松浦寿輝のレビュー一覧

  • 半島

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    作中で「この世で過ごすほんの束の間の歳月とはいったい何なのか。人生とは畢竟、テーマパークの様々なアトラクションを経巡りながら味わういっときの享楽と、その興奮が冷めた後での底から込み上げてくるうそうそとした寒々しさのことではないのか。」という部分があるけれど、本当にその通りだとおもう。

    個人的に松浦寿輝さんの文章の良さというのは川の水の流れのように動き(うねり、揺らぎ、漂い、揺蕩う)があるところだと思っていて…(1つのお話のバイオリズムと言う点においても、1文個々のベクトルにおいても。)ちなみに、他の作家さんに感じるのは山の稜線をなぞるような起伏。

    特にこの『半島』は川の源流のように流れは少

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    2025年10月15日
  • 幽 花腐し

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    少々難解ですが、ほとんどが心情の描写で構成されていて、個人的には好みの文章でした。奇妙だけれど、わからなくもないような、人間の不思議さのようなものを感じる作品ばかりで、興味深かったです。

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    2025年07月13日
  • 人外

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    「人外(にんがい)」(松浦寿輝)を読んだ。
    
面白い!
    
アラカシの枝の股から滲みだした(神ともけだものともつかない)「それ」が、(何故か過去の記憶に囚われ)探し求める「かれ」とはたして出会えるのかどうか。
    
そして「世界」は滅びようとしている。
    
少し難解なところもあるけれどしだいに物語に惹きつけられていく。
    
印象深い文章をひとつだけ抜きだす。
    
『世界と世界ならざるものとの境界に身を置きその両方に魅了され引っ張られ、しかしどちら側にも身を落ち着けられずにいるものだけが知るせつなさでありやるせなさであるようにおもわれた。』(本文より)
    
〈あゝ、われわれの世界も滅びようとしているのかもしれ

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    2023年10月19日
  • 半島

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    中年期の寓話。15年ぶり再読。主人公と同じく中年になったからこそわかる部分あり。様々なからくりのある島の描写が魅力的。仮初か現実か、桃源郷か現実世界か、どちらか一方を選んで終わらないのがもどかしくもあり、可笑しくもあり。

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    2022年06月18日
  • わたしが行ったさびしい町

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    村上春樹ライブラリー階段の本棚にあったのをパラパラめくり、ぜひ読もうと思った一冊。
    名著『名誉と恍惚』の作者による、紀行文…なのかな。

    旅の本が好きなのだが、この本は単なる町の風景や出来事の描写だけでなく、様々な思索やよしなしごと(と本人は仰るだろう)が織り交ぜられた文章が魅力である。

    一番行ってみたいと思ったのは新京=現・長春であるが、そんな感想を持つべき本ではないような気もする。

    「吉田健一にとって余生とは、何かが終わった後の時間である以上に、むしろ何かが始まる時間のことだった」
    「『余生があってそこに文学の境地が開け、人間にいつから文学の仕事ができるかはその余生がいつから始まるかに

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    2022年04月17日
  • わたしが行ったさびしい町

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    おそらく、旅に関するエッセイとしては極上の部類に入るのではないか。その旅の細部はほとんど忘れてしまっても、その中でくっきりと記憶に留まっている事柄の記述は、読者があたかも追体験するような錯覚を起こさせる。

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    2022年04月05日
  • 月岡草飛の謎

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    『鴉はその恐ろしい国から俳人のところへやって来た、お迎えの使者、死出の旅路の先導役、まあそういった見立てになろうか。しかしそんなふうに話の筋を通してしまうと、たちまち理に落ちた凡句になってしまうなと月岡は苦笑した』―『人類存続研究所の謎 あるいは動物への生成変化によってホモ・サピエンスははたして幸福になれるのか』

    松浦寿輝は東大でフランス文学を学び、パリ第三大学で博士号を取得、詩人として文壇に登場し、その後評論を認められ、小説では芥川賞も受賞したという絵に描いたような文人。歯に衣着せぬ物言いで人の感情を逆なでるなどという単純なことはしないけれど、持って回ったような高尚な理路で人の不興を買うこ

