚のシーン、よく描かれている。長いが飽きさせず(いや、しかし長かったけれど)、充分本の中の世界に、芹沢が生きてきた世界に浸れました。

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    2018年04月25日
  • 名誉と恍惚

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    戸籍には記載されない出自として日本の母と朝鮮の父を持ち、日中戦争初期の上海で日本の支那駐屯地と一線を画す上海共同租界の警察官という職業を持つ主人公が、日本が戦争という形で外の世界と軋轢を起こしながら不可逆な道を進んで行く時代に、そのアイデンティティにより不可避な運命に巻き込まれて行く濃厚な日々の物語。いや不可避と言うより、衝動的にプロアクティブに運命に飛び込んで行く物語なのかもしれません。その行動のドライバーが「名誉と恍惚」、書名になっているキーワードです。徹底的に主人公のボーダー性は重ねられていて、性愛についても男女それぞれに向けられているし、芹沢という日本人の名前から沈という中国人の名前に変わって行くプロセスが本書の縦糸になっているし、馮という老人のつくる人形への愛情もオタク的ボーダーレス感を感じました。そんなキャラ設定された主人公がどんどん日本から離れて行きながら、でも日本人を意識し続けて行動し続けていきます。童謡「ふるさと」でイメージされる日本が日本だけではない、外地でも日本人であり続けるというテーマは右傾化という内向き志向が拡がっているように見える昨今において作者からのメッセージとして受け取りました。それにしても芹沢一郎の一人称で大きな運命に瞬間瞬間立ち向かっていく進行なので大著なのにハラハラドキドキしながらアッと言う間に読めます。映画見ているみたい。凄い筆力。

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    2018年03月24日
  • 男性作家が選ぶ太宰治

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    女性作家が選んだものとはまた違う感覚の作品も多く、未読作品が多かったのでとても楽しめた。餐応夫人がすき。この作家さんはこういう作品を選ぶんだなぁ…って部分でも楽しめてなんだかお得。

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    2018年03月16日
  • あやめ 鰈 ひかがみ

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    「あやめ」の始まりかたが好きだと思う。事故で死んだ木原が立ちあがり死んだことを分かりながらずれた記憶の中を歩いていくところ。隣り合わせの記憶の世界では死者が生者のように動いている。「鰈」は「あやめ」にも出てきた土岐が死者の地下鉄に載って地獄の世界に足を踏み入れていくまでが書いてあった。これはちょっと微妙。明らかな社会的強者と弱者の色分けが苦手なんだと思う。弱者の気持ちを上から書いてあるように読めてしまうのが苦手。性的な弱者も。今後の自分の課題でもあるかも。逃げてばかりじゃダメだ。書けないならせめて読めないとダメだと分かっているから。「ひかがみ」は良かった。真崎が死者を見送って妹を獲る。この妹タマミは蛇だ。ひかがみを触る。なめらかなひかがみをさわる。いないはずの妹。死者からの電話。生きているのはいったい誰なんだろうと思う。

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    2017年04月26日
  • あやめ 鰈 ひかがみ

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    ネタバレ

     現実と幻想(?)のはざまを漂う男3人のそれぞれの話が、あとがきにもあるようにまるで輪のようでした。
     生きていることと死んでいることは、近いというより、少し重なっているのかなという気がしました。線を引くようにくっきり分かれるものじゃなく、生きてもいるし、死んでもいるし、そんな感じがしました。

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    2013年06月14日
  • あやめ 鰈 ひかがみ

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    ネタバレ

    社会の底辺で幽明の境を彷徨う男達が落ちてゆく失墜の中に呑み込まれながらも、幸福を見出してゆく過程を描いている。虚実が定かでない幻想世界に今回もどっぷりと浸らせてもらった。花腐しや幽に比べると幾分弱いか。

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    2012年07月16日
  • あやめ 鰈 ひかがみ

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    三本の短編からなる連作小説。
    主人公は多少の違いはあれ生と死の狭間の世界にいる。
    「あやめ」は生と死の間に生えているとされる花で、主人公の旧友がママをするスナックの名前でもある。主人公は交通事故にあって死んだはずの男だ。
    「鰈」は泥酔して記憶があいまいになりいつ買ったかわからない魚がクーラーボックスに入っているという、これも生と死のモチーフとして描かれている。
    「ひかがみ」は膝の裏側のくぼみのことだ。いつ死んだのか、いや元々いたのかもわからない妹の布団からのぞくひかがみは、生(性でもある)のモチーフである。
    全編通して時間の知覚をあいまいにすることで、都会の隅で時間が濁っていく描写のその手管が最高でとても気持ちよく陶酔の世界に入り込むことができる。

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    2012年04月30日
  • 名誉と恍惚

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    1930年代末上海、共同租界で警察官として働く芹沢は、ふとしたことから魔都の闇へと落ちていく。骨太なハードボイルドであり、戦時下・帝国主義下で揺さぶられる人間性と生き様の物語でもあり、遠いようで近い不安定な世情の今だからこそ引き込まれる部分も。圧倒された。

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    2026年01月24日