羽生善治のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
チェスの元世界チャンピオン、ボビー・フィッシャーの伝記。
チェスの稀有な才能を持ちながら、完璧主義と偶然を嫌う気質が故に、妥協して人生を生きられない彼の不器用さは同情と憐憫を誘うものであった。許されざる人種主義的発言も、元を辿れば彼のトラウマと孤独に根ざすものであり、一概に悪徳な人物と詰ることは出来ない。
注目すべきは、多くの人物と袂を分かちながら、それでも尚彼のために尽力する人物が次々と現れた事であろう。類稀なるチェスの才能と知性は本物であり、求道者としての彼に惹かれる者が多かった事は大いに頷ける。余りにも偶然性で満ち溢れた人生というゲームにおいて、彼の知性は、かえって彼を困難に至らしめたのかもしれない。 -
Posted by ブクログ
羽生善治さんの著書を読むのは初めてでした。大局観というタイトルからは物事のとらえ方を羽生さんなりにどう捉えているというものなのかなと思っていました。
読み進める中で、リスクを取らないことは最大のリスクだというフレーズに心打たれました。物事にチャレンジしなくては得られるものはないということで、今の自分に足りてない部分だと強く感じました。また、集中力を高める方法として、何も考えない時間を持つこと(意外!)、1つのことをじっくり考えることに慣れること(慣れれば疲れにくいので集中しやすくなる)、時間と手間のかかることに取り組むこと(長編小説などを読む。人間関係、背景が複雑で理解するのに頭を使う)というのがあり、参考になりました。 -
Posted by ブクログ
『決断力』
将棋界の頂点に長年君臨してきた羽生善治氏が綴った『決断力』は、単なる将棋の勝ち方を語る本ではなく、「どう生きるか」「どう選ぶか」を深く考えさせられる一冊でした。
ビジネスにも人生にも通じる普遍的な示唆に満ちており、読むほどに羽生氏の思考の深さと柔軟性に驚かされます。
この読書体験を通じて私が最も印象に残ったのは、以下の3つのポイントです。
1. 完璧を求めず、最善を尽くすという姿勢
羽生氏は将棋において「常に最善の一手を指すことはできない」と語ります。
将棋は一局で平均120手ほど、そのすべてに正解があるとは限りません。しかも、正解がわかるのは後になってからのことが多く、対局中に「完璧な一手」を求めすぎることは、逆に思考を狭めてしまうといいます。
この考え方は、日常生活や仕事における意思決定にも通じるものがあります。私たちはしばしば「失敗しない選択」を探そうとしますが、現実にはどの選択肢も一長一短があり、完璧な答えは存在しません。その中で、自分が持ちうる情報と経験を元に「その時点での最善」を選び、潔く腹をくくる。その姿勢こそが本当の「決断力」だと羽生氏は教えてくれます。
私自身も、完璧を求めるがゆえに行動が遅れたり、選択に迷い続けていたことが多々あります。けれど、本書を読んでからは「不完全でも、今できるベストを尽くす」ことが未来の正解に繋がるという確信を持てるようになりました。
2. 変化を恐れず、柔軟に考えることの大切さ
羽生氏は、変化を拒むことの危うさについて繰り返し言及しています。将棋界は一見、伝統と格式を重んじる世界のように見えますが、実際には新しい戦法や戦略が次々と登場し、それに対応できない棋士は取り残されていく世界です。羽生氏は、だからこそ「昨日までの常識が、明日も通用するとは限らない」と述べています。
この柔軟性こそが、長きにわたって第一線に居続ける羽生氏の強さの源であり、私たち一般人にも必要なマインドセットです。特に現代は、技術革新や価値観の多様化により、変化のスピードがかつてないほど加速しています。そんな時代においては、既存のルールや成功体験に執着するのではなく、「常にゼロベースで考え直す」くらいの柔軟性が求められます。