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    2021年05月25日
  • 人外

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    読んでいて、小説ではない一つの世界を紐解いている感覚。
    極端に句点の少ない長文がだんだんと心地良く、ずっと読んでいたいけれども、世界はうつろい、物語も終焉を迎える。
    らせんと円、私・わたしたちと彼、存在と不在、意識と世界。
    これから何度も読み続けたい。

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    2021年01月30日
  • 名誉と恍惚

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    好き。
    大傑作。


    芹沢一郎。


    心理描写が丁寧で、
    「彼の気持はあたしの気持」
    っつーくらい入り込んでくる。

    丁寧に読めたと思う。


    うちの家族全員が、読書しているあたしに向かって、
    「それ辞書?」
    と聞いてきたのも良い思い出。

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    2018年03月09日
  • 名誉と恍惚

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    まあすごい大作です。
    長い小説はその世界観にどっぷり浸かれるかどうかが、読み疲れるかどうかの瀬戸際だが、これはもう上海の雰囲気、匂いまでが伝わってくるのがすごい。
    心理描写や独白はクドイと思われる向きもあるかと思いますが、これらの多用によって夢かうつつかの戦争のなかの混沌というイメージをうまく表現してるとおもいます。

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    2018年02月15日
  • BB/PP

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    好き嫌いがはっきりわかれるだろう、この短編集は。スノッブって言ってしまったらみもふたもないかもしれない。
    でも、年を重ねて過去の記憶と向き合うことって、たとえばあの頃は良かったって思うのはやっぱり、人生は綺麗なだけじゃないし、本当のことは誰にも見えないんだよなっていうことをすごく考えることにつながっているような気がする。意味がよくわからない文章になってしまった。
    とにかく、松浦寿輝先生が好きなのは自分もここにいるような文章と、あとワタシが知っているところを先に先生が歩いている感じがするからかもしれない。

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    2017年12月23日
  • BB/PP

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    『人間って、結局、自分の身の丈相応でしか他人を判断できないんだよね』―『ミステリオーソ』

    例えば村上春樹の小説によく登場する暗い穴。作家はその底をよくよく覗き込んで人の奥底に潜む凶暴な人格を暴き出そうとする。しかし村上春樹の小説で描かれるそれは、所詮(と言ってよければ)カエルくんによって元の暗い地中へ押し戻されるそれであり、散々広げた風呂敷をあっさりアトレーユに託して知らぬふりを決め込んでしまえるそれであるに過ぎない。誰もが持っている知られたくない後ろ暗い思い、あるいは隠された人格のようなものとは、そんな生易しいものではないだろう。それは羞恥心と表裏一体の感情であるからこそ隠しておきたいとい

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    2017年09月26日
  • 名誉と恍惚

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    権力の中枢にいる者が民間の一事業主に便宜を図る引き換えに何かをさせようと思えば、誰か連絡を取る者が必要となる。下っ端の公務員なら、いざとなれば切り捨てることができるので好都合だ。しかも、真の意図は隠し、国のためを思ってやることだと言い含めて疑念をそらす。ことが露見すれば、上に立つ者は白を切り、実際に動いた者が、蜥蜴の尻尾のようにあっさりと切り捨てられ、名誉どころかその命さえ奪われかねない。

    こう書くとまるで今の日本の現実のようだが、これは小説の中の話。時代は事変から戦争へと拡大し続けている日中戦争のさなか。外灘(バンド)に西洋風建築が競い合うように建ち、多くの国から人々が流れ込む国際都市、魔

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    2017年03月28日
  • 黄昏客思

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    『皆がその死を悼んで集まってきているその家のあるじは、いま無責任な客のような顔をして無聊を託(かこ)っている、この俺自身なのではないか』―『主客消失』

    定義付けのされた言葉が多く並ぶ。それ故に文章の意味するところは、多少意図的な飛躍はあるものの、論理的である。著者の小説にはない角張った音がする。とても惹かれるところもあるのだが、何故か眉根を寄せずには読み進めることが出来ない。理屈を重ねれば重ねるだけ、読み手を置き去りにするこの語り手は、けれど、簡単に耳を塞いで拒絶して済むものでもない。

