あらすじ
勤めていた大学に辞表を出し、寂れた島に仮初の棲み処を求めた迫村。月を愛でながら己の影と対話し、南方から流れついた女と愛し合い、地下へ降りて思いがけぬ光景を目にし、現実とも虚構ともつかぬ時間が過ぎていく。この自由も、再生も、幻なのか? 耽美と迷宮的悦楽に満ちた傑作長篇。読売文学賞受賞作。
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Posted by ブクログ
作中で「この世で過ごすほんの束の間の歳月とはいったい何なのか。人生とは畢竟、テーマパークの様々なアトラクションを経巡りながら味わういっときの享楽と、その興奮が冷めた後での底から込み上げてくるうそうそとした寒々しさのことではないのか。」という部分があるけれど、本当にその通りだとおもう。
個人的に松浦寿輝さんの文章の良さというのは川の水の流れのように動き(うねり、揺らぎ、漂い、揺蕩う)があるところだと思っていて…(1つのお話のバイオリズムと言う点においても、1文個々のベクトルにおいても。)ちなみに、他の作家さんに感じるのは山の稜線をなぞるような起伏。
特にこの『半島』は川の源流のように流れは少しあるものの水面は穏やかなところから始まり、大河に合流し、最後は(水関係で語ると)海のような、1つ上のレイヤーの存在に抱かれるなり見つめられるなり境地に至るなりする感じが良くわかる。
思えば『川の光』という川辺の棲みかを追われたネズミ一家が、新天地を求めて旅に出る まるでガンバの冒険か!?みたいなストーリーの児童書?的な小説も書いてはるし、いろんな作品に川や水辺のモチーフは頻出しているし(『人外』、『花腐し』等々)と思っていたら、ミツカン水の文化センターのインタビュー記事で『表現者としての川や水の存在について』語っておられるのがあった。
そして、相も変わらず、異国料理屋に(東南アジアとかアジア圏多し)行ってカタコトの日本語も喋れる女性に狐に化かされた感が残るからかわれ方もされるwほんと好きねぇと思うw割とどの作品も、女性だけに限らなく、例えば土地そのものやそこで暮らす人々くらいの規模感のものに狐に化かされた感のある箇所が出てくる。
そこがまた松浦作品の面白いところだと思う。