この考え方は、日々の仕事や人間関係でも有効です。たとえば「前はこれでうまくいったから今回も同じようにやろう」と思っても、状況が変わっていれば通用しないこともあります。羽生氏のように、常に新しい視点を取り入れ、変化を歓迎する姿勢は、どんな分野でも活躍するための基本姿勢なのだと感じました。
3. 失敗を恐れず、経験から学ぶ力
羽生氏は、失敗を恐れるあまり挑戦を避けることが、最も大きな損失だと述べています。将棋の世界でも、負けることでしか得られない気づきがあり、羽生氏自身も敗北を通して多くを学んできたと語っています。「成功よりも、失敗からの学びの方が深い」と断言する姿勢には、非常に勇気づけられました。
現代社会では「失敗=悪」と捉えられがちですが、羽生氏はそれを「成長の種」として捉えています。失敗を避けるのではなく、どう受け止め、次に活かすか。まさに「決断力」の本質は、失敗を引き受ける覚悟と、そこから何かを得ようとする意志にあるのだと思います。
この考え方は、私にとって非常に励ましになりました。過去の自分は失敗を恐れ、行動する前にブレーキをかけてしまうことが多くありました。しかし、羽生氏の言葉を通して、「失敗しない人生」ではなく「失敗から学び続ける人生」を目指したいと思えるようになったのです。
おわりに
『決断力』というタイトルは、一見すると「即断即決」や「非情な判断力」といった印象を与えるかもしれません。けれど、羽生善治氏が本書で伝えているのは、もっと人間味のある、深い知恵に満ちた「決断力」です。
それは、完璧を求めず、柔軟に思考し、失敗を糧に進んでいくという、人としての強さとしなやかさの象徴です。
本書を読み終えた今、私は「決断とは選ぶことではなく、自分の選択に責任を持ち、次に進む力である」という真意を理解しました。そして、羽生氏のように、静かなる強さと広い視野を持って日々を生きていきたいと強く思います。人生において何度も読み返したくなる、そんな一冊でした。 -
Posted by ブクログ
200
羽生善治
1970年、埼玉県生まれ。将棋棋士。小学6年生で二上達也九段に師事し、プロ棋士養成機関の奨励会に入会。奨励会の6級から三段までを3年間でスピード通過。中学3年生でプロ棋士四段。1989年、19歳で初タイトルの竜王位を獲得。その後、破竹の勢いでタイトル戦を勝ち抜き、1994年、九段に昇段する。1996年、王将位を獲得し竜王、名人、王位、王座、棋王、棋聖と合わせて「七大タイトル」すべてを独占。「将棋界始まって以来の七冠達成」として日本中の話題となる。2012年7月、大山康晴十五世名人の持っていた生涯獲得タイトル数80期を超えて、歴代一位となった。2017年には竜王通算7期により永世竜王の資格を獲得し、永世名人(十九世名人)、永世王位、名誉王座、永世棋王、永世王将、永世棋聖の資格とあわせ、史上初の「永世七冠」となる。2018年2月、将棋界では初の国民栄誉賞を授与される。2019年6月、大山康晴十五世名人の記録を27年ぶりに塗り替え、歴代単独1位となる通算1434勝となった
たくさんの時間と労力を費やして築き上げた経験を、今後にどのように活かしたらよいでしょうか。
悲観的な状況であってもプラス思考に転じることもできると言われているようです。 それを象徴的に表わしているのが韓国の国旗にもなっている陰陽太極図ではないでしょうか。白と黒があり、白の中にも必ず黒があり、黒の中にも必ず白がある。 陽が極まれば陰に転じ、陰が極まれば陽に転じる──は、昼と夜を交互に繰り返しているような印象を受けます。 マイナス思考も極まればプラス思考に転じるということになります。 もっとも、どん底を経験しなくても転じたいところですが……。
アジアには一国に一つ、その国の将棋があると言っても過言ではありません。 インドにはシャトランジと呼ばれるものもありますし、タイにはマックルック、朝鮮にはチャンギ、モンゴル、ミャンマーにも独自の将棋があると聞いたことがあります。 さまざまなものが入り混ざって存在をする、極めて東洋的だと思っています。
