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幽明の境を彷徨う魂。交響し合う3つの物語――冥界への入り口に咲くというあやめの名を持つスナックで、同級生との再会を待ち望む男。酒宴のために仕入れた鰈を詰めたアイスボックスを抱えたまま、地下鉄から降りることのできない男。横たわる妹のひかがみに触れた手が、噛み千切られる妄念に陶然となる男。妖しく絡み合う3つの物語。木山捷平文学賞受賞作。
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Posted by ブクログ
推敲してるんだろうけど、「うまいこと言ってやろう」みたいな変な気負いが感じられず、非常に自然で綺麗な文章。尊敬する。
「あやめ」の始まりかたが好きだと思う。事故で死んだ木原が立ちあがり死んだことを分かりながらずれた記憶の中を歩いていくところ。隣り合わせの記憶の世界では死者が生者のように動いている。「鰈」は「あやめ」にも出てきた土岐が死者の地下鉄に載って地獄の世界に足を踏み入れていくまでが書いてあった。これはちょっと...続きを読む微妙。明らかな社会的強者と弱者の色分けが苦手なんだと思う。弱者の気持ちを上から書いてあるように読めてしまうのが苦手。性的な弱者も。今後の自分の課題でもあるかも。逃げてばかりじゃダメだ。書けないならせめて読めないとダメだと分かっているから。「ひかがみ」は良かった。真崎が死者を見送って妹を獲る。この妹タマミは蛇だ。ひかがみを触る。なめらかなひかがみをさわる。いないはずの妹。死者からの電話。生きているのはいったい誰なんだろうと思う。
三本の短編からなる連作小説。 主人公は多少の違いはあれ生と死の狭間の世界にいる。 「あやめ」は生と死の間に生えているとされる花で、主人公の旧友がママをするスナックの名前でもある。主人公は交通事故にあって死んだはずの男だ。 「鰈」は泥酔して記憶があいまいになりいつ買ったかわからない魚がクーラーボックス...続きを読むに入っているという、これも生と死のモチーフとして描かれている。 「ひかがみ」は膝の裏側のくぼみのことだ。いつ死んだのか、いや元々いたのかもわからない妹の布団からのぞくひかがみは、生(性でもある)のモチーフである。 全編通して時間の知覚をあいまいにすることで、都会の隅で時間が濁っていく描写のその手管が最高でとても気持ちよく陶酔の世界に入り込むことができる。
暗くて抜け出せなくてどこかへ行きたいのに堂々巡り。 でもそれが生きるってこと? 妙にリアルでした。
現実と幻想(?)のはざまを漂う男3人のそれぞれの話が、あとがきにもあるようにまるで輪のようでした。 生きていることと死んでいることは、近いというより、少し重なっているのかなという気がしました。線を引くようにくっきり分かれるものじゃなく、生きてもいるし、死んでもいるし、そんな感じがしました。
社会の底辺で幽明の境を彷徨う男達が落ちてゆく失墜の中に呑み込まれながらも、幸福を見出してゆく過程を描いている。虚実が定かでない幻想世界に今回もどっぷりと浸らせてもらった。花腐しや幽に比べると幾分弱いか。
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あやめ 鰈 ひかがみ
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松浦寿輝
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