山本やよいのレビュー一覧
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アガサ・クリスティの代表作『オリエント急行の殺人』に、いよいよ挑む気持ちでページを開いた。
乗客たちの証言をどれだけ丁寧に読み解いても、犯人の姿は容易には浮かび上がってこない。しかし、雪に阻まれて立ち往生した列車の中に、犯人は確実にいる——この閉塞感と緊張感が、物語を一気に引き込んでいく。
序盤のある場面から、すでにトリックの一端は推理することができた。にもかかわらず、最終的な結末はまったくの予想外だった。ただの謎解きを超えた深い余韻を残す結末。
改めて実感したのは、アガサ・クリスティのミステリーが、単なる巧みな論理の積み重ねではなく、極上のヒューマンドラマであるということだ。人間の心の機微や、正義と復讐の狭間で揺れる感情が、鮮やかに描き出されている。
読み終えた後も、その余韻が長く心に残る一冊だった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレこれは1970年代の方の映像を先に観てしまっていて、「赤いガウンの女の後姿」が印象的で。
原作を読んだのはその直後です。今回書いているのは数回目の再読。
「アクロイド」と並ぶ、クリスティの代表作ですね。両者とも、「是か非か」(もしくはフェアかアンフェアか)が問われるわけですが、いずれにせよ、名作であることには変わりないです。
こちらは映像だとオリエント急行の場面とか、登場人物の豪華さとか、目にも豪華。他の作品では、事件の解決に於いては冷静に物事を考えられる頭のキレる人物、という印象が先にきますが、今回はそれだけでなく、違う解決方法を並べて関係者に選ばせるあたり、ポアロの人間性もちらりと垣間見てなんとも言えない読後感を味わえます。粋なことやってくれますね、ポアロさん。
スカッとどんでん返し系は大好きですが、殺人事件を扱っているのにこの爽やか感はなんなんでしょうねぇ。
大好きな作品です。 -
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社長の急死と、遺体のポケットから見つかった奇妙なライ麦から始まる物語は、最初から「何かがおかしい」という空気が張り詰めていて、一気に引き込まれた。マザー・グースの童謡をモチーフにした見立て殺人が、ただの趣向ではなく物語全体を不気味に支配しているのが巧み。
ミス・マープルの登場も印象的で、事件に個人的なつながりがあることで、彼女の正義感や優しさが強く感じられた。登場人物たちの欲望や人間関係の複雑さもリアルで、単なるトリック勝負ではなく「人間の業」を描いたミステリとして味わい深い。
真相は意外性と納得感のバランスがよく、読み終わった後も余韻が残る、さすがアガサクリスティと唸る一冊だった。 -
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ヴィクもいい年齢になりました。世代交代を思わせる若手記者が出てきたり、体を酷使して探索するのがきついという描写がしばしばあります。自分自身の心理的ダメージが大きかった事件の影響から立ち直れないまま、依頼を断り切れず調査を始め、どんどん深入りしていきます。気の合う人たちの協力を得て、ピンチを切り抜けて問題解決にたどり着くという、お約束のパターンながら、パレツキ―流の勧善懲悪(ちょっとだけ現実的な妥協込み)には爽快感と安心感があります。
まるで、これで最終回かと思わせるようなタイトルですが、著者はまだ書くつもりがあるようなので、次回作も楽しみにしたいと思います。 -
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ネタバレ終わり方、めちゃくちゃせつなくて良かった。
解説で「ミス・マープルは推理ができるただのおばあちゃんではなく、悪と戦うことに喜びを感じる正義のクライムファイターである」と言われているのがなんとなく理解できた。
以下、個人的な推理。
うぉおおマザーグース! まぁミスリードだろう。さすがにね。
マッケンジー夫人が聖書からルビーの名前を消していたことから、意に反することをしたんだろうな、ということでルビー=パーシー夫人は想像がつく。
ただパーシー夫人が犯人だと前提のミスリードとズレるのでパーシヴァルが犯人だろう……と思いきやパーシーは物理的に犯行が不可能らしい。
じゃあランスだな、と消去法でランス。
手法? わからんわからん! で終わり。 -
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新訳をAudibleにて。買って持っているのは旧訳だが名作との噂を聞いてもったいなくてまだ読んでいなかった。好きなマープルとポアロをできるだけ後回しにしてマイナーそうな他作品から読み途中で挫折した20数年前の過ちを繰り返してはならない。
日本の震災の話が出てきた辺りとその後の下りで、やり方はともかく犯人は分かった。鉄壁のアリバイは逆に怪しいよね。凝った見立ての理由が合理的なのが嬉しい。ここがよくわからんとなんでそれやったの?となってしまうので。キャラクターもそれぞれ魅力的で面白い。