私はルールを教わって少し指したことがあるのですが、日本の将棋と近いと思ったのは、タイのマックルックとミャンマーの将棋です。 しかし、類似をしていると言えるほど近くはなく、ボードゲームのカテゴリーとして見たときには、日本の将棋は同じグループに入るものはなく、アジアでも明らかに異質な存在です。 これは日本語がグループとして共通のものが見つからないこととも共通しているのかもしれません。 島国であることが、やはり大きな影響を与えているのでしょう。 現在の携帯電話の発展も日本は独自の型で進んでいるのを見ると、善し悪しは別にして〝ガラパゴス〟的なのでしょう。
一年のうち三分の一を遠征する生活を、かれこれ二〇年以上続けています。 北は北海道から南は九州、沖縄まで、四七都道府県のすべてに行ったことになります。 対局で行くことがほとんどなので、ゆっくり観光をすることは極めて 稀 ですが、各地に印象的な素晴らしい場所があります。北海道の 稚内 で食べたカニ、ウニは絶品でしたし、沖縄の美しい海で一〇月に泳げたのも感動的でした。
また、どのようにリスクを取るかについてですが、小さなリスクを取り続けるという方法はあると思います。 一回に大きなリスクは取りづらいので、小さなリスクを毎回、毎回、取り続ける。 それを続けていると、二年とか三年の月日が流れたときに、それなりの大きなリスクを取ったことになる。 この方法のときには立ち止まってはいけないと考えています。 途中で立ち止まってしまうと、惰性の力が働いて 元 の 黙阿弥 になってしまうからです。
例えば、株だけに一〇〇パーセント投資をしたりすると、株式市場が崩れたときには大きな損失を被ります。しかし、株を四〇パーセント、不動産を三〇パーセント、債権を三〇パーセントと分散すれば損失は限定的にすることが可能です。 そして、株が下がれば債券は上がるというような反比例の関係をたくさん入れておけばリスクは小さくなります。 これならある程度のリスクを取るときに、同時にリスクを軽減する方法を取ることもできるようになるわけです。 自分のすべてを働いている会社に一〇〇パーセント投資するのは危険だと思います。 適切にリスクを分散させて上手にリスクを取る、それが充実した日々を送るのには必要ではないかと考えています。 -
Posted by ブクログ
おもしろかった。将棋界に一時代を築いた大名人が、自ら感じて、思った、数々の言葉
直感とはたんなるひらめきではなく、これまでの多くの経験や思考が導き出される一瞬の思考である
気になったのは以下です。
■直感とは
・直感は決して先天的なものではない
・ツボを押さえる、といった感覚が自分の中に出現するのを待つことが大事なのではないかと思う
・論理的思考の蓄積が、思考スピードを速め、直感を導いてくれる
・つまり、直感とは、論理的思考が瞬時に行われるようなものだ
・直感とは、本当になにもないところから、湧き出てくるわけではない。
・考えて考えて、あれこれ模索した経験を前提として蓄積させておかねばならない。
・また、経験から直感を導き出す訓練を、日常生活の中でも行う必要がある
・もがき、努力したすべての経験をいわば土壌として、そこからある瞬間、生み出されるものが直感なのだ
・長く考えていればそれだけ思考が深まっていい手が指せるのか、いい決断ができるのかというと、必ずしもそうではないような気がする
・直感を磨くには、多様な価値観を持つことだと思う
■無理をしない
・余白がなければ直感は生まれない
・リラックスした状態で集中してこそ、直感は生まれる
・多分無理だろう、どうせ役に立たないけれど、というくらいの気楽な気持ちでやっていたほうが、たとえ直接的でなくてもヒントになったり、何かのきっかけになったりする
・あえて、考えない、時間を意識的につくることが大切だと思っている。
・それは、いわば頭の中に空白状態をつくることだ
・集中力を高めるには、いくつかのトレニング方法がある。
・ひとつには、前述したなにも考えない時間をもつこと
・もうひとつには、じっくりとひとつのことについて考えをめぐらせる習慣をつくること
・ある一定の時間ひとつのことに集中する
