山本やよいのレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ母の無実を証明したいというカーラの依頼を受け、16年前の事件をポアロが調べていきます。
愛しているからこそ憎たらしい、人間の感情が特に色濃い作品でした。
当時の記憶を元に、事件に関わっている人々がそれぞれ手記を書いてくれます。ですが、後半になると文章とは真逆の感情が明らかになり、驚きました。
キャロラインをどう思っていたか、フィリップとメレディスが特にそれが顕著でした。
フィリップがキャロラインをいつから好きだったの⁈嫌いだって書いてなかった⁈とギョッとしましたが、確かに読み返せば、嫌いな女性に対して、帽子を着けている姿を『なかなか魅力的』とは書かないでしょうし、文章の所々に彼女への想いが見てとれました。
小さい頃からずっと惹かれていた相手が夜部屋に来てくれて、期待していたのに、やっぱり無理だと言われて、触れることもできずに出ていってしまわれたら、フィリップのプライドはズタボロだよな…そりゃあまあ、やけくそになるよなあ…。と、フィリップの感情はなんとなく理解できます。
逆にメレディスはてっきり、キャロラインのことをずっと愛しているものだと思ってましたが、エルサにプロポーズしてたのか…。その心変わりには納得いきませんでした。
あの子には出てってもらう、というエイミアスの言葉は、絵を描き終えたらエルサとの関係は終わりだという意味で、アンジェラを学校にやるという意味ではありませんでした。【エイミアスはエルサと一緒になるためキャロラインを捨てるつもりである】という今までの前提が大きく崩れる重要なシーンでした。
人物相関が濃厚すぎて忘れてたけれどちゃんとミステリーです。他にも一つ一つの言葉に沢山の意味が含まれています。
『今日のビールはどれも嫌な味』という言葉にきちんと違和感を覚えるポアロが、相変わらず冴えていました。ビールに毒やらマタタビやら、死ぬ前に美味しいビールにありつけなかったエイミアスが少し不憫でした。
今作のキャロラインや、杉の柩のエレノアのような女性が本当に大好きというか、そういう女性に弱いので、後味すっきりとはいかないけれど、少し救われたような気がして安心しました。
緻密なストーリーですが、他の作品と比べて、よりすんなりと内容が入ってきて読みやすく感じました。
-
Posted by ブクログ
ミス・マープル長編2冊目。1作目の『牧師館の殺人』に続いて読んでみる。
牧師館の事件から半年後くらいかな。『火曜クラブ』でも登場したミス・マープルのお友達、アーサーとドリーのバントリー夫妻初登場の話だった。
ある朝ドリー・バントリーは泣きながら駆け込んできたメイドに起こされる「あの、あの、奥さま、書斎に死体があるのです!」
なんですって?しょさいにしたい?とりあえず夫のアーサーを起こしましょう。「ねえ、書斎に死体があるんですって」「なにをいっているんだ、むにゃむにゃ」
…という始まり方。まあ無理もないよなあというバントリー夫妻のやり取りと、「いいからさっさと見に行ってくれー」という先を知りたい読者の気持ち・笑
アガサ・クリスティは序文で「書斎に死体というのは、探偵小説にはおきまりの素材だ。このよく知られたテーマに変化をつけられないか」として、「我がミス・マープルの旧友であるバントリー夫妻に書斎の典型とも言う書斎を持たせた」のだそうだ。
なおこの序文では「登場人物に実在の人物を使うととたんに作品での生命を失ってしまう」と言っています。なるほど。
まあそんなわけで、古びて雑然として絵画だとか花瓶が置かれる居心地の良い典型的な書斎に、見たこともないけばけばしい若い女性の死体が転がっていたんです。
警察の捜査の合間に、ドリー・バントリー夫人は友達のジェーン・マープルを呼ぶ。「あなた名探偵でしょ!見に来て!」
