塩田武士のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
かつて日本中を震撼させた未解決事件にまつわる男と事件の真相を追う新聞記者
二つの視点から埋もれた罪を掘り起こしていくお話
被害者でありながら、加害者家族
当時まだ子どもだったとして家族の罪をどこまで背負わなければならないのだろう
親族の不始末の責任を負う感覚を私は待ち合わせてないのでやや置いてきぼり
両端から手繰り寄せた糸がぴんと張られる時
問われるのは一個人が社会に対してどのような正義を成し得るのかということ
たとえ冤罪でも
事実無根でも
後から真実が明らかになったとしても
一度刻まれた傷や失われた時間は消えない
それはこの作品の時代だけの話じゃなくて
現代のインターネットユーザーが今いちど立ち止まって考えなきゃいけないんじゃないかな -
Posted by ブクログ
ネタバレ数年前、コロナ禍で自粛が呼び掛けられてる中、著名人が飲み会に参加したとして炎上してるSNSをみて、「なぜ、メディアに露出しているというだけで、自分の周りに飲み会参加している人たちはこんなにも沢山いるのに、人でなしのように罵られ、芸能界を干されなくてはならないのだろう」と、家族に愚痴を溢した事を思い出した。
本作は、宣戦布告というタイトルでアップされたひとつの記事から始まる。「私が愛してやまない天童ショージ(芸能人)と奥田美月(歌手)を陥れた83人に、天罰を」という趣旨のもと放たれた爆弾は、83人の日常生活を悉く瓦解させる。「本性」を晒された83人のうちの1人から名誉毀損として訴えられた瀬尾と、その弁護人として選ばれた久代奏を中心に物語は進む。久代奏は天童ショージと古くからの知り合い(同じ学校)であるものの、瀬尾から指名された理由が分からなかった。久代は、瀬尾が拘り続ける天童ショージと奥田美月の繋がりを見つけるため、多くの人に取材を行っていくが、そこで形成される瀬尾、天童、奥田の人物像が、リアルで、彼らの繋がりがとても尊く温かいものであったかを知る。
ラストはハッピーエンド?で、瀬尾は罰金程度で済んだものの、ラストの天童の遺書が、とにかく心に刺さりすぎた。以下は、ほんの一部。
「SNSの最大の罪は、バラバラにあった多様性の象徴みたいな種々の物差しを、銀行の合併みたいに画一的にしてったことや。広まったように見えて狭まったんや。名もなき奴らが粗く編んだ「正しさ」の網に、首を傾けながら絡まってるんが現代人とちゃうんか。」
匿名性という防護服を纏って、安全圏から刃を投げ続ける現代人。SNSが復旧した現代において、自分の意見に正当性を持たせ、日頃の鬱憤をネットにあげ、サンドバッグを血眼になって探しているハイエナたち(ハイエナに失礼)、評価を得るため、または、くだらない承認欲求に囚われ嘘八百ばかりの現代人。本当に自分の行いを見直した方がいい。私はSNSを一つもやらないので、SNSの闇がどこまで深いのかは分からないが、あらゆる人間からゴミのような扱いをされ、死ねと言われ続ける天童の立場にたったときに、あ、これは折れるかも、と感じた。勝手に苦しくなった。
精神的なの暴力は、時として物理的な暴力を上回ると思う。読まなければいいと、理解はしてても、心が納得できない。表現の自由は分かるが、それは自分の発言に責任を持たなくていいという訳ではない。情報に溺れ、自分達の勝手な正義を振りかざす人間が減ればいい。
本当に1人でも天童、奥田のような人が減ることを祈ってます。
「踊りつかれて」というタイトルの伏線回収も好きでした。 -
Posted by ブクログ
塩田武士さんの作品は「罪の声」以来です。ひょんなことから重要な根拠を手にしてしまったが故に着々と真実に迫る緊張感は読み手にもダイレクトに伝わってくる。
今回の舞台は神奈川県。観光名所も登場するので親近感があり風景が鮮明に想定できた。2つの事件が名所の横浜とB級グルメで名が知れた厚木。位置関係も主要な都市と郊外の拠点となる場所、事件の重さもそれに比例する形で進んでいく。
身代金を渡せなかった人質が戻ってくるまでの空白の数年にあった事は苦渋の切なさが伴う。その記録は事細かに描写される作品が物語り、時を経て見る人が解き明かす。この過程も多角的に進められてニアミスがありながら再会の時をもたらす。幾重にも重なる想いが幾つもの感情を表していて読後も暫く回想と共に楽しませていただきました。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ著者の作品はいつも、扱うテーマの選び方が絶妙だと感じています。本作で取り上げられているのは、私自身ずっと気になっていた「SNS上の匿名による行き過ぎた集団糾弾」。
ああいう光景を目にするだけで胸がざわつくし、ニュースになるような事件に発展すると、怒りを通り越して脱力してしまう。だからこそ、こうして警鐘を鳴らす作品が存在することに大きな意味があると思いました。