・そして、さらに集中力を高め継続させる方法に、時間と手間のかかる作業に取り組むということがある
・モチベーションが上がらない、やる気が出ないところで集中するのは至難の業だろう
・それでもダメな場合、もしくは、その努力をする気分にもなれないことがある
・そんなときはどうするか、あえて、底を打つ、のもひとつの手だと思う
・義務感やりきみを身にまとわないためには、完璧主義にならない、曖昧さを残すことも案外大切だと思う
■囚われない
・コツがわからないこと、を難しいからと投げ出してしまうのではなく、なぜなのか、と探求していく気持ちが大切なのではないか。
・こどもは、理解できないこと、を自分で深堀していく達人である
■力を借りる
・実力がないのであれば、要は実力をあげればいい
・それには一生懸命努力するしかない
・運にたよっていてはダメだ
・一生懸命頑張って、根本的な地力をつけるしかない
■直感と情報
・完璧とか万全の状態をつくるなど至難の技だということに、当時の私は気が付かなかった
・山ほどある情報から、自分に筆湯な情報を得るには、選ぶ、より、いかに捨てるか、そして、出すか、の方が重要なのである
・当然、覚えていかなければならないこともあるが、それと同時に、忘れることも非常に大事なのではないかと思っている
・情報を、「事実」と、「予測や説として発信されたもの」とに分け、時系列に並べてみることだ
・そうすることによって、大きな流れがつかめるし、ポイントとなる場面も浮き彫りになる。
・無駄な部分も明白になり、全体像がおぼろげながら見えてくるはずだ
■あきらめ
・最終的にあきらめないというのは、たとえ、その1回は、あきらめても、それを次に生かすことだ
・自分の中で見切りをつけて次に備えていくほうが、結局長い目で見た時には、成長につながると知ることだ
・ミスはしないに越したことはないのだろうが、ある意味必然である。
・そのとき大事なのは、ミスの後にミスを重ねないことなのではないか、と思っている
■自然体
・目標は一気に課してはいけない。
・少しずつ積み重ねることによって、気がつけば着実に前進している
・自然にできることを続けていくという健全さが必要なのだ
・想像力とは、まだ起こっていない、しかし、起こるであろう現象を、リアリティをもって受け止める力のことだ
・その想像力を働かせて頭の中に描いた何かを具体的に実現させるアイデア・発想が創造力だ
・創造力はまったくのオリジナルでなければならない、ということはない
・常に真新しいものでなくても、切り口によって違いは出る
・同じテーマでも、他の人とは違う自分なりの切り口をもつことで、生み出されるものは変わってくる
・大事なのは、それらの力を養おうとすることだ
・情熱は、常に何かを探し続けることでも保たれる
・今まで、自分の中になかった何かを発見する、というプロセスを大事にするのだ
■変えるもの、変えられないもの
・進めたい、変えたいとおもっても、大きな流れの中では、変えられないものもある
・どちらに進めばいいかはわからない
・わからなくても、どこかに進むしかないのだ
・自分で調べて自分で考え、自分で責任をもって判断する姿勢をもっていないと、自分の望んでいない場所へ流されていく可能性もある
・その先を読む眼をもつためには、表面的な出来事を見るのではなく、水面下で起きているさまざまな事象を注視することだ
・その時々に適応しながら、少しづつあゆみを変えて、気づいたら、まったく別の場所にいる。
・それは確実な変革の方法だ。
・変革が大事、変化を求めている、といったことが喧伝される
・しかし、いきなり大転換してしまった、たいていはうまくいかない
・時間をかけ、少しづつ、少しづつ歩幅を変えていきながら、たとえば、それが2年、3年という時間を経たときに、ぜんぜん違う形、違うものになっているというのが、一番スムーズでリスクも少ないのではないかと思うのだ
・肝心なのは、それを私たちがどうとらえるかだ
・変えていくべきものと、変えられないと思うものの区別は私の中にはない。