若い女性は、デーンマスのマジェスティック・ホテルのダンサーで18歳のルビー・キーンだと分かる。その名前を聞いてもバントリー夫妻は「誰それ?」
しかし警察にルビーが行方不明だと届け出たのがホテルの客で、車椅子の実業家ジェファースンだと聞くと「彼なら知っているわ!ジェーン、一緒にマジェスティック・ホテルに行きましょう!書斎に死体が見つかったなんて楽しまなくちゃ!」として、バントリー夫人とミス・マープルはホテルに向かう。そしてミス・マープルを信用している元警視総監サー・ヘンリーが捜査協力していることから、ミス・マープルも捜査情報を得られることになった。
ジェファーソンは飛行機事故で息子、娘を亡くし、自分は足を失って車椅子生活となった。だが不屈の精神力で事業を成功させて資産家となった。ジェファーソンの屋敷では、死んだ息子の妻アデレードとその息子ピーター、死んだ娘の夫マークが同居している。
しかし最近ジェファーソンは金髪で貧しいルビーが「きゃー、ジェファーソンさんすごーーい」と言ってくるのにとってもとっても気に入って「彼女を正式に養女にして財産を残す」と宣言。
この時点での容疑者は、金銭的被害を被るアデレードとマーク。しかし彼らにはアリバイがある。
さて、「うちの書斎に死体!探偵ごっこ!」とはしゃぐようなバントリー夫人ですが、しかし本心では「若い女の死体が家で見つかったなら、夫のアーサーに変な噂が立ち、町から仲間はずれにされ、やっていないことを疑われ、そしてアーサーは殻にこもってしまうにちがいない。アーサーのためにも真相をはっきりさせなくちゃ!」という決意がある。ミス・マープルもそれを分かって事件に関わっている。
読者が親しみを感じる(ように書かれている)ミス・マープルやバントリー夫人がしっかりしているし、犯人たちには同情の余地もないし、殺人はあったけれど残った人たちには新たな未来も開けたので、小説としてスッキリ読めました。 -
Posted by ブクログ
マープルシリーズ第二弾。
前作からの登場人物がシーンはわずかだけど再登場していて、馴染みのある人物たちのその後を見れるのが面白い。
前作より噂話に花を咲かせる老婦人たちが生き生きしてる気がして、広まるごとにめっちゃ尾ひれ付くところとか、よりあるあるな感じでニヤニヤしちゃった。
何者でもない小さな村の老婦人が探偵だからか、随所にユーモア感じる描写があって、それが庶民的な感じで親しみやすい。
事件の内容は、マープルの視点の鋭さが遺憾無く発揮されてて、前作より活躍が顕著になっていて面白かった!
ドラマシリーズ(ヒクソン版)がこの話からスタートしてるのが納得。 -
Posted by ブクログ
ネタバレクリスティのミス・マープルシリーズ第六弾。全部で十二作の長編があり、ようやく半分。
実業家のレックスが毒殺される。そのポケットにはライ麦が入っていた。家族の中に犯人がいると疑い捜査を続ける警察だったが、第二の死体が発見され。。。
解説や書評にもあるとおり、マープルの印象をガラッと変える作品。というのも、これまでの五作は安楽椅子探偵の女性代表というイメージだったが、今作では怒りを持って事件に首を突っ込んでいく姿が描かれるから。出番自体はこれまで同様そこまで多くはないが…
事件は、いわゆる見立て殺人。トリック的にはそこまで大きくないが手堅い。何よりもラストの余韻が非常に良く、今のところマープルシリーズでは随一。おすすめ。 -
Posted by ブクログ
16年前の殺人事件の真相に迫ろうとするポワロ。もちろん証拠品が新たに出るはずもなく、関係者の証言も記憶があやふやだったりして難しいのだが、この小説での一番の見所は、人によって見方が違うために人物の善し悪しがわかれたり、思い込みが出てきてしまう点である。
関係者の証言は確かに興味深い。事件当時、その話をしなかった理由は、重要だとは思わなかったからだったり、個人的な印象だけだったり、あとから思い出したり様々だ。そして犯人以外は誰も嘘をついていない。