そして何よりラストが素晴らしい。
いやークリスティー読んで泣くと思わなかった。最後がとても切なくてよい。ミス・マープルの正義感や人を見る目の確かさ、グラディスからの信頼や彼女の結末の物悲しさ、こんな形で表現されるとどうにもこうにも。
何冊か読んでいて心に刺さったのがこれと『鏡は横にひび割れて』なので、私はもしかしてミス・マープルものの方が好きなんだろうか。オリエント急行とか、ポアロの名作は昔から既に何度も読んでいるのもあるけれど。 -
Posted by ブクログ
定石がないことで知られるクリスティによる、まさに「定石崩し」としての手腕が光る一冊。
ポアロという探偵が、単なる論理の塊ではなく、法や正義の先にある「人としての情」を深く理解しているからこそ成り立つ物語の結末は、衝撃的でありながら非常に説得力があった。
特にラストシーンでは、個々のキャラクターの心情をすべて言葉にするのではなく、ひとりの切実な語りにすべてを託して幕を下ろすことで、洗練された深い余韻を残している。
あれこれと語りすぎないからこそ、ポアロたちが下した決断の意味を、自分の中でじっくりと反芻することができるのだと感じた。
こうしたミステリの枠組みさえ自在に操る大胆さの一方で、クリスティは読者を決して置いてけぼりにしない「親切さ」と「フェアな姿勢」を貫いている。
推理の補助線となる読者目線を補完するブークというキャラクターや、物語の合間に挿入される取り調べメモといった構成は、読者がポアロと一緒に謎解きを楽しめるよう配慮された最高のホスピタリティであり、最後まで安心して物語に没入できる素晴らしい読書体験だった! -
Posted by ブクログ
ネタバレ最高傑作に挙げる人が多いのも頷ける物語の完成度となんとも言えない読後感。
静かに罪状を受け入れる無実の淑女…というようなイメージは『杉の柩』と被るものがあり、書かれた時期も近い。この時期のクリスティさんのブームだったのかな。
とは言え内容は対象的と言ってもよく、エリノアの濃厚な心理描写が物語の核だった『杉の柩』と比べ、こちらはキャロライン以外の人物の心理が丁寧に描かれる。
多種多様な人物描写こそクリスティの魅力と思っている自分にはこちらの方が断然好みだった。
特にフィリップとメレディスという全然違うタイプの男ふたりの心理描写は、毎度のことながら「なんで女性なのにこういうこじらせおじさんの心理をリアルに描けるの!?」と驚く。
そして「アンジェラ怪しい!アンジェラ怪しいよー!」と思ったのがクリスティさんの見事なミスリードに乗せられてただけだったと分かる、そういう瞬間がすごく楽しい。
数十年前にクリスティがこれを書いたときに想定した読者に自分がちゃんとなれた喜びというか、時を超えて文によって心が繋がれたような幸福感がある。
「キャロラインはこういう人物です」といろんな人が語ることでキャロラインのパズルのピースが揃っていき、読んでいる間はそんなキャロラインが犯人であることも充分あり得そうに思えてしまうのに、最後ポアロの説明する真実を聞くと最後のピースがばっちりはまった感覚で「あー確かにキャロラインだったらそうするわ」と納得できるようになっている人物造形と構成がほんとに見事でした。
それにしても子豚はあんま関係なかったね。 -
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つい『オリエント急行殺人事件』と呼んでしまうが、この全集では『オリエント急行の殺人』。audibleにて。たぶんポアロのシリーズでは一番好きな作品なので、10回くらいは読んでいるし映画やドラマもたぶんだいたい観ている。最近はaudibleで聴くことがおおいのだけど、ポアロのシリーズのなかで今のところこの作品だけが、たぶんあえての女性による朗読だった。納得のクライマックスの語りの素晴らしさ。紙の本で読んだ時より感動したかもしれない。
原作にないものをあれこれ補足する二次創作って普段あまり好きじゃないんだけど、三谷幸喜のオリエント急行第二夜、犯人の舞台裏の話はたまにもう一度見たくなる。キャラクターは原作と違うところも多いけれど、ばたばたしてなかなかうまく運ばない辺りがそりゃそうだよね、という感じで楽しかったので。 -
Posted by ブクログ
名作ミステリーには苦手意識があり、試しに電子で……と思ったが、なんて読みやすく、なんて面白い! 映画を見てオチを知っているにも関わらず、手が止まることも、支えることもなかった。これなら紙で買えばよかったな……。
ラストは不思議と優しい気持ちになった。犯人が無関係の乗客に配慮していたり、ポアロが激しく責め立てたりしないからだろう。
そういえば、よく、横文字の名前が覚えられないと言う話を聞くが、よく考えると私も名前は覚えられていない。そもそも実際に接している日本人の名前すら覚えていない(笑) 私は個人を性格や考え方や見た目で覚えて、最後に名前で括って覚えているので、そのせいかな。おかげで、会社なんかは人の名前で苦しむことも多い。なるほど、あれが、名前が覚えられずに本が読めないと嘆く人の気持ちなのだな……。