・ただ、そこに取り組むときに、自分の個性、スタイルみたいなものは、どうしてもあらわれてくる。
・どんなに流行していても、いま最先端だといわれても、自分の個性、考え方にそぐわないものであれば、求めようとは思わない
・流行はやがて変わってしまうものでもあるし、そのときに思ったことには何か理由があるわけで、その原因を突き詰めていくほうが将来に対してより有意義ではないか
・実戦を重ねることはもちろんだが、それだけでなく、地道な日々の積み重ねをしない限り、向上することはない
■結論
・何をしたらいいのか、どうなっているのか見えにくい、分からない時代をいきていかねばならない。
・そのときの一つの指針となるのが直感だと考えている
・何かの判断をする、決断をするというときに、目の前の現象だけに囚われることなく、自分自身によりどころを求めることができるのではないだろうか。
・自分自身によりどころを求める その根底には経験を積み重ねることで蓄積され、かたちづくらた人生観や価値観といったものが横たわっているはずだ
・それに基づいた選択がベストでなかったとしても、すくなくとも自分のスタイルにはあっているはずだ。
・だから、次にミスをする可能性も小さいし、ある種の心地よさも内包している
・背伸びをして成長していく方法もあるが、自分の流儀を見つけてそれに合った選択をしていくという覚悟を迫られているきがしてならない
目次
はじめに―直感をどのように活かすか
第1章 直感は、磨くことができる
第2章 無理をしない
第3章 囚われない
第4章 力を借りる
第5章 直感と情報
第6章 あきらめること、あきらめないこと
第7章 自然体の強さ
第8章 変えるもの、変えられないもの
おわりに―直感を信じる力
ISBN:9784569804897
出版社:PHP研究所
判型:新書
ページ数:216ページ
定価:760円(本体)
発行年月日:2012年10月
発売日:2012年11月01日 第1版第1刷
発売日:2015年10月16日 第1版第11刷 -
Posted by ブクログ
880
羽生 善治
将棋棋士。1970年生まれ。1996年、史上初めて七大タイトルを独占。2017年、永世七冠の資格獲得。2018年、国民栄誉賞。
梅原 猛
哲学者。1925年生まれ。京都市立芸術大学、国際日本文化研究センター名誉教授。ものつくり大学総長、日本ペンクラブ会長などを歴任。1999年、文化勲章。
尾本 恵市
1933年生まれ。分子人類学者。東京大学、国際日本文化研究センター名誉教授。2015年、瑞宝中綬章。
将棋にはこのように、理系と文系といった学問領域の枠を超え、さらには芸術から文明論に至るまで、実に多彩な「見どころ」「考えどころ」がある。あらゆる人の知的好奇心に訴えかけるだけのポテンシャルを秘めているのである。
一時間以上も長考することがありますが、それだけ考えて次の手を指 しても、相手にまったく予想していなかった手を返されると、考えた時間がすべてむだになってしまうんです。五時間ほどの持ち時間のうち一時間がむだになると、正直 いえば精神的にかなりがっくりくることもあります(笑) でも、じつはそれはむだではないんですね。そのときにいろいろな手を考えたことの蓄積が、いつか別の対局で生きてきて、思いもしなかったひらめきが生まれることがあるんです。
有名な話がありますね。日本の敗戦直後に、将棋は戦争につながるものだから禁止しようと考えたG日Q(連合国総司令部)が升田を呼び出し、「日本の将棋は相手の駒を取ったら自分の持ち駒として使うが、これは捕虜の虐待ではないのか」と難癖をつけた。すると升田が「虐待とはなんだ。捕虜でも差別せず仕事をさせているんだ。 おまえらのやっとる西洋将棋(チェス)こそ、捕虜は使わずに殺すし、キングを守るためには女(クイーン)まで犠牲にするじゃないか」などとまくしたて、G日Qの面々を「こんなによく喋る日本人は初めて見た」と妙に感心させて、そのおかげで将棋 は禁止にならずにすんだという。