ただ本書は、SNSの誹謗中傷を批判するだけの内容ではありません。
その先にある“個々の心の動き”を丁寧に掘り下げていく点こそ、むしろ本書の核だと感じました。
短絡的に他者を傷つけてしまう人、想像力が働かないまま加害側に回ってしまう人には、ぜひこの本を読んで自分の内側を見つめ直してほしいです。
他の方のレビューでは「冗長」「テーマがぶれている」といった意見も見かけましたが、私はむしろこの構成だからこそ伝わるものがあったと思います。
読後に静かな余韻が残る一冊でした。 -
Posted by ブクログ
映画化のニュースを見て文庫を手に取った。以前読んだ、罪の声、は本も映画もどちらも良かった。本作も、罪の声と同じく、未解決事件と巻き込まれた子どものその後の人生がテーマになっている。
平成中期、2件の子どもの誘拐事件が同時に起こる。身代金の受け渡しに緊迫する警察。一方は子供が戻るが、もう一方は身代金の受け渡しに失敗し、子供が戻ってこない。それから3年。ある日、祖父母の家のチャイムが鳴る。そこには、攫われた男児が7歳になって戻ってきていた。
戻ってきた子どもは、とても良く躾けられ、きちんとしたものを身に着けていた。抜けた乳歯は、どこの歯が抜けたのかわかるような手作りのケースに収められていた。生みの親より育ての親…。祖父母はつぶやく。攫われる前、子どもの母親は片親で、家を勘当されており、子どもはネグレクトされていたのだ。
そこから更に月日は経ち、物語は群像劇になってゆく。SNSで話題の謎の写実画家と、行方知れずの20年前の孤高の天才写実画家が物語の鍵になる。このふたりの画家の謎を追いつつ、過去の2児同時誘拐の事件の真相を、新聞記者が日本全国を周りながら追う、という複雑なミステリー紀行。
読み応えばっちり。秋の夜長にぴったり。ラストは涙なくして読めない。誘拐犯との逃避行を経たこの子どもにさちあれ。愛情たっぷりの人生が待っていますように。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ一般人の仮面を被った人々に大切な人がすり潰されていく様子が丹念に描かれている。瀬尾が二人に向ける長年の想いを時を超えてたっぷり描く一方、犯行声明からの加害者・被害者たちの行うはずだった償いなどはとてもあっさりとしている。女性が自殺したかも?や、奏を襲った犯人、一幸など、今までの人生が終わったことへの後悔はあれど、自分が傷つけた相手への罪の意識や反省が見られなかったことが残念。
ストーリーはどんどん美月と瀬尾を取り巻く過去へフォーカスされていき、現在のSNSの持つ生々しさからは乖離していき、前半と後半で全く別の読み口の作品になっていた。最初のギラギラした瀬尾の序文と本人の性格がかけ離れていることも、ネットでは別人感を出しているのかも。
個人的にBUTTERや羊たちの沈黙など、犯人とそれに向き合う主人公が、事件を介して互いをどこまで信じられるか?という探り合い歩み寄るストーリーが好きなので、瀬尾の献身も何か裏があるのでは?と疑ってしまった。 -
Posted by ブクログ
大泉洋を主人公に当てがき。舞台は2016年前後の出版業界。
こんなん面白いに決まってる!
思えば10年程前から、名だたる雑誌の廃刊のニュースが絶えなかった。
私が学生時代に読んでいた雑誌も随分と数を減らしてしまった。
廃刊した雑誌が今もWEBで存続していると聞くと嬉しくなるが、規模大幅縮小で人員も削減しての運営と聞くと手放しには喜べない。
そして雑誌が消えると小説も発表の場を失う。
数少ない掲載枠を奪い合う形で、日の目を見なかった小説がどれほどあったのだろう……。
雑誌を存続させるためにあらゆる策を講じて東奔西走しても、それが報われるとは限らない。
出版不況は2026年現在も続いている。
しかし毎月どれを買おうか迷うほどの小説が書店に並んでいるのは、きっと速水のような人物の機知と奮闘のおかげだろう。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ私刑という社会問題を題材にしたお話。 3つ心に残った点があった。
1つ目はSNSでの過剰な情報発信。誰でも匿名で感想という名の悪口を書けるようになったけれど、「悪口を書いていい」となったわけではないし、そんなこと許されるはずもないんだよな。自由と責任は表裏一体だから、自由な言論が許される世界であるならば発言への責任も背負って当然なわけで。
2つ目は瀬尾さんと美月、久代さんと天童の関係性。なんの脈絡もないけどマラソン大会を思い浮かべた。「どれだけ辛くてもこの人の背中だけ見て走り続けよう」みたいな揺るがない目標というか。尊い関係性だなぁと思い羨ましい気持ちすら覚えた。
3つ目はしっっっかり伏線回収してきて思わず声が出たこと。これってこの長さできっちり読ませたからこその驚きだと思うんだよな。だから諦めずに読んで欲しい。心から。