有罪判決を受けて獄中死したキャサリン。亡くなる前に、実は無実だったという手紙を娘に残した以外には無実を訴え続けたりはしなかった。
キャサリンは本当はどんな人だったのか。それを考えていくことが事件の真相にたどり着くカギとなっている。
-
Posted by ブクログ
30数年かけて、ちょっとずつ読み進めてきたポワロシリーズ。老眼で旧ハヤカワ文庫版が読みにくくなってきたこともあり、新版で買って読みました。
推理小説が乱造される昨今、今までにないトリックだのどんでん返しだの色々読みましたが、そのほとんどが奇をてらったトンデモ犯罪でした。
そんな中、もはや古典の感もあるアガサ・クリスティを読んで「こういうのもあるのかぁ〜」と感心することになるとは。
さすがミステリーの女王。
過去の事件を調べ歩き、人の話を聞き、手記を読む、という形式なので、淡々として大人しい感は否めませんが、それだけに最後のポワロの解決編が鮮やかに引き立ちました。
私たちにもポワロと同じヒントが与えられているので、ポワロと推理競争してみては。
カンの良い人なら割と早い段階で犯人は当てられると思います。でも、ポワロが繰り返すように、大事なのは「なぜそうしたか、その人はどんな人物なのか」というところ。そこまで見抜けるでしょうか?それに、殺人の引き金になったあの言葉…ん?って引っ掛かりは感じるけど、そこから先を当てるのは、相当難しそう。
新版ハヤカワ文庫は、旧ハヤカワ文庫に比べて訳のが良くないと耳にしていたので心配していましたが、杞憂でした。すくなくとも、この一編においては。
ポワロはもうちょっと芝居がかってても良いかなとは思うけど、今、アガサを読み始める若い人たちや子供たちに馴染む言葉でないとね。
登場人物もそんなにおらず、舞台装置も閉鎖的であちこちしないので分かりやすく、アガサの筆の凄さも体感できる、おすすめの一冊です。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ蜘蛛の巣[小説版]
クリスティの戯曲、蜘蛛の巣の小説版。クライム・コメディ。小説になっているが構成は演劇風。
クリスティの戯曲は面白いものが多く、小説化される事は嬉しい限り。戯曲は読み物としては読みにくいので、全てシリーズを小説化して欲しい。
いつも冗談ばかり言って周りの人達を振り回すクラリッサ。かなりの嘘を重ねているが、夫や知人からは呆れられながらも愛されている。
夫の連れ子のビッパも継母であるクラリッサに懐いており、とても幸せな家庭状態に見える。
ある日、知人達と別れた後、夫の元妻、ミランダの現在の夫であるコステロがクラリッサの屋敷を訪れ、その後帰ったはずの彼がクラリッサの屋敷で死体として転がっている事に気づく。彼女は知人たちを呼び戻し、死体の処理を相談する。
面白いところは、クラリッサは娘のビッパがコステロを殺してしまったと思い死体を隠そうとする。
三人の男性達もとても地位がある人達だが、それぞれの理由から死体を隠す事に協力する。
しかし、何故か警察に通報があり、死体を隠し切る前に警察官が屋敷にやってきてしまう。
そして結局死体が見つかってしまうが、数分後、警察達がいるにも関わらず死体が消滅してしまう。
と二転三転と物語が進んでいく所であり、取り調べではクラリッサが都度、嘘の供述をしながら、警官は当然それを疑いながら、やりとりが発展していく。
最後どの様に終幕になるかと期待したが、クリスティ作品らしく犯人は驚きの展開で明かされ、きちんと序盤の伏線も回収して見事に着地する。
エピローグで何も知らない夫とクラリッサのやりとりが思わずくすりと笑ってしまう。全ての登場人物に役割があり、演劇的ではあるが物語としてもとても面白かった。当時の生活や世界感も素敵で、現代ではまず冗談にならない部分も面白い。