羽生さんは数学が得意だったとのことですが、じつは学問の世界でもっとも早熟なのが数学者です。そのかわり、学者としての寿命がとても短いですね。創造的な仕事ができるのは、だいたい二十代までです。
羽生
じつは、将棋には不思議なところがありまして、必ずしも正解をめざせばいい というものではないんです。極端にいえば、悪い手を指したほうが勝てるということ もあるんですよ。
梅原
えっ、どういうことですか。
羽生
私がそう思うようになったのは、大山先生と戦ってからです。私は幸いにも、 生前の大山先生と対戦する機会にわりと恵まれたんですが(9戦して羽生の6勝3 敗)、実際に盤をはさんで対局してみて、ひとつ気がついたことがありました。なん と、大山先生は対局中、将棋盤をほとんど見ていないんですよ。
梅原
なんだって! 羽生何を見ているかというと、日の前の相手なんです。おそらく大山先生は相手の くせを見抜いていて、その気配や表情を観察しながら、いま何を考えているか、どん な心理状態にあるかを読みとっていたんでしょう。 梅原ほー、それは面白いね。
羽生
大山先生ほどの人になると、いま相手がどの手を嫌がっているかが、観察して いるだけでわかるらしいんですね。将棋には、理論的には正解ではない、むしろ悪い 手であっても、心理的に相手が嫌がり、ミスを犯しやすくなる手というのがあるんで す。かりにAとBという二つの選択肢があって、Aは正解の手、Bは悪い手だけど相 手が嫌がる手だとすれば、大山先生は迷わずBを選びます。理屈では悪い手でも、相 手が問違ってくれさえすればいいというわけです。
これは私自身が最近、感じていることですが、将棋に勝つためには「他力」が必要なんです。自分ひとりで勝とうとしても、無理なんですね。よく、理想的な将棋の勝ち方として、自分の構想どおりに一手一手、プラスになる手を積み重ねていき、 一本の線のようなストーリーを描いて勝つというのが理想であるように思われがちで、実際にそう考えている棋士は多いんですが、実は将棋の手で「プラスになる手」というのはほとんどないんです。
さきほど理系は直観、文系は熟練という話をしましたが、じつは文系の学問でも、理系的な直観は大切なんです。というより必要不可欠なものです。 直観は、学問に対する火のような情熱から生まれてくるものです。それは文系、 系を問わず同じです。しかし直観を得たならば、今度はそれを水のように冷静になって徹底的に疑い、検証することが必要になります。そして場合によっては、せっかくの直観を捨てなくてはなりません。
スマホや電子機器を通じてやたらと仲間どうしでつながりたがるのも、形を変えた村社会だと思います。結局、個人として生きることができないから、つるむのです。いま、しっかりと自分の足で立っている人は誌だ少ないですね。
1975年、13歳のときに山形県から上京して奨励会に入り、プロ棋士をめざして修業を始めた私は、一方ではプロの四段になる前に上智大学に入学し、数学を専攻した。奨励会員が大学に進むことはいまでこそ珍しくなくなったが、当時はまだ高校に 行く者さえ少ない時代だった。 -
Posted by ブクログ
あらゆる原則を将棋で体現した一冊。
以下メモ。
新しい型は実践で試して負けないとマスターできない
将棋ら白黒つくからPDCAが回しやすい
真似から理解へのステップは創造力を培う基礎力になる
過去に選択しなかったことに対してなぜか楽観的になる
たくさんの選択肢から選ぶと後悔する
美しい棋譜を残したいかどうかは結果的に近道
仕事に行き詰まったら整理整頓
ラッキーだと心底思えることが実力
感性を磨くために他ジャンルとの人と絡むべし
不安=目標に近づいてきたことの裏返し
何かを成し遂げると努力と成果のモノサシができる。これくらいやればこうかと理解できる。
自分の埋もれた力を見出せた人や発掘できた人を天才
何かに打ち込んだ経験のある人が価値ある人
何時間も考え続けるのは慣れないとできない
真似た後にプロセスを理解できるのでまずは真似するところから頭が良くなるには頭を使わねばならない