塩田武士のレビュー一覧
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最後に驚き。イバラの道を辿ってきた翔太郎の、でもその裏には親の愛が隠されていた。自分の禁断の淡い恋心が叶いはしないけれども報われた。終わり方がとても好き。
ネトフリのthis is AIを思い出させた。
自分の家族に性同一性障害に悩む兄弟や親がいたら、自分はすんなり受け入れてあげられるかな…と考たし、自分がもしそうだったらかつての友人にカミングアウトとかできる勇気があるのかな…とも考えたけど、どちらも正直躊躇が先になるなと思った。
父が恋人ならいいのに、息子を受け入れられなかった気持ちもよく分かった。
この本の登場人物はみんな温かい。その人をその人として受け入れることができる、そんな風になりたい。
今命があるのは姉のおかげ
自分らしくは千里子ママのおかげ
自分を貫けているのは周りの友人のおかげ
初恋を引きずらずに生きているのは真壁くんのおかげ
人は誰しも誰かの人生と交錯して生きているし、
周りの人のおかげで今日も生きてる
「二人の父の娘でよかった。申し訳ない」
「俺の…初恋の子なんや」
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『罪の声』『存在のすべてを』などの社会派ミステリーで有名な塩田さんの初期に書かれた短篇をまとめた短編集。
真面目な社会派ミステリーばかり書いていたのかなと思っていた塩田さんが、初期には『小さい上司』や『仮縫い』みたいなユーモアのある作品も書いていたのかとビックリ。
特に『仮縫い』なんかは、私の大好きなバカな高校生男子がものの見事に描かれていながらも、感動してしまうし、『鈍い火』なんかは、最近の作品の原点となるような感じがするし、『起点』は、近い将来、こうなるかもなと思えてしまう。
講談社の「STORY IN POCKET」シリーズは、200ページ足らずなので、ちょっとした出先でも読めるし、何より550円という安さでかなりお得。実家には東野圭吾さんの『小さな故意の物語』もあるので、読まなくては。 -
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塩田さんに書く物語は、人生の難しさと、ダークな側面、そして希望だ。女性を知らない中学生の男子たちがとるクレイジーな行動、その時期特有の高揚感と期待感。こういうところが塩田さんらしい。それでいて、カツアゲされた男生徒の悩みもまた、親には言えないダークなものを含んでいる。起点になるのは、先生の甲子園に連れて行って試合を見ている途中に、無造作に見える所作で取られてしまった金額をちょっと越す金額の商品券を渡すシーン。その子は泣いた。
ただの見晴らしのいい道路で子供が轢き逃げされた裁判、取材する主人公が違和感を覚える。ほぼ無罪を勝ち取った幸せを壊す男、そして壊された男。その間には、1人の共通の女性がいた。怒りと恨みから幸せを壊し、そしてその笑みを見たことで殺意を確固たるものにした子供の親。最後止めたのは、何の関係もない取材する新聞社の男。殺したらダメだ、人生はまだあるんだ続いているんだ。はやまっちゃいけない。
人生で一番大切なのは、続けることだ。30年を超えて想いを叶えた小学校の同窓の結婚式で、テーラーの花嫁の父親が「服でいうたら仮縫いですが、これから立派な服に仕立てられるよう、ご支援ください。思い残すことはありません。本日が我が人生最良の日です。」と締め括った。素敵だなと思った。そういうふうに人生最良の日を迎えられた人が何人いるのかわからないが、そうありたいと思った。人生で一番大事なんは続けることや。
最後の起点、は秀逸だ。最も短いが、最もインパクトがある。罪の声の作家に取材について尋ねる息子が、無駄な出張や、取材して人の話を聞いて聞いて聞きまくれという時代遅れの感性に触れるシーンだ。これは、ビジネスにも言える。取材して、情報を足で集める時代から、AIが分析して仮説まで立ててくれる時代。それでも僕は人を信じている。だからこそ、ビジネスが好きなんだろうと思う。生き物だから、そして自分が変えられるから、そして人と一緒に作れるから。こうした感性を、起点、は示し、感じさせてくれる。それぞれの起点、後になってみてわかる、意図せず人の人生が変わる瞬間。その奇跡を筆者は大事に、大事に、言葉にして紡いでいるんだろうと思う。人生もそうありたい。 -
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私はグリコ森永事件のことはよく知らなかったけど、未解決事件と聞くとわくわくしてしまう。実は…なんて話もあると、都市伝説的な面白さで、つい読み進めてしまう。にやついている。読後、自分の浅はかさに気付いて、嫌になった。
加害者と被害者、それぞれに家族がいて、みんなが未解決事件だと面白がっている間にも現実を生きている人がいる。罪を犯した訳ではなくともどんな未来も描けなくなっている人もいる。
俊哉パートの方にぐいっと引き込まれるのに対して、阿久津パートは関係なさそうなところが多かったり、後半ものすごいスピードで事件の内容が分かったり犯人が独白するもんだから、なんだかご都合主義的になってきたなと思ったけども、全部意味があったし、あぁ大事なのはここじゃなかったんだと気付く。ラストは泣けて泣けてたまらなかった。
塩田さんのインタビューまで読んだけど、大学生のときに思いついてでも今の自分では書けないから社会勉強のために新聞記者になったと言われていて、ひっくり返った。いやー…すごいものを読ませていただいたんだなと改めて思った。 -