    松浦寿輝は自分の中にある何かを内と外の対比によって炙り出そうと試みる。内と外にそれ程の差があるのか無いの

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    2016年10月04日
  • 松尾芭蕉 おくのほそ道/与謝蕪村/小林一茶/とくとく歌仙

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    芭蕉、蕪村、一茶、余りに有名かつ定番の俳人であるが、本格的に比較して鑑賞したのは恥ずかしながら初めてであった。
    中でも、蕪村は他の2名と比べて写実的、と云われていると思うのだが、どうしてどうして非常に心理描写を巧みに取り入れた作品が多く、あらためて感銘を受けた次第である。俳諧というものは、素人の私が云うのもおこがましいが、深いものだと感じた。

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    2016年07月14日
  • 男性作家が選ぶ太宰治

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    さすがは並みいる男性作家が選んだ作品集である。全部面白い。
    「ちょっとちょっと…」と傍で話しかけられるような親しげな語り口と
    抜群のリズム感が心地いい。特に気に入ったものを少し…。

    「道化の華」
    ラスト3行でいきなり視界がぱあっと広がり、ぞくっと怖くなる。
    視点のトリックで読者を驚かせるのが上手い。
    「彼は昔の彼ならず」
    心の本質が似通った人間が近くにいると、お互いに感応してしまうのだろう。
    口先三寸のペテン師のような男を非難している主人公の男もまた、
    親の遺産で遊び暮らす怠け者。
    才能ある芸術家のパトロンになりたいという、
    彼の下心を見透かしたペテン師の作戦勝ち。

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    2015年06月05日
  • 明治の表象空間

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    萩原朔太郎の詩が好きで、『月に吠える』『青猫』と読み進み、その口語自由詩のたたえるリズムに心地よく酔いしれていたら、突然、『氷島』の詰屈な文語調にぶつかり、いったい朔太郎はどうなってしまったのだろう、などと不審に思いながらも、その独特の韻律に、やはり心を揺さぶられ、序詩「漂泊者の歌」一篇は、当時大学ノートの裏表紙に万年筆で書き写し、暗誦したものである。

    それにしても、口語自由詩の完成者と目される朔太郎が何故転向するかのように文語体で詩を書かねばならなかったのか、という疑問は解決を見なかった。ところが、その謎を解く鍵がこの本のなかにあったのだ。しかも、愛惜措く能わざる「死なない蛸」の精密な解読

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    2014年09月07日
  • あやめ 鰈 ひかがみ

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    推敲してるんだろうけど、「うまいこと言ってやろう」みたいな変な気負いが感じられず、非常に自然で綺麗な文章。尊敬する。

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    2010年03月14日
  • 香港陥落

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    本編のスピンオフの話しだと思いながら読んだけど、違うの??
    登場人物の輪郭が望洋としててそれがいい。
    しかもそれぞれのキャラ立ちがよくて、この人についてもっと知りたいのに、とウズウズする。(のでスピンオフかと思った。)

    夜の香港に旅した気分なれる。

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    2024年05月03日
  • 名誉と恍惚

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    「名誉と恍惚」(松浦寿輝)を読んだ。
上海の共同租界行政府である工部局の警察官芹沢の半世紀に及ぶ人生の軌跡と辿り着いた場所での充溢した魂の咆哮。
760頁の傑作長編。
これはまさにハードボイルドだわ。
    
『深い、強い、痛切な喪失感。取り返しのつかない何かを失い、その悲嘆を耐え、耐えることに疲労しきっている……。疲労の果てに悲嘆が徐々に諦念へと収まりかけ、しかしまだ収まりきれずにいる……。』(本文より)
上海の裏世界の支配者の第三夫人美雨(メイユ)を1ページにわたって描写するその文章に震える。
    
読んでいる間私はずっと、チャンドラーがこの世に生み出したフィリップ・マーロウという男のことを頭の隅で

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    2024年01月08日