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ネタバレレビューとして問題があると思うで、ネタばれにしています。
その問題は、自分の感性の問題なのか、はじめて合わない作家に触れたのかが、まだ検討がつきません。
まず、四作のうち、「仮縫い」以外は読みました
小さい上司は、読み出した時には、カネ使っちゃったよ、という後悔を少し抱きながら、読み終えるとキレイなカタルシスがあり、カネ払わなきゃ読み切れなかったから、買って良かったなぁと思えました、面白かったんですよ
鈍い火も面白かったです ちょっと生理的に苦手な感じのする主人公のおかげで、作品へ意識を注げて、ああ面白い短編だったなぁと有料の水準の小説を読んだ快感がありました
その次に、「仮縫い」を読もうとしたのですが、上の世代の人の同世代や先輩後輩に対する、越えてはいけない他人の敷地の垣根を思わせる意識の壁を取り払ってしまった世代なので、私の感性から来る造語ですが、ねめじい他者への視線や思いへ共感できそうになくて、カタルシスを拾えそうにないので、写真の出てきたあたりで止めました、もう少し人生経験を積めれば、楽しめると思います。
そして、問題なのが、「起点」です
この8pの短編が、私に、はじめての小説体験をもたらしました、読んでいて、「これではいけませんよ」って誰か編集者とか言ってくれなかったのかと疑問を抱いて読みました
それでもレビューで星を五つにしたのは、小さい上司と鈍い火が面白いからで、一度に、同時に「小さい上司」「鈍い火」「起点」「仮縫い」を並行しながら読むことなんて出来ないので、点数を平均化する意味はなくて、星五つだって言える作品が一つでも入っているなら、それは星五つで良いと思っています
それで、「起点」を読んだこの感覚って何だろうと感じたことを振り返っていました、つまらなくてはありません、つまらないは、何の感情や興奮を抱かせなくとも、見続けさせる読み続けさせる人目を引く質がある、という価値だと思っています、けれども、ただ読んだ感覚が無いような、手触りのない感じだけ残っています、それはストレスを強く感じている時に、ファストフードを食べて、ただただ温かいとしか味わえないような感じがします
そして、困ったことに、書き手の情念のような意志を感じた作品が、この短編の他の2作と比べると、「起点」が一番に強かったのです、それはSNSで男はカス女はクソと異性をけなして、決して異性を認めない強い意志のような硬さを感じました
だから、奥付を見て、新聞で発表された作品だと知り、それが、自分の感性の起源を探るためのヒントとなると思い、作品が世に出た経緯を想像をしました
まず、短編集として、三作品で179pより、四作品で189pの方が、満足感が高そうです、それで収録されていることに納得はいきました
では、どうして新聞は、「起点」を載せようとしたのかと考えました
ここから、いよいよ困っていきました
多くの名作があり、SF作品の中で培われた近未来の描写が、先例として活用されていないのはなぜだろう、たぶん短い文章で、まして広く新聞で読んでもらうには、インチキなSFの文章は、いつもの新聞を読む時には、相手にもされないでしょう
次に、どうして「起点」の中身が出来上がったのかと考えました
新聞社に、こういうの書いてと発注されたのか、喫茶店で話していて、盛り上がった内容をこれでいきますって書いたのか
つまり、「拙さ」を感じてしまう部分が、そのまま出ていることへの違和感がスゴイ強かったのですよ
じゃあ、あえて「拙さ」を出した小説もあるという話を聞いたことがあります、その目的は何でだろうと、困ったことに、考えてばかりになっていました
つきはなして考えれば、SNSは素人ばかりで、カネをもらって書いているプロの文章ほど内容も文章も練らないバズりの勢いに任せたフェイクニュースと誹謗中傷と呼ぶには中身のない罵詈雑言で、新聞は凄いんだよ、なんでかって、会って取材してっから、って内容なのかなぁと考えもしたのですが、それでは、「拙さ」を感じてしまう自分の感性と矛盾します
むしろ、新聞の取材なんて、テレビも一括りのオールドメディアで「起点」の内容を恥ずかしげもなく、事件の当事者が自分で発信できる令和になっているのに、取材してってから、なんて胸を張っても、拙いことしか出来ていない、という内容を、「拙さ」を強調することで、新聞への慇懃無礼な文章を載せさせる、という目的なのかとも考えましたが、そこまで、ろくでもない作家ではないでしょう。
だから、尚更、困ってしまっていて、その困っていることを記録するために、このレビューを書きました。
いつか、自分の感性が整えられればなぁと思いました -
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さえない中年のオッさんについての短編集。第2話の「鈍い火」が好き。永久保存版として売られないことが決まった。これは割と栄誉な一冊である。
第1話 啓太は広報課の新人だった。小山田という小狡いおっさんが係長。ピントは外れているわ、ケチだわ、妙な嘘つくわと困った人だが、病気の家族の面倒を見る優しい一面もあると知る。
第2話 育郎は育ちすぎてデブである。ベスパで移動している。今日は業務上過失致死の判決を聞いて記事を書く。執行猶予がつくかどうかが焦点だ。ただ裁判の場で知ったのは、引かれた子供が育郎の知合いの子供だったということだ。
第3話 若かりし僕たちのマドンナ、高木由美子とリンネンが結婚したらしい。僕は高校教師で子供が2人いる。
第4話 近未来の話。塩田武士が孫に